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王様の心得  作者: 和知湖
1章
16/20

14 ランチミーティング

お城の庭の東屋で、王様は大きく伸びをしました。

秋の日差しが気持ちよく、涼しい風も吹いてきます。

 あの水害から半年がたち、最近はようやく落ち着きを取り戻してきました。

 今日はこれから、王様とダルツォとモーロンとノロムワが集まって、近況報告会という名のお小言会です。

 慌ただしさのせいで先延ばしにされていたお小言のあれこれを一気に受け止めなくてはならないという、王様にとってはなんとも気が重い日。

 せめて、せめてランチミーティングに……!

 と、王様は聞きたくもない小言をせめて聞き流せるように、昼食のセッティングをしてもらいました。

 さらに、せめて物理的に開放感を感じていたい!と、天気のいいのを口実に庭に用意させました。

 せめて、せめて――と、王様の悪あがきですね。


 とはいえ、こんな日が設けられるようになったのも日常が戻ってきた証拠。

あの水害が嘘の様に、今では川も山も落ち着きを取り戻しています。

 村の人々にも、だいぶ日常生活が戻ってきました。

無事だった水田では、夏の日差しを浴びてぐんぐん育った稲穂がたわわに実りました。

心配だった病害も少なく済み、収穫量は少なめですが、大粒のいい米が出来上がっています。


先日視察に行ったとき、ニトイが王様に見せてくれた稲穂は、金色に輝いて見えました。

ニトイが恭しく差し出すそれを、王様はじっと見つめます。

脱穀した白米を思い浮かべ、それを焚き上げる時の香り、炊き立ての米で結ばれたおにぎりまで浮かんできて、思わずよだれが溢れてきてしまいました。

相変わらず、食い意地は人一倍ですね。


王様として行ったので、親しく話しかけることはできませんでしたが、ヒタに変わって報告をしてくれたニトイの誇らしげな顔といったら!

きっと、量が少ない分質を上げようと努力したに違いありません。

王様と目が合うと、ニトイは小さくニッと笑いました。

王様も、マスク越しに笑い返しました。

その姿が頼もしくて、うれしくて、本当は抱き合って喜びを分かち合いたくてたまりませんでした。

と同時に、実はちょっと焦りも感じています。

ニトイは、きっといい村長になるでしょう。

では、王様は?



王様はあの日以来、お城を抜け出してはいません。

全くそれどころではなかったですし、何より、今はそうすべきではないと思ったからです。


事務官のモーロンと宰相のノロムワを中心に、しばらく続く避難生活の準備や食料の手配、住民の健康管理の把握、家に戻れるようにするための復興作業が進められました。

当然、王様もそれに付随する採決や政務に追われます。


応急措置で設置した土砂堤防の補強も同時平行です。

こちらはダルツォが中心になってやっていたようですが、最終決定はやはり王様がするようで、何かと書類を持ってきます。

王様は、ダルツォがいいと判断したならそれでいいと思っているのですが、国というのはそう簡単に個人の考えで動くことはできないようで……。

辟易しながらもサインをし続ける日々が続きました。


追い打ちをかけたのは、若手の兵士たちが全員剣と盾を失ったことです。

最初、報告を受けたモーロンとノロムワはそろって口をあんぐり開けていました。

事情を知っている王様はマスクの下で大笑い。この二人のこんな顔はめったに見られるものではありません。

よくやった! と、提案したあの兵士をほめてあげたいくらいでした。

ただ、王様はすこし後になって気が付きました。結局これも、王様の仕事を増やすものであるのだと。

新たに剣と盾を新調しなくてはなりませんが、数百人規模の武器を新たにそろえるとなると、お金も時間も手間もかかります。

それらを処理するのにも一苦労。

いつの間にか、ほめるのではなく、今度鍛錬場であったらしばいてやる! とあの兵士を恨めしく思う王様なのでした。 


 この激務に、さすがのモーロンとノロムワもげっそりとやつれています。


(そろそろ休暇を取らせないといけないんじゃないかな)


