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ボーイとガールがミートして  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
LOG2
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九月二十日 その一

別に予定していたわけではないのだが、発情期ネタがクリスマスと被ったのには思わず笑いを禁じ得なかった。

決して後付け設定ではない。

九月二十日。


こんな会話の翌日、私は神野さんが死にそうな顔で登校してきたのを目撃しました。

瞳も話しかけづらそうにしているので、ここは私が行ってみようと考え、彼にこう声をかけてみたんです。


「神野さん、死にそうな顔をしてますね! 昨日結さんに十発くらい絞られたんですか!?」


実に下品な会話です。私はそういうのオープンなタイプですが、瞳では絶対出来ない会話ですね。


「君本当に女子高生か?」


「それあなたが言いますか? 頭脳は大人、体も大人、肩書だけ高校生のあなたが」


「実は昨日、あのあと家に帰ったんだ。借りてるマンションは、多分君も知ってるところだ」


「あそこですね。ええ、知ってますけど」


私は中学一年生から受験してこの高校の中等部に入学。

普通に卒業さえできれば大学まで一直線なわけですが、住んでるのは東京の叔父夫婦の家ですからもう第二の実家みたいなものです。

その家からわずか徒歩数分。そのマンションはありました。まさかあの神野財閥会長夫妻らが住んでいるとは誰も思わないでしょうね。


マンションは、一ヘクタールもの敷地に五万世帯が住む化け物マンション。

しかも家賃のファミリー割引があるので、ファミリー層が殆ど。

人口は二十万人を超えます。家賃は最上階でも二十万円くらいらしいです。

会長や結さんはあまり高い生活水準を好みません。

持ってる資産の額が桁違い過ぎて二十万円の家賃ぐらい安く感じますね。


敷地内には立体駐車場のほかにも、コンビニと薬局と幼稚園が存在。

歯医者まであります。家賃二十万円もいくらかファミリー割引で少なくなるのと、利便性が極めて高いので常に人で一杯だそうです。

瞳に教えてもらいました。子供をもつ予定のない私たちにはどうせファミリー割引など縁のない話ですね。


「帰ったら珍しく会長が居て、その会長の娘もいたんだ。真夏と夏樹、がね。

僕はせっかく父親がいるんだし、あえて父親面をする気もなかったから半ば無視したんだが……」


「だが?」


「うっかり夏樹ちゃんが僕をパパと呼んじゃってさ。そのあとは地獄だった。

それを聞き付けた真夏は僕を問い詰めてくるし、イザナさんと別居状態なのもツッコまれるし……」


「ああ、イザナさんの夫だって紹介してましたからね……」


「しかも一番状況ややこしくする人も入ってきて……」


「状況ややこしくする人というと、十中八九結さんですか」


「ああ。というわけで僕は娘に全部正体がバレたってわけだ。

確かに、同じ時代に高校生の父親がどこかにいるはずだとあの娘も疑ってはいたらしいけどね」


「だから、そこまで暗い顔してるんです?」


「いや……事情がわかった真夏は納得してくれて、お互い気まずいし近づかない事を約束してくれた。

あの娘は母親を愛してるけど、僕が欠かさず毎週大阪に会いに行ってて仲もいいのを知ると悪い顔はしなかったし……」


「まあそうですよね。考えてみると常に会ってますよね二人……」


「子供が関わらなければ僕らは別に仲が悪いって訳でもない、いやむしろ大の仲良しだと思うよ?

