第4話 「北条 巴 孤高の追跡者」 <前編>
「どうかね、私の配下の腕前は。少々強引ではあったが、問題あるまい?」
「全くもって問題はありませんよMrザインバーグ。これで随分と政局に風通しが良くなった。感謝しております」
「それは言葉でなく態度で示して欲しいですな。Mr金剛。パライソ計画における日本の優秀な技術提供の件、くれぐれも頼みますよ」
「それは勿論。ご期待に副える様配慮致します。では又後ほど」
「ふん。甘いわねぇ…。皇 ウメはまだ生きてるって言うのに」
「何者だお前は! どこから入ってきた!」
「私? そうね。今は北条 巴とでも名乗っておきましょうか。お・じ・さ・ま♪」
ーゲシッ、ゲシッ、ゲシッー
「馬鹿なの?あんた。何で言いつけ守らないの?」
ーゲシッ、バキッ、ドカッー
「私以前から言ってたわよね。不老不死だから、死なないからって。むしろ危ないのは貴方だから、何かあったら死んじゃうから。って!」
ーゲシッ、ゲシッ、ゲシッー
「バカバカバカ… もう、貴方も死ねなくなっちゃったじゃない! どうすんのよ! このバカ更生! うわ~~ん」
すずめの逆鱗に触れ、されるがまま殴る蹴るを受け止める更生。終いには声を上げて号泣するすずめを抱きしめ、優しく諭す。
「ごめんな…。お前が崩れ落ちて無意識に動いちまったんだよ。例え、不死身と分かっていても、理屈じゃねーんだ。それにな… お前の口癖、命の尊厳はその者に権限があるというのならば、俺はこの命尽きるまで、お前の傍に居たい。かつて、甦が成し遂げられなかった想いを乗せてな…」
「だーかーらー、尽きる事はもう無いのよ!」
バキッという鈍い音と共に、すずめの渾身の右ストレートが決まり、さしもの更生も白いベッドに沈んだ。
「まあまあまあ、その位で抑えてね。じゃないとお兄ーさん別の意味で死んじゃうから」
二人の痴話喧嘩を志帆と舞は、途中までは羨ましそうに見ていたが、すずめの激情に流石にヤバさを感じ、慌てて止めに入った。
「志帆ちゃん、なんか… 手遅れだったみたい…」
泡を吹いて白目で転がる更生を見て舞が呟く。
「おひい様、銃弾のライフリング照合と解析が終了しました」
スメラギ機関医療研究所内に併設された病棟の特別室内にて黒のスーツを纏った女性がすずめにファイルを手渡す。
「フォレスト重工…。まさか直接仕掛けてくるとは流石に読めなかったわね…。私も焼きが回ったかなぁ…。うん。
とりあえず、学園の警備は厳重に。それと、生徒達は自宅待機。まあ、もう学園の方に手を出してくるとは思えないけど用心。と言う事でね」
「かしこまりました」
女性は一礼をして病室を後にした。
病室内は再び4人のみとなり、ベッドの上で胡坐をかくすずめは、姿勢を正して志帆と舞に向き、何時もとは違う口調で話し始めた。
「志帆ちゃん、舞ちゃん。こういう事態ですので、貴方方には暫くの間、ここの地下施設にて待機して頂きます」
「えー!」
「そんなぁ…」
「黙りなさい。反論は認めません。私の縁者になったからには私の言葉に従って頂きます。たとえ… いえ、ともかく私の許可が下りるまで、そこに居てもらいます。宜しいですね?」
「…はい」
「判りました」
「さてと更生、もう起きてるんでしょ。とっとと行くわよ。死ななくなったんだからボロ雑巾になるまでこき使ってあげるから!」
「ボロ雑巾って…」
「返事は?」
「イエス・マム! 仰せのままに」
「生きてるだと? 胸部に2発の風穴を開けてでか? ありえん。一体何者だというのだ」
「スメラギの怪女。齢1000歳を超える不老不死ですわ」
「不老不死? そんなファンタジー有る訳が…」
「三例程。私の知る限りでですが、Mrザインバーグ」
「Missトモエ、君の様な少女がなぜ」
「それは、その内の一例が私ですから。クスッ、かつての日ノ本の皇帝の妻、天ノ巴。それが私の本当の名でございます」
「うわぁ~~ん… シクシク…嫌われた。絶対嫌われちゃったよぅ…シクシク」
「だったら素直に言えば良かったろ? 死なせたくないから、守る為だからって」
「だってぇ… だってそれだけじゃなかったし… でも言えないしぃ… シクシクシク…」
「ババァの時とは偉い違うよなぁお前って。まあ俺にしか見せない顔なんだろうけど、メンドクセーわ実際」
「うるさい。バカ更生ぇ… シクシク」
装いも新たに変わった黒塗りのSumeragiは二人を乗せ一路東京に向かう。フォレスト重工からの刺客を手引きしたと思われる民和の会に向かって。
「それにしてもだ。この新型?Sumeragi_zweiだっけか、以前のEinsに比べると一回りデカくはなっちゃいるが、操縦は大して変わってないよなぁ。一体どこが違うんだ?
