16 モーロン・フーレの想い
跪く三人を前に、王様はしどろもどろ。
何とか打開したくて、モーロンに話を振ります。
「モーロン! お前は最後まで俺が王位に就くことを反対してただろ? ダルツォになってほしいって思ってただろ?」
ところが、なぜかモーロンも跪いたまま顔すらあげません。
「私は……」
場の雰囲気に流されているのでしょうか?
いいえ。そんなことをする奴ではないと王様は知っています。
何か意図があるのでしょうか。
「私は、あなたにお仕えします」
王様は、びっくりしすぎてもう声も出ません。
「あなたが王位につかれるときにそう決めた。
不遇な境遇に置かれたあなたを、全力で補佐すると決めました。
はじめは、王位になどついてほしくなかった。
町で、ご友人たちを率いて走り回るあなたを見るのが好きでした。
困っている人に声をかけ、当たり前に手を差し伸べるあなたがうらやましかった
あなたには、あのままあなたらしく生きて行ってほしかった。
王は、国を率いる者は、時に非情にならねばならない。
あなたはお優しい。
だから、王にはふさわしくないと思った。
あの堤防でも、稲と村人たちと、両方を救う方法はないかと最後まで考えておられましたね。
稲などさっさと切り捨て、抵抗する者など縛り上げてさっさと避難をさせればいいものを。
大体、村人風情のわがままでセシャード王の御命を危険にさらすなど、とんでもないことです!
……コホン。
でも結局、彼らは自分の意志で動きました。あなたのために。
今回はたまたまうまくいきました。
人命は守られ、収穫量は下がれど、村人たちは奮起して、米の質を上げた。
ご存じですか?
今年の米は、輸出先の国々から絶賛されているのです。
流通量の少なさが逆にいい方向に働きました。
入手が困難だからこそ、欲しがる人が増える。
値段も上がりますが、それ以上に話題になりました。
来年は、購入希望者がさらに増えるでしょう。
これは偶然です。
でも、この偶然を成り立たせたのはあなたです。
あなたが私の目を盗んで、王にあるまじき行為を重ねる中で作り出したものです。
流行は一過性のものでしょうが、村人たちは努力を怠らないでしょう。
なぜなら彼らが喜ばせたいのは、他の誰でもない、あなたなのですから。
今でも思っています。あなたは王にふさわしくない。
切り捨てることができなければ、いつか自滅します。
でも他のものはそう思わない。
あなたが王であろうとなかろうと、あなたのためにみんなが動く。
あなたと共に生きようとする。
ですから、あなたはあなたが自由にふるまえる立場から、この国を守って頂くのが一番いいのです。
でもそれが叶わないなら、私が、あなたを王にしてみせる。
あなたができない非情な決断は、私が下しますから」
ようやく顔を上げたモーロンは、なんだか誇らしそうな顔をしていました。
「あなたは、ウルエの王でいてください」
「長い、足がしびれた」
ダルツォはそうモーロンに突っ込んで立ち上がり、優雅に、でも少々行儀悪く足を椅子に上げると、しびれた足を動かしました。
「あ、申し訳ござ……」
「モーロン。 俺もいることを忘れるなよ?」
そう言って、ニッと笑います。
モーロンは、照れたように、でも嬉しそうにはい! と返事をします。
ノロムワすら微笑んでいます。
三人は座りなおすと、一息つくように昼食に手を伸ばし始めました。
(いやいやいやいやいやいや!!)
その様子を見ながら、王様は一人置いてきぼりです。
なんだか三人で結託していますが、王様は納得していないのです。
王様に信頼を置いてくれているのはよくわかりました。
全力で補佐してくれるというのもありがたい話です。
でも、それらは三人ともやりたいからやっているのでしょう?
王様は、やりたくないのです。王様なんて。
「俺は、王なんてやりたくないんだよ!」
和気あいあいと始まったランチタイムを切り裂くように、王様は叫びました。
「わかってるだろ? 父さんも、母さんも、俺がふさわしくないと思ったから継承権ををツォに渡したんだ。俺は町で育ったんだ! ネキンおばさんの宿屋で育ったんだよ! いくら親が国王だったからって、その親が死んだからって、そんな奴が王様やってるなんて知ったら、誰も信用しなくなるだろ! 国のみんなも、他の国の人たちも!」
「セシャード王……」
すっと、呼びかけたモーロンを、ダルツォが手で遮りました。
そのまま懐から何かを取り出すと、王様に差し出します。
「セシャ。お前宛に手紙を預かってきた」
「……手紙?」