彼女の妹が嫉妬するぐらいにはね。しかし問題は……」


「結さん、何か妙な事でも言ったんですか?」


「それが、僕と結さんは同じ学校で青春するとか、今日は僕の部屋で泊まるとか、そういう引っかき回すような事をわざと言ったんだ。

会長が真夏にデレデレするのを快く思わなかったらしい。

何しろあの娘は会長との海外旅行に頻繁に同行するから」


「……でも泊まったんですよね?」


「ああ。さっきマンションのファサードで小学校に行く夏樹ちゃんと目があった。

軽蔑したような顔をしてたよ。多分朝帰りした結さんが何か言ったらしい」


「軽蔑されるようなことをしたのでは?」


「でもしょうがないだろ……結さんは僕のせいで寂しい思いをしてるようなものなのに。

例えば君、瞳がうっかり人のものを壊したりしたら自分が責任取ろうと思うだろ?」


「それは……まあ……」


「でも何で夏樹ちゃんは、自分の母親と父親が当然する行為をしてるだけで嫌がるのかな……?」


神野さんはわかっていないようなので、私がわかりやすく説明しました。


「それはあなたが大阪に恋人がいるはずだ、と夏樹ちゃんも考えてるからじゃないですか?」


「そうは教えてないし、そもそもあの娘と恋人ではないけど……」


「夏樹ちゃんには関係ありませんよ。それよりどうしても私、言わなきゃならないことがありまして……」


「何か用でも?」


「神野さん、実は昨日私に須田さんから連絡があったんですよ」


「内容は?」


「それがですね。神野さん、我々生徒会の生誕を祝してパーティーをしないかという話になったんです。

須田さんは直接神野さんに頼みにくいとのことでこうして私に……」


「予算は?」


「三兆円ぐらいかけたいんだそうですが」


須田さんの冗談にも程がある提案にも、基本的にボケるという事を知らない神野さんは真面目に対応します。

先日の大喜利大会でも微妙な結果に終わったように、神野さんはギャグは不得意でした。


「三兆円ね……逆にどうやったら五人で三兆円も使えるんだか見当もつかないな」


「ですよね……」


「三億円くらいなら何とかなるかも……」


「いやならないでしょう」


神野さんの言うことなので、全く冗談には思えないのが怖いところです。

神野さんは、冷静沈着に三億円パーティーの計画を話します。


「場所は?」


「神野さんが決めてくださいよ」


「じゃあ結さんにも相談しよう。鏑木さん、生徒会のことでちょっと」


「はいはいー!」


学校では、何の変哲もない普通の少女をあえて演じている結さん。

既に登校してきていて、教室にも座っていた事に私も気づかなかったほど存在感を消してます。

いつ転校や欠席してもいいように、ということでしょうね多分。

本来の性格のまま自由に振る舞ったら一生忘れてもらえないところです。


「鏑木さん。今度須田さん生徒会長就任おめでとうパーティーをすることになったんですが……」


「人数は四人?」


「多分……須田さんのことだし、希望があれば遠慮なく言うと思う。予算は三億円」


「たったの?」


となるのが結さんの怖いところです。未成年なのでお酒も飲めませんし大量の人を呼ぶこともないとなると、三億円など使えるはずもありません。

しかし結さんはそれでもなお、お金を使う気満々です。


「春雪さんはもう既に三十六個の企業の社長じゃないの?

予算も使い放題。三億円どころか何百億使っても……」


「企業の経営や汚職の監視などをするため社長の任を引き受けただけで、株式までもらった覚えはありませんよ。

でもまあ、パーティーですからそれなりに盛大にやります。

超音速ジェットを飛ばしてアドリア海を望みながら北イタリアでパーティーというのは?

もちろん日帰りで日本まで帰ります。朝帰りは生徒の模範たる生徒会役員にふさわしくないですからね」


「日帰りでイタリアとは大胆な。ゆいさ……じゃなくて鏑木さん。

超音速ジェットってどのくらいお金がかかるんです?」


「一往復で数千万円くらいかな? 燃料代にガレージでの預かり料、添乗員とパイロットの人件費も相当かかるから」


神野さんがこち亀の中川じみて来ているのは気になるところですが、私はパーティーの話を中断します。


「須田さんも冗談でしょう。大きなパーティーより皆で何かした思い出を大切にするタイプだと思いますし。

それより、ぶっちゃけ二人は肉体関係あるんですか?」


「春雪さん、昨日のこと話してないのん?」


「話しましたって。もちろん関係はあるよ。それがどうかした?」


「いや別に……ただ瞳には絶対言えない事だな、と思いまして。

私はそんな経験ないんですが朝帰りってどんな気分なんです?」


「えーとね、今朝は帰りたくない……って思ったわ、ハッキリ言って。

でもふと、朝ごはん作ってくれてる春雪さんの音がキッチンの方から寝室まで聞こえてきて気づいたのよ。

あそっか、学校でも会えるやん! というわけで家に帰ったところ、娘にすごい顔をされました!」


「そりゃされますって……それに神野さんも、ご飯作ってあげるなんて本当の恋人みたいじゃないですか!」


「会長は忙しくて絶対そんなことしてないだろうから、と思ってね。

それに習慣になってるんだ。大切な人にご飯作るのは」


「なるほど。でも結さんが仕事さぼって若い方の神野さんとイチャつく度に、会長はますます仕事が増えて会えなくなりますよ?」


「もういいの! (あて)はこう見えてひどく冷酷な性格やの!

