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妖狐、主を救うため時を巻き戻す 下 

趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。


これで完結です!和装って格好よくて良いですよねぇ。

ーーーおい


ーーーおい!


ーーー起きやがれ、この妖狐!!



耳元に入ってきた怒鳴り声で、俺は目を覚ました。いつものように獣姿で寝ていたってのに、知らない声が耳に入る。目の前にいるのは・・・真っ白なネズミ?


「ったく、無防備に寝やがって。昏睡の呪いを解くのに、どれだけ苦労したと思ってやがる!」


昏睡の呪い?それは、妖術の中でも使用が制限されている悪術・・・。って、あれ。宗治朗は?


「時間がねぇから端的に言うぞ。アイツらが動き出した、朝霧宗治朗を事故死に見せる計画がな」


「はぁ!?」


嘘だろ、あの馬車事故までまだ1カ月はあるのに!?ガバッと飛び起きれば、時計は既に朝9時を過ぎている。いつもなら、俺の散歩どころか朝食も終えている時間だってのに!扉を破ろうとした・・・が、何か強力な結界に跳ね返される。


「コイツは・・・妖術の1つ「結界」!?何でこんなところに・・・」


「あぁ、おそらくお前が睨んでた犯人が張ったヤツだな。コッチに入り込むのは簡単だが、出て行くのが妨げられた。窓も完全に塞がれちまってる」


くそっ、何故こんなにも早く手を打たれた?その前に、俺の正体を知らないはずのアイツらが、何故ここまで出来たんだ?まるで、俺たちが時戻しをしているのを知っているかのように・・・・・・。


というか、今更だけどこのネズミは何者だ?昏睡の呪いを解いた上に、俺たちの背景なんかも知っている。当然何も無いネズミじゃない、俺と同じ妖か?


「あー、一旦オレのことは置いとけ。それよりここから出る方法を考えろ、このままじゃテメェも主も破滅するだけだ」


まぁ、そうだけど・・・いや、言い合ってる場合じゃねぇ。結界も永久持続じゃない、攻撃していれば崩れるはず。ただ闇雲にしても効果がない、どこか綻びがあると聞いたことがある。


・・・・・・無論、それに勘づくのは、正当な妖だけ。俺なんかが、それを気付けるわけが・・・。



「おい、焦げ茶色の妖狐。何故お前は、この結界を破れないと考えている?」



急にネズミが尋ねてきた。心でも読んでるのかっていう早さで。


「結界は、完全な妖じゃねぇと崩せない。そして俺は人間と妖狐の血を持つ半端者、結界を破る力を持つには不足している」


「半端者だから不完全だって?馬鹿かお前」


なっ、何が分かる!お前に何が・・・そう言おうとした瞬間、ネズミは俺の鼻先に乗ってきた。



「やってもないのに決めてるのが馬鹿なんだよ。見せ物小屋の獣ってよぉ、馬鹿デカくて檻を突き破る力を持っているのに、何故奴らは檻の中に留まっていると思う?幼い頃の経験で“この檻は破れない”と思い混じまうからだよ。


お前も同じだ。ずっと“半端者”やら“完全な妖狐にはなれない”やら“完全な人間にはなれない”と言われ続けた挙げ句、お前もそうだと思い込んじまってるんだよ。それで構わないと思い、変わろうとしていない。


過去の考えは一旦捨てろ!本当に必要なモノ、救いたいモノだけ考えろ!」



本当に、必要なモノ・・・・・・。


救いたいモノ・・・・・・。




体中が痛み、血が流れ、呼吸が続かない。意識を保つのがやっとだ。


コゲが外に飛び出たと聞き、いそうな場所を手当たり次第に探していた。領地の山中まで足を踏み入れると、犬らしき影。きっとコゲだ!そう思い足を踏み込むと、何故か地面が踏めなかった。足下に広がっていたのは、深い谷。


妖術の1つ「幻影」、そう気付いたときには遅かった。谷の底まで、地滑りをして真っ逆さまに落ちた。足の骨を痛めたらしく、立ち上がることも出来ない。必死の思いで首を上げれば、上からクスクスと嗤う声。



ーーーオチタ、オチタ


ーーーアノ時ミタイニ、オチテッタ


ーーーヤッパリダッタ、ヤッパリ



幾つもの火の玉が、宙を漂っている。あれも、妖?朝霧家と繋がる組織では、見たことないけど。じっと火の玉を見ていると、コツンと石を投げられる。バラバラと、古びた縄も落とされてくる。


「ほら、早くするのよ!古びた橋が壊れて、事故死したように見せなさい!!


あの妖狐は閉じ込めておいてくれた?・・・・・・そう、良かったわ。大丈夫、兄上が死んだらアイツも死ぬ決まりらしいし。はーぁ、あんな野良犬が妖狐だったとはねぇ。もっと早く処分してれば、こんな手間かけなくて済んだのに」


この必死そうで、それでいて楽しそうな声は・・・・・・姿は見えなくても分かる。瑠姫奈・・・やはり彼女が、僕を事故死に見せかけて殺したのか。


でも、1度目とやり方が全く違う・・・まるで、急いで作ったように稚拙だ。それに、何で・・・コゲのことを知っているんだ?


