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21、たのしい始末人Ⅱ

 前回までのあらすじ

 会社で時間外勤務中に寝落ちした男、藤山は人を殺して生計を立てる職業「始末人」になる夢を見る。その後、目覚めた藤山は仕事に関しては正直いろいろとあきらめ二度寝を始めた。



就寝


 「やめてくれ!命だけは…」

対象が命乞いをしている、別段珍しいことではない。きっと私も誰かに始末されそうになれば命乞いをすると思うし、みっともなくお小水でも漏らしながら這いずってでもその場から逃げようとするだろう。しかし、それだけだ。右手に持っていたナイフを対象に向ける。

 本日の仕事も現状無事に終わった。後はいつも通り対象の首を…そう言えば利き手で良くなったのか、対象の両腕を掴み上げて比較すると右腕の筋肉のつき方が左腕よりも良いように見えた。私は先ほどのナイフとは別の刀身がそれなりの厚みと重さ長さのあるナイフで対象の右手を力任せに押し切る。ふむ…首よりも小さいし持ち運びも楽だ、よくよく考えれば毎度仕事の完了報告で対象の首を持ってこられてもいろいろ困りそうだし、戦国時代よろしくさらし首にするならまだしも現代でそんなことをすれば事件としてニュースになるだろう、普段滅茶苦茶な依頼をしてくる組織も多少は考えてくれているのだろうか…

 「フッ」

そんな風に考えた自分をおかしく思い少し声が出る、組織が始末人のことを考える?そんなわけがない組織の都合とたまたま始末人の都合があっただけに違いない、私はいつも通り対象の物を風呂敷に包み、報告用の土産が出来上がった。

 仕事の経過報告をして3時間後、ようやく組織の「G」から連絡がきた。遅い、遅すぎる、過去に仕事で関わった組織の人間は2人いるが、そのどちらも連絡後10分以内には受け渡し場所を指定し、その後完了報告を行う流れだったが…3時間放置って…こんな仕事じゃなくても普通にまずいんじゃないか?「K」が言っていた「G」はクズの「G」と言うのは本当かもしれない。しかも、報告場所もどこかの個室や人の滅多に来ない路地裏や地下街の隅ではなく、何故か始末場所近くのパチンコ店の立体駐車場の屋上とある、行くのやめようかな…

 連絡を受けてから20分後、私は指定されたパチンコ屋の立体駐車場屋上へ来ていた。報告に行かなければただ働きになる、そんなこと御免だ。そして問題の「G」は居た、一見して30代から40代くらいで黒髪をオールバックにして、厚手の白色コートを着用し、黒色の革靴を履いた男が自らの存在を強く示すように突っ立ている。立体駐車場の屋上には他に車もないため余計に存在感を放っているが、いくらなんでも目立ちすぎる…こんなところで報告して誰かに見られでもしたらどうするつもりなのだろうか。とりあえず私は男に向って歩いていき、組織で指定されているハンドサインで報告に来たことを伝えると、

 「おう!よく来たな始末人さん!さっそく報告を聞こうかぁ!」

声がでかい、無茶苦茶でかい、こいつ本当にこの仕事のことわかっているのか?ばれたら終わりだ…もう、帰りたい。しかし、ただ働きは絶対に御免だ。私はその場から立ち去りたい気持ちを抑えつつ、持ってきた手土産を投げ渡す、少し「G」は怪訝な顔をするが渡された風呂敷を広げて中身を確認する。

 「おいおい、手首ってどういうことだよ!首じゃねーのかい?なめてんのか?」

何故かいきなり怒鳴りつけられる、私は声を潜めて、

 「前任者の「K」から土産の内容は変わったと聞いたが…」

すると私の言葉を聞いて何か思い出したのか、「G」は私と同じように懐から何やらA4用紙を取り出し、どうやら内容を確認しているようだった。しばらくして、

 「あ、わりぃ、わりぃ少し前から報告物については手首に替わったんだな!」

解決してくれたのは結構だが、声がでかい、そんな大きな声で「手首」とか言ってくれるな…聞かれたら本当どうするんだよ、

 「報告は済んだ、では、これで…」

とりあえずここでやるべきことは済んだはずなので、さっさとこの場を離れよう、こんな奴と一緒だといくら命があっても足りなさそうだ。私はその場から逃げるように立ち去ろうとするが、

 「おい、せっかく仕事も終わったんだ、一杯付き合えよ」

 「いえ、結構」

この男、「K」の説明通りクズかもしれない、土産を持った状態で「一杯付き合えだと?」正気ではない私も正気の人間ではない自覚はあるが、「G」の方はさらに狂気かまたは考えなしのクズだろう、私は「G」の誘いを雑に流し、今度こそ屋上駐車場を後にした。

 築何十年の古めかしい団地の部屋へと帰宅する。ここはいくつかある拠点の一つだ、どうやら昔はベットタウンとして栄え多くの人間が住んでいたようだが、今ではすっかり寂れ果て、生活保護受給者や母子家庭、はたまた異国の人間が住む混沌とした場所になっている。私はその団地の中の1階の角部屋を偽装した名義で契約している、もちろん他にもまともな拠点を用意はしているが、早く眠りたいのもあり一番近いここを選んだ。道中で買ったペットボトルのお茶の蓋を開けようとしたところで、インターホンの音が部屋の中に鳴り響いたが、時間は午前2時をとうに回っている…まともな来客でないことは間違いないだろう。私は音を立てず玄関の方を見つめる、再びインターホンが鳴る、そして間を開けて再度インターホンが鳴らされる。

