第1話「榊 更生」
「梅雀かぁ~いつ振りだろう。この名を名乗ったのって… 呼ばれたのは、あの時が最後。あのお方は、いったい何処を彷徨っているのかしら… 甦様… 逢いたい…」
帳の降りた街を進み行く電車の、ドアの車窓に映り込む自分の姿の奥に見えるのは戦衣を身に纏い別れを告げた彼の人。
凛々しかった面影は、遠く長い年月によって遷ろい霞む。
「あーもう。考えれば考えるほど気が滅入るわ。今は志帆ちゃんの件を考えなきゃ。やっと見つけたお友達候補だもの。何とかしてあげなくちゃ。機関の力を使ってでも… でも、さ。出会い、契り、子を生して娘に惜しまれながら命を全う出来る事が、どれだけ素晴らしいか。死ぬ事が許されない私からしたら、どれだけ望ましい事か、私には決して訪れない時を過ごせる志帆ちゃんのお母さんが心底羨ましい…」
やるせない気持ちを抱いたまま、電車を降り街の喧騒身を委ね、すずめはひとり摩天楼へと消えた。
「ボツ。おい榊、お前何年ライターやってんだよ。ちったぁ読み手が食いつく様なモノ書いてこいや」
「お言葉ですがねぇ編集長、この安穏と平和に浸り切ったスメラギ特区で、そんなネタ転がっちゃいませんよ」
「ネタってのは只拾ってくるんじゃねーんだよ。1%の閃きと99%の作り事で人の心を引きつけるんだよ。分かったらとっとと
書き直してきな。明日一杯でな」
「へいへい。エジソンにでもなったつもりで記事を見繕ってきますよ~。チッ」
ヤニと埃で薄汚れ、書類が各デスクの至る所にうず高く積まれ雑多とした時代遅れのオフィスのドアを蹴り開けて、これ又時代遅れのラッパジーンズと薄っぺらい黒Tシャツを着た痩せ型長髪の、榊と呼ばれた男が、肩を怒らせながら後ろ蹴りで「月刊アポーズ」と書かれたドアを閉めた。
「なーにが1%の閃きと99%の作り事だよ。結局100%嘘っぱちじゃねーかよ。アホか。とは言え、何か飯の種になりそうなモノ落ちてねーかなぁ。ブツブツ…」
「あ!新しいお店みっけ。今日は色々憂さ晴らしもしたいからリミッター解除していくわよ~♪」
そう勢いづけて真新しいブテックに入っていくすずめ。その様子を偶然通りかかった榊に見られていた。
「最近の女子高生ってのは、こんな高級ブティックにも物怖じしないで入れるのか。まあ、あの制服から察するに普通の女子高生ではないだろうけど、流石にお嬢様でも早そう手を出せる代物じゃないと思うぜ」
すずめの行動に興味を示したのか榊は店の外からさり気なく中の様子を伺った。
「おっ、やっぱり店員に止められたか。そりゃそうだ、買いもしない商品で取っ替え引っ替え着せ替えゴッコされたらたまらんもんなぁ。さてお嬢様どうするかね」
すずめは二人の店員に前後を阻まれ忠告を受けているようだった。が、徐に財布から取り出した黒いカードの様なものを店員に見せた。
「うん? 何だあの黒いカード…」
店員達はカードを一瞥したと同時にペコペコと頭を下げ、その場を退いた。
「…プラチナカードの類か? 何のカードだ? もしかして飯の種になるかもな」
そう呟くと榊は吸い込まれるようにブティックの中に入っていった。
「お答えできかねます。お引取りを」
「いや別にあの女の子の素性が知りたいわけじゃないんだ。さっき見せてた黒いカードが何なのか知りたいだけなんだってば」
試着室にごっそり服を入れて着せかえ三昧を満喫するすずめを他所に、店員に張り付き少しでも情報を引き出そうとする榊。
「いい加減になさいませんと警察を呼びますよ!」
「ああもう、分かったよ帰るよ。帰れば良いんだろ。チッ」
