クリスマス・症候群(シンドローム)
もう過ぎましたが、一応クリスマス題材です。
稚拙な文章で誤字脱字、読みにくい箇所などあるかと思いますが、生暖かい目で見てやってくださいませ。
※2023/01/18、少し編集し直しました。読みやすくなってる…かな?
「あ〜も〜、なんでこうなるかなぁ!!」
私は飲んでいた缶ビールを勢いよく机に叩きつけた。
"ガンッ"という音とともに、残っていた中身が少し机に零れたけど、気にしない。
「お前な…、いきなり人ん家に上がり込んで、酒呑んで荒れるのはいかがなもんかと思うぞ?」
目の前の男は、零れたビールを拭きながら、そう言って私を窘めた。
「仕方なくない!? "ショウ"だってクズだと思うでしょ!?」
勢いそのままに、私は上目で"ショウ"を睨みつけてやった。
「まぁ、酷い話だとは思うが……。」
「クリスマスだよ!? 聖なる夜だよ!? 恋人として、一番ロマンチックな夜だよ!? なのに……
なんでよりにもよって、彼氏の浮気現場目撃しちゃうかなぁぁ〜〜!!」
―――数時間前―――
[ごめん、急に仕事入ったから、今日のデート無理になった。]
彼氏の拓哉からそんなLINEが入ったのは、22時を過ぎようとしてる時だった。
[24日、20時に駅前で。]
LINEでそう約束したのが、先週の水曜日だったか。
約束の時間を過ぎてから2時間、待ち始めてから、既に3時間が経っていた。
[分かった。仕事、頑張って。]
短く返事を打って、LINEを閉じる。
仕事なら仕方無い。本当に仕事ならね……。
今の彼氏とは、知り合いを通じて知り合った。
ちょっとノリは軽いけど、職場はしっかりしてるし、話は上手い。
一緒にいて、退屈しなさそう、何よりモテそうなタイプだな……。と思ったのが、最初の印象だった。
向こうから告白されて、お付き合いを始めて2年。
そろそろ同棲も……なんて考えてはいるけど、彼の隣、ましてや、自分の隣に居る拓哉の姿なんて、想像も出来なかった。
そしてここ半年近く、すれ違いの日々が続いている。
年末なんだから、本当に忙しいというのも捨て切れないけど、経験則から言って、これは飽きられたか、浮気かの2択。
前者ならまだ良いけど、後者なら…。
すれ違いが続いてるとはいえ、2年も交際しているわけで、少なからず情もあるわけで。
多分、痛いでは済まない心の痛みを負うことになる。
「取り敢えず、空いちゃったわけだけど、これからどうしよう……?」
周りを見渡してみると、身体を寄せ合うカップルに、プレゼントやケーキを手に持って、家路を急ぐサラリーマンばかりが目に付く。
今日は、恐らく明日もであろう、予定の空いた自分には、少々クるものがある。
こんな時は……。
再びスマホを起動させて、電話帳をタップ。目的の名前を見つけて、通話をポチッと。
トゥルルルル、トゥルルルル…
1コール、2コール…、
トゥル…「もしもし?」
3コール目で出た。
「あ〜、"ショウ"? 私、私。」
「ワタシワタシ詐欺は間に合っております。それでは。」
「ウソ!? ちょっと待ってよ!! 切らないで!! 明里だって!!」
「冗談だよ。クリスマスイブの夜だってのにどうした?」
いつもと変わらないやりとり、いつもと変わらない声色に、何だかちょっとホッとする。
「あ〜、そうなんだけど、実は予定空いちゃってね〜。今から行っていいかな? ついでに明日は休みだし、泊めて〜。」
電話の向こうで、大きな溜め息が聞こえた。
「お前な…。俺に彼女とかいたらどうすんの?」
「え? "ショウ"は私に内緒で彼女作るの?」
大袈裟に驚いた声を出してやった。
「作……らないかもしれないけど、一応俺も男だよ?」
「大丈夫。"ショウ"の事信用してるから♪それに"ショウ"にそんな事する根性無いのは、誰よりも私が一番知ってるし♪」
「あのな……。はぁ……。まぁいいや。気を付けて来いよ?」
「やった〜!! "ショウ"大好き!!」
電話を切る直前、電話口にチュッとキスしてやった。
"ショウ"こと、上坂翔とは、生まれた時からの付き合いである。
いわゆる幼馴染みというやつだ。
実家も、塀を一枚隔てただけのお隣さんで、お互いの家を行き来は日常茶飯事。
夜中や受験勉強中なんて、親の目を盗んで、二階の窓が出入り口だった。(主に私が。)
