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09 もし君がこの世界で生きて行こうと思っているなら



 ――【魔女の接吻】によって君はこの世界に召喚された。だがその身体に魔力を秘めていない事が分かり、無用な君は懲罰大隊に入れられた。つまりはそれが死刑宣告だ――

 この事実を耳にしたレイジは瞳の奥に紅蓮の炎を宿した。勝手にこの世界に呼んでおいて、何の説明も無くポイ捨てかと、怒りと怨みを燃料にした炎だ。


 極めて冷静さを保ちながらも、静かに激怒するレイジを見たデュアンナは、次に彼がどう切り出して来るのかと、二種類の可能性を想定している。(しめた!)と腹の内で叫びながら、予測した想定に対してあらかじめ理論武装を行なった上で、交渉に入ろうとしていたのだ。

 その目的はあくまでも主導権を握ったまま、彼との交渉を締結したいと言うのが彼女の真意なのだ。


 召喚儀式【魔女の接吻】を行なった者、つまりは無能者としてレイジを葬ろうとした勢力に対して復讐したい。ついては儀式を行なった者たちの情報を寄越せ……これが第一の想定。そして第二の想定は、元居た世界に帰りたいから、是非とも協力してくれ。

 レイジが激怒するか、それとも泣き叫ぶかの二択を選ぶだろうと踏んでいたのである。


 だが、デュアンナの目論見は早々に崩れ去った。レイジ・トキが第三の選択肢を持って彼女と相対したのだ。


「なるほどな。別の世界から能力者を呼び出したら、無能の俺がやって来たって事か」

「むう、どうした?まるで悟りを開いたように、さっぱりしてるじゃないか」


 そう、レイジは取り乱す事も無く、この部屋に来た時と同じように落ち着いてしまったのだ。それも冷気を放つかのような冷たい表情で。

 この時点でデュアンナの予測は見事にハズれてしまい、慌てて交渉の軌道修正を行う必要性が生じてしまったのだが、彼女はそれを放棄した。今目の前にいるこの少年の素性や真意に、興味を持ってしまったのだ。


 ――魔力が一切無いから、君は捨てられたんだぞ。自我が目覚める思春期に、自分を全否定されたんだぞ、それも死刑だぞ、ポイ捨てなんだぞ。君は悔しくないのか!それに、日本では親が友人が心配してるだぞ。コンビニにファストフードに、マンガにゲームに片想い。何で帰りたいって言葉が出て来ない!――


 レイジに興味を持ちながらも、自分の内面でふつふつと湧いて来る「どうして?」の答えに辿り着けないデュアンナなのだが、この後に続くレイジの発言で完全に面食らってしまった。レイジは彼女が想像する以上に、この世界と真剣に向き合っていたのである。


「魔女の接吻、この儀式で別の世界の者を呼び出したとして、使えないからポイ捨てする事を考えれば……元の世界に送り返すのは無理と見た」

「レイジ?」

「もしくは、送り返す事は可能だが、儀式にかけるコストが莫大だから捨てるのかもな。どちらにしても命の値段が安い世界だってのは間違い無さそうだ」

「どうしたレイジ、急に冷静な分析を始めて」

「いや、正直なところ、前の世界に未練は無い。日本に戻りたいとは思っていないから、この世界で生きて行くしか無いよなって」


 懲罰大隊から入手した彼のデータが正しいならば、レイジ・トキ、土岐怜士は今十六歳だ。つまり十三歳の頃に魔女の接吻でこの世界へ強制転移させられ、その後すぐに懲罰大隊へ入れられている。この局面で十六歳の少年が、何故こんなに冷静でいられるのか、デュアンナは不思議でたまらないのだ。


「えっと……デュアンナ・オイホルスト少尉さん。ちょっと聞いても良いか?」

「ふふっ、デュアンナで良いよ。それで何だい?」

「ならば、デュアンナさん。この世界で魔力ってのはそんなに重要なのか?そして魔力が無くて捨てられた俺が、何故こんな所に呼び出されたんだ?」


 ――結果オーライかな。何とか初期の目的まで話を誘導出来そうだ――

 レイジ、君とは信頼関係を築きたいから本当の事を話す。嘘偽りの無い話をするから心して聞いてくれ。そして今後の身の振り方を決めてくれ。デュアンナはそう前置きして、レイジの質問に答え始めた。


 先ずは魔力について説明するよ。今君のいるトゥランヘイム王国だけでなく、この世界は魔力に満ちている。古い時代の魔導師が、この星の地殻を形成しながら常に対流している、液状鉱物の摩擦力によって魔力が発生すると発表しているも、それを証明するだけの科学力が無い事から、未だにそれは謎のままだ。だがこの世界では、無機物も有機物も大なり小なり魔力を秘めているのは確かではある。

 その大まかな種類は、元居た世界のロールプレイングゲームの設定のように分類分けされており「火、水、土、木、金」の陰陽道の五大元素と、聖属性(白魔力)と闇属性(黒魔力)に分類されている。

 魔力は人間や亜人やモンスターなどの生物の生活に、如実に影響をもたらすものであり、よって魔力を持たないと判断されてしまった君の存在が全否定されてしまったのは、客観的に見て仕方がないと言うのが私の見解だ。


「だが、魔力も無いのに、良く生き伸びていてくれたな。この出会いに感謝と言うのが、私の素直な感情だ」


 正直なところ、私も死刑寸前だったんだよ。……私の魔力は闇属性の土元素寄りでな、異世界転移者を政府系の各組織に振り分ける【謎の秘密組織】でも引き取り手が現れなくてな。


「そりゃあそうだろ?輝ける王国の将来を担う能力者に、死霊使いのネクロマンサーなんかいたら、気持ち悪くてしょうがないだろ」

「なるほどね、でもデュアンナさん……あんたは引き取り手が現れて、そしてこの世界で生きるための名前も授けられた」

「そうだな。珍しいものが大好きな捻くれ者貴族、オイホルスト家が私を引き取ってくれたんだ」


 デュアンナは毒気を一切排した爽やかな苦笑いでレイジに答えるも、再び表情を引き締めて背筋を伸ばす。


「レイジ、我々近衛騎士団軍務部警務課が何をやっているか話してやる。もし君がこの世界を恨んでいないなら、もし君がこの世界で生きて行こうと思っているなら、私について来い。退屈な日々を送らせない事は約束しよう」



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