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第8話 協力関係

王都アヴァルディアに遣える国王直属の精鋭騎士団「黒鷹(こくよう)騎士団」。

その中でも、最も過酷な任務を任されるエリート部隊「ブラックウィング」が目の前にいる彼らだった――。


彼らは要人警護や危険任務の遂行を担い、幾度となく戦場で勝利を収めてきた優秀な騎士たちだ。

その実力は王国の中でも一、二を争うとされている。


「……ブラックウィングは、王都の中でも精鋭中の精鋭だ。特に、この森のような危険地帯での探索任務を得意とする。俺たちの足跡を追える者などほとんどいないだろう。」


ノクターンの言葉に、背後の騎士たちが自信に満ちた表情を浮かべ、胸を張って立っている。

続けて、この森にいる理由をノクターンは明かした。


「俺たちがこの森に来た理由は、森のどこかに出現したという変異種を見つけて、討伐する命令が下ったからだ。……この中層に居るはずもない、デカい狼を変異種と間違えて攻撃しかけた事は謝罪する。……すまなかった」


その言葉にシエルとフェリルは驚き、顔を見合わせた。

氷のような冷徹さを纏うノクターンが、頭を下げて謝罪したことにではない。

彼の言葉――変異種の討伐が目的だという内容にだった。


(奴らの実力ではアイツに敵わん。関わらず街へ行くのが無難であろう)


フェリルの念話を聞いたシエルはため息をついて言葉を投げかける。


「……死にたいの?」


フードに隠れたシエルの瞳には、心配と不安の色が滲んでいるが騎士たちはそれに気付かない。


「……何だと?お前は我々が負けると、そう言いたいのか?」


挑発めいたシエルの言葉にノクターンの声が低く鋭くなる。

その威圧感にシエルは思わず身震いしそうになるが、何とか堪えた。


「……そうよ。あなた達では勝てっこない。だって……いくら不意討ちだったとはいえ、フェリルが瀕死の怪我を負って倒れてしまうくらい変異種は強いんだもの……」


シエルの言葉を聞いて騎士団員たちは「嘘だろ……?」とザワつき始める。

だが、騎士団長――ノクターンだけは冷静だった。


「……この神獣が?どう見ても瀕死には見えないがな」


ノクターンは鼻で笑ってフェリルを見る。

彼の様子を見たシエルは、ひとまずヒーラーであるという仮の手の内を明かすことにした。


「……瀕死の状態で倒れたこの子を、私がリザレクションで完治させたの。だから、今は瀕死に見えなくても当然ね。」


「……聖属性の使い手か」


ノクターンはシエルが回復や防御を使える聖属性覚醒者だと知り、あごに手を当てて何かを考え込んでいる。


(まったく……お主は人が良すぎるぞ。それより……一部とはいえ、奴らに手の内を明かして良かったのか?)


フェリルはため息交じりにシエルへ問いかける。


(放っておけないもの……死ぬかもしれないって分かっているのに、見捨てるなんて私にはできないよ。)


前世で道路に飛び出た子供を命がけで助けたように、誰かの役に立ちたいと願うシエルの強い気持ちは、異世界でもブレることなく健在していた。


考え込むノクターンの元へ金髪の騎士が近づき、ヒソヒソと耳打ちを始める。

騎士の助言に耳を傾けていたノクターンは静かに頷いた。


「シエル・フェンローズ……といったな?」


しばらく考え込んでいたノクターンは頭の中が整理できたようで、シエルに問いかける。

シエルはノクターンの声に反応して無言でコクリと頷く。


「これより、お前と従魔を一時的に保護する。」


「保護する理由は?フェリル……神獣がいれば十分だと思うんだけど……」


他に理由があると思ったシエルは目を細め、ノクターンに警戒心を抱く。

フード越しからシエルの警戒したような視線を感じ取ったノクターンは渋々、事実を告げた。


「……保護は名目で、俺達の調査に同行してもらう。お前はヒーラーで、フェンリルは変異種を目撃しているようだからな。」


想定内の回答を聞いてため息をついたシエルは、拒否権はあるのかノクターンに問いかける。


「拒否権は?」


「ない」


――グルルルルッ!


シエルの問いかけにノクターンは即答で拒否を言い渡し、フェリルが低い唸り声をあげて威嚇する。


「……フェリル、いいの。想定内だから」


フェリルに制止の声をかけ、威嚇をやめさせる。

続けてノクターンに向かって手を差し出す。


「一時的に協力するわ。でも……なるべく、自分たちの身は自分たちで守ってね」


「……協力感謝する。」


こうしてブラックウィングとシエル、それから神獣のフェリルという奇妙な協力関係が始まった――。

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