(あて)を愛して、傍におってくれる人が一番大切に決まってるやん!」


「結さん素が出てますよ」


と言っているところへガラリと教室のドアが開く音がしたかと思うと、振り返れば入口に夏樹くんがいてこっちを見てました。

彼は無言かつ無表情で近づいてきて、苦々しげに結さん達を見下ろして言いました。


「父さん、僕の身にもなってよ。同じ名前の女の子に愚痴られる僕の身にも」


「元はと言えば父親をタイムスリップさせて結さんとくっつけたお前が悪い」


「まさかくっつくとは……いや、そうじゃなくて……」


「そもそも、こうでもしなかったらお前に手を出すところだった。

結さんはお前を守ってくれたんだ。違うか?」


「ぐ、そ、それは……」


実の父と息子ですから、結さんなんかに手を出してまで我慢するくらいならいっそのこと僕を抱いてほしかったなどとは言えないのが人情というものです。

夏樹くんがそれを言いたいことも神野さんはわかってますが、ここは我慢です。


「夏樹くん。今は須田さんを呼んで来てください」


「わかった」


夏樹くんは渋々ながらも須田さんを探しに行ってくれました。

ややあって、二人は戻ってきました。


「ああ佐々木さん! 私の冗談本気にしたの? 三兆円のパーティーとかいいのに……」


腹立つー! 腹立ちますよこの人。知ってましたけど、やっぱ常識のない人です。


「この際ですからやりましょう。予算は三万円くらいで」


「三億円でもよかったんだよ?」


と冗談混じりに鏑木さんが言いますけど、これは無視します。


「お金の問題じゃないでしょう。この五人で祝った、それが重要なんです。

だから須田会長、パーティーの詳細をここで発表してください!」


「じゃあ神野家でやろう? 会長おめでとうパーティーをっ!」


「小規模なホームパーティーですか。イタリア行っても良かったですけど、まあそれで」


今日は学校から帰るとすぐ全員で神野家の、例のマンションへ集合する手筈になりました。

家に帰ってお風呂に入って髪を乾かし、後は適当な服で。

モードの名前の通り最新ファッションのよく似合う私ですが、たかが近所への外出ですし、まだ暑い九月ということもあって涼しさと気安さを重視。

ティーシャツにホットパンツというアメリカンスタイルで出陣します。


神野家、というか神野春雪さんの借りてるマンションの一室に入ると、神野さんは畏まって、リビングの食卓についていました。

私は彼のプライベート姿を見たことはなかったのですが、なんと上半身は裸、下はパンツのみでした。

牛のように筋肉質な体。彼、前に言っていたのですが異様に筋肉のつきやすい体質だそうです。


日常のちょっとしたことで筋肉は発達してしまい、今まで体を鍛えようと思ったことはないとか。


「やあいらっしゃい。今料理の仕込みしてるとこだから」


「どうも。私が一番乗りですか?」


「楽しみにしてたの?」


「時間に几帳面なだけです。今は何を?」


「ビーフシチュー。牛の神様の子孫の僕が、と笑うか?」


「人に自分の食べるものを押し付けないのは良いことだと思いますよ?」


と言いつつ神野さんの向かい側に座ると、彼は逆に立ち上がって、冷蔵庫から紙パックの紅茶を取りだし、アイスティーにして出してくれました。

そして再びさっきの椅子に座り、続けます。


「君との会話はストレスがなくていい。正直で、素直で、論理的で君の性格がよく出ている」


「私もですよ。世の中の男性で、私はあなたが二番目には好きです」


「実の父親以上とは、恐縮するね」


もちろん一番はトントンですよ。


「益々思う。これは瞳には秘密だけど、過去を見る目が君にあれば良かったのにと、僕は正直思う。

最初に会ったのが君だったなら今の僕はどんなに気が楽か」


「確かに、私なら瞳とは違って公私混同はしないですね。

