~結婚する為に世界征服しますか~
24歳,アラサーも近づきチラホラとおっさんと呼ばれ始めるようになった年の秋
妻が死んだ
足の悪いお年寄りが横断歩道を渡り切るのを待っていた所後ろの車に追突されたらしい。
警察から連絡を受け病院に駆け付けるまでの間あまりに突然の事過ぎて信じられなかった。
しかし今、目の前の集中治療室のベッドに横たわってる女性は紛れもなく俺の嫁だ。
「旦那さんですね この度はご愁傷様です心よりお悔やみ申し上げます。」
「事故の経緯といたしましては後続車の前方不注意また――」
話が入ってこなかった。
どうにかして冷静に現実を受け止めようとするも
目の前の苦しそうな顔をしながら眠っている彼女を見てまだ思考が定まらなかった。
「事故の過失割合については――」「保険会社に連絡を取ってもらい――」
俺の性だ、あんなしょうもない連絡をしなければ――
今頃、、、こんな事には、、、
「事故現場にて救命を行っていただいた方から奥様からの遺言を――」
「今、なんと?妻は!妻は最後になんと!」
「旦那さんに一言『ごめんね』とだけ...」
その瞬間涙と共に今までの思い出が溢れ出した。
『今年もそろそろ年末だね...』
とコタツに入りながら呟く昨日の姿
『あんまり他の人の事ジロジロ見るの禁止!』
と一緒に海に行ったときに不機嫌そうに僕の事を睨んでいる姿
『綺麗だねー!』
と楽しそうにキラキラとした眼で桜を見る姿
そして
『また来年も...一緒に年を越そうね!』
と初詣の帰り少し恥ずかしそうに上目遣いで僕の事を見ていた姿
今までの輝かしい思い出からの充実感ともう二度と見れないという消失感の落差が同時に襲い
これは紛れもない現実なんだという事実が心に重圧としてのしかかる。
「謝るのは僕の方だ...ごめんね...」
人目も憚らず懺悔の言葉をもらす。
その余りにも痛々しい姿に
「では詳しい話は保険会社の方へとまた後日報告の為ご連絡させていただきます。」
周りの人たちも空気を読みその場は解散する事となった――
病院側のご厚意で少しの間だけ二人きりにさせてもらえる様になった
「そうだ今日こんな事があってさ――」「来週行く予定だったあそこキャンセルしなきゃ――」
誰も居なくなり静かになった部屋で話しかけるように独り言をそっと呟き続け
ようやく心の整理も付き
「じゃあ先に帰るね」
そうつぶやいた時だった。