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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ちょっと暗がりな異世界

あなたの為にならないわ

作者: 宇和マチカ

お読み頂き有難う御座います。

森で救った男に街へ連れ去られてしまう娘のお話です。


「ねえ、あんな無能な娘を傍に置くだなんて。

 貴方の為にならないわ」

「いや、化けるかもしれないじゃないか。根気よく接しろと言われてるんだよ。それに、あの場所ではとても有能で……何故なんだろうな」

「修行じゃあるまいし、何故貴方がそんな献身をしなきゃならないの……。

 あんな小娘よりも、私の家の力を使ってよ」

「カルミア、泣かないでくれ……。

 僕が愛しているのは君だけなんだ。辛いけど、許してくれ」

「狡い人……」


 腕が背に回され、唇が重なるまで間もなかった。アレは、とても慣れた行動。


 使用人という人達が、覗き見している。傍から観たら、絵のように美しいと。

 でも、私は生々しくて吐きそうになった。正体の醜さを晒された後では、見た目の美しいかどうかは関係ない。


 私って、なんなのか。昔はそんなことを考えたこともなかったのに、この頃そればかり胸に過る。

 遠くから拐われてきて、豪華な檻に閉じ込められて此処の習慣を押し付けられて。

 望まぬ勉強をさせられて、食べたくもない食事を押し込まれて、着たくもない服で締め付けられる。


 1年と半年前。あの男を拾って助けなければ良かった。何も得られなかったと分かった時に、胸を潰しておくべきだった。


 私の一族は長寿で、嘗ては固まって暮らしていたのだけれど、様々な理由で散っていった。ぼうっとくらしているせいか、理由は忘れてしまった。

 私は多分、此処に留まると決めたらしい。何時から生きているのかを忘れた時に、異形を拾う。


 それは、異なる世界の生まれで、体の中心が潰れていた。恐らく此処では息が出来なかったのだろう。癒してやっても、きっと保たない。

 でも、放置しておけば死肉を喰らった獣が病を撒くかもしれない。此処で息が出来ない者がどんな毒を持っているか分からないからだ。

 出来るだけ高温で燃やさねば。


 でも、その前に、少しばかり知恵……異形はデータという名前を覚えていたものを盗むことにした。単なる好奇心だった。

 異形の知識は、様々だったが『ベタな少女漫画と小説』と銘打たれたデータは面白かった。異形の感想も面白かった。


 私、大体の少女漫画及び小説のさ。

 1巻でヒーローとヒロインがベチャッといちゃついてる表紙が多いけど、嫌い! とか。

 一体何巻何回何頁でラブラブになるのかな。

 短気かもだけど、知りたいんだよなー。

 ジレジレ系だと、最終巻最終回でようやく表紙みたいなラブラブ具合なんだもん。切ないの辛い!

 くっついてから、紆余曲折してよね! とか。


 異形が覚えているその少女漫画とやらの中身は、虫食いのようにところどころ飛んでいたので、頭脳は良くないらしい。

 でも、コロコロと動き回る感情の起伏に成程面白いかな、と思った。

 データは他にも有ったが、それより興味を引くものはない。

 独りでぼうっと生きているよりも異形とはいえ他人の考えを聞くのが楽しかった。面映ゆくも、フワフワとした気分になるソレは娯楽というらしい。

 何故か少し、体験してみたくなった。


 それから、幾つか異形が落ちていて。データを拾ったけど、あまり面白いものはなかった。

 異形には『墓』というデータがあったので、灰の上に実のなる木を植える。異形のデータのように大きな石は、森になかった。

 そしてその木が黄色の実を付けたその年、此処の生まれの打ち捨てられた男を見つける。


 息をしていたから、どうしようかと思った。データを元に世話をしてみたら、生き延びた。


「助けてくれて有難う。貴女は、習得の魔女か?」

「? 分からない」


 余所での呼び名なんて、知らない。

 だが、この男は勝手に私に好意を寄せ勝手に有能さを期待した。


「君は何でも知ってるんだね。僕は、友達に裏切られてね。敵にされてしまった」

「生きる為の事だけ知ってるだけ」

「でも、暦は知らなくって可愛いな。忘れっぽいのかな」


 ふたりきりで狭い小屋に暮らし、助け合い、感謝を述べ合う。偶に喧嘩をして……。


「愛しているよ、僕の魔女」


 それは、嘗て一人目の異形から得たデータとは違うが、『少女漫画の表紙』のような行為もしてきた。

 よく私を持ち上げて、頬を寄せてきたから。

 コレが幸せというものなのか。よく分からないけど多分、この時私はよく笑っていた。


 でも男は幸せとか、そう思わなかった。住まいも食も暮らしも私に頼り切りな割に、不平タラタラだったらしい。

 何とかして生まれた家に連絡を取り、迎えに来させた時には、ああお別れだ、と思っていた。

 私が有無を言わせず男に連れ去られるまでは。

 体力を回復させる為に餌をやらなければ良かった、と今では思う。


 連れて来られた当初は優しかった。

 だから、嫌味を言ってくる奴らからデータを奪おうと色々としたこともある。

 そして、私は胸が潰れるようなデータを浴びるように見た。


 男が襲われて森に棄てられたのは、心より支えてくれた友達の婚約者を弄んで棄てたから。

 友達は、復讐の為に男の敵に味方した。


 立っていられなくなった私は、奪った者からデータを返した。

 怖い、忘れたい。

 忘れたい。


 そして思い出した。私が忘れっぽいのは、知恵を覚えていたくなかったからだ。異形の知恵を覚えていたのは、私の胸を痛めつけないからだ。

 恐らくこの力のせいで、居なくなった一族も連れ去られて胸を痛めて死んだ。


 さっき見たデータには他にも色々有ったけど、覚えておきたくない。

 人への恨み、妬み、怒りが彩っていた。

 昔、胸に抱いたことのある感情で。


「●●●●」


 男が私に勝手に付けた名前を呼んでいる。あの口付けていた女と同じような音が、風と共に消え、抜けていった。


「未だ分からないのか? アイツの弱点なんて君の能力なら……軽いんじゃないのか?」


 此処から逃げるデータは、覚えておかなくては。

 ああ、忘れたい。何もかも忘れたい。


 男の顔が赤らんでいく。


 私を無能だって言ってたじゃない。

 悪口を聞いていたのよ。酷いわ。

 あの女は誰。私を騙したのね。


 データから色んな言葉が炙り出される。

 でも言わない。

 他人のデータから借りてきた言葉では、この感情を言い表せられないの。よく分かった。


 私は決めた。貴方の為に何もしない。

 知識も、魔法も、特殊技能も。

 此処では何も使わず、朽ちていったと見せかける。

 貴方の為に何者にも成らないわ。



何故怒りを思い出させたの

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