宇宙探査に出発した当日に告白する奴
「あのさ……イザベラに大切な話があるんだ……その、こうして憧れの宇宙に来れたのは、本当に君のおかげというか……訓練の成績が伸び悩んでいた俺を、君が何度も笑顔で優しく励まして……応援してくれたからこそ頑張ってこれた……つまり、君がいるから今の俺があるわけで……だから……その……俺とっ……」
「ちょっと待って、アラン! 何を言いたいのかは全然分からないのだけど、私達のミッションは今日始まったばかりよね? 地球への帰還までは、少なく見積もっても1年は掛かる予定でしょ? だから物事をあまり焦る必要はないと思うの。もちろんあなたがどんなことを伝えようとしているか見当もつかないけれど、もし今後の任務に支障をきたしたら困るでしょう?」
「あっ……ああ……そうか……そうだよな……俺、無事に打ち上げが成功して、気が昂って……なんだか、動転しちゃったみたいだ……ごめん……全然、気にしなくていいから……忘れてくれ……」
しょんぼりと肩を落として去っていくアランとその姿を目で追いながら溜息をつくイザベラ。
さらに一部始終を遠くから見守っていた他のクルーと、ほんの少し遅れて届いた音声情報が流れている地球のミッションコントロールセンターには気まずく重たい空気が流れていました。
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あああああ!! 何て馬鹿なことをしでかしたんだ!! せっかく大好きなイザベラと念願の宇宙に来れたのに!! 馬鹿っ!! 俺の大馬鹿野郎っ!!! ……でも……彼女のせいでもあるよな? 遠くに離れていく地球を見つめながら「アラン……これから、私達のミッションが始まるのね」なんて屈託のない笑みを浮かべて声を掛けられたら、なんかもう抑えられなくなるだろ、普通!! 今までの厳しい訓練のこととか、試験前に遅くまで練習に付き合ってもらったこととか、走馬灯のように懐かしい思い出が駆け巡って、気付いたら告白していた……。
誰がどう考えてもフラれたってことだよな、あれは。気を遣って分からない振りをしてくれてたけど、バレバレだっただろうし。その気があるならわざわざ途中で遮る必要もないはず。断った後、互いに気まずくならないようにって釘を刺されたんだ。
はぁぁぁ……大丈夫だ……きっと……一ヶ月……いや、半年ぐらいあれば少しずつ気持ちを切り替えられる……はずだ…………くぅっ……。
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きっと今頃振られたと勘違いして落ち込んでいるんでしょうね。あの眉の下がった情けない顔も庇護欲をそそられるし、地頭はいいのに衝動的にバカをやってしまうところも可愛くて好きなんだけど……今回の告白だけはダメ。
だって、これから一年間耐えられるわけがないもの。きっとアランは、まだ一連の告白未遂が他の乗組員にも、地上のスタッフにも筒抜けだったことに気付く余裕もないんでしょうけど。こんな状況で両想いだと判明したところで、ただの生殺しじゃない!
アランは意外と根性あるし、いろいろ耐えられるのかもしれないけど、私は我慢できる自信ないし。そもそも、もっと前にいくらでもチャンスあったじゃない! 今回の搭乗メンバーに二人揃って選抜されたときは、いくらあのアランでも絶対告ってくると期待してたのに……。
でも、きっと彼のことだから、これから半年ぐらい落ち込んでいそうね……私の理性、本当に地球に帰るまで持つのかしら……?
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それから3日後、しょんぼりアランを前にイザベラの理性が限界を迎えただけでなく、いたたまれなくなったクルー達のバックアップもあり、彼女からの逆告白が行われました。おそらく史上初となる地球外でのカップル成立は各国のニュースで大々的に報道され、大いに祝福されました。
……ちなみにイザベラが懸念していた問題も、管制室との協議の結果、時々二人のどちらかの個室において、定期的に数十分~数時間に亘る原因不明の通信障害とドアロックが起きることで解決したそうです。