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すめらぎの姫君  作者: 隠 昇悟
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序  「皇 すずめ」

                  夢か現か幻か

                   うたかたの

                はぜて舞い散る夢ならば

                 憂い哀しみ霞むより

                数多の想いを身に宿し

                 瞬き消える時迄に

                 瞬き消えた後の世へ

                紡いで繋いで伝えませう

                   夢も現も幻も

                紡いで繋いで委ねませう

                  安寧導く彼方迄


                     1章6話「人魚の見た夢」より


 秋風の香る夕刻の校舎裏、ふたりの女生徒が対峙していた。

一人は真剣な面持ちで、もう一人の女生徒を威嚇するかのように睨み、もう一人はその鋭い眼光を気にしたようでもなく飄々と反らしながらも上目遣いな表情で、声は怯えて震えた声で正面の女生徒に小さい声で囁くように呟いた。

「あ、あの、私、お小遣いとか貰って無くて… うち、お婆ちゃんが厳しくて、その、お金とか持ってないんです。え、えと、証明になるかは分からないけど、ここでジャンプとかしましょうか?」

「貴方、ふざけてるの?誰がお金を強要してるっていうのよ!」

「きゃっ、怖いから睨みつけないで下さい。くすん… じゃ、じゃあ私に何の御用なんですか? こんなカツアゲにはもってこいのシュチュエーションで、お金以外… は!まさか、私が目的ですか?ごめんなさい。私、女の子同士とかそういうのはちょっと…」

「…はぁ。話がぜんぜん進まないわ。天然とは聞いてたけど、ここまで酷いとは… あのね、皇 すずめさん。私が貴方をここに呼び出したのは、カツアゲでも告白でもないの。貴方に聞きたいことがあるからよ」

「聞きたい事って?なんでしょう。私にお答えできることなら何でも話しますが、何故こんなところでわざわざ?」

「それはね、貴方にとって他の誰かに聴かれたら困る事だからよ。だからあえて、誰も居ないこの場所を指定したの。わかった?」

「私に聴かれたら困ることなんて… 私はこの皇学園の理事長、皇

ウメの孫、皇 すずめ。高等部3年C組出席番号14番…」

 すらすらと自己紹介ばりに答えていくすずめの言葉を、未だ睨みつけるように聴いていた女生徒は、くわっと目を見開き、すずめの話を遮った。

「今はね。いや、今も?って言ったほうが正しいかしら?ねえ、皇さん、貴方は一体何者なの?」

「…えっ? だから皇…」

「私ね、貴方の事で、気になることを知ったの。それは、貴方にまつわるトップシークレットレベルの秘密。だからあえて聞いたのよ?貴方は何者なのか。って。何者かなんて生ぬるいわね。はっきり言うわ。貴方は人間なのかしら?」

「… … … ふふん。言い得て妙かなぁ。くすくす…」

これまでの怯えたような口調と天然じみた様子からガラリと変わったすずめの表情とセリフに怯むも、言葉を紡ぐ。

「こ、この皇学園は今年で創立70年。その創立当時から今までの間の数年おきの生徒の記録に表れる「皇 すずめ」という女生徒。その容姿に若干の違いはあるものの、今の貴方と殆ど変わらない。まるで歳を取らず、この70年の間に現れ続けるまるで怪異の様な女生徒。それが貴方」

「人間じゃなくて怪異とまで言い切りますかぁ。ちょっとそれは傷付いちゃうなぁ」

「じゃあ、何だって言うの?はぐらかさずに答えなさいよ!」

「答えても良いけどぉ。とりあえず、続きは後での方がいいんじゃない?白檀(びゃくたん)さん、校内放送でさっきから呼ばれてるの気付いてる?」

「えっ?嘘?」

『高等部3年A組の白檀志帆さん、至急職員室へ…』

「ほ、本当だ!仕方ないわね、続きは又今度、逃さないからね!」

 急いで校舎に戻る志帆はふと気づく、

「そう言えば、私あの子に名前名乗ったっけ?」



「え?理事長先生がですか?」

「ええ。何でも白檀さんに大切なお話があるそうよ?理事長室へは案内しますから直ぐについていらっしゃい」

「は、はい…」

ーなんで?どうして?あ… あの子との会話を聴かれてた?でもそんな様子… 迂闊だったわ。あの子は表向きは理事長の孫だもの。こうなる事位安易に予測できたはず。失敗しちゃったなぁ…。 ー

 校舎の四階、普段立ち入ることもはばかられる赤いカーペットの敷き詰められた回廊の、永久に続くかと錯覚を覚える先に装飾の施された重厚な扉があった。

「それじゃあ先生はここでね。ご無礼の無いように」

「は、はい」

 緊張に高鳴る胸を抑えつつ扉をノックする。すると奥より張りはあるものの高齢と思しき声が静かな空間に響いた。

「おはいりなさい」

「はい。失礼致します」

 そこは、映画か何かで見たどこかの王宮の執務室を思わせる程の荘厳にして派手過ぎずも綺羅びやかな造りの部屋で、かの理事長は最奥の重厚なデスクに腕を揃えながら眼光鋭い視線を向けながら座していた。

