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王様の心得  作者: 和知湖
1章
4/20

3 どうして王様が王様になったかというと……

 そもそもどうしてこんな若者が王様をやっているのかというと、父親である前王様と、母親である前王妃様が急にお亡くなりになったからです。

 それが3か月前のこと。まだ雪の降り積もる、寒い季節のことでした。


 悲しい出来ことを乗り越えて、王子様だった王様は、晴れて王位につきました。

 でも本当は、別の人がこの国の王になるはずだったのです。


 王様は、王子様として生まれましたから、ゆくゆくはこの国の王様になるのだと誰もが思っていました。

 ところが、いざ王様になるために必要な勉強が始まると、お城を抜け出したり、勉強をさぼったりするようになってしまったのです。

 困り果てた教育係は王様の従兄に白羽の矢を立てました。

 王様よりしっかり者で、学ぶ意欲のある、従兄のダルツォです。

 二人は仲が良く、兄弟のように育っていましたから、一緒に学ばせて王様のやる気を出させようという作戦でした。

 しばらくはうまくいきました。ダルツォに促され、王様も授業を聞きます。


 結果はご想像の通り。

 結局、さぼり癖は治らず、姿を眩ましてはお城の裏山や、厩で馬と遊んでいるところを見つかり先生にこってり絞られるのでした。


 そうなると、次の王様にふさわしいのは誰か……という話になってきます。

 ダルツォは王様より三つ年上で、王様とは従妹どうし。当時の王様の弟の息子です。

 血筋としても、素養としても問題はありません。

 そうして、ダルツォに王位継承権は渡されました。

 周りの大臣や貴族たちも誰も反対しませんでしたので、誰が見ても、この国の王にふさわしいのはそのダルツォだったのでしょう。


 そのことが決まってから、前王様は王様をお城から出しました。

 城下町に下宿先をみつけ、町の学校へ通わせたのです。


 さすがにこれには反対の声も上がりました。

 身分を隠すとはいえ、まがいなりにも王子様です。身の危険だってあるし、何より、身から出た錆とはいえ、まだ幼かった王様の心の傷を周りの大人たちは心配したのですが、当の王様はというと、ラッキー! と、喜んでいました。

 小難しい勉強や、堅苦しい行儀作法から解放される!と。

 あっという間に街での暮らしになじみ、友達もできて、学校生活を満喫。お城にいる頃より生き生きしているくらいでした。


 図太いというか、面の皮が厚いというか……。

 ともかく、自分が王様の器じゃないってことを、自覚していたようですね。


 そのダルツォは今は行方不明。


 隣の国に外遊に行ったまま、連絡が付かなくなっています。

 国を上げて捜索に当たっていますが、今のところ何の手掛かりもありません。


 王様もダルツォも一人っ子でしたから、他に王様になれる人が誰もいません。

 仕方なく、彼が帰ってくるまでの間、王様が王様をすることになりました。

 

 でも王様は、国の治め方や、他国との付き合い方なんてこれっぽっちもわかりません。

下宿先で町の子どもたちと同じようにして育ったので、王族や貴族としてのふるまいを学んだのは10歳ころまで。

 よくもまぁ、前王様はそんなことをしたものだとあきれてしまいますが、そのしわ寄せで、今、王様には毎日の政務とともに、国の歴史や行儀作法など学ばなければならないことが山のようにあるのでした。


 そんな人が国を治めるって、本当にとても大変なことなんです。


 この日も、書類とのにらめっこに飽き飽きした王様は、ペンを放り出して溜息をつきます。

 窓の外には気持ちの良い初夏を切り取ったような青空が見えているのに、今日は外へ出られそうもありません。


 「ツォがいりゃあなぁ」

 「ダルツォ閣下はここにはいません! いい加減あきらめて政務に集中して下さい!」


 眉間にしわを寄せたモーロンがはっぱをかけてきます。

 毎日のようにお城を抜け出した分の執務がたまりにたまっていて、モーロンは王様が逃げ出さないように朝から張り付いているのです。


 こりゃ手加減してくれねぇなぁ。

 その顔を見た王様は、大きなため息を一つつくと、いやそうな顔を隠さないまましぶしぶと政務に取り掛かりました。

 


