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《ノベハン》  作者: ジンベエ
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その9

 そもそも今回の依頼の背景は、本来なら当然依頼者が友人も連れて、計六人で観戦する予定だったんだが、いろいろ訳があってそれで急遽NGになってしまったのである。なので依頼者はそのチケットを誰かに譲るなり、どこかで換金しようと思ったらしいけど、今回観戦するに当たり、この日限定で観戦者全員に貰えるTシャツがある事から、Tシャツは欲しいとの事で《ノベハン》の情報網から後藤さんに引っ掛かり、それで後藤さんが依頼を受けて、そのチケットを引き継いだ形となったのである。でも今現在ここには、僕を含めて五人しか来ていない。


後藤「・・・あれ?そう言えば・・・。」

田川「ああ。さっき連絡が来ました。もうすぐ着くようですよ。」


 ドーム入りまであと十分を切っていた。すると僕らの後ろの方から、息を切らしながらこっちにやって来る、一人の幼そうな女性が見えた。やがて僕らの輪の中に入って来るや否や、こう言ってきた。


椎名「はぁはぁ、・・・遅れてすいません。」


 とまずは謝罪して頭を下げた。それを見て後藤さんは彼女を宥めた。


後藤「そんな急がなくても大丈夫だよ。来れば全員に貰えるんだからさ。」

城間「うん。急いで来て逆に怪我とかしたら、そっちの方がマズいからさ。」


 と僕もフォローしたら、何故かセキさんの視線を強く感じて、何か変な空気が流れた。


椎名「いやいや、でも、遅くなって・・・。すいません。」


 と前屈みになって肩で息しながらも、もう一度謝罪の言葉を述べた。

 彼女も《ノベハン》の一員、唯一の女性の椎名さんで〈しーちゃん〉と呼ばれている。顔つきも体型からも、見た目からして幼く見えるけど、列記とした二十四歳の声優仲間である。


小関「もういいよ、わかった、しーちゃん。」


 とセキさんは意外にも寛容に対処した反面、次に僕らの方を見て強く言い放った。


小関「こうだよこう!こうやってやって来てくれよ!こっちは早々と並んで待ったんだからさ。」


 と激しく訴えてきたセキさんの気持ちはわかる。二時間も前から並んでいるしんどさは確かにだ。でもそう言われても、僕らは至って普通に返した。


城間「まぁでも、全員に貰えるし、入れない訳じゃないし。」

田川「うん、先着順でもないですし。」


 しかしセキさんは怯まずに、テンション高く言い放った。


小関「そういう事じゃないだろ!」

 

 ここで後藤さんが大人の対応で、セキさんを優しい口調で宥めた。


後藤「確かにセキ君のおかげだよ。こうして前の方にいられる事はね。本当にありがたいし、

   そして遅くなって申し訳なかったよ。俺たち君に甘えてるようだね。今度からはそこのところ

   十分気をつけるから、今回は許して欲しい。本当にすまなかった。」


 そう言って後藤さんは、やや深く頭を下げた。それを見てガッチは無反応だったが、僕も連られて軽く頭を下げた。そしてセキさんはその様子を見て、ようやく留飲を下げた。しかしガッチが何故無反応、無言でいられたか?その理由がガッチ自身から放たれた。


田川「後藤さん、謝る事はないですよ。シロさんも忘れてませんか?セキさん、早く来た理由が別の

   依頼なんですよ。」


 とこれまた無表情で淡々と、セキさんを見つめながら言ったのである。それを聞いて僕は『あ、確かに』って表情をした。


城間「あ、そうですよ!そうでしたそうでした。」

後藤「え?そうなの?」


 と驚きながら後藤さんは、セキさんに尋ねた。するとセキさんは『あ、マズい』って表情を一瞬だけ見せて、ふと僕らからの視線を反らして、顔を下に向けた。


田川「そうなんですよ。依頼を共有しなかった、そっちの方が問題じゃないですか?」


 このガッチの追及にしーちゃんがポロっと声を漏らした。


椎名「・・・共有はルールですからね。」


 小声で静かなトーンであったが、それがもの凄く強く、大きく僕には聞こえた。そう言われてセキさんは、先程までのテンションと声のトーンがすっかり落ちて、結果僕らに謝罪してきた。


小関「・・・まぁ、その、・・・悪かったよ。こっちも今度からちゃんと報告するからさ。」


 あともう数分でドーム入りするのに、この時が一番楽しく感じているはずなのに、こんなシラケた雰囲気になっているのが、僕は本当に嫌だったので、これの空気を早く断ち切りたい為に、セキさんの方に気持ちを傾けて、みんなに告げた。


城間「もういいじゃないですか。この中でセキさんが一番活動している事だし、いろいろと情報を

   提供しているじゃないですか。せっかくこうしてみんなで久しぶりに集まって、坂上さんも

   来てくれてるのに、何か気まずい雰囲気になって、このままだとこの後の観戦も、こんな

   感じでつまんなくなっちゃいますよ。」


 僕はこう述べるに当たって、当然みんなを見ながら発したが、特にガッチを強く見つめて話した。するとそれを察したか、ガッチはこの後何も発言する事はなかった。そして後藤さんも納得してくれたようで、この話題の締めを図った。


後藤「そうだな。せっかくこうしてみんなで集まってるのに、こんな雰囲気はマズいよな。もうこの

   話は終わりだ。とにかく次回からはちゃんと情報を知らせる事、それと時間に気をつける事、

   何時に集まるかって事も必要だな。」

 

 それを聞いて僕やガッチ、しーちゃんは静かに頷いた。





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