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トゥランヘイム王国興亡記 〜勇者殺しの少年と亡国の泣き虫姫〜  作者: 振木岳人
◆ 特殊傭兵団シグニス・ブラザーズの章
28/29

28 被験体番号十六


「ちょ、超能力なのかい?」


 執務室から聞こえて来た素っ頓狂な声の主はデュアンナ。意を決して自分の秘密を吐露したレイジに対する第一声がそれだった。

 王都アーヘンにあるハデルムント公国領事館、その公国領事館に深夜突入する事が決定しているその日の午後、トゥランヘイム近衛騎士団本営にあるデュアンナの執務室において、レイジの秘密はどんどんと明かされて行った。


 ――この世界に強制的に転移させられ、いきなり懲罰大隊に入れられた原因については、この世界の言葉が理解出来るようになるまで全く分からなかった。つまりは一年近く何が何だか分からないまま戦場に身を置いていた事になる。だがその一年近くの間……無我夢中で生き残る事にのみ腐心している間に、ようやく自分の能力に気付いたのだと言う。


「空間を操る能力、そう言う力がいつの間にか備わっていたんだ」

「空間を操る能力と言われても、何かピンと来ないなあ。超能力と言えばもっとこう……」


 デュアンナがむず痒い表情をしているのも無理は無い。彼女が元いた世界で超能力と言えば、力を加えずにスプーンを曲げたり、封筒に入った紙切れに何が書かれているかを当てたりと、目に見えて何かしらの結果を残すものだろうと認識してからだーーそれもちょっと胡散臭いが、一般人がイメージするならその程度なのだ。

 ただ、元いた世界において超能力を定義するならば大きく二種類に分別される。人間の持つ知覚機関の能力を遥かに超える超感覚的知覚……つまり念話や透視などのESPと、意志の力で物体に物理的な影響をもたらす念力……PKと呼ばれるこの二種類だ。つまりはレイジが告白した空間を操る超能力とは、念力(PK)を使って空間に作用する能力だと推察されるのだが、空間と言うワードがあまりにも曖昧で、デュアンナも雲を掴むような表情のままだ。


  『空間を操る能力』

 レイジが言うには、漠然と目の前に広がる空間に対し、自分の脳裏に長方形を思い浮かべる。そしてその想像上の長方形を脳裏で動かすと、実際に目の前に広がる空間において、想像通りにその力が発揮されるのだそうだ。

 ――そんなの見えないじゃないか――

 デュアンナの素直なこの反応は、至極当然とも言えるのだが、だからこそレイジ本人が能力の発現になかなか気付けなかったのだとも言える。


「そう、見えないんだ。だから無意識のうちに力を発揮させている事があるかも知れない。それで大事な人々を傷つける訳にはいかないから、常に自分に言い聞かせたんだ。技の名前を言わないと、能力は発現しないとね」


 結局のところ現象の報告には至ったが、その技の名称を話してくれるまでには至らなかった。徹底的に自己催眠を行い、技名を口にしない限りは能力を発現しないと言う縛りを作った弊害なのかも知れなかったが、技名が子供じみた必殺技のようで、デュアンナに教えるのを恥ずかしがっていると言う誤解は解消した。

 ただ、これだけ自分の事を話してくれたレイジに対して、それでもまだデュアンナは解せないでいる。それはレイジが話した内容の信憑性に問題があるのではなく、レイジが話してくれたからこそ浮かび上がった新たな疑問である。


 ――能力が開花した事を実感したのは、こちらの世界に来て懲罰大隊に入れられて数ヶ月後の事。それまでは何の能力も無かった――

 この言質を本人から得た時の事、デュアンナは「そっか、それまでは何も無かったんだ」と気なしに口にした途端、彼女が震え上がるような過去の話を、レイジから告げられたのである。


「ああ、前にいた世界でも、俺は能力の無い出来損ないだった。被験体番号十六・強襲特化型と呼ばれてたけど失敗作らしくてね……結局は財団運営の児童養護施設に預けられたんだ」


 そう言いながら、自分の髪の毛を両手でかき分けて、頭皮に残る痛々しい手術痕を見せられたら、その情報に対する残酷な想像力が働き、さすがのデュアンナもギブアップ。深夜の作戦に参加する王国近衛騎士団王都防衛隊のべランシェ少尉が訪問して来た事で、レイジの過去話が棚上げになった事は不幸中の幸いであった。


 大陸歴 二千八百六十五年

 トゥランヘイム王朝歴 九百四十三年

 八の暦 二十三日


 手を伸ばせば掴めるのではないかと錯覚を起こすほどに、満天の星に照らされた王都ラーヘン。その街路を行く一台の魔装車がある。発動機に化石燃料を流して発火させ、その爆発力で動力を得る化石燃料車とは違い、炸裂魔法を込めた魔鉱石を燃料として発動機から動力を得る車の事である。

 四人乗りのその魔装車には、デュアンナの副官であるディーター・バルデン軍曹が運転手を務めており、後部座席にデュアンナとレイジが乗っている。

 魔装車の行き先はもちろんハデルムント公国領事館 ――いよいよ作戦が始まるのだ。


「……レイジ、ちょっと良い?」


 道すがらに並び立つ街路灯の明かりをに何度も何度も顔を撫でられながら、落ち着いた表情で彼女は少年に問い掛ける。


「うん?何だい」

「昼間の話に戻って申し訳ないが、この世界に来る前は児童養護施設にいたと言っていたね?」

「ああ、そうだ。それで間違いない」

「日本の……児童養護施設だよな?」

「うん?間違いないよ、俺は日本人だよ」


 ――そう、デュアンナが抱いた新たな疑問とは、土岐怜士は日本からやって来たが、別の世界線軸にあるデュアンナの知らない日本なのではないかと言う事。元々彼女自身が医療関係者であった事が起因し、レイジの過去に違和感を抱いていたのである。「日本の医療機関が人体実験など行うはずがない」と。


「じゃ、じゃあさ、テレビとかは見てたのかい?」

「テレビ?ああ、見てたよ。テレビさえ見させとけば、ガキどもは静かになるから楽だって、嫌な職員が言ってたくらいにね」

「それなら、アニメとか見てた?絵が動くやつ」

「絵が動くとか面白い事を言うね。俺は好きじゃなかったが、みんな見てたから必然的に俺も見た」


 デュアンナの顔に微かに安堵の色が浮かぶ。自分の知らない違う文化の日本ではなく、どうやら同じ日本らしいと


「それなら……レイジはエヴァンゲリオンとか見てた?」

「エヴァンゲリオン?エヴァなら金曜ロードショーで三部作見たよ」

「映画?三部作?違う違う!あれは一本三十分のテレビシリーズよ」

「違うよ、映画だったよ」

「何言ってんの、勘違いしてるんじゃないの?新世紀エヴァンゲリオンよ、ふしぎの海のナディアを手掛けた監督の作品よ!」

「そうだよエヴァンゲリオンで間違いないよ。あのゴジラとかウルトラマンの映画の監督だろ?」


 ……えっ?

 ……えっ?


 同じ世界線軸の出身であろうデュアンナとレイジだが、どうやら時間軸は違うようであった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 最新話まで追いつきました! レイジくんの転生前の壮絶な過去がほんの少し覗けました。懲罰大隊もさることながら転生前も過酷そうですね(|| ゜Д゜) そんな中、デュアンナさんとレイジくんの姉弟…
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