あなたに恋なんてしませんし、子宮を人質にするとかみっともないこともしません。

でもあれは良いアイデアでしたね。私も子宮ドナーになる、などと言い出したらトントンが泣くので止しておきますけど」


「そうだね」


「で、今まであえて言わなかったですけど、ここに結さんいますよね?」


神野さんが牛を調理するとは到底ありえません。結さんの仕業でしょう。

玄関に女性物の靴はなかったものの、結さんは衣服さえ能力で作り出せてしまうので、靴はあてにはなりません。

そもそも、神野さんがパンツ一丁なのもおかしいですし、もっと言えば、昨晩初めて結ばれたばかりの男女がわずかな二人だけの時間を利用しないとも考えにくいからでした。


「さっきまでここで変なことしてたからそんな格好なんじゃないですか?」


「言いがかりはよせっ! パンツ一丁は我々の伝統的な家での過ごし方だ!」


「そっちこそ嘘つかないでください!」


そう言った瞬間にドアが開き、奥の寝室からブラとパンツだけというお手本みたいな下着姿の結さんが。

しかも、ゾンビのようにフラフラとして足元もおぼつきません。


「おおー、佐々木さんいらっしゃい! 今日はゆっくりしれ行くんよ?」


古い関西弁な上に酔って呂律が回っておらず、とりあえず聞き取れたのは上だけです。

というのも、これは省略した要約に過ぎず、聞き取れなかった部分を含めるともっと喋っていました。


「やれやれ。あんま飲めないから飲むなと言ったのにな……」


と神野さんが言っていると、フラフラと千鳥足で神野さんのところへ結さんが酔ってきて「ぐへへ、春雪さーん」などと言って抱きつきました。


「もーなんれ同じだけ飲んらのに酔ってへんのんー?」


「結さんが残した分の赤ワインはシチューに使いましたよ」


「え、そうやっらっけ? 覚えてへんのよ……」


もう完全な泥酔状態。目は赤く充血して涙目。

顔も火照ってお風呂上がりみたいです。意識が本当にあるのかさえ不明です。


「昨日もそんな目をしてた……さ、ほらお水飲んで……」


パンツ一丁の神野さんが結さんを介抱し、とりあえず須田さんの訪問ももうすぐなので、席に座らせます。


「昨日もって……お酒飲んでたんですか?」


「昨日は僕も飲んじゃったよ。お酒入ると理性のタガが外れちゃうね。

つい手を出してしまった。もう人のいるところでは絶対飲まない」


「馬鹿ですね……」


「なまじ記憶は失ってないからな……僕だけ飲んだから向こうもしっかり記憶あるし」


ということは、神野さんは昨日、シラフの結さんと一夜を共にしたという話です。

女同士の猥談での話故、私は知らないのですが、女性は男性との事後、及び最中に目が赤く滲んで涙目になってくるそうです。

決して痛いからとか感動して泣いているとかではなく、寒いと鳥肌が立つのと同じく普通に生理的な現象のようです。


神野さんが昨日も酔っている時と同じ目をしていたというのはそういうことらしいです。

私は噂だと思っていたその話が事実なのだ、と考えるようになりました。

どの道私には全く縁のない話ですが。


「ていうか須田さんにはどう説明しましょうか、この人のこと」


「まあ結さんのことは須田さんも知ってるからいいだろう……」


「あ、そうでしたね。他人の本音が聞こえる難儀な能力ですもんね!」


と言っていると噂の須田さん、それに彼女を連れて夏樹くんも部屋に入ってきました。

非常に驚いた事に、何と夏樹くんはノーブラでワイシャツにパンツだけという結さんと同じスタイルで入ってきました。

ブラはしない、と断言していた彼ですが、さすがに胸丸出しはまずいと思ったのかシャツは最低限着てきていました。

何故シャツ着ているのに下着の有無がわかったか……は言うまでもないですね。


神野家やその種族は家では半裸で過ごすというのは、あながち嘘ではないかもしれません。

そんな習慣だからついうっかり近親の裸に劣情を催すのかも?