店員から離れ踵を返し入口に向かおうとした榊の耳に、何かが裂ける音が聞こえ、反射的に音のした方に振り返ったその時
「あ、あ、ちょっ… まっ…」
ビリビリと試着室のカーテンが留め具から裂け落ち同時に、ビタン!というカエルか何かが床に張り付く音がした。
「痛ったぁ… あ!」
「…あ!」
床に見事に張り付き、やおら痛そうに起き上がるすずめと、榊の目が合った。
下着姿を晒してしまったすずめの悲痛の叫び声がワンテンポ遅れて店内に響き渡った。
「榊、お前クビな。運が悪かったと思って諦めてくれや」
「なんで? 編集長オレなんかしでかしましたか?」
「やったと言ったら、やったんだろうなぁ…」
「何その歯に挟まったような言い方は」
「このスメラギ特区に住む以上、敵に回しちゃいけない相手が居るってこった。ウチもオンボロでちっこい雑誌社とは言え、社を潰したくはないのよ。お前さんの首ひとつで何とかなるんなら、そっちを選ぶまで。あーちなみに同業社ドコに行っても雇ってはくれんだろうから、ライター家業はもうやめるこったな」
「ど畜生が! 分かったよ。こんなヤクザな仕事、こっちからお断りだ!」
編集室のドアを思いっきり蹴り飛ばし、悪態をついて出ていく榊。
「どう考えても、あのブティックに居たメスガキが原因だよな。どこの大層なお嬢様か知れんが、貧相な下着姿見た位でこの仕打。
しかも事故だし原因はガキの自爆じゃねーか。こうなったら文句の一つでも言わなきゃ気が収まらねー。確か名門お嬢様が通うっていう皇学園の制服だったな。なーにがお嬢様だ!」
肩を怒らせながら傷だらけのグレイの軽バンに乗り込み、皇学園へ向かう榊であった。
「偶然なのかな… まるで、あの時と同じ… 」
すずめは理事長室のソファーに身を預け、手の甲を擦りながら囁き思い出す。それは遥かなる悠久の時の、まだ”只の少女”であった昔…。
「おひい様、おめし物がお部屋に溢れておりまする。そろそろお決めになりませぬと」
「嫌じゃ。打衣、単、表着、どれをとっても此度の歌会には映えぬ。宮中いや東西市をつぶさに巡り、もっと良いものを探してまいれ」
桃の花の香りがむせ返る季節、宮中では数日後に控える恒例の歌会に備え上へ下へと大混乱状態となっていた。
中でも帝の覚えが高い姫君方はおのが美と権力を行使せんが為、一握の抜かり無く綺羅びやかな髪飾りから豪華な装束に至るまで吟味を重ねていた。
「お主を近衛府に推挙した手前もあるが、皇の姫君の覚え目出度くあれば我が逆来一族も安泰。良いか、夢々忘るる事の無き様」
「叔父上のお力添え、この甦しかと身に刻む所存」
「うむ。此度は件の歌会の準備に各々迷走中と聴く、梅雀様のお助けになれば、お覚えの早道ぞ」
「心得ております。まずは御挨拶から…」
逆来之甦は皇の姫君、梅雀の宮へと近づいた。だが、そこは既に女の戦場と化しており、男子が濫りに近づいてはならない空気が漂っていたが、緊張していた甦には感じ取ることが出来ず、それが最悪最凶の出会いとなるとは考えもしなかった。
「おひい様、この萌の表着は如何でしょうか?」
「おお! それじゃ。それをこちらに持って参れ… あっ!」
部屋の中は元より、回廊に至るまで女房装束で溢れ、足元を疎かにした梅雀が転倒したのは自然の理であった。だが、偶然にもその場に居合わせた甦にとっては不運の何物でもなかった…。
「皇様よりの沙汰である。心して賜るように。逆来一族は老等に至るまで流刑。逆来之甦左少将は梅雀様の御前で両の目を突き切り後斬首刑とする」
宮中、すめらぎの離宮、白洲に座して頭を垂れる甦、数時を経て上座中央に座した皇の姫君梅雀は扇で側女に何かを伝えると、その言葉は白洲の甦へ届いた。