「あんなに緻密に立てた馬車事故の計画を使わないのかですって?仕方ないでしょう。だって今の兄上は“時を巻き戻している”のよ。こちらの計画を既に知っているの、ならば違う方法で消すしかないでしょう?」


時を巻き戻している・・・何故瑠姫奈が、そんなことを知っている!?まさか、彼女も・・・!


「死んだ事故の1ヶ月前くらいなら、意外と警戒心薄いと思ってたけど。ここまで上手くいって良かったわ。お父様やお母様も口裏合わせてくれる予定だから、ここで多少粗くても平気よ。


どうしてそんなに消すのに必死かですって?だって私たちの幸せのために邪魔なんだもの。兄上さえいなければ、私たちの思い描く幸せになるの。良いように動いてくれる人に囲まれて、愛されて、何でも叶えられる!それ以上の幸せなんて無いの!


これで今度こそ、朝霧家は私たちの物!あなた達、妖集団もより繁栄するでしょうね」


継母も、そして父も。ずっと甘やかしていた彼女の味方。彼女だけの、味方。きっと何かしらの嘘で言いくるめられたのだろうけど・・・ブツンと、何かが頭の中で切れた。真っ白になった。家族に対する僕の努力や信頼が全て、崩れていく。


その言葉の直後、轟音を立てて落ちてきた、橋の残骸。そうだ、こんな感じで、全て崩れた。


こんな最期になるのなら、もっとコゲと話をすれば良かった。お前がいてくれて良かったと、お前を巻き込んでゴメンと。後悔なんて、今更意味ないけどさ。


ゴメン、もう意識が続かない。お前ともっと生きたかった。


・・・・・・そんな声を出す体力も無かった。僕はそっと、目を・・・・・・。



ドガッッッ!!バキィッッ!!



橋の残骸が、木っ端微塵に破壊されていく。谷底に吹き始めた強風。目の前に湧き出した、焦げ茶色の煙。10秒もしない内に現われたのは、焦げ茶色の毛並みを持った・・・強大な妖狐。僕の体の何倍も大きく、周辺を圧倒させるほどの妖力を醸し出している。谷の上にいる者を怯えさせるような遠吠え。


完全体の妖狐を見て、慌て出す火の玉たち。


「はぁ!!?嘘でしょ、アレって・・・」と、上から様子を見ている瑠姫奈。


そんな彼らなど見向きもせず、妖狐はゆっくり僕を見てくれた。強大で凶暴そうな見た目からは考えられないような、優しい瞳。


「・・・・・・コゲ」


こんなに強大な妖力があることも、こんなに大きい姿なんて知らない。でもコイツは間違いなく、僕の知っているコゲ。妖力で骨折を治してくれた後、見覚えのある人間姿になってくれた(尻尾や耳が以前より立派になっているけど)。僕が声を出そうとした瞬間、彼は僕を胸に抱き寄せてくる。


「宗治朗・・・宗治朗・・・!本当にゴメン、お前をこんな危険な目に遭わせて・・・。


でも今度こそ・・・今度こそ、俺はお前を守れた。もうこれ以上、アイツらの好きにはさせない!」


コゲはそのまま僕を抱きかかえると、数十メートルはある谷をひとっ飛びして、地面に足を付けた。距離をとっていく瑠姫奈に対し動くなと告げ、「朝霧家の屋敷前にて、両親とコイツらと共に座れ。逃げるな」と、鋭い視線と低い声で命令を下す。その威圧感を破れるわけもなく、妹は素直に言うとおりに動いた。


数分後には、コゲと協力していた妖組織によって、両親と妹は罪人のように腕を押さえられていた。ついでに妖集団も、すっかりお縄についている。彼らに対し、コゲは僕を引き寄せながら話す。


「朝霧家当主夫妻、そして朝霧瑠姫奈。お前達は朝霧宗治朗の暗殺を企て、殺人未遂の罪を犯した。さらには犯罪まがいの妖集団とも手を組むとは・・・人としても、妖狐としても見過ごせないな」


「お、お待ちを!瑠姫奈が申してたのです、宗治朗が将来朝霧家を破滅させると・・・だから、最悪なことになる前に手を打つべきだと!」


まさか、そんな作り話を真に受けたのか・・・。ここまで来ると呆れてくる。


「ほう?つまりお前らは、自らを無罪だと主張するのか?人を殺そうとしておきながらか」


「そして朝霧瑠姫奈、テメェは黄泉(こっち)の許可証なく、妖術「時戻し」を決行しやがったな。不正な妖術を感知したから、こちとら現場に来たんだが・・・あまりにも私欲にまみれた魂胆だな。オマケにそっちの集団も、大量の禁止妖術使いやがって・・・。使用人は洗脳するわ、関係者は買収しようとするわ、おぞましいぞ」


