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27、たのしい魔王城

 つい先日、今年の休暇取得日数を確認してしまったら1.5日しか取得していないことに気づきやるせない気持ちになった男、藤山です。

 ここ最近の勤務状況がよく分からないが悪化しているのを体で感じている。明日の朝も早い、今日は少し早く寝ることにしよう。



    就寝


 私の職業は掃除人、別にヤッちゃう方ではなく施設や設備を清潔に保つ方の掃除人だ。

今日は、特殊な依頼とのことでバスを乗り継ぎ、一見何もなさそうな山奥までやって来た。私を運んだバスが動き出し道の先に消えた。バスを見送った後、停留場の看板を念のために確認する。


   [魔王城]


よし、ここで間違いなさそうだ

私は、魔王城という禍々しいワードを特に気にすることはなく、停留場からまっすぐ伸びた舗装道路を歩く、見たところのどかな農村のようだ、山の麓に切り開かれた場所には田んぼ、畑、それにゴッテンタグズの果樹園が並んでいる。そして、そこで働く人、牛頭、馬頭、羊頭、狗頭、などの者たちは額に汗を浮かべながら賢明に働いているようだった。

 三十分程歩いただろうか、のどかな農村を抜け大木並ぶ樹林を抜けた先にそれはあった。黒一色の外壁を持ち、禍々しくそびえ立つ魔王城。

なんだかRPGゲームの勇者の気持ちが分かる気がする、純粋な観光なら魔王城の禍々しい出で立ちにある種の感動を覚えたかもしれないが、今回は仕事である。魔王城のどの部分をどのくらいの規模でどれだけの期間で掃除しなければならないかと考えると…というか私一人で掃除するの無理なんじゃね?

そんなことを考えながら突っ立っていたせいだろうか、銀色のフルプレートアーマーを着込んだ兵士さんが私の横に並んでいた。

えっいつの間に来たんですか?怖い!

私が兵士を見ると、兵士もこちらに顔を向け、

  「我が主の城に如何様のご用向で?」

低く唸るような古風喋りに気圧されて、私は少し上ずった声で、

  「お忙しいところ失礼します!私は清掃会社の藤

   山という者です!」

アイサツと同時に、90度お辞儀を繰り出し、合わせて名刺を素早く差し出す。兵士は名刺を受け取ると中身を確認した。

  「失礼いたしました、お話確かに伝え聞いており

   ます。」

今度は兵士が仰々しく兵士の礼?みたいなことをすると、魔王城へ案内してくれるそうだ。

 兵士の後について行き、水堀の上に掛けられた跳ね上げ橋を渡る。兵士は言葉こそ古風な物言いながらも、魔王城の各施設について聞いてもいないのに丁寧に説明してくれた。私も趣味で日本の城ついてなら多少の知識もあるのだが、西洋風な作りの魔王城に備え付けられている橋は日本では見たことがないタイプだったため、兵士が説明する横で仕事のことを忘れ聞き入ってしまった。ちなみに夜9時から翌朝5時までは跳ね上げてあると兵士が言っていた。

 そんなこんなで、魔王城の各所で説明を受けながら移動したため、魔王様の居る謁見の間に行くのにとてつもない時間を要してしまった。朝ついたけどもう昼ごろな気がする。

 兵士と共に謁見の間に入る、兵士曰く入るときに礼儀作法が色々あるらしいのだが、今回は全部兵士がやってくれた。

 謁見の間の中は、入り口からまっすぐ真紅の絨毯が引かれており、続く先には豪華絢爛な椅子というか玉座があった。他にも左右に案内してくれた兵士と同じ装備の方々がずらっと並んでいる。一見したところ魔王様はいないがきっと後から来るのだろう、私は兵士に案内されるまま、絨毯の上に一歩踏み出す。

 ゔ!?これは…

一歩踏み出してみて分かった。まず、この絨毯は非常に高級品である、物凄く柔らかい、ふかふかしている。そして、よくよく確認すると丁寧に清掃され、絨毯の毛が綺麗に立たせてある。ニ歩目を踏み出し、ちらりと自分の一歩目の足跡を確認する。

 あわわわ…

絨毯にはしっかりと足跡が付き、さらに土や泥様の物がくっきりと残っていた。そりゃあ、停留場から農村を抜け、樹林を通ってやって来れば靴に泥のひとつやふたつやみっつや…とにかく付くよ、そしてこんな高給絨毯に乗れば、ご覧の有様だよ!掃除に来たのに自ら仕事を増やすとか…もう…ねぇ…。と思いつつも順調に絨毯を汚しながら、玉座前の階段下にまで進むと玉座がまばゆい光に包まれた。

 「魔王様の御成りである!」

誰が言ったかわからないが、とりあえずその場で平伏する。

 「面を上げよ」

壮年の男性の様な渋い声に従い面を上げると、玉座には、松○健が黒い衣装に包まれ鎮座なさっていた。

 「本日は余の求めに馳せ参じてくれたこと、誠大儀

  であった」

来るだけで褒められるって、この人は神様かな?いや、魔王様だ。

 「時間が惜しい、そちに申し渡す仕事についてだ

  が…魔王城の煙突を掃除してもらう」

松平…いや、魔王様は立ち上がると右腕を上げ、

 「なお、我が城の煙突掃除は慣例として、命綱の使

  用は認められておらぬ!」

悪魔かな?いや、魔王だったわ。

 「報酬は既にそちの会社に先払いしておるゆえ、使

  命を見事果たすことを期待しておるぞ」

魔王は言いたいことだけ言うと、高笑いしながら消えていった。

 私はあまりのことに呆然としていると、あれよあれよと言う間に、辺りを見渡せる煙突の上に立っていた。

幸い風もなく吹き飛ばされる心配は無いが、魔王の宣言通り命綱はなく、手に一枚の雑巾がいつの間にか握られていた。

 これだけでやれと…

覚悟を決め、その場で屈んだ次の瞬間、突風が吹いた。

 あっ落ちた

と思ったときには、私は会社のデスクに座っていた。



 起床


 目が覚める。辺りを見渡し、自室であることを確認した私は、会社に行くため準備をする。洗面台で歯を磨きながら私は、松平○が魔王役は起用ミスだよなぁと思った。



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