 臣下をねぎらうことなんてしたことのない王様ですが、さすがにそんなことを考えています。

何より自分が休みたい、と。


一人飄々としているのはダルツォです。

ノロムワを補佐して、同じような激務をこなしているはずなのですが、全く疲れを見せません。

涼しい顔で淡々と政務をこなしていく姿に、王様は思わずこいつ実は人間じゃないのでは? とこっそり疑いを持っています。



爽やかな秋の日差しの下、ノロムワとモーロンは連れ立ってやってきました。歩きながら何か話合っています。

いまだいろいろと手配しなければならないことを相談しているのでしょう。

忙しなく椅子に座ります。座ってからも話し合いが止まりません。

この二人はいつも本当に忙しそうです。


ダルツォは、優雅に歩いてきます。

こうやって従妹どうしゆっくり話すのは、再会してから初めてのことです。

 なんとなく、やってくる従兄を眺める王様ですが、その堂々とした立ち振る舞いに思わずため息が出ます。

 颯爽とやってきて、優雅に腰掛け、上品に微笑むその姿は高貴な人そのもの。誰もが敬意をもって接するでしょう。

 変装しているときですら、隙あらばだらけた姿勢を取ろうとする自分とは大違いです。

 どこからどう見ても、自分とダルツォの立場はあべこべだと、王様は思います。


水害からの復興でうやむやになっていましたが、王様になるはずだったダルツォが帰ってきたことは大問題です。

モーロンはきっと喜ぶでしょう。

改めて、王様に推薦するかもしれません。


ノロムワだって、本当は自分の息子に王になってほしいに決まっています。

それに、今までどこにいたのか、何をしていたのかと、息子を質問攻めにしたくてたまらないという顔をしていましたが、激務に流されてそれもままならずにいました。

王様も、ダルツォがどこで何をしていたのか聞いてみたい気持ちはあります。

そんなことを知ってか知らずか、ダルツォは涼しい顔でノロムワの補佐をしたりしていました。


「復興作業は順調ですか? 父上」


ゆったりとお茶を飲みながら、ダルツォがノロムワに話しかけます。


「ああ。全く、まさか派遣した兵士全員が剣と盾をなくすとは……!」


ノロムワは苛立ちを隠さず応えます。


「全くです。考えられないことは起こるものですね」

「誰のせいだと思っているのだ!」

「さぁ。俺じゃありませんよ? 彼らの自発的な発想です」

「許可する奴があるか!」

「それが最善だと判断しましたので」

「っ! 大体、今まで一体どこに……」


この二人並んで話していますが、なぜか体の向きがお互いを向きません。横に外して顔もあわさず、半身の距離感は、この親子独特のものでしょうか。

見ている王様は面白いですけれど。


「ちゃんと間に合ったでしょう?」

「さんざん探したんだぞ!」

「帰ってきましたよ、こうして」


向かいに座る二人の会話は終着点がなさそうです。

親子だなぁと、王様は眺めています。

そこへ、


「あなたもですよ、セシャード王」

「うわ来た、とばっちりっ」


思わず身をすくめるような低い声が横から届きました。

やはりお小言からは逃れられないようです。

王様は王様で、隣のモーロンから逃げるように半身をずらしました。


「とばっちりじゃありません! あんな、いつ崩れるかわからないような山に行くなんて! あなたは王の役割をわかっていません! 自ら危険な場所に行く王がどこにいますか!」

「えーと……ここ?」

「認めるんじゃありません!」


とうとうモーロンの雷が落ちました。

王様は身をすくめます。


「モーロンが老けたのはお前のせいだな」

 「……」

 「!! ダルツォ閣下、あなたまで」


 気まずさをごまかすようにお茶を飲む王様に、ダルツォはふっと笑いました。

 

 「変わらないな、お前は。周りの状況はこんなにも変化したというのに」


 誰のせいだよ。と王様は不貞腐れながらお昼ご飯に手を伸ばします。

 モーロンはまだぶつぶつ言っていますが。

 ランチミーティングにしておいてよかったと心から思った瞬間でした。



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