まあ、色が艶消しの黒ってのは判るけども…」
「グズグズ… Einsは元々貴方に渡す為に用意した一般車両よ。でも、それじゃあ又狙撃されたら意味がないから。
zweiは耐火耐水耐圧に優れた特殊ポリマーをコーティングした対戦闘車両。他にも色々ギミックを積み込んでるので大きさも一回り大きくなったわけ」
「ふ~ん… アレか?何とか2000とか、マッハ号みたいな感じか?」
「それ程多機能じゃないわよ。あれは架空の乗り物なんだから。でもまあ… 参考にした部分もあるにはあるわね」
「ほほぅ。なんかオラわくわくしてきたゾ」
「バカ言ってないで、ちゃんと運転してよね。一応これもAI車だけど、AIが機能するのは戦闘モード時のみで普段は使えないんだからね」
「ヘイヘイ了解」
Sumeragi_zweiは横浜ベイブリッジに入り暫く進む。が、前方を大型の黒塗りトレーラーが阻む。
減速して車線変更をするも、それを後方から近寄る同型のトレーラーが阻む。
「…こいつは先日のおかわり。ってとこかね」
「そうね。でも、それにしては動きが早いなぁ…」
「おひい様、どうしますかね?」
「取り合えず様子見で。って、おひい様いうなぁ!」
前後を阻まれ、一見絶体絶命の様に見受けられるも、全くもって余裕の二人。
そんな様子に業を煮やしたのか正面のトレーラーの後部ハッチが徐に開いた。
「ありゃ? 何かヤヴァイんじゃねーの?」
そう更生が呟いたと同時に開かれたハッチの奥より紅蓮の炎が噴き出した。
その業火はSumeragi_zweiのフロントガラスを目掛けて燃やし尽くさんと吹き続けるが一向にその気配が無い。
「なあ、ひとつ聴いていいか?」
「なぁに? パンツの色なら白だけどぉ?」
「誰がてめぇの貧装な下着の色聴くかってんだ。大体俺はロリコンじゃねーんだよ」
「あー又貧相って言ったわね。その上この1000歳越えの私に向かってロリコン? ぶち殺すわよ!」
「それそれ。俺が聞きたいのは。俺達って、本当に死なねーの?」
「う… 方法は… 方法は二つあるわ。ひとつは、再生するより早く燃えるなり溶けるなりした場合。もう一つは、心が死んだ時。ううん違うわね、心が死を望んだ時かな。だから、上記の致命的な外傷の痛みから逃れるための救いの手なんだと思う」
「だよなぁ。一気に燃えカスにでもなれば良いけど繰り返しながらなんてゾッとしねぇわ」
「まあzweiの性能なら、この程度の炎なんて何の問題にもならないけど… ピンポイントに燃焼と言う弱点を突いて来た。これは厄介な相手が出てきたかなぁ…」
「厄介な相手?」
「天ノ巴。あんたも夢の中で聴いてるはずよ」
「そう言えば日下部って奴が言ってたな…」
「これは一度帰って対策を練り直した方がいいかも」
「帰る。ったって、この状況でどうやって?」
「こうするのよ! 舌噛むから口閉じなさい!」
そういうが早いかすずめはフロントキーを手早く操作した。と同時に強烈に突き上がる衝動が二人を包み、Sumeragi_zweiは路上より10m程浮き上がった。そして、その勢いのまま陸橋から眼下の海中へと滑り込んだ。
「チッ、何て非常識なカラクリなの… まあ良いわ。今回は見逃してあげる。相手が私だと気付いたでしょうしね。これからよ。ジワジワと苛めてあげるわ梅雀様♪」
「梅雀様は生を賜りし時より皇の御方故、巴の気持ちなどお判りにならぬのです。巴も年を刻めば後宮から暇された方々の様に地位を失い、ただの巴として生きるしかないのです」
「でも巴様、わらわとて、年を取ればゆくゆくは…」
「皇の地位が永劫と続く御方が何を申されようと、巴の気持ちとは相容れませぬ。毘貢尼様の妙薬の力、如何なる事となっても必ず… 日下部、参りましょうぞ」
「御意。皇様、これにて…」
「巴様…」
夢か現か幻か