あるいは、家族の裸など見慣れてしまってあまり興奮しないので、それで何とか乱交的な近親相姦にならないようセーブしているのかも知れません。


「おお夏樹、須田さんもようこそ。僕の格好はどうか気にしないでくれ」


と爽やかな笑顔で言う神野さんの本音を須田さんが引き出します。


「俺の息子の格好、イヤらし過ぎだろ……胸とかほとんど透けてんじゃん、事後かよ。

抱きたい。と、神野くん考えてるね!?」


「言い掛かりだ、夏樹も何とか言ってくれ!」


しかし結さんと一線を越えたばかりか、彼女を愛してやまない、といった態度をとる神野さんに対して既に今朝から怒りモードであるのが夏樹くんですから、助け舟は出してくれません。


「事後はどっちだよ? 性欲発散に女抱いても僕に興奮するなんて、性欲強すぎない?」


「違う、僕の性欲は正常だ! 誰でもこのくらいは我慢してるんだって!」


「うーん、少し思ったんですが……」


ここで、半ば夢うつつの結さん、人を困らせて楽しんでる須田さん、怒った夏樹くん、そして弱り切った神野さんの前で私はある仮説を堂々と建てます。


「思うんですけど、もしかして神野家の人って発情期があるんですかね……?」


「何を言ってる!? 名誉毀損で訴えるぞ!」


「須田さん、私は双子の姉の瞳が集めたログを読んでるんですよ。

それによると神野さんは、去年の秋頃に妹とうっかり一線を越えたみたいなんですよ」


「ははぁ、なるほど?」


「で、神野家の人ってなぜか夏樹という名前の人が四人もいるんですよ。

まあつまり、夏に生まれた子供が四人いるわけですが……そのおよそ十ヶ月前に遡ると?」


「七月引く十月だから……七月生まれなら九月ごろ、八月なら十月ごろに妊娠した……?」


「ええ。何故か夏生まれが多いんですよ。秋に妊娠したってことです。

熊などのように実りの秋に食料をいっぱい食べて冬眠する動物もいます。

神野家の人も、恐らくは実りの秋に食べて子供も作って、夏に産むライフスタイルなんじゃないでしょうか?」


「うーん、それ以外の子供は無性生殖?」


念のため言っておきますが、須田さんは人の心を読み、私が知らせていない情報すら知ることが可能です。

神野さん達は当たり前のように無性生殖するという事実を受け入れています。


「とは限りませんけど、冬や春生まれはそんなにいませんね。

さっき言った神野さんの妹も秋生まれだそうです。

クリスマスに拾われて、看護師もやってたお母さんの見立てでは首の据わりはじめた生後三ヶ月くらいだったそうです。

神野春雪さんのように春生まれは珍しいので春の名前がついたのかもしれませんね。

それに春生まれは日本社会においては早生まれといって不利ですし……」


それにしては、日本のトップである会長が三月生まれは不利だという点を一向に直しませんけど。

海外では、あまり極端な生まれのタイミングだと通う学年をずらせるらしいですね。


「もしかすると親は四月上旬生まれの遅生まれに産んであげようと思って子供作ったのかな?」


「そうかもですね。神野さんは三月二十六日生まれの極端な早生まれになりましたけど……」


「ちょっとちょっと、僕らを置いて何を失礼な事を言ってんの!?」


私たちの非常に失礼な発情期談義に夏樹くんが食ってかかってきます。


「じゃあ何か? 僕の両親は秋に発情したから妊娠したとでも?」


「そ、そうは言ってないですけど、でもそうじゃないですか。人間は違いますよ?

人間は一年中発情期ですから、私は神野家の人たちの方が清潔だと思いますが……」


「九月か。人間の発情期は確かクリスマス頃だっけ?」


「日本人だけですよそれは……」


「まあいずれにせよ、確かに言われて見れば思い当たる節が結構ある。

ここ最近やたら女の胸に目が行きがちでさ……普段は性欲解消なんて全くしなくても平気なんだけど」


確かに。神野さんは普段、嫌というほど女にモテています。

学校にファンクラブがありますし、主婦を中心に料理教室で料理を教えてるそうなのですが、奥様を少しでも一人だけ特別に扱ったら大変なイジメが起きるかも知れないと危惧し、気を遣って大変だと漏らしていたようです。