 (厄介ごとしか考えられない…)

一瞬ベランダからの逃走を考えるが、作りの古いこの団地の扉は古き良き分厚く重い鉄製の扉なこともあり、とりあえず来訪者の容姿だけ確認しようと扉のドアスコープを覗くと、

 「G」が居た

何故ここに…後をつけられたのか、とにもかくにも間違いなく厄介事に違いない、私は玄関の靴を手に取り音を殺してベランダへ向かうが、

 ガチャリ

鍵の外れる音がして、次に扉の開く音がして、さらに「G」が部屋に入ってくる、

 「ふぅ、いるなら開けてくれたっていいじゃねーか」

流石の「G」も集合住宅の深夜帯では先ほどよりは声量を抑えたうえで私に文句を言う、なお、文句を言いたいのはこちらだが…不法侵入なんだけど!?

 「何しに来た?」

 「いやぁ、途中でへまやらかしちゃって…ちょっとここに隠れさせてもらいたいんだよぉ」

 「お帰りください」

厄介事の中でも非常にまずいヤツだ、「G」は何かをやらかして誰かに追われている、そうは言わないがそうでなくては隠れる必要が無い、私の落ち度はドアチェーンをかけ忘れたことだ…非常にまずい、「G」は靴を脱ぎ知り合いの家に上がり込む友人のように部屋へ上がろうとする、

 「入るな、そこに居ろ」

とにかく今は「G」と距離を取らなければ、追手がいるとすれば玄関方面に来ていると考えるのが妥当だ、ならば予定通りベランダから逃げるしかない、「G」を玄関に止めさせ、ベランダへ向かうが、

 「ドーモコンバンワ、キンジョノ、モノナンデスガ」

片言の日本語をしゃべる黒人がベランダの掃き出し窓を開けた状態でベランダに立っている…どこのどいつか知らないが、異国人だろうとこんな時間に他人の部屋に侵入するような習慣のある国は知らない。窓もよく見ると鍵部分のガラスを壊して鍵を開けたようだ…

 「こんな夜更けにどんな御用ですか」

とりあえず私は努めて冷静に、謎の黒人に質問する、もちろん隙を見つけて逃げるためだ。

 「ワタシ、ヒトサガシテル、サガシテルノオトコ」

 「私の事を探しているんですか?」

 「オマエ、チガウ、」

 「そうですか、私は今から仕事に出掛けるところなんですよ」

 「オシゴト、タイヘン、デモ、マテ」

黒人はベランダに立ったまま動かない、私でなくても本来こんな時間に謎の黒人が来れば真っ先に玄関へ逃げ出すが、今は「G」がいるためそういうわけにもいかない。しばしの沈黙の後、私の後ろから誰かが来た。

 「えっと、こんな夜中にどうしてベランダに人が…」

後ろにいるため姿は見えないが声からして「K」だと思われた、どうしてここに…いや、先日の「K」の動きを見る限り、「私どこにでも現れることできるんです」と言われても、信じてしまうかもしれない、そんな私の考えを他所に、「K」と思われる人物は、若干震えたような声で、

 「け、警察を呼びますよ!今すぐ出ていってください!」

 「チョット、ソレハ、コマルヨ」

黒人は「困る」と言いながらベランダから部屋の中に入ってくる。私は身構えるが、黒人はその場で急にうつ伏せに倒れた。そしてその後ろには人が…男が立っていた。

 「周辺の殲滅は終了しました」

男は事務的に状況を説明するが、私はこの男を知っている。白髪頭の白色のカイゼル髭のこの男は私が組織と関わり始めた時の組織の担当者だ。

 「すまない、助かった」

 「契約に含まれていますからね」

感謝の言葉を伝えると男は、特に顔色を変えずに私の横を通り抜け玄関へ向かう、

 「知り合いだったの?」

振り向くと「K」が立っていたが、どういう理屈なのか顔は先日あった時と同じくよく見えない、

 「最初の担当者だった」

 「今の呼称は「J」になっているわ」

そんなやり取りをしていると玄関の方で鈍い音が響き、「G」を担いだ「J」が戻ってくる。「G」は気絶しているのかピクリとも動かない、

 「では、「K」も戻りましょう」

 「はい、ではまた後日、今回の埋め合わせについて組織から連絡しますので…」

そう言って2人はベランダから出ていった。部屋に残ったのは気絶している謎の黒人…とりあえず私は番号ごと捨てる予定の携帯電話を使い非通知で110番通報し部屋の中にある、私につながるような証拠を消して部屋を去った。道中、いろいろ考えはしたがとにかく疲れた…寝たい。



起床


 夢の中で寝たいと言いながら起きると、まったく寝た気がしない…時計を確認すると午前6時だった。とりあえず私は今見た夢についてデスクの適当な用紙にメモを取る、中々に壮大な夢だったが、夢の中でも私が碌な目にあっていない、寝たはずだが疲れが取れていないどころか寝る前より間違いなく疲れている。これが夢のせいなのか、または寝ていたソファーが悪いのかは今の寝起きでフラフラする頭で答えを出すことを私はできなかった。




・とにかく起きた時の疲れ度はここ最近ではこの夢がダントツです

・「J」はどこかで見たことのあるような、紳士そうなおじ様に見えました。 

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