表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

妖狐、主を救うため時を巻き戻す 上

趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。


いつも通りの三部作、今回は「和風×死に戻り」です。時代設定はそこまで考えてないので、なんとなく和風っぽいと思っていただけると幸いです。

あぁ、僕は死ぬのか。


許された数少ない外出で、山道を走っていた馬車。それが道を誤った挙げ句、崖下に転落した。体中が痛み、血が流れ、呼吸が続かない。気絶したのか運転手は全く動かず、骨をやられたのか馬は前足しか動かしていない。


山中で動けなくなればどうなるか、そもそもこの状態でどうなるか、僕はもう覚悟していた。


走馬灯のように蘇る、今までの記憶。とある実業家の元で生まれ育ち、跡継ぎだからと必死に学び続けた日々。ずっと屋敷にひきこもり、友達も出来ず、同居する家族とも上手くいかなくて。


だからか脳裏に浮かぶのは家族じゃなくて、ずっと隣にいてくれた・・・僕の愛犬のコゲ。


幼い頃から隣にいてくれた。どんな話も聞いてくれた。心を許せた、唯一の存在。


こんな最期になるのなら、今朝もっと遊んでやれば良かったな。後悔なんて、今更意味ないけどさ。


ゴメン、もう意識が続かない。お前はもっと生きろよ。


・・・・・・そんな声を出す体力も無かった。僕はそっと、目を閉じた。





暗闇の中に立っている感覚がする。歩いても、進んでいる感覚が無い。こんな状態で、何処へ行けば良いのだろう。


しばらく歩くと、遠くに何かがあった。誰かがいた。


「おっ、随分迷ってた亡者だな。初めまして、つっても、ココに来るのは1度きりだけどよ」


そう言って笑うのは、和装の骸骨。奴が言うには、ここは死後の世界「黄泉」の入り口らしい。


やはり僕は助からなかった、まぁ出血も酷かったし。この骸骨は何者だろう、死神なのかな?


「オレは亡者の行く末を決める、黄泉の門番だ。全ての亡者はここで生前のことをまとめられて、今後コッチでどうなるか決められる。んじゃあ色々確認するぞ、お前の名前と年齢をくれ」


「え、えっと・・・朝霧(あさぎり)宗治朗(そうじろう)、18歳です」


そう言うと、骸骨は一瞬動きを止めた。慌てて書簡をパラパラめくっては、じっと見ている。


「・・・・・・お前が朝霧宗治朗だな。実業家・朝霧家の嫡男。齢は18歳、馬車事故にて黄泉へ来た亡者。そして“例の奴”か。お前はちょーっと事例が違う」


例の奴?事例が違う?どういうことだろう。


「おい、テメェの口から説明しろ。全てはそっちから始めたんだからな」


ふと、骸骨が誰かを呼んだ。パタパタと動く尻尾、尖った耳を持つ焦げ茶色の犬。あれはどう見ても、僕が大切にしていた愛犬のコゲだ。


「え、コゲ・・・?どういうことだ?何でコゲがここに!?」


「ほれ、混乱してるぞ。説明しな“妖狐”」


骸骨がそう言った刹那、コゲの体は、焦げ茶色の煙で包まれていく。10秒も経たない内に、目の前にいた僕の愛犬は、獣耳と尻尾を持つ人間へと姿を変えた。僕と同い年に見える男性に。


「コゲが・・・人に!?」


「宗治朗様、俺の正体をこんなところで明かすことをお許しください。俺は(あやかし)の1種である、妖狐の血を引く者なのです」


妖・・・人間が多い社会の中に存在し、妖術に長けている摩訶不思議な存在。僕の生きている社会では、生命力を生成できる人間と生命力を活動源とする妖は、互いに共存関係にあった。現に朝霧家も、妖の組織との繋がりがあって、繁栄しているのだから。


コゲの話によると、彼は妖狐と人間、両方の血を引いている。それ故に力が思うように使えず、犬のような獣か獣耳のある人間にしかなれない。妖狐には出来損ない、人間には不気味だと訝しがられていたところを、獣姿の時に僕が拾ったんだ。