一緒にヤンチャしたり、おねしょしたのをからかいあったり、捨て犬を拾ったり……。
幼稚園、小学校は何をするにもずっと一緒。
中学では何となく気恥ずかしくなって距離ができ、高校は私は女子高、'ショウ"は工業高校だったけど、交流が途絶えたことは無かった。
何しろ、お隣さんだしね。
大学だって、学科は違うけど、同じ志望校だったから、一緒に勉強して、合格発表も一緒に行った。
まさか就職先まで一緒とは思わなかったけど。
好きかと聞かれれば、当然好きだ。
けど、それは"幼馴染み"として。
家族同然で、姉弟みたいに過ごしてきたから(昔どっちが上かで喧嘩になった。決着はついてないけど、今でも当然私が上だと思ってる。)、隣にいるのが当たり前で、だからどちらかが居なくなる事なんて、想像も出来ない。
何より、"ショウ"の側は、"私が一番私でいられる場所"だから……。
「さて、じゃあ少し買い込んで行こうかな。
お泊りセットは"ショウ"の家に置いてあるし、折角泊まらせてもらうなら、明日の朝ごはんぐらい作ってあげよう。」
この近所のスーパーは、この時間でも開いてるから嬉しい。
葉付きの1/2カットの大根に、1/4カットの白菜、葉付き人参、木綿豆腐、油揚げ、卵、乾燥わかめに白胡麻、あとは塩鮭の切り身に梅干し。
メニューは具沢山味噌汁に、白いご飯、人参シリシリ(お好みで梅肉ソース)、焼き鮭に、梅干し。
大根と人参は、葉も皮も全部使うし、人参が余ったら、味噌汁に入れる。
サッと出来て簡単で、しかも美味しい。
これぞ、日本の朝食メニューだ。
そして、忘れちゃいけないのが、今夜の主役ビール!!
ついでにおつまみの、キャンディーチーズにカルパス!!
「おも……。」
ズシッと腕にのしかかる重み。
結構な量になってしまって、そこそこ重たい。
というか、ビールが一番重たい気がする。
まぁ、 "ショウ"の部屋はここから近いし、大丈夫だろう。
スーパーを出て、腕に掛かる重みと格闘しながら、目的地に向かって歩く。
その途中だった。
見知った顔の男が、前から歩いてきたのは。
「あれ? 明里?」
「拓哉……。」
と、隣には知らない女性。
こんな日に男女で、しかも腕を組んで歩いているんだから、確実だろう
。
浮気だなんだと怒るよりも、"あ〜、やっぱりか…。"って諦めの方が先に出てきてしまい、怒りは湧いて来ずに、頭は酷く冷静だった。
同棲や婚約をしてなくて良かったと思う。
「何? 知り合い?」
「あ〜、まぁちょっとな…。」
疑問を投げ掛ける女の子に、バツが悪そうに当然といえば当然の反応を返す。
だから
「初めまして。拓哉の彼女の高瀬明里です。その人と2年お付き合いさせてもらってます。」
にこやかな表情を作りながら、嫌味たっぷりにそう言い放ってやった。
「は? この明里さんって人と二股掛けてたってこと!?」
女性が拓哉に詰め寄るけど、まぁぶっ込んだらそういう反応になるよね〜。
「そうみたいですね。
今日も仕事って聞いてたのに、こんな所で可愛い子とイチャイチャしてるって事は、このままバレなかったら、私と関係を持ったまま、彼女とも続けるつもりだったのかな?
それとも御社には、そういう業務がおありで?」
これ以上無いってぐらい、にこやかに拓哉…、もとい浮気男に笑いかけてやる。
逃さねえぞって意味も込めて。
まぁ、相手の女性に腕掴まれて詰め寄られてるから、そもそも逃げれないだろうけども。
「ちょっと二人とも落ち着けって!! あ〜、もう、そうだよ!! 浮気してたよ!! けどな!!」
やけにあっさり認めたかと思えば、私を指差して
「明里、お前は二番!!」
「……は?」
周りから音が消えた。
「正直、上司の紹介だったから遊びで付き合ってただけで、お前重いし、退屈なんだわ。
刺激が足りねえの。だから二番!!
それに、男の浮気は甲斐性だぞ?浮気の一つや二つ、許せないなら、結婚するのも無理なんじゃね?」
……私はこんなクズに振り回されていたのか。
2年間、無駄にしたなぁ……。
同棲とか、婚約とかしてなくて、本当に良かった。
「あんたね……!!」
隣の彼女が、言い返そうとするのを、私は手で制した。
ビックリしてこちらを見る彼女に、「大丈夫です」と笑顔で返してやる。
「一人の女すら満足に愛せないくせに、お前は二番? 浮気は甲斐性?
ならあんたは世の中の男の何億番目よ?
