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二.ランエンドヒット

 「代走?でも、野手は他に」

 「お前さんのベースランのタイム知ってたら誰も文句は言わんよ」


 きっと鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたんだろう。監督はにいっと笑った。


 「元々俺あ俊足巧打の潜在能力を買ってドラフトで指名したんだ。思いもがけず投手として成功してしまったがな。|球団(ここ)の盗塁記録持ってる俺がゴーサイン出すんだ。フロントにも文句は言わさねえ」


 走塁コーチにつきっきりで指導してもらって、代走屋の練習を積んだ。最初はチーム内でさえ色眼鏡だった状況を、盗塁の数を重ねて疑念を払拭した。


 投手の牽制球に反応して、俺はヘッドスライディングで帰塁した。ボールをつかんだミットをヘルメットにぶつけて舌打ちする高木さんをよそに、俺は冷静に立ち上がる。


 シーズンのすべてを二軍で過ごしてリハビリに努める選択肢もあった。だけど、今年に限ってはしがみついてでも一軍で過ごしたかった。



 いつだって、あの日を思い出せる。



 泣きべそかいて球場にいたガキに、笑顔で帽子にサインして頭を撫でてくれた若き|主砲(スラッガー)。この人の背中を追って、この人に並ぶことを夢見て、野球少年だったあいつは今、ここにいる。


 三上さんがポストシーズンを過ごす、最後のチャンスかもしれないから。


 一敗も許されない終盤戦、俺は一縷の望みをつなげるべく、再びリードを一歩、二歩と広げる。


 「昔はまだしも、もうあの人に一本は打てんよ」


 いちいち嫌味を言うこいつは、根本を理解できていない。ベンチのサインに頷いた俺は投手のモーションに確信を持ってスタートを切った。


 スチールと同時に快音がスタジアムを支配し、打球が左中間を割いて伸びていく。どこまで伸びたかも誰が補球したかも関係ない。二塁ベースを蹴って三塁へ急ぎ、腕を回すコーチのゴーサインに三塁ベースをも通過して本塁へ突入する。


 勢いのままスライディングした俺は外に膨れたまま、ホームベースに腕を伸ばす。間髪もないタイミングで捕手のミットが俺を捉える。


 「セーフ!」


 球審が腕を水平に広げて、スタジアムが最高潮に沸き上がった。奇声を上げながらすぐにチームメイトがやってきて、次々に手荒い水の祝福で迎え入れてくれる。


 千両役者は二塁を踏んで片手を挙げながら戻ってくる。


 全盛期であればスタンドまでボールを運んでいただろう。最晩年になった今、本塁打は難しいだろう。でも、スターは必ず望みをつなぐ長打を放つ。


 だったら、代走が打点を稼げばいい。本塁打の二分の一であっても、打点は打点であり、勝負打点は人々を魅了する。


 俺は日本一になりたい。あなたはもっとなりたいでしょう。三上さん。


 土俵際から落ちる最後まで、俺はチームの誰より走り続けてみせる。

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