それからずっと、僕の愛犬として生きてきた。愛犬としてずっと生きるつもりだった。


でも僕の死から、それは変わった。妖として力を使うために、正体を明かしたという。


「でも、それがどうして、コゲがここにいるのと繋がるんだ?」


「およ、お前・・・愛犬が妖だってのに、怖いとも気味悪いとも思わねぇの?」


「コゲはコゲだろう?何も怖がる必要ないじゃないか」


コゲとは昔、別荘近くで出会った。大雨だというのに、ずぶ濡れのままうずくまっていた子犬を、僕が連れて帰ったのが始まり。両親を必死に説得し、僕が世話をするのを条件に飼わせてもらえるようになった。


それから8年余り、僕らはずっと一緒。厳しい跡継ぎ教育で外で遊べず友達もいないこと、母が亡くなり父の心が病んだこと、継母や連れ子の妹と上手くやれなかったこと。辛いことが沢山あっても、コゲはずっと隣にいてくれた。みんな聞いてくれた。受け入れてくれた。


ずっとあの屋敷に閉じこもるしかなかった僕の、数少ない友達。信頼している相手。


だから今更、嫌う理由なんて無かった。


「感謝します、宗治朗様。俺はあの事故が起こった後、こっそり事故の原因を調べていたんです。嫡男が亡くなったというのに、朝霧家ではあの事故を余りにも呆気なく片付けたことが、不審かつ不満に思ったものですから。


完全ではありませんが、俺には1つの仮説が出来ました。あの事故は、仕掛けられたモノだと」


「仕掛けられた・・・!?」


「宗治朗様は、事故に見せかけ殺されたのです」


もしそうなら、僕は陥れられたことになる。でも跡継ぎ勉強のためずっと閉じこもっていた僕は、誰かに憎まれるようなことはした覚えがない。


跡継ぎにおいて嫡男という絶対的な立場が邪魔だと感じる、継母側の逆恨みを除けば。


「えぇ、おそらく継母と連れ子の妹・・・特に妹の方が絡んでいます。ですが既に手が回ってしまったのか、俺が調査しだした時、既に証拠らしきモノはほぼ片付けられていました。


オマケに現在、あの2人は朝霧家の財を私欲のために貪り尽くし、妖と共存を担っていた朝霧家の面影が無いのです。このままでは、朝霧家も妖組織も、没落は時間の問題。それは平穏が崩れることを意味します。今のまま続いてしまえば、待っているのは混沌のみ。


そのため、俺は1つの賭けに出ました。【事故が起こる前に戻り、貴方の死を回避する】のです。その名義で、宗治朗様を連れ戻しに来ることが可能になりました」


コゲは黄泉と話を付けたらしく、もし僕が来たら入り口で止めてほしいと頼んでいたみたいだ。ずっとコゲは、僕を待ってくれていた。


「妖狐、今回は特例だぞ。死者の再生が禁忌である以上、時を巻き戻して死を回避させるのは、黄泉の輪廻に反する。元来、妖術「時戻し」も、普段ならそう簡単に認められない」


妖術「時戻し」は、その名の通り時を巻き戻す。つまり歴史を変えかねない強大な術だ。さらに今回は死者、つまり僕を蘇らせることが目的のため、黄泉からの許可証が必要になってくる。妖狐であるコゲは妖組織の力も借り、黄泉との兼ね合いによってなんとかそれを可能にしたらしい。そこまでするなんて・・・無茶しすぎだ!