「梅雀様より、何事か申しひらきがあるのなら、今生の別れとして特別に許す。との事じゃ。何事かあるならば申してみよ」
「恐れながら申し上げまする…」
「で、校門前に来てみたものの… どうやって中に入れば良いんだ?」
皇学園正門前にたどり着くも、門は堅牢な鉄城門となっていく手を阻む。
「インターフォンも無さそうだしな。さてどうしたものか…」
思案に暮れる榊。と、その時まるで図ったように門は開き、中より黒いスーツを着た、おおよそ教員とは思えぬ女性が行く手を指し先行した。
「あの… この学園に黒いカードを持っている生徒が居るはずなんだけど」
「…」
榊の持つ唯一の情報、黒いカード。しかしスーツの女性は黙して語らず粛々と榊を案内するだけでであった。
やがて、校舎の入り口に到着し、スーツの女性は榊に入るように指し示す。そして指示された入口を潜り中に入ると次は黒のメイド服に身を包んだ女性が先導し、もうただ着いていくしかないと察した榊は、離れ突かずに後を追った。
メイドの女性は荘厳な扉の前に辿り着くと左に寄り、扉を指し示し頭を下げた。
「ふう。自分で入れ。って事かい」
榊はため息交じりに扉を数回ノックし、入っていった。
「情けないわね、もう泣きを入れに来るって」
扉を開けて直ぐ目の前に、腕組をして威圧する様な眼光を向け、呆れ顔で開口一番に嫌味を言うすずめが立っていた。
「はぁ? てめぇ巫山戯んなよ。たかが貧相なメスガキ一匹に誰が泣きを入れるかってんだ」
「あら、仕事を失い路頭に迷ってベソを掻いてると思ったら案外元気ね」
「やっぱりお前の差し金か? どこのお嬢様だか知らないが大人を舐めるんじゃねぇ」
「あらそう。事と次第によっては何もかも元に戻してあげようと思ったのだけど?」
「何が目的だ、言っとくが金ならねーからな」
「お金? あはは、バッカじゃないの? 私が求めるのはねぇ。乙女の素肌を見た貴方の目玉を潰すことよ。ほら、これをあげるから、
自分で刺しなさい」
榊の足元にすずめが放ったのは一本のキリ。
ー胸の奥が疼く… 何を期待してるの私は… そんな偶然何度もある訳がないじゃない… どうせこの人も、これまで見てきた卑劣な男共同様に私の言動を非難して逃げ帰るに決まってる。ー
「…お前、狂ってるな。ここは、たかがガキの戯言と非難しても良いが、お前みたいな奴には言葉じゃ分からんだろうから、その言動が何を招くのか見せるのも大人の努めだな。例えそれで、オレの人生が終わったとしてもな…」
ーえっ!? 今のは空耳? そんな偶然… それとも…ー
「あとな、これだけは先に言っておいてやる。刺してからだと痛みでそれどころじゃないだろうからな。いいか?権力に溺れる者は
何時か権力によって足元を掬われるぞ! うんじゃ一気に、南無三!」
「恐れながら申し上げまする。皇様は帝の次にお力のある方、しかるに、そのお力に溺れ奢れるならば、久しからず力によって掬われましょうぞ。此度の訓を私如きの命で戒めとして、そのお心に刻まれましたらこの逆来之甦、本望でございます。しからば御免!」
「え”あ… 嫌! やめてぇ!!」
榊はキリを持ち力任せに目を突いた。ポタポタと紅い雫がカーペットを染める。だが、榊の手元が刺したのは、己のが眼ではなく、すずめの両の手の甲であった。
「ば、ばっかやろう。ちょっとまて、直ぐ引き抜いてやる」
「つぅ… 平気よこの位… 後は自分で何とかするわ。だからもう… 帰って頂戴。あと、貴方にした諸々は約束通り元に戻しておくから… 又会いましょ。じゃあね」