うたかたの
はぜて舞い散る夢ならば
憂い哀しみ霞むより
数多の想いを身に宿し
瞬き消える時迄に
瞬き消えた後の世へ
紡いで繋いで伝えませう
夢も現も幻も
紡いで繋いで委ねませう
安寧導く彼方迄
「人魚の見た夢… かぁ」
朝の日差しを浴び、夢うつつで微睡ながら呟くすずめ。
毘貢尼より賜った紅玉の水を得てから時折聞く唄”人魚の見た夢”を思い返す。
「ここ暫くは聴いてなかったのだけど… 巴の事があったからかな…」
「…おい。何黄昏てるのか知らんけど、ええ加減にどけよ!重いわ」
背中にドカリと座る、まさに尻に敷かれる状態の更生はすずめに嘆いた。
「乙女に重いなんて言ったらダメなのよ。少しデリカシーを学びなさいな」
全く意に返さないすずめであった…。
「パライソ計画?」
「そ。今現在フォレスト重工が中心となって作ってる兵器計画の総称。何年か前にアメリカが公表した核兵器に代わるとされる戦略兵器”神の杖”って覚えてる?」
「ああ。神の杖な。確か大気圏外から極太の杭を目標に落として、その拠点の地下施設まで完全破壊するっていう、ヤバい代物だよな」
「うん。しかも核と違って自然に優しいから実質何時でも使えるって言う最大の利点がねぇ」
「自然に優しいねぇ…」
機関に戻った翌日、二人は1階ロビー奥のオープンテラスで、遅めの朝食を取っていた。
モグモグと3つ目のホットサンドを頬張るすずめの大盛な食欲を眺めつつコーヒーを口に運ぶ更生は、何かに気付いたように投げかけた。
「なあ、もしもだけどな、そのパライソ計画が進展していたとして、プロトタイプの神の杖が既にあったとしたら、お前ならどうする? いや、お前が巴の立場で考えるならば。な」
「そうね… あの子なら、迷わず使ってくるわね。ここに向けて」
「その場合の対応手段は?」
「あはははは。ある訳ないじゃん。撃たれたら、丸ごとみんな天国行きね♪」
「さいで…」
「けど… 多分今はしないと思うわよ。だって、あの子の目的は紅玉の水だから。それを入手してからなら確実にやるわ。正直なところ、巴は紅玉の水の正体を知らないわ。スメラギの中でもそれを知ってるのは、ここの統括と専属研究員と爺や。そしてあんたと志帆ちゃん、舞ちゃんだけよ。二人をここの地下に住まわせてるのは安全確保と漏洩を防ぐ為。万が一にも私や貴方に危険が迫ったとしたら巴の強要に屈してしまうから」
「俺は?」
「あんたはそこまで世間知らずじゃないわよねぇ?」
「あは、あははは… 勿論」
「ふぅ、そう願いたいわ。ともかく、この情報が僅かでも巴の耳に入ったならば、ここに居る全員の命は無い。そう思っておいてね」
「ウィ、マダム」
「本当よ? しっかりしてよね! マイダーリン」
試験管に入った米粒程度の赤い粉末と、自分の血液から採取された成分表を見比べながら親指の爪を噛む巴。
「一体、梅雀の紅玉の水と私の得た紅玉の水。何が違うって言うの? 私の血液からは未だ、1000年経った今でも毒素は微塵も抜けていない。このまままでは何れ、天様の様な姿になって朽ちていくだけ…」
巴は袖口から覗く鱗の様にひび割れた腕を見ながら、未だ記憶に強く残る毘貢尼と紅玉の水の顛末を、両の肩を抱き震え思い出していた。
「こうべを上げよ。そなたが近江に名を置く齢800の毘貢尼と申すものか」
「さようでございます」
「して、人魚より授かりし妙薬とはいかな物か」
「…あれは、妙薬等と言う物ではありません。毒、猛毒にございます」
「しかし、そなたはその妙薬の力で、その命永らえておるのであろう? 一介の尼如きが毒に中らず長寿を得られたと言うのであれば、神の依り代たる帝が中る事などありえようか」
「…」
「この天ノ帝をたばかう不埒者の烙印を押されたくないのなら、人魚の妙薬素直に献上するがよろしかろう…」