誰かの一番にすらなれないくせに、他人を順位付けとか、最下位の男には百万年早いわ。
あんたと過ごした2年は無駄になったけど、結婚とかしてなくて本当に良かったって、心から思うよ。それと、」
私はクズ男の隣を見た。
「私はコイツと別れるし、あとは貴女の好きにしたら良いけど、コイツは女をアクセサリーとしか見てないし、付き合ったところでコイツは何も変わらないよ?
私は2年を無駄にしたけど、貴女はまた若そうだし、こんなクズに時間を無駄にするより、もっと有効に使いなさいね?
それじゃ、頑張ってね。さよなら。」
私は荷物を持って歩き出した。
後ろから、
「お前みたいな気の強い女、こっちからお断りだっつーの!!」
と、負け犬の遠吠えが聞こえたけど無視。
その足で、そのまま"ショウ"の家に乗り込んだ。
インターホン連打して、
「彼氏と別れたから、愚痴に付き合って!!」
そう言って。
そして今に至る。
「あ〜、本当になんであんなクズと付き合ったんだろ? 時間無駄にした〜!!」
どんどん缶を開け、ビールを身体に流し込む。
傷付いた心に、アルコールは沁みる。
「まぁドンマイだな。でも同棲やら結婚や同棲やらしてなくて、良かったじゃん。」
「本当それ。そこまでしてたら、マジで私の人生の汚点だったわ。」
やっぱり"ショウ"の隣は、着飾らなくていいし落ち着くなぁ。
なんて思いながら、お酒のペースと愚痴大会は止まらない。
あれ? そういえば……。
「ていうか、"ショウ"は好きな人とかいないの?」
思い付いた疑問をそのまま投げ掛ける。
「何だよ、急に。」
「いや〜、"ショウ"の浮ついた話、一切聞かないな〜と思って。
そういえば、総務課の綾瀬さんと、受付の矢野さんが狙ってるって噂だけど?」
総務課の綾瀬さんは、甘い匂いが香ってきそうなゆるふわ可愛い天然系(ただ、養殖ではあるけども…)の女の子らしい女の子。
一方、受付の矢野さんは、切れ長な目に長身の、仕事をテキパキこなす、クールビューティー。
どちらも社内の男性人気が高く、矢野さんなんかは、その佇まいから女性人気も高い。
二人とも、ガサツで男っぽい私とは大違いだ。
「あぁ、二人から食事には何度か誘われたぞ?」
「なんやて!?」
「秒で食い付くおばちゃん止めい!!」
まさか私の預かり知らぬ所で、幼馴染みを巡ってそんな面白……、じゃなかった、苛烈な戦いが繰り広げられていたとは!!
「ただ、まぁ全部断ってるけどな。」
「え〜、何で⁉ 社内人気一、二を争う二人だよ⁉」
まさか男が……、とかそういう趣味があるでもあるまいし……。
まぁ、それはそれで、一部の方が涎を垂らして食い付きそうではあるけども……。
でももし私が男なら、あんな可愛い子と美人に誘われたらホイホイ付いて行っちゃうけどな〜。
「だからだよ。人気が高い分、変な噂立てられて、男性陣の反感買いたくねーの。
それに……、誤解されたくない奴もいるしな……。」
「ん?なんて?」
最後の方は、よく聞き取れなかった。
「何でもない。というか、単純に忙しいから断ってる。」
「私とこうして呑む時間はあるのに?」
「忙しい原因の三分の一は、どっかの誰かさんが何の前触れもなく突撃してくるからだって理解してますかね? 明里さん?」
ニヤニヤしながら言ってやると、にこやかにそう返された。
「ごめんって。でも"ショウ"に好きな人がいるなら、言ってくれれば私だって自重するよ。
大事な大事な幼馴染みで親友だもん、幸せになってもらいたいしね〜。」
そう言って、私は缶の底に残っていたビールをぐいっと飲み干した。
「あ〜、私も幸せになりたい!!
どっかに金持ち、イケメン、高身長で、私のことを1番に考えて、大事にしてくれる男は居ないかな……。」
空になったビール缶を手のひらで転がしながら、そう呟く。
私だって一応それなりにいい年齢の乙女だ。
結婚の是非については賛否両論あるし、してない人も世の中には大勢いるけど、私はずっと独りは寂しいと思っちゃうし、結婚にそれなりに憧れもある。
「お前な、理想高すぎじゃね?」
「いいじゃん!! あくまで理想なんだし。
夢はでっかく!! 理想は高くよ!!
彼氏と別れたばっかなんだし、これぐらいの我儘許されるでしょ♪」
苦笑している"ショウ"に、胸を張って言ってやった。
「理想ねぇ……。それさぁ、俺にしとくって選択肢は無いわけ?」
一瞬、時間が止まった気がした。
「……え?……」
「給料は平均、イケメンでも高身長でもないけど、最後の方だけは誰にも負けないつもりだけど?」
勢いよく顔を上げると、こっちを真っ直ぐ射抜く真剣な眼差しと目が合った。
少し切れ長の大きな目に、鼻筋が通った整った顔。
あれ? "ショウ"ってこんな顔だっけ? 割と好みの顔だぞ? おや?
