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王様の心得  作者: 和知湖
1章
7/20

6 真夜中の胸騒ぎ

 「あなたという人は! 一体いつになったら自覚を持つのです! 守られるべき者が率先して傷を負うような行為をするなんて! そんなだからいつまでたっても……!」


 後半、もはやガミガミとしか聞こえないお小言はもちろんモーロンからのもので、王様は、早く終わらないかなぁと聞き流します。

 いい加減げんなりしてきたところです。


 「聞いていますか! あなたはもう王なのですよ!」

 「でもさぁ……」

 「でもも、だってもありません!」


 あまりに反論を許されないので、王様もちょっと切れてしまいます。


 「お前がいいっていったんじゃんか!」

 「ええ言いました! 言いましたとも! でもまさかノロムワ宰相と試合をするなんて!」


 適度な運動か真剣勝負か。

 モーロンの想定と王様の解釈にはどうやらズレがあったようで、その溝はどうにも埋まりそうにありません。

 王様は納得がいきません。

 だいたい、王様のお父さんのドナ前王様だって剣の使い手です。弟のノロムワと競って剣技を磨いてきたと聞いています。


 自分の身は自分で守れ。自分すら守れぬものに国を守ることなどできぬ!


 これは幼い日に泣きべそをかく王様に向かって前王様が言った言葉です。

 王様もその通りだと思うのですが。

 過保護なモーロンは違うようですね。


 いくら反論しても、モーロンはエスカレートするばかり。

 とうとう、今日の課題が終わるまで夕飯は出しません! と言われてしまいました。

 それを言われると、王様ももう何も言えません。

 おいしい夕食は、王様が王様になってよかったと思えることのもう一つですから。

 

 それに、真実、王様は勉強するべきことがたくさんありました。

 主にこの国の歴史についてですが、今までさぼってきた王様にはこの国500年分の果てしない量の歴史書が山となって立ちふさがっています。

 ページをめくるたびに、だんだんと瞼が閉じてくるので、ちっとも進まないのです。

 

 それでもこの日は、シャードの木との約束の物語から始まる建国の歴史を何とか読み終えたところで、モーロンからようやく夕食の許可が下りました。

 食べ盛りの王様のために作られた、お肉たっぷりの夕食に、王様は一人舌鼓を打つのでした。



 真夜中。

 王様は何度目かの寝返りを打って、眠ろうとしていました。

 寝る前に日課の素振りをして、頭も体も程よく疲れているはずなのに、なかなか眠れません。

 なんだか胸がざわざわとするのです。


 見張りの兵たち以外はもうみんな寝静まっているようですが、雨が強く降っています。

 その雨音を聞きながら、王様はもう一度眠ろうと試みました。


 しばらくして。

 いつの間にうつらうつらしていたのでしょう。遠くの、人の動く音と、話声ではっと目が覚めました。

 遠すぎて、何を話しているのかまでは判りませんが、一人二人ではありません。数人でバタバタとしています。

 

 何か騒ぎが起きている。

 

 そう感じた王様は、眠るのをあきらめて起き上がりました。

 しばらくすると、ドアが控えめにノックされます。


 「セシャード王、お休みのところ申し訳ございません」

 「起きてるよ」


 その声を聴いたとたん、真夜中に似つかわしくない音を立てながら扉を大きく開いてモーロンが足早に入ってきます。

 服装が、パジャマに上着を羽織っただけのものなので、モーロンもこの騒ぎで起こされてきたのでしょう。

 思わず笑ってしまいそうな格好ですが、どうやら緊急事態のようです。


 「セシャード王、川が溢れそうだと報告が入りました」


 粛々と伝えられたそれは、ちょっと予想外のものでした。

 だって昼間受けた報告では、確かに川の水位は高いものの、このままいけば無事に雨季を乗り越えられるはずだったからです。

 

 「え? なんで?」

 

 混乱した王様は、思わずそう口にしました。


 「現在調査中ですが、早急に対策をとらねばなりません。」


 お召替えを。そして会議室へ。

 モーロンはそれだけを淡々と告げると、足早に去っていきました。


 窓の外は、強い雨が降り続いています。


 疑問を抱えたまま、王様は自分で手早く着替えを済ますと、嫌な予感って当たるんだよなぁと足早に会議室へ向かうのでした。



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