「グボァァァ!!! だ、だばぐぁっだがぁぁびぐにぃぃぃ!!! ウガボァァ!! … … 」
その日。後宮にて惨事が起こった。
天ノ帝、並びに主だった后妃が、惨たらしい姿で崩御していたのだ。
その姿は髪を逆立て眼球は弾け、肌は鱗の様にひび割れ、爪で喉元を掻きむしり、青黒い泡を口々から噴出させての悶絶死。
だが、ただ一人、若輩であった巴だけは奇跡的にその姿変わらず、ただ、ただ眼を衣で覆い耳を押さえ青白い顔で震えていたという…。
「志帆ちゃん、凄いねここ。地下施設っていうから薄暗くて狭い場所を想像してたけど…」
「そうね、流石はスメラギ機関と言うところかしら」
現在すずめの命により地下施設にて待機している二人の視界に映るのは、眩しい陽に照らされた広大な日本庭園だった。
二人は木漏れ陽のほど良い茶房で茶を嗜み辺りの様子を伺っていた。
志帆は庭園の奥に朱の屋根の離宮の様な建物を見つけた。
「あれって… もしかしたら、すずめちゃんの… ううん。梅雀様が住まわれたお屋敷?」
そう呟いたその時、目の前にひとつの鞠が転がった。
「どうじゃ、ももせ。わらわのけまりは~」
年の頃は五つか六つの、煌びやかな装束を纏った幼女が腰まで届く黒髪をなびかせ上目遣いで微笑んだ。
「えっ私? 『これってお母さんの記憶?』」
志帆はしゃがんで鞠を手に取ろうとしたが、鞠は手をすり抜け消え、そして幼女も目の前から消えた。
が、幼女は奥の離宮の回廊から姿を現し、志帆を手招きする。
「ももせ~こっちじゃ、こっちに来てたも~」
呼ばれるままに足を踏み出した時、
「…ちゃん、志帆ちゃん!」
「えっ? どうしたの舞ちゃん」
「どうしたのじゃないわ。突然呆けてしゃがんだと思ったら直ぐ立ち上がって、庭の奥に行こうとするんだもの」
「庭って、私は奥の屋敷に… あれ?」
志帆の指さした先には、ただ庭園が続くのみで、離宮も幼女もそこには無かった。
「大丈夫?」
「白昼夢… ?」
「う~ん。こうしていても何も浮かばないし、取り合えず動いてみようかしら…」
「だな。ただ、何が待ち構えてるか分からんから、何か武器になりそうな物積んでいかね?」
「武器? 何かあったかなぁ…」
テラスの簡易端末から機関のメインシステムを呼び出しデータ照合しつつ武器を物色するすずめ。
そんなすずめに更生は、もうひとつ提案する。
「後な、ここも万が一の対策取っておいて良いんじゃないか? 備えあれば。って言うし」
「… うん。判った」
何か思うところがあったのか、更生の意に直に従うすずめだった。
「件の場所は特別自治区で日本の法が届かない。それは裏を返せば、日本政府としての保護対象外であると言う事。つまり何らかの、他国からの攻撃があったとしても、自力で何とかして貰う。我々日本政府側は一切関知しない」
「例えそれが、日本国との同盟国からの何らかの問題行動であったとしても。そういう事だねMr金剛」
「… まあ、表立っては流石に困るが、事故であったのなら仕方ないでしょうなぁ。Mrザインバーグ」
「まあ我々としても面倒事は極力避けたいのだが、事故では流石に…。ただし、事故であったにせよ、その場合に置いては”日本国”には一切御面倒はお掛けしないとお約束しよう」
「巴様、準備は整いましてございます」
「そう。うふふふ… 梅雀様、貴方が築き上げてきたものが一瞬で失せ、孤独に打ち震える様を見せて頂きますわ。クスクスクス…」
「…なあ」
「なあに?」
「ここってハリウッドでも”いつもの採石場”でも無いよなぁ…」
「そうね…」
「じゃあ、この三流映画張りの爆撃とカーチェイスはどういう事?」
「それは、以前にも言ったと思うけど、日本であっても日本ではない場所だからかしらね?」