それでいて、中身は優しくて、思いやりがあって、いつも、現に今も私のわがままや愚痴を聞いてくれて、ずっと一緒だから、多分私のことを一番分かってる異性で……。
って何これ、めっちゃ強敵じゃん!!
"ショウ"が彼氏だったら、最高だろうな……。
随分昔にそう思ったことはある。
それは認める。
ただ、姉弟、家族って感覚でずっと育ったから、そういう感情になったことは一度も無い。お互いに。
そう思っていた……のに……
―――トクン―――
心臓が一度、大きく跳ねた。
息が止まる。顔が紅くなるのが分かる。体が熱い。
何これ? 何これ⁉
こんな展開、全然想像もしてなかったんですけど⁉
「も、もう〜、もしかしてもう酔ってる?ちょっと、酔うの早いって〜。」
慌てて視線を逸す。
そうだ、こんな事言うのはきっとお酒のせいだ!!
「そうだな。もう何年も片想いしてんのに気付いてくれない鈍感な奴に、思わず告白するぐらいには酔ってるかもな。」
なんて涼しい顔で言うもんだから、思わず"嘘つけ!!"と心の中で毒づいてしまった。
そもそも、私より"ショウ"の方が圧倒的にお酒は強いんだから、この程度で、ましてや私より先に"ショウ"が酔うはずがない。
"くっ!! コイツ、手強い!!"
対して私はたった数時間前に彼氏と別れて、心身ともにボロボロ。
言うなれば、蛇に睨まれた蛙、ドーベルマンに吠えられたチワワ状態である。プルプルである。
やっとの思いでスライムを倒した始まりの草原に、ラスボスの魔王なんて攻めて来ないでいただきたい!!
こっちは満身創痍で防御力紙なんだから!!
お呼びじゃないのである!!
「彼氏とそのまま上手く行ってたら、諦めるつもりだったんだけどな〜。
別れたんなら、もう容赦しない。」
年代物の熟成されきった片想い、なめんなよ!?
そう言って笑うショウ。
待って!!
今その笑顔は反則だって!!
とっくに心臓の限界突破しちゃってますってば!!
「あ〜、もうお酒無いや!! ちょっと私コンビニ行ってくるね!?」
耐え切れずに、コートと財布だけ持って急いで部屋を出る。
"キィ〜、バタン"
「はぁ〜〜〜〜。」
ドアを背もたれにして、思わず座り込んだ。
"何あれ?あんな顔、初めて見た。ていうか、告白された?
こっちは彼氏と別れたばっかりなんですけど!?"
外は寒いはずなのに、顔が、腕が、体全部が熱い。心臓がドキドキうるさい。
"コンビニ行くって一旦出てきたけど、荷物は中だし、終電も無いし、この後どんな顔して戻れば良いんだろ?"
取り敢えず、私は火照りを冷ますために、小雪が舞う街をコンビニに向かって歩くのだった。
先の事は、その時の私に任せよう、そう思いながら。
〜〜余談〜〜
???「ねぇ、明里さんに二番って言ってたけどさ、私は?」
「あ?お前が一番に決まってんだろ?」
「ふ〜ん?そうやって他の子にも同じ事言ってるんだ? やっぱり彼女の言った通りかもね。」
「あ? 何が?」
「誰かの一番にもなれないくせに、女を順位付けして、アクセサリーとしか見てない男なんて、こっちから願い下げ。
男として底辺の奴に一番って言われても嬉しくないし。
私は私の一番を探すわ。じゃあね。」
「お、おい……!!」
後から聞いた話だけど、拓哉はあの時の彼女にもフラレたらしい。
それどころか、あの現場をスマホのカメラで撮ってた人がいて、その時の動画がSNSでバズって拡散され、友人知人、会社にまで回って、今はどこからも孤立状態らしい。
「カッコイイお姉さんが最低なクズ男をスカッと撃退」って投稿で。
それと、あの後例の彼女、雪穂さんから連絡先を渡され、今は「明里姉さん」と呼ばれて慕われている。
拓哉の情報源は、ヤツの上司さんと彼女だ。
散々なクリスマスだったけど、ゆっくり変化していく時の中で、雪穂さんにも、新しい出会いがあることをそっと願った。
クリスマス合わせて投稿するはずだった作品。
クリスマスに間に合わなかった作品。
え?クリスマスっていうより、年跨いだけど?
そんなツッコミは一切受け付けません!!
気に入って頂けたら、星とコメント、レビューなんぞ入れてやってくださいませ♪
作者が飛び跳ねます(いらない?そんな事言わずに…)し、次の作品に際してのモチベーションに繋がりますので。