第11話 作戦会議 ①
「これより、変異種討伐の作戦会議を始める!」
ノクターンが威勢のいい声で号令をかけると、洞窟内の空気が変わって周囲には緊張感が漂う。
王都の冒険者が深層での討伐クエスト遂行中に遠目から変異種を目撃し、ギルドに報告、その後は国王からブラックウィングへ調査および討伐の命令が下ったことなどが大まかに説明される。
「今回の会議では変異種を目撃し、対峙した神獣フェリルの証言をもとに進めるが……異議のある者は手を挙げろ。」
ノクターンが力強い声で告げると、洞窟内は静まり返り、誰一人として異議を唱える者はいなかった。
「……異議がないようだから会議を進める。では、フェリルよ。進行の方をよろしく頼む。」
ノクターンはフェリルに進行権を譲り、フェリルが口を開いた。
「あやつ……変異種は、おそらくフォレストウルフが変異したものであろう。深層に棲まう狼の魔物は我か、フォレストウルフしかおらぬからな。だが……変異した理由までは存ぜぬ。」
「フォレストウルフの変異……。この森では、何か根本的な異常が進行しているのかもしれないな。」
ノクターンは険しい表情を浮かべ、フェリルの言葉の真意を探るように考え込む。
「それから、あやつの爪には気をつけよ。引っ掻かれたら激痛が伴い、即座に動けなくなるぞ。我が深手を負ったのも、爪のせいで身動きが取れなかったからだ。」
フェリルが言葉を紡ぐたび、騎士たちは息を呑み、洞窟内の空気が一段と重くなるのを感じた。
「やはり麻痺毒の類か……」
ノクターンはため息交じりに呟く。
「最後に、アレは……物理と魔法に耐性があるように見えた。我の引っ掻きや噛みつき、風の咆哮がはじかれおった。」
フェリルの言葉に周囲がざわつく。
「物魔耐性とか、どうやって勝つんだよ……」
「お前たち、静かにしろ。」
騎士たちがざわざわと騒ぐ中、ノクターンが場を鎮める。
「物魔耐性があるということは、必ずどこかに弱点があるはずなんだが……」
ノクターンはあごに手を当てて考え込む。
これまで黙って話を聞いていたレイノルドが横から口を挟んだ。
「それだったら、状態異常や弱体を使うのはどうかな?ちょうどここに、聖属性の使い手であるシエルさんがいるんだし……」
レイノルドはシエルの肩にポンっと手をのせて、状態異常で攻撃するのはどうかとノクターンに提案をする。
「……フォレストウルフが変異したものだとすれば、風属性以外の魔法なら通用するんじゃないかしら?フェリルも風属性だったから、きっと属性相性が悪かったのよ……」
シエルは少し考えてから"風属性以外であれば効くはず"と判断し、レイノルドの意見に賛成する。
「ふむ……聖属性も効くかどうかは分らぬが、ダメもとで撃ってみるのも良いのではないか?」
フェリルも2人の発言に賛同するが、ノクターンだけは反対した。
「いや、変異種の耐性が不明な以上、無駄にマナを使うべきではない。試すなら、俺のスキルで代用できる。」
そう言いながら、ノクターンは長剣の漆黒の刃を軽く撫でた。
「……そういえばフォレストウルフとの戦闘時、雷の魔法を使ってたね」
シエルは洞窟へ来る前に遭遇したフォレストウルフの群れにノクターンが雷を纏った剣で麻痺させていたことを思い出した。
「俺は魔法適性がないから魔法は使えない。だが、属性魔力を剣に流すことで疑似的な魔法を発動できる。」
「魔法適性が無いのに属性魔法が使える……?」
(それって、異世界から召喚された私以上に凄いことなんじゃ……?)
シエルは一国の騎士団長レベルになると、そんなことまでできるのかとノクターンの凄さを思い知った。
(私なら全属性の魔法が使える。でも……正体を隠している以上、今ここで名乗り出るのは危険すぎる。あの妨害者の正体が分からないうちは……まだ――)
シエルはここで自身の正体を明かそうかと思ったが、転生召喚の途中で妨害を受けて何者かに狙われていることを思い出し、打ち明けるのを躊躇った。
そしてシエルのこの判断が、後に危険を招くことになるとも知らずに……。