「お。おい、平気って、我慢すんじゃねー じゃあ今人を呼んでやるから… おい… 分かったよ。帰るよ。ちゃんと手当するんだぞ。いいな!」
別れの言葉を切り出した後、榊が何を言っても、すずめは後ろを向いて黙して語らず。その様子を見ていた榊は何も出来ず仕方なく部屋を後にした。
「偶然じゃない? のかな… まるであの時と同じ、話した内容もその後の行動も… そして、私も…」
すずめは、正門前の榊の車を見ていた。車に乗り込む前に、こちらを向いて、そうしてやおら乗り込み走り出した後もずっと目で追うように。手の甲に残る真新しい傷と古傷を擦りながら…。
「榊 更生様のお宅はこちらでございましょうか?」
「は、はい。オレが榊 更生だけど、どちら様?」
「私、皇 ウメ様の代理として参りました者でございます」
「はあ? 誰だったかな…」
「先日皇学園での…」
「ああ、あのガ… 女生徒か。手の傷は大丈夫だったのかい?」
「そちらについては問題有りません。ご心配痛み入ります。それと先日のお詫びと致しまして、粗品を預かって参りました」
「粗品?」
「今降ろします…。例の物をこちらに降ろしなさい」
代理と称した初老の男は後ろに控えた大型トレーラーの運転手に指示を出し、運転手がトレーラーの後部ハッチを開ける。と、同時に後部の車両から数人の作業員が降りてきて、荷降ろしを始めた。
トレーラーから降ろされた物の梱包を丁寧に剥がし、中より現れたのはワインレッドのスポーツカーだった。
「スメラギ機関謹製、Sumeragi_Einsでございます。どうか、お受け取りくださいますよう」
「ほう。それが件のプラチナカードってわけだ」
黒く、光沢のある表面には金の飾り文字とスメラギ特区の紋があしらわれたクレジットカード大のカードを榊は編集長に見せていた。
「詫びだ。って言うスポーツカーのダッシュボードに入ってたんですよ。これも、詫びの一つって事なんすかね」
「だろうなぁ。で、皇 ウメって名乗ってたのか? おかしいな。その名は確か…」
「名乗ったっつーか、その車持ってきたオッサンが口にしたっつーか」
「ふむ。じゃあその嬢ちゃんは皇 ウメ氏の孫って事だな」
「孫?」
「皇 ウメ氏は御年108歳の老獪様でな。お前さんが出向いた皇学園の理事長様さ。まあ、他にも現総理大臣厚樹二郎氏の後ろ盾とか色々とな。まあ知らないほうが良い事もある。どんな経緯でこうなったのかは敢えて詮索しないが、折角気に入られたんだ、お前さんもこれ以上首を突っ込まんことだ」
「う… 」
「でよ? そのスポーツカーSumeragi_Einsだっけか?乗り心地はどうよ?」
「さあ? 乗ってないから解らないっす。オレはただ、中を覗いてダッシュボード開けただけなんで」
「なんでよ。詫びにくれたんだろ? 乗りゃいいじゃねーか勿体ない」
「なんつーか。ちょっと裏がありそうで不気味っつーか。色んな意味で抹殺されそうになった数日後にこれでしょ? 何かの罠みたいで…」
「まあ、分からんでもないがなぁ…」
編集長と話し合ったその後、社外にでると目の前に件のワインレッドの車が鎮座しており、榊を確認したかの様にドアがいきなり開き、中よりすずめの声が響いた。
「ちょっとー何で乗ってないのよ。気にせず乗ったら良いじゃない!」
「え。えー?」
榊が驚いたのは無理もなかった。ドアの内側、
Sumeragi_Einsの車内のどこにも声の主は居らず、そればかりか誰も乗っていなかったからだった。
「だ~~か~~ら~~話を聴きなさいよぉ」
「へいへい。聴いてますよお嬢様。でもな、初めて乗る車で運転しながらってのはハードルが高いんだよ。傷の一つでも付けたら洒落にならん」
