休2 ゲーマー、気まずい
……よし。思い出す限りただ隣で寝た以外に何もない。ほとんど下着姿で同じ布団でぐーすか寝ていたという行間はこの際置いておく。
しかし、昨日あれだけ周回して打ち解けて、あぁやっぱり勝蔵長可さんの技巧だ~と感心したり、中の人はこんなにイキイキしてるんだと新鮮な気持ちになったり、それはともかくやっぱり彼(女)と遊ぶのは楽しいと心底思って、ゲーマー同士で心が通じ合った気がしたというのに、ひとたび寝て起きるとこの生々しい現実感……
……
………
…………
いや、マジでか。マジで俺、こんな普通に可愛い女の子とこんな危うい格好で添い寝したのか……
ベッドの脇には二人分の簡易着が無造作に投げ捨てられている。あれ、現実だと肌触りがチクチクして着心地微妙だったからな。二人とも寝ながら無意識に脱ぎ捨てたんだろう。
……………
受け入れ難い。
このような美味しすぎるシチュエーションを完全にゲーマーのテンションからの限界寝落ちで粗末に見過ごした上、起きた途端にビビって飛び起きてその余韻を堪能できなかった自分の肝の小ささときたら……
いや、何にしても、とにかく間違いがなくて良かった。彼女との関係に禍根を残すようなことはあってはならない。部屋に招き入れ、布団まで半分貸してくれた彼女の信頼を裏切ることだけはしたくない。
とは言えこれからどうしたものか。とりあえず服は着るとして、さすがに彼女を置いて出ていくワケにも……
と、考えながら装備を冒険装束に整えていると
「……ん」
武器類の金属音に気が付いたのか、カツゾウが目を擦りながら上体を起こす。
当然、極めて無防備なキャミソール姿のままで、何なら肩紐が片方落ちていて
「……あ、えっと ……御崎さん、おはようございます」
「お おはようございます」
と、寝ぼけ眼ではあるが礼儀正しく挨拶してくれたのでとりあえず返すが、さすがに姿を直視できないので不自然に顔を逸らす格好になり、目が冴えて俺のよそよそしさに気付いたのか自分の格好を見下ろした彼女はそのまま一瞬フリーズし
「ナァああああああああ!!!??!?」
普通に悲鳴を上げた。
あぁこれ、宿屋の職員とか出てくるんじゃなかろうか。いやでも、誓って何もしていない。後ろめたいことはしてない……そもそも添い寝がアウトか?でも邪なことはしていないから、自然体でいよう。それでも責められたとしたら、もう甘んじて受けよう。
………
結局職員は来なかったが、顔を真っ赤にしてすっかり無言になってしまったカツゾウと無言で身支度をして部屋を後にし、無言で朝食というか既に昼食を摂り、無言で宿を出た。
とりあえず一連の流れで逃げられも殴られもしなかったので、顔も合わせたくないほど嫌われている訳ではなさそうだ。
「あの」
意を決して声をかける。
カツゾウは分かりやすくビクッと肩を揺らす。
「今朝はその、寝床を貸して頂いてありがとうございました おかげで疲れはしっかり取れました」
もっとも、心身リフレッシュの代償としては重い悶々がのしかかったが。
「……そ、それはどうも」
「……」
酔った勢いで行くところまで行ってしまった男女の翌朝か???
「あの、誓って何もしてないです これは信じてください」
言うとカツゾウは顔を真っ赤にして俯くが
「……昨日、嬉しかったです」
唐突にそう言った。
「いきなりこんな変なことになって、事情の分かる人に会えると思ったらそれがオウルさんで……オウルさん、NSVできっと私のこと男だって思ってたから、女だったら前みたいには接してくれないかと思って」
確かに、そこそこ見知った男友達くらいに思っていた戦友の中の人のビジュアルが想定と余りに違って驚きも戸惑いもした。今だって彼女の中の人像については完全に気持ちの整理がついているわけではない。
「でも一緒に丁1D回り始めてから、前みたいに普通に接してくれて、私楽しくて安心して……」
それは俺も同じだ。姿や声が変わっても、カツゾウは俺の知っている勝蔵長可だった。そのことにどれだけ安堵して、彼女との周回がどれだけ楽しかったか。
「御崎さんは変なことする人じゃないって分かってます ……ただ、ちょっと…………その……恥ずかしいのは恥ずかしかったので、気持ちを落ち着ける時間がほしいです……」
「それは……できれば俺も……」
やはり未だに彼女の顔は直視できない。
「…………それと、もし良かったら私とパーティー組みませんか」
「え?……あ、はい」
唐突な誘いだが、こちらからすれば願ってもない。
カツゾウは俺を「変なことする人じゃない」と言ってくれたが、それは彼女も同じだ。彼女の人となり、その根っこの部分を何となく知っているからこそ信用できる。しかも彼女は気心や人としての信用ではどうにもならない戦力としての頼もしさも一級品だ。「オウルと並び立つために腕を磨いた」とこの上なく嬉しいことを言ってくれたが、俺も俺で「勝蔵長可という好敵手がいたからこそ今の自分の技術がある」と思っている。
…………結婚じゃね?
…………なんて冗談だが、彼女は今の俺にとって男女であることで気を遣う要素を除けばこれ以上ないくらいこちらの希望を兼ね備えた存在だ。
是非ともパートナーにほしい。
「……じゃあその、立ち話も何ですし、昨日登録したギルドのカード受け取りついでにパーティー登録に行きましょうか」
「はいっ」
未だ二人は目も合わせられないが、それでもカツゾウの心なしか上機嫌に跳ねるような相槌に、なるだけ平静を保とうとしていたミツカもやっとこ人心地つくのだった。