 しばらくたって。


「そんなににらみ続けなくたって、今日は逃げないよ」


 あまりにジーっと見つめ続けられるので、王様はモーロンに声を掛けます。


 「いいえ! そう言ってあなたはいつもいつも、隙をついて逃げ出すんですから!」


 今に見ていなさい!一体どこから抜け出しているのか、必ず突き止めてやりますからね!と、鼻息も荒く監視し続けるモーロンに、王様は苦笑いするしかありません。

 王様、全く臣下に信用されていませんね。


 この馬鹿真面目な事務官は、いつも王様に厳しく接します。

 最後まで、王様が王様になることに反対したのもモーロンでした。

 王様にはふさわしくないと今でも思っているのでしょう。

 でも、なってしまったものは仕方がありません。

 せめてちゃんと国が回るようにと、厳しくサポートしてくれているのです。

 幼馴染ですから、王様はモーロンのことが大好きです。

 厳しくするのはこの国と、ひいては王様のためだとちゃんとわかっています。

でも、その苦労を知っていながら、それでも逃げ出したり、さぼったりしてしまうところが、王様の本当に困ったところなのですけどね。


 観念した王様は頑張りました。

 ためにためた執務をやり終え、終わったぁと脱力する頃には、いつの間にかもう夕暮れでした。

 どおりでお腹が空いているわけです。


 モーロンも、ずっと王様に張り付いていて疲れたのでしょう。終わった書類を確認しながらも、昼間ほどの元気はありません。メガネがずり落ちています。

 もともと、体力はあまりなく、文武の文の方にたけているのですから、王様が隙をついて逃げ出さないように見張っているのはさぞや骨が折れたことでしょう。


 まあ、さすがの王様も、今日ばかりは逃げ出す気はなかったようですけれども。


 

 さて、王様の仕事は、当然書類の採決ばかりではありません。

 人に会うことも、王様のとても大切な仕事です。


 毎日のように何十人と謁見の申し込みがあります。

 宰相たちに振り分けられて、本当に必要なものだけに絞られるのですが、書類仕事以上に王様にとっては苦痛な時間です。


 今日は、遠くの国の商人が、お米を取り扱いたいと許可を求めにやってきました。

 とはいっても、必要な準備はほとんど終わっていて、王様は宰相や大臣たちが決めたことに従って許可を出すだけですけれど。


 「本日は謁見の機会をお与えくださり誠にありがとうございます。ウルエ国王様におかれましてはご機嫌麗しく……」


 (早く終わんねぇかなぁ)


 跪いた商人の長い挨拶を、あくびをかみ殺して聞き流していますが、玉座に座る王様の姿は、城下を自由に動き回るときの面影は全くありません。

 変装をしているからです。

 着る服はもちろんですが、髪も撫で付け、目元には少しお化粧をされます。きりっとした印象を与えるためだそうです。

 さらに目元から下は上等な布でできたマスクで隠され、表情が読み取れないようにしてあります。

 このマスク、最初は息苦しくていやだと思っていた王様でしたが、実はとっても便利なことに最近気が付きました。

 さっきのようなあくびを隠したり、気に入らないことがあったときにこっそり舌を出したりするのに具合がいいのです。

 もしかしたらそんなところも、モーロンに計算されていたのかもしれませんが……。

 

 普段、王様として人と会うときは、いつもこの格好をさせられます。

 城を抜け出して、城下町で遊び歩いていることはばれているので、せめて王様だとわからないようにと、モーロンが考えたのです。

 対外的には、顔に大きな傷があって、それを隠すためだと言ってあります。

 口数も減らすように言われ、受け答えは短く、声は低く。

 そんなことまで指示されるのに辟易しますが、王様は受け入れました。

 だってそのおかげで、城下での自由があるのですから。


 姿勢よく玉座に座れば、実際の年齢より2、3才上に見える威厳ある王様の完成です。


 「許可する」


 口上が終わり、王様がそう一言いえば謁見は終了です。


 ウルエのお米は、外国では比較的高値で取引されているので、主にお金持ちが好んで買うのですが、ウルエの国としては、より多くの人に食べてもらいたいと考えています。

 流通量が増えれば価格も下がり、より多くの人に食べてもらうことができるので、宰相や大臣たちはよほどのことがなければお米の取り扱いを許可するのが、今の方針です。

 その分、その流通量に耐えられるように、生産量を上げることが課題になってもいます。

 

 より多くのおいしいお米を収穫するにはどうすればいいのか。

 お城を抜け出して農作業を手伝いながら、村の人々がそう言ってあれこれ意見を交わしているのを王様は間近で聞いています。

 だから、この方針は上手くいくと王様も思っています。

 生き生きとした表情で意見を交わしあう人々を見ていると、自信をもってウルエのお米を世界中の人に食べてもらえると王様も思えるのです。

 

 モーロンの変装と宰相たちの方針のおかげで、ウルエの王様の評判は上々です。

まだ若いながらしっかりとした王だと。

 モーロンたちの作戦勝ちですね。


 謁見に来た商人も、まさか王様が自らお米を作っているなんて思いもよらないでしょう。

 城下町や村の人々が王様を遠くから見ることもありますが、あの村や町を元気に駆け回るセシャとは結び付かないはずです。


 最初は嫌々していた変装でしたが、最近は満更でもありません。

 王様、優秀な臣下たちに感謝しなければなりませんね。

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