「やっぱり貴方馬鹿なのね。この車は今時のAIでコントロールしてる無人運転車よ。だから今、脂汗流しながらしっかり握ってるハンドルから手を離しても問題は全く無いのよ。分かったぁ?」
「そうかよ!このクソガキ様」
「何ですって?」
「お。クソガキ様がお気に召さないのなら貧相なスネ齧りのお嬢様。でどうだ?」
「貧相って… 可憐で花も恥じらう乙女に向ってなんて暴言! やっぱり貴方一度死んどく?」
「お! ヤれるもんならやってみろよ。オレは結構しぶといからな。何度だって生き返って目の前で笑ってやるよ」
「な… グスッ… 嘘つき… うそつきー! もう知らない!」
「え”? お、おい… オレ何か嘘ついたっけ? っていうか、なんで泣く? 女心ってのはワカランわー」
先程まで座席中央のコンソールパネルに映っていたすずめは消え、しんと静まる車内で榊は首を傾げながら独り言ちた。
「おひい様! 宮中はもう火の手が周り、正殿前には帝の手勢が迫っております。もはや…」
「帝… いや恐らく巴の手勢じゃな。狙うは”紅玉の水”と妾の命のみ。皆には手をかけまいて、皆は様子を窺いに行っておる百瀬を頭に共にここから立ち退くが良い」
「それは出来ませぬ。おひい様を残してなど出来ましょうか」
「ならぬ。妾の勅命じゃ、生きて生き抜いて、何時か…」
「それは梅雀様、貴方様もでございます」
「甦様!」
「姫様、この逆来之甦、暇を頂きに参りました。暫しのお別れでございます。ですが、いつか、例え地の底からででも必ず御前に馳せ参じましょうぞ。それまで、ご健勝であらせられますよう」
「嫌じゃ! グスッ… 嫌じゃ甦様、わらわを置いて行かないでたも… わらわも一緒に…」
「姫… 梅雀様、愛おしいお方… いつか… お逢い致しましょうぞ。御免!」
縋り付き号泣する梅雀を抱き返し、悲しみに満ちた微笑みを湛えて、当身で気を失わせた梅雀を愛しそうに、そして名残惜しそうに
側女に託し甦は鎧を正し、梅雀に頭を垂れて後立ち上がり、正殿に赴く。
その甦の出で立ちを、霞む意識の中、伸ばした腕で空を掴むように見送る梅雀だった。
「今生の別れは尽きましたかな中将殿」
「日下部…」
「帝に謀反を企てたとは言え、流石に私も皇様のお命を頂くのは少々…」
「何を言う、謀反を企てたのはそちと巴様であろうが!」
「時は力ある者に運命従うのですよ。此度は巴様に味方しただけの事。敗者は黙してただ黄泉に下るが宜しかろう」
「この生命も魂も、例え畜生道に落ちようと、貴様を地獄の底へ連れて行く。二度と梅雀様を煩わせぬよう閻魔の前まで引きずり下ろしてくれようぞ!」
若武者二人の太刀からほとばしる火花は、正殿を囲う火の粉に照らされ幾度となく輝いた。やがて太刀の刃合わさる音が止み火花は闇に溶けた。
事切れた一方の若武者から太刀を引き抜き、片膝を付いた若武者は天を仰ぎ、もう光の届かぬまなこをこらし呟く。
「梅雀様… 貴方様と過ごせた素晴らしい日々、感謝致しますぞ。次お逢いした暁には、続きを… そしてその時こそ必ず…」
窓からカーテン越しに射す日差しが榊の顔を照らす。眩しさで目覚め、まだ虚ろな頭で今見ていた夢に思いを耽る。
「… 何だったんだ今の夢は… やけにリアルで… そしてなんでオレは涙流して泣いてるんだ… ちくしょうめ」
未だぼうっとした夢見心地の意識の中、シャツの袖口で涙を拭う。
「あー! やっと起きたわね! このぐうたら怠け者」
「… 梅雀… 様?」
「え”?」
すずめと榊は向かい合ったまま同時に固まった…。