コゲの懐から出てきたハツカネズミが、飛び出したと思えばクルリと1回転する。黄泉の入り口で見た、黄泉の門番の姿になった。


「という訳で、お前ら3人はこれから連行な。まぁ相応の罰受けると覚悟しとけよ」


「ま、待て!私たちは無関係だ、私と妻は何もしていない!そして私は朝霧家当主!ここで連れて行かれれば、朝霧家はおじゃんだ!家の繋がりがある妖組織にも悪影響が出る。そもそも後ろ盾のない狐が、我々に口を出すな!!」


何だよ、こんなところで当主気取りか?悪事に手を染めた時点で、もう終わりだって言うのに。それに、コゲに対してそんな口をするなんて・・・。コゲが言い返そうとしていたところを、スッと抑えて僕が前に出る。


「父・・・いや、朝霧家()当主。もはや貴方には当主を名乗る権威はありません。いい加減自らの非を認め、自らの立場を弁えてください。この妖狐への侮辱は、朝霧家の嫡男である僕が許しません。全ての責任を持って、この家を継ぎましょう」


「ば、バカ言うな!お前ごときがそのような振る舞いをするとは、身の程知らずだな!」


あぁそうだ、父は継母と妹を甘やかしたんじゃない。依存したんだ。だから次第に彼女たちの優先に考え、僕のことは腫れ物扱い。こんなにも無様な扱いをされてきたのに、今までの僕は黙認していた。もう彼らに救いを与える気になんてなれない、そして許しもしない。



「身の程知らずはこちらの言葉だ、罪人ども。今からお前達を朝霧家から廃嫡とする。罪を認めろ、相応の罰を受けろ」



それだけ言えば、もう奴らは何も言わなかった。もはや全てを失った抜け殻のような体を、組織によって引きずられていく。これで、ようやく終わったんだ。ふぅと大きく息を吐くと、ガバッとコゲが飛びついてくる。嬉しそうに動く尻尾しか見えないから、どうした、コゲ?と声をかける。


「宗治朗、お前スッゲぇ格好良かったぞ!」


先程までと打って変わり、飼い犬のように目を輝かせている。その様子が何だか可笑しくて、微笑ましくて、ようやく心から笑えた気がした。


「これから・・・もっと、一緒にいられるな」


そう言って額を合わせれば、生きている証の熱を感じられる。不思議と目からは、じわりと涙が浮かんでくる。でも、嬉しいから・・・それは真実だから、な。





朝霧宗治朗が朝霧家当主になってから半年。領地内にて、小さな和婚が開かれることになった。唯一婚約者の親族で呼ばれた宗治朗の叔父が、会場にやって来る。


「いやぁ、都からだとなかなか長い道だな。お披露目には間に合ったかな?」


「長旅お疲れ様です、お義父(とう)さん」


「ははっ、正確にはちょっと違うけどね、孤月(こげつ)君」


そう言って一礼した孤月・・・もといコゲは、真っ黒な袴に身を包んでいる。焦げ茶色の耳や尻尾の邪魔にならぬよう、少し加工が入った袴のようだ。


「いやぁ、まさか甥っ子が妖狐と婚約したのは驚いたよ。でもあの子は、自分を押し殺してばかりだったから。自分で選んだ人と結ばれてくれて、本当に良かった良かった」


2人の婚約に、叔父は快く喜んでくれたことにホッとした。そう話している内に、もう1人の主役が登場する。コゲとは真逆の真白な衣に身を包む宗治朗だ。どうですか、宗治朗様も綺麗でしょ!と、妖組織に所属する妖が笑顔で自慢してきた。叔父は「おぉ!」と歓声を上げ、コゲもすっかり尻尾を大きく振って喜んでいる。あまりに褒められすぎて、宗治朗はすっかり顔を赤らめていた。


「さて、そろそろ式と参りましょうか。孤月様、宗治朗様!」


式を進める係の妖が、ニコニコと2人を案内する。叔父もそそくさ後ろへ向かい、主役の2人に花を持たせる準備をしてくれる。


「それじゃあ、行こうか孤月」


「・・・・・・宗治朗、俺のことは今まで通りコゲって呼べよ。そう言うんなら、俺もこれから敬語で話すぞ?」


「アハハ、ゴメンゴメン。行こうか、コゲ」


いつも通り呼ばれて嬉しそうなコゲは、いつも通り彼の手を取り、式会場へと歩んでいく。


そんな式場近くの木の上にいるのは、ホッとした様子になる、真っ白なハツカネズミ。


次に黄泉入り口に来るまで、幸せにな。そんな思いで、彼らの式を見守っていたのだった。


fin.

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。


次回作はもうちょっとお待ちを。おそらくメイドの娘が主人公になるかと思われます。

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