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王様の心得  作者: 和知湖
1章
3/20

2 王様と城下町

 また別の日。

 王様はお城を抜け出し、今日は城下町を散策中です。

 おや、露店で買い食いをしていますね。鳥の串焼きですか。

ガブリとかぶりつく姿が全く王様らしくありません。

 口の周りにたれがべったりです。


 もちろん、町の人たちも、王様のことを王様だとは気が付きません。……たぶん。


 王様の治めるウルエの国は小さいですが、山に囲まれ、豊かな森と豊富な水に恵まれたとても平和な国です。伝説にあるように決して戦争は起こりません。

 ですからこんな風に、王様が王様らしくなくても成り立っているのです。


 特産品は米とシャードの木。


 冬は雪に覆われ少々厳しいですが、春になるとその雪解け水が山から下りてきて、土に栄養をたっぷりと届けてくれます。それが、秋にはぷっくりと大粒の稲穂となって、おいしいお米をもたらします。

 ウルエの国の米はよその国にも大人気です。


 シャードの木は、始まりの伝承に語られる様に恐れられている木ですが、普通に生えている小さな木はとても役に立つ素晴らしい木です。

 油分の多い実は食用にも薬にも燃料にもなりますし、丈夫な幹は加工するとしっかりとした道具になります。

 ウルエの国に来る観光客は、たいていシャードの木の油や、その木の加工品をお土産として買って帰ります。


「みてみて! セシャ様よ!」

「今日も素敵ねぇ!」

「きゃっ! こっちを見たわ」

『きゃぁぁ~』


 ……王様、モテますね。

 町の娘さんたちが、姦しく騒いでいます。

 王様は長身で、明るい金色の髪にきらきらとよく輝く翡翠色の目をしています。

 金髪碧眼。こりゃモテないはずがありません。

 黄色い声を上げるお嬢様方に気が付いた王様は、にこりと笑って、ひらひらと手を振ります。胸の内では、遠くから見てないで近くで声をかけてくれればいいのに。と鼻の下が伸びる思いです。

 でもなぜか、いつもお嬢様方は近くには寄ってきてくれません。

 遠巻きに見ているだけです。

 王様は解せません。

 お年頃の男子ですから、女の子とデートしたいなぁとか思ってるんですけどねぇ。


 「きゃぁぁ!」


 突然別の悲鳴が聞こえました。

 王様が素早く周りを見渡すと……見つけました!

 花売りの娘さんを突き飛ばして、走り去ろうとする泥棒の姿を!

 売り物の花束が籠から投げ出されて散らばっています。

 売り上げを奪って逃走したようです。


 町の人々が騒めきます。

 その場の全員が巻き込まれまいと距離をとります。

 子連れのお母さんは子どもの目を覆ってその場から離れます。

 ばかなことを! シャードの木が来るよ! と誰かが言っているのが聞こえてきました。

 この国の人々は、『争いごと』が起こることを、とても恐れているのです。

 

 王様は、目線は泥棒に向けたまま、食べかけの串焼きを全部口に放り込むと、律儀に残った串を露店のごみ箱に捨てました。そのまま走り出した王様は、人込みをかき分け、ぐんぐんスピードを上げていきます。

 追いかけられていることに気が付いた泥棒は、焦ってさらに走ろうとして――足をもつれさせました。

 顔から盛大にコケた泥棒に追いついた王様は、両手を後ろに回して馬乗りになります。

 この大捕り物を見守っていた町の人たちが、わっと拍手をして王様を称えます。

 騒ぎを聞いて駆け付けた警備の兵隊たちに引き渡すまで、王様はしっかりと泥棒を捕まえていました。

 王様の運動神経の良さが役に立ちましたね。

 

 ウルエの国で争うような騒ぎを起こすことは命がけです。どんな事情があるにせよ、はっきりと処罰の対象になります。

 王様は全力で止めなければならない立場ですが、取り押さえている間の、ごめんなさいごめんなさいと泣きながら繰り返す泥棒の小さな声が耳に残ります。

 治安の悪さは王様の力不足だと、連行されていく泥棒を眉根を寄せながら見送りました。


 お財布も無事に戻って、娘さんも一安心。お礼を何度も言いながら去っていきます。

 町の人たちもホッとして、それぞれの日常へ戻っていきました。

 先ほどのお嬢様方も、王様の勇姿に感動の歓声が収まらない様子です。

 王様はまた手を振ります。

 話しかけてくれないかなぁとちょっぴり期待しながら。


 「お手柄だったな! セシャ」


 でも声をかけてきたのは、串焼き露店のおじさんでした。


 「ほれ、もってけ!」


 そう言って焼き立ての鳥の串焼きを差し出します。脂がてらてらとしてとてもおいしそうです。

 どうやらご褒美のようですね。


 「サンキュ!」


 王様はありがたくいただくと、ハフハフしながらかぶりつきます。

 食べ盛りですから。食べても食べても、いくらでも入ります。

 どうせご褒美なら、若い娘さんからほっぺにキス……とかされたかったなぁ、なんて妄想しながら、色気のないご褒美をおいしく食べ終えた王様は、ふと、町の人の流れが変わったことに気が付きます。

 夕暮れ時。みんな家路につき始めたのです。


 いろいろな表情の人がいます。

 足早に家に向かう人、疲れ切った顔の人、綺麗な小包を抱え嬉しそうな顔の人、やり切った顔の人、お母さんおなかすいた~と手を引く子ども。

 しばらく道行く人々を眺めていた王様でしたが、空がすっかり茜色に染まったことに気が付くと、王様も家路につこうと歩き始めました。

 

 今日も平和なウルエの国には、穏やかな時間が流れています。



 こうして、いつもお忍びで国民との触れ合いを楽しんでいる王様ですが、城に帰ればこわーい臣下が仁王立ちして待っています。


 「セシャード王! また城を抜け出して!」


 彼は事務官のモーロン。

王様より一つ年下ですが、きっちりとした性格で言わば王様のお目付け役です。

 いつも抜け出す王様に、様々な対策を立てて対応していますが、今のところいたちごっこに終わっているようです。

 実はお城には秘密の抜け道があって、王様はそこからいつも抜け出すのですが、今のところ、まだ誰にも気が付かれていません。

 王様、悪知恵だけは働きますからねぇ。


 「今日はこれから、今までにさぼった分の執務をこなしていただきますからね!」


 おや。モーロンが実力行使に出たようです。

 王様の寝室に机を運び込んで、未処理の書類の山を積み上げます。

 ぎょっとした王様は言い返します。


 「そんなのお前が代わりにやっときゃいいだろ!」

 「何ですかその言い分は! どっかの餓鬼大将ですか!」

 

 逃がしません!

 と気迫満点で迫るモーロンに、さすがの王様も及び腰です。

 この様子だと、言うことを聞かなかったら夕食も食べさせてもらえそうにありません。

 そんなの地獄です!

 城の料理人が作る食事はとってもおいしいですし、なによりさっきの串焼きだけでは育ち盛りの若者にはとてもたりないのです!

 

 こうして王様は、やっと王様らしく仕事を始めました。

 

 難しいことを判断することは苦手な王様ですから、

 モーロンや大臣たちにアドバイスを受けながら、採決していきます。

 さっきの、

 『お前が代わりにやっときゃいいだろ!』

 には、俺は適任じゃない! という思いが詰まっているのですが、そういうわけにもいかないようで……

 国を治めるって、大変なんですねぇ。

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