「今回は朝霧家という、申請先の妖組織にとって重要な地位の奴が巻き込まれた。ついでに怪しい妖が関わってるクサイから、認められたに過ぎない。そしてお前らがどんな結末を迎えようが、時戻しは今回限りしか出来ねぇのは把握しておけ。


そして・・・もし時戻しをしても、朝霧宗治朗の死亡を防げなかった場合。コイツは通常通り、黄泉に来た亡者の手続きをさせてもらう。そしてお前は自ら声を上げたにも関わらず、主要人物を死なせた罰として【魂ごと消滅させる】決まりだ」


えっ、と思わず声が漏れた。コゲはもし僕を救えなければ、死ぬという決まりをしてしまったんだ。


「ま、待て!何もそこまでしなくても」


「宗治朗様、これは俺自身が決めたのです。俺は、貴方を守れなかったことを酷く後悔している。貴方を救う手段を得るために、俺が自身に課したこと。そんなに深刻な顔をしないでください」


いや、でも・・・。そう思って留まっていると、もう既に決まっていることだと、骸骨から切り捨てられた。


「それにお前、本当にコレで良いのか?散々継母と妹にコケにされた挙げ句、アイツらに殺されたかもしれないんだぜ。それでいて、もう良いって思ってるのかよ」


・・・・・・それは、確かに、ある。あの2人、僕を「不満出さないから良いように扱って良い」みたいな風に扱っていたっけ。


母上を失い苦労していた父上が幸せそうだから、結婚して良いとは言ったけれど。次第に父の愛情が、継母と妹だけに注がれていくのをヒシヒシ感じていた。あの家族の中で、僕は孤立する一方だったのを覚えている。


継母には様々なモノを奪われた。母が大好きで大切にしていたガラス細工や書物を売り払われ、高価な衣服や宝石を買う資金にされてしまった。


妹には悪者に仕立て上げられていた。甘やかされて育ったせいか、いつもワガママばかり。それを注意すれば両親に泣きつき、「また泣かせたのか」「お兄ちゃんでしょ」と僕ばかり注意される。


ずっと窮屈だった。朝霧家を継がないといけないという使命感で、その苦しさを必死に誤魔化していた。


だけど、それさえも奪われたんだ。あの仕掛けられたであろう事故によって。


僕だって人間だ。復讐という言葉は似合わないけれど、痛い目にあわせてやりたかった。苦労や苦痛を全て僕に押しつけ、自分たちは好き勝手生きてきた人を見逃すほど、僕は甘くない。


死んでしまったら、そんなこと言うことすら、望むことすら叶わない。


それが今、コゲのお陰で果たせそうなんだ。こんなところで躊躇するわけにはいかない。


「分かった、僕もその時戻しに協力する。それならコゲ、従者みたいな敬語はやめてほしい。お前とはずっと、友達のように話していたじゃないか」


「で、ですが・・・」


「他人行儀みたいで嫌なんだ、これから僕らはある意味“共犯者”なんだし」


「・・・・・・分か、った」


少し言いにくそうだけれど、敬語のむず痒さは無くなった。これで心置きなく、コゲと話すことが出来る。


「んじゃあ当事者の承諾も得られたし、時戻しするぞ。いつまで戻る?」


「半年前、宗治朗の叔父が尋ねてきた時まで。おそらくそこから、この事故の計画が始まっているはずだ」


コゲの言葉のまま、骸骨が書いていく。黒い紙に赤い文字で記された、妖術「時戻し」の許可証が完成した。


「これを受け取れば、すぐにその時まで戻れる。心の準備が出来たら、手を出せ」


ゴクン、と息をのんだ。物々しい雰囲気を出す紙を受け取るのは、正直勇気がいる。


でも全ては、あの事故で死ぬことから逃れるため。僕らが幸せになるため。もしあの事故に義母と義妹が関わっているのなら・・・もうこれ以上、好き勝手に利用されるものか。


自分のため、コゲのためにも、絶対にあの事故を回避しないと。


覚悟を決めて、黒い紙を受け取る。刹那、歪んでいく視界。沈んでいく足下。


まるで巻き戻る走馬灯を見ているような・・・・・・そんな感覚だった。









「え、マジかよ・・・承知承知、オレが行っとく。アイツら見つつ、現場押さえてやる。


オレらを舐めたら、痛い目に遭うことを教えてやらねぇと・・・・・・へへっ」

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。


「中」は明日夜に投稿する予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