20、たのしい始末人Ⅰ
皆さんお元気でしょうか、最近体の調子がおかしい藤山です。ここ最近、肩と腰が主に痛くなってきた。温泉に行きたいと贅沢は言わないが、スーパー銭湯くらいでゆっくりしたい。…が休みは取れないし今週も楽しく休日出勤だ。次休みがとれるようなことがあれば浸かりに行きたいなぁと思いつつ私は目の前の案件処理に注力する。
就寝
私は始末人という仕事で生計を立てている。始末人とは人を殺して金銭をもらう職業だ。少なくとも始末人として働いていた私は現実の私と違い、髪は白髪又は銀髪の短髪になり体は骨格から細いような、しかし、筋肉はつくべきところについている細マッチョのイケメンになっていた。
私は仕事あと手土産を持ち、ある市内の廃れたビル街の中でもさらに廃れ切ったビルの中へと入る、電気は通っておりエレベーターも設置されているが、あえて使わず階段を利用して最上階まで昇り、目の前にある表札の無いドアを2回叩く。それから数秒ほど間を開けて再び4回連続で扉を叩く。するとカチリと音がしてドアの鍵が開いた。私は特に周囲を気にすることもなく扉を開け中に入り閉める、中は真っ暗だが明かりをつけることもなく廊下を奥へ進む、廊下先に設置されている扉を無造作に開けると女性が立っていた。
「仕事が終わった」
「では、証拠を…」
私は女性と短い言葉を交わし、家具も何も一切置かれていない部屋のフローリングの上に手土産…私が左手に持っていた風呂敷に包まれた物を無造作に置く、風呂敷に包まれたそれはゴトッと音がした。その音から包まれた物が軽くはないことが伺えるだろう、女性が風呂敷を紐解き中身を確認し始める。中身の物を見た女性はポケットからスマートフォンを取り出し画面と私の手土産を交互に見比べる。しばらくしてようやく確認が終わったのか顔をこちらに向け、
「確かに…」
「では、これで」
これにて仕事も終わったことから私は部屋を後にしようとしたところ、
「ちょっと待って」
女性から突如呼び止められる、普段の仕事の流れと違うため私は少し身構えながら振り返る、さきほどまで女性は風呂敷の中身を確認するためかがんだ状態であったが、いつのまにか物は風呂敷に包まれ、女性はどこから出したのか木製の背もたれの無い椅子に腰かけていた。
(一体どこから…)
疑問には思いながらも女性の次の言葉を待つ、部屋は暗く女性の容姿はよく見えないが女性が私を見つめていることは分かった。
「少し今後の仕事手順が変わるのでお伝えします」
女性の説明をまとめると、
・仕事の連絡方法について変更点はないこと
・これからは担当者にそれぞれ呼称が付くため覚えること
・今後、手土産については対象の首でなく利き手に変更となること
・利き手の調査、指示については組織側から仕事の発注時に合わせて連絡すること
以上だった。特に話の内容は私の今後の仕事に不利になる内容ではなく、どちらかといえばやりやすくなるように思える、
「ということで私の呼称は以降「K」としますのでよろしく」
「ああ、今度とも」
女性改めて「K」はそう言ったが、私は先ほどの「K」の説明について何か落とし穴が無いか考えていたため適当に受け流す。
「では、これで」
もう「K」の話も終わりだろう、私は再度部屋を後にしようと向き直ろうとしたところ、
「ちょっと、まだ話は終わってないわ」
向き直った先に「K」が移動していた。
(もう、こいつが仕事すればいいんじゃないかな…)
音もなく目にも止まらない移動を行う「K」に身構えながら内心嫌味を思うが、どうやら「K」はまだ連絡事項があるようで私が勝手に帰ろうとすれば回り込んでも仕方ない、
「それで、話とは」
「K」に尋ねる、「K」は先ほどと同じように話を始める、曰く、
・担当は次回から「G」という男に替わること
・しかし、この男はゴミ人間であること