低空から戦闘ヘリが打ち出し散開するミサイルの爆撃を辛うじて避けつつ黒塗りのトレーラーの執拗な包囲網を掻い潜るSumeragi_zwei。
「あのさ、言い難いんだが俺も前にも言ったと思うが、馬鹿なんで、お姫様の言ってる意味がとんと判んねーんだわ」
「ふう… いい? 一度しか言わないからそれで理解なさい。ここスメラギは日本国の法が殆ど通用しない。特別自治区なのよ。例えるなら大使館や米軍基地みたいなものね。だから余程の事が無い限り、日本政府は介入してこない」
「つまり、今の様な状況下においても自力で何とかしろ! って事か」
「そういう事。あら、思ったより飲み込み早いじゃない」
「そりゃどうも」
「そんな貴方に抜け作2号の称号を進呈してあげる♪」
「… それって有難いのかよ?」
「そりゃそうよ。1号は現総理大臣なんだから。クスクス」
「… さいですか。じゃあ、こっちも遠慮なく反撃させて貰おうかね」
更生はそう言うと操縦をオートにして、ハンドルとは違うトリガーを持ち直し、思いっきり引いた。
するとボンネット中央の一部が左右にスライド収納し、下部からミサイルランチャーが現れ、フロントガラスを索敵レーダーとしてマーカーの示す個所に全弾発射した。
白煙の帯の数発はすぐさま左右のトレーラーをぶち抜き大破させ、残りは低空を散開するヘリと正面のトレーラーに当たった。
ヘリが黒煙を上げて墜落していく最中、正面のトレーラーは後部ハッチを破壊するのに留まった。
「お? 何だよこの堅さは…」
更生が驚いた直後、声をあげる間もなくトレーラーの中から大型の物体がSumeragi_zweiのボンネットに落ち込む。特殊ポリマーで覆われた車体とはいえ、その物の重さと落下速度にはあがなえず、ボディはひしゃげ、フロントガラスは紙を割く様に破られた。
「グっ… 何だよ今の反則だろこれ… はッ! 梅雀…」
大破し黒煙を上げるSumeragi_zweiの内部で、一瞬気を失っていた更生は、気が付くと同時にすずめの安否を確認する為見渡そうと…。
そして目に映ったのは車窓を突き破り両の腕を捥がれ車外で気を失っているすずめの姿だった。
「おい! 起きろ梅雀! 今助けてやるから意識だけでも戻ってこい! って… マジかよ…」
すずめの元に行こうと身を乗り出そうとするも、自らの体には腰から下部が無い事に気付き、愕然としたのだった。
「ふふふ… 無様ねぇ。さてとお立合い。この状況下で前回同様の事になったら? 車のお外に居る梅雀様はともかくとして… -パチン-」
前方のトレーラーから降りてきた巴は、指を鳴らし合図を送る。するとSumeragi_zweiの上に覆い被さるように留まっていた物体から火炎が噴き出しSumeragi_zweiのフロントガラス内部を炙りだす。
「不老不死って、案外脆いな。でも梅雀お前だけは。何か… この場から少しでも離れられるギミックは無いのかよ! ほんの数メートルでいいんだ。何か… これだ! 跳ね飛べzwei!!」
『梅雀様、お暇を頂きとう存じます。しかしながら何時の日か…』
虚ろな意識の中、何か懐かしくも物悲しい記憶が甦り、その声に導かれるように覚醒した梅雀の目に映ったものは、7m先で横転して燃え上がるSumeragi_zwei本体と、燃え尽きようとしている更生の姿だった。
「あははははは… ねぇ、今どんな気持ち? どんな気持ち? うふふ…。でもまだよ。今回のハイライトぉ~♪」
キーーンと言う、耳をつんざく様な轟音が天空を引裂く様に響き、何かが空の果てで輝いた。と同時に、壮絶な地響きが起こり、爆風が吹き荒れ辺りの視界を遮った。
暫くして濛々とした爆風によって吹き上がっていた粉塵が次第に薄れ、ゆっくりと立ち上がったすずめの視界に入ったものは、スメラギ機関が在る山の中腹より吹き上がる黒煙の狼煙だけだった…。