その3
小関「だからシロちゃんにお願いしたいんだよ。良いか?」
城間「・・・まぁ、でも時と場合に依りますよ・・・。」
ここで僕は一瞬断ろうかなって思いがよぎって、敢えてそんな雰囲気と言葉を発した。が、セキさんはこの思いに構う事なく、再び身体を前のめりにして話を進めてきた。
小関「じゃあ早速だけどな・・・。」
そう言ってセキさんは、自身の上着のポケットからスマホを取り出して、僕にスマホの画面を見せてきた。その画面にはラインでの依頼の内容が表示されていた。僕はスマホを受け取って、その依頼文を黙読した。
依頼者『三月八日に東京の✕✕の会場で、〇〇と言うメーカーが◎◎とコラボしたイベントがあります。そこでその限定グッズを買ってもらいたいです。』
それを見て僕はセキさんに尋ねた。
城間「・・・イベントは確かですか?」
小関「ああ、間違いない。八日は日曜。時間は朝十時だ。」
城間「日曜の十時。・・・みんなは?」
小関「一応聞いたが、みんなNGでな。」
城間「・・・そうですか。」
そう答えて僕はスマホをセキさんに返した。そして僕は腕組みして、無言で天井を見上げた。セキさんも身体を起こして腕組みし、渋い表情をした。
小関「だからシロちゃんに頼むんだよ。大丈夫か?」
城間「・・・まぁ、大丈夫でしょう。今のところは。」
僕は当然拒否れる文言を加えて伝えた。でもそれを聞いてセキさんの表情が笑顔に変わった。
小関「おお、そうか。よし、頼むぜ。」
城間「ただしもっと詳細がいる。そしてギャラの方も。」
小関「もちろん!まだ進行中なんでな。更に絞り込んでいくから。任せろよ。」
そう言ったセキさんの表情は穏やかだったが、逆に僕は厳しい表情をした。
城間「一応、今のところですよ。どうなるかはわかりませんからね。」
小関「わかってる。じゃあまたな。すまんな、休憩中に。」
そしてセキさんは立ち上がって、僕の前から去って行った。この後僕もスマホを取り出して、依頼されたイベントの内容を確認した。と同時に昼飯のパンを食べながら。
東京など首都圏では、各団体・各業界・ごく個人的なものも含めて、様々なイベントが行われる。そしてそのイベントでしか、手に入れる事が出来ないグッズがある。そのイベントのテーマになっている媒体の、熱烈なファンとしてはそのグッズが欲しくて、わざわざそのイベントに、ここ東京にやって来る。また、それでもそのイベントにどうしても行けないファンも必ずやいる訳で、そんな行きたくても行けない、買いたくても買えないファンの人たちの為に、僕たちが代わってそのイベントに行って、その欲しいグッズを手に入れる活動をしている。
この活動を世間的には《転売ヤー》って言われて、悪い印象を持たれてしまうけど、僕たちには信念とポリシーがあって、あくまで依頼が先に来る。売れるからと言って闇雲に活動し、買えるだけ買って広く販売はしない。その依頼したファンとしっかり交渉して、それを引き受けた後動き出す。僕たちは依頼されて活動し、そしてその依頼者にだけ販売するのだ。それを僕たちは《転売ヤー》ではなくて、《ノベルティーハンター》、略して《ノベハン》と名付けて、卑屈になる事なく今日活動しているのである。