・担当したすべての始末人が死亡または行方不明になっていること
・組織として現在調査中であるということ
というものであった。さらに続けて、
「組織として始末人の減少は防ぐべき事態だし、組織はあなたを買っているわ」
「それはありがたい話だ」
「K」の言葉を四角四面に受け取るつもりは毛頭ないが、話を聞く限り始末人の減少は組織として憂慮すべき問題なのだろう、しかし…
「ならば、「G」には私以外の始末人に担当にしてほしいものだ、リスク増加はごめんだからな」
問題点について追及してみる、話をまとめてかみ砕いて考えると、組織として始末人が減るのは困るが私くらいの始末人なら減ったところで影響はないと思っている可能性がある、私個人など組織がその気になればトカゲのしっぽ切りが如く捨てるのはたやすいかもしれないが、私はそれでは困る、最悪切られたとしても殺されたりするのは御免被りたいところだ。
「あなたにリスクがあることは組織も承知しています」
「では、担当は別にしてくれ」
「「G」が担当中は報酬は倍にします」
「命あっての物種なんだが…」
若干「K」と言葉のキャッチボールを交わすがお互いの意見はすれ違いを見せる、もともと組織に雇われる際、その仕事の内容や報酬については詰めてあるため後からもめることは滅多にない、しかし、今回は組織側の都合で私のリスクが高くなるため、組織側もある程度は譲歩してもらわないと困る、もちろん程度はわきまえなければならないが…その後も「K」と交渉を続ける。
「それでは「G」が担当中は報酬は1.3倍ということでよろしいですか」
「あと、さっきの通り期間も3か月間にしてくれ」
「…わかりました。それで妥協しましょう」
結局数分の交渉の末、
・「G」が担当中の仕事は報酬を1.3倍にすること
・「G」の担当期間を3か月にすること
・もし「G」が始末人に対し危害等加えることがあれば始末人を組織が支援又は保護する
という形になった。正直もうちょっとふっかけることもできるとは思うが、後で手痛いしっぺ返しを食らうのも面倒だ。ここら辺が組織にも恩を売れて私の懐も普段より多少温まるところだろう。「K」はポケットから契約書を取り出し先ほどの内容を記載したうえで私に手渡す、受け取り私も同意の旨を記載する。
「これで契約成立ということで」
「間違いなく」
約束、仕事上で言えば契約は始末人という職業でも重宝される。始末人は必ず組織と契約をするし、組織も契約を結ぶようにしている、これにより組織が契約を反故にすれば、始末人はその事実は同業の始末人に広まる、組織もそれをわかっているから契約したことは基本反故にはしない、これによりお互いを対等に契約できるというのが一般的なルールだ。もちろん抜け穴はいくらでもある。
「K」は契約書を丁寧にたたみポケットにしまいながら、
「契約後であれですが、この内容で本当によかったのですか」
「契約したのですから気にする必要はありませんよ」
「ありがとうございます。とにかく「G」には注意してください、こちらも早急に排除に努めます」
「期待しないで待ちます」
今度こそ私は部屋を後にする、こんな仕事をしていると例え契約相手だろうと信じてはいけないものだが、「K」から受けた感謝の言葉はなんとなく私の心にしみわたった。さぁとにかくに帰って寝よう。
起床
体が重い…また、机で寝てしまったようだ。時計を見ると概ね午前2時30分になろうとしていた。たしか、仕事は終わったが家に帰る気力がわかず会社で一泊しようとしたんだっけ…と思いながら私は寝る場所をソファーに替え再び眠りについた。
・白髪or銀髪で短髪で細マッチョな人物だと東京〇種の金〇研くんが思い浮かびましたが、実際に確認してみると似ても似つかなかったです。
・女性こと「K」は覚えでは真っ暗で姿形は確認でるのですが、容姿は記載のとおりまったく確認できませんでした。