 私立皇学園創立より今日まで学園を守り支えてきた齢108歳の、スメラギの老獪と各界に恐れられた皇 ウメその人であった。

「そちらのソファーにお掛けなさい。美味しい紅茶とお菓子を用意したの。気兼ねなく召し上がれ」

「え?お茶とお菓子って、あのどうして、私は罰せられるのではないのですか?」

「あら、貴方は罰せられるようなことをしたのかしら?」

「…私が、お孫さんの秘密を知って、あまつさえ強要まがいの事をしようとしていたから… です」

「くすくす。あらそうなの。じゃあ、その事を含めて改めてお話しましょう。ね、ここなら誰に聽かれることも無いのだし」

「…はい。では失礼します」

 座ると、体の重みで半分ほど沈む柔らかいソファーに緊張の面持ちの志帆は、ぎこちなく動きながら理事長の様子を伺う。すると、理事長は先程までの眼光を緩め、優しさに満ちた表情で語りかけた。

「それで、結局貴方はすずめの秘密をどうしたいのかしら?」

「えっと…」

ーああ、やっぱり聴かれていたのね。でも、ここで退くわけには行かない。だって…ー

「やっぱりお金かしら?そうねぇ。今なら3億は直ぐに用意できるけど?」

「さ、3億? って、いやあの、すずめさんにも言いましたがお金じゃないんです」

「じゃあ、マスコミ関係にリークして英雄になるつもりかしら?まあ、そんなに簡単にはマスコミは動かないとは思うけど。くすっ」

「私はただ… ただ縋りたかったんです。ママ… いえ、母の、末期の癌で余命幾ばくも無い母の、寿命を延ばせれば。って、70年も齢を取らない皇 すずめさんなら、何かしってるんじゃないかって… そう思っただけなんです」

「…白檀さん、貴方が欲するものは歳を引き延ばす長寿の妙薬というところかしらね」

「はい…」

「単刀直入に言うわね。残念だけど、貴方の求めてる妙薬、私もすずめも持っていないわ。そうねぇ。。。うん。この際、滅多に調べる事も困難な位少ない情報でここまで秘密を解いた貴方に敬意を評して、私の秘密を教えてあげるわ」 

「すずめさんでなく、理事長先生のですか?」

「ええ。その前に質問。私は幾つに見えるかしら?ああ、これじゃあ混乱して解りづらいわねぇ。ちょっとまってね」

 そう言うと理事長は徐に白髪の頭髪に手をかけ、スポッと外した。中から現れたのは艷やかな緑なす黒髪。そして、顎の下に両の手を添えて、つるん。とシワだらけの顔の皮を剥いだ。そして蒸しタオルで顔をゴシゴシと拭き、現れたのはなんと皇 すずめであった。

「… … …」

 目の前で繰り広げられた一連のイリュージョンに、志帆は口を鯉のようにパクパクとさせるだけだった。

「あースッキリしたぁ~特殊メイクって、幾つになっても慣れないなぁ。クスクスクス…。ねぇ、驚いた?驚いた?理事長皇 ウメの正体は、孫の振りしてた皇 すずめちゃんでした~パフパフパフ~

で、もう一度聞くけど、私って幾つに見える?」

「…えっと、その…」

 一体今何が起きて、そもそも自分は何を話そうとしているのか動転してしまった志帆は思考が定まらず口を開いたまま言葉が詰まる。そんな志帆の挙動にすずめはテーブルの菓子籠からマドレーヌをひとつ取り包装を剥がして志帆の口に咥えさせた。

「取り敢えず、それでも食べて落ち着こう。それ美味しいよ」

 思考が停止していた志帆は、いきなり口に突っ込まれたマドレーヌを、自らもモグモグと食べ微笑むすずめを見比べ、口元のマドレーヌに手を添えて食べ始めた。

「美味しい!」

「でしょ?気に入ったのなら後で分けてあげるね~それで、少しは落ち着いたかな」

「はい。お気使いありがとうございます」

「じゃあ、さっきの続きね。私って、幾つだと思う?」

「…えと、失礼ながらお答えしますね。すずめさんが創立当時で16歳。70年後の今だと86歳?理事長先生は現在108歳で創立当時は差し引き38歳?すずめさんは一見歳を取っていない様に見えるけど、理事長先生と同一人物ならば順当に考えれば、すずめさんは108歳という事です?」

「クスクス… ウメの歳が答えって事ね。じゃあ正解発表~ まずは私の出生から。私は西暦912年の平安中期の生まれ。帝の次の位を持つ皇一族の長子で名を梅雀(ばいじゃく)。人は私を皇の姫君と呼んだわ」



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