なのに、女性関係は潔癖そのもの。あと、一つ根拠らしい根拠をこのログを書いていて発見しました。


七夕です。七月七日に、恋人が一年に一度だけ会える日です。


七夕というのは実は旧暦七月七日なのであり、いわゆるグレゴリオ暦を使う現代の七月七日とはズレが生じるようです。

現代では晩夏ごろになることが多い模様。

このくらいの時期から、多分繁殖期がはじまる物と思われます。


「僕らの種族の研究者としても権威の結さんがこのザマだからなぁ……本当かどうか……」


結さんは机に突っ伏してよだれを垂らし、意識も朦朧としているようでした。


「うふ……春雪さん……よかった……ね……」


幸せそうに笑う結さんの真意を、神野さんは解説してくれました。

須田さんは意識のない人の心は読めないらしいです。


「僕は……正直息子と同じ学校に行くかどうかは迷っていたんだ。

仕事もあるし、僕にはやるべき事が多すぎる。

でも結さんは青春は一度しかないから楽しんでこいって背中を押してくれた。

今日は学校のみんなとパーティー。それが嬉しくて結さんは飲んだらしい」


「本当に愛してるんですねあなたのこと……起きるまで待ちましょうか?」


「イヤ、その必要はらいよ!」


まだ呂律の回ってない結さんですが話は聞こえていたらしく、立ち上がって来ました。

すると今まで大人しくしていた須田さんが俄然元気になってきます。


「よし、じゃあ一発目は大喜利しましょう! 夏樹くん、こちら私の問題集です!」


「あ、はい……」


メモ帳をうけとった夏樹くんは、泥酔状態の結さんにも構わず、早速大喜利へと移っていきます。


「えー、結さんは泥酔してますので、逆に型破りな発想をしてくれるかも。

では問題です。あっ、この医者ダメだな。あなたは何故そう思ったのでしょうか?」


「はい」


神野さんは毎度の事ですが即断即決、答えには自信があるようです。


「はい父さん」


「えー、白衣に黒い星があしらわれている!」


「なるほど。何人も殺してそうな医者ですね」


「はい!」


「はい須田さん?」


「えー、アル中で手が震えている!」


「嫌な医者だなー! 飲んでても飲んでなくても手術してほしくない!

これは父さんより点数高いですよ、座布団一枚!」


司会者兼、審査員を突然任されたにしては、夏樹くんは完璧に近い手際で進行していきます。

私が考えている間に次は注目の結さんの回答でした。


「はい結さん?」


「ちんちん出してる」


これがどうやら、限界まで酔った結さんに出来る最大限の回答でした。

下ネタはスルーされ、次は神野さんが答えます。


「メスをペロペロしている!」


「何か品のないジョークにも聞こえましたが……あ、結さん起きた?」


「ん? (あて)はずっと起きてるって!」


「……えっと、聞きたいんですけど、僕らっていわゆる発情期とかあるんですか?」


夏樹くんが顔を真っ赤に染めて恥ずかしがりながら質問すると、神野家研究の権威である結さんはあっけらかんとして答えました。


「うん。男も女も、普段は人間で言う五歳の女の子ぐらいの性欲しかないわ。

要するに全くないと言っていいのよ。でも一年に秋の三ヶ月くらいの間だけ人間並になるわよ」


「全く無いんですか……須田さん、どう思います?」


「どうって佐々木さん……発情期でもやっと人間並なんだね……」


「春雪さんは確かに、親が計画的に遅生まれにしようとしたのやけど、うっかり早生まれにしちゃったみたいね。

他にもイザナは冬生まれよ。ただ、この子は特殊な例よね」


「……あ、もしかして!?」


「多分佐々木さんの思ってる通り。イザナの母親、四宮紬(しのみやつむぎ)が無性生殖で産んだ子よ。

せやから遺伝子は全く一緒。母親にとっては好きな男の子供でもなかった。

そのことが育児放棄に繋がったと思う……まあ想像でしかないけど」


「当然、結さんの娘の夏樹ちゃんもそうですよね?」


「え? うんまあ、多分……それで?」


「あ、いえ別に。確認したかっただけなので……パーティー続けましょうか?」


「気をつけなさいよ女の子達。今の春雪さんは普通の男並には性欲があるわ。

あんまり遅くなるといくら春雪さんが草食動物でも、食われるかもよ?」


「草食ってそういう意味でしたか……確かに、食べるものも草食でしたね神野さんは?」


「悪かったな草食で。心配しなくても子供には手は出さないよ。

二十時までには家に帰ってもらうからね、二人とも」


「どうだか。十二歳になったばかりの妹に手を出したくらいですからね……」


「だからそれは反省してるって……あの時は僕もまだ若かった。

そもそもさっきからここ下ネタ多過ぎないか!?

せっかくパーティーしようって時に何だこれは……」


「うーん。二十時ってもうすぐそこですよね……」


私は家に帰ってお風呂入って髪を乾かし、十八時半頃にここに来ました。

それから三十分くらい経過しており、あとビーフシチュー食べたらもうお開きの時間です。


この直後ビーフシチューを食べたのですが案の定神野さんは食べませんでした。

皆と合わせる協調性が無いわけではないですが、食生活まで合わせる気は毛頭ない様子。

意外な事に結さんも神野さんと一緒で全然私たちとは違うご飯です。


言うまでもなく、夏樹くんもお父さんに合わせているわけですが、ご飯の件で私と須田さんは共同戦線を張って、草食な三人に抗議します。


「ちょっとちょっと、ビーフシチューよりそっちのご飯の方が断然美味しそうなんですけど!?」


「そうだそうだ、良いものばっか食べやがってブルジョワめ!」


「そっちは肉入り。黒毛和牛のいいのを使ってる。

こっちは肉類はゼロだ。どっちが豪華か言うまでもないだろう?」


いけしゃあしゃあとよく言えた物ですが、多分お互いの皿の値段は変わらないと思います。

神野さんが結さん達と食している料理は以下のようなものでした。


まずキャベツとアーティチョークを薄くスライスしサッと茹でたシンプルなサラダ。

少し分けてもらった感想を言うと、キャベツはフルーツのように甘く、それにアーティチョークの苦味がマッチしていて、高級ホテルなんかでも出せそうな味でした。

アーティチョークという素材を使いこなせるだけでもただ者ではありません。


次に、ホタテ貝柱とウニをポワレし、瀬戸内海苔のソースで味付けした料理。

これはどうやら淡路島のホテルで神野さんが食べてたのと同じやつのようです。

少し分けてもらいましたが、純国産の素材で和風に仕上げながらも、いますぐパリで店を出せるような国際レベルの美味でした。

ウニとホタテという高級な食材に意外なほど負けないのが海苔の豊かな風味と旨味で、確かに一皿三千円も納得です。


メインディッシュはマツタケと白トリュフ、高級キノコのパイ生地包み。

中にはジャガ芋をすり下ろして裏ごししたものと、ミルポワを丁寧にスュエしたものを赤ワインやビネガーと一緒に煮詰めたソースを注ぎ込んであります。

と、説明されたのですが料理はさっぱりの私ですから、よくわかりません。

ただ、口に入れた瞬間にジャガ芋をふんだんに使ったソースがねっとりと舌に絡み付きながらも、二種類の高級キノコの旨味と風味がその場を支配し、一瞬意識がどこか遠くへ持って行かれるかと思いました。


「美味い、なんという美味さですか神野さん!」


「それも原価だけで一皿三千円。食べたら帰った方がいい。あと、お代は必要ない」


「胃袋と脳を同時にわし掴まれたような美味しさ……こんなに美味しい物を毎日!?」


「確か須田さんは横浜のプロ野球選手の娘だよね?

大金持ちの家なのに、この程度の料理で満足できるの?」


「この程度って、謙遜にも限度があるって神野くん!」


「いや謙遜じゃないよ。やっぱり同じ高級食材でもキャビアにフォアグラ、チーズ、卵、そして肉。

動物性のを入れてる方が美味しいはずだ。うちで出す料理には、ほぼ入ってないからね」


「原価の暴力! 肉なしでも十分過ぎるほど美味しいよ?」


「どうも。そろそろ二十時を回る。お家に帰った方がいい。気をつけてね。

よかったら家まで送ろうか? 須田さんは神奈川から学校通ってるって聞いたけど?」


だそうです。往復一時間以上の通学路を車で送迎してもらっている模様。


「ああ別に別に! 車はちゃんと迎えに来る予定だから……神野くんは佐々木さんを。

彼女を送ってあげてください。これは会長命令、絶対服従だよ?」


「いや家すぐそこですよ……」


との反論は最初から言わなかったかのようにかき消えました。


「わかった。夏樹、今日は一人で寝ろ。発情期だから僕はお前に何かしないとも限らない」


「はいはい。父さんも佐々木家へ行ってうっかり鉢合わせた瞳さんに手とか出すなよ?」


「約束は出来ないな……向こうの出方次第だ。じゃあ行こうか?」


私は返事もせず、家を出ると既に見えている一軒家の方角へ歩きだしました。

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