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ボーイとガールがミートして  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
LOG2
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九月十九日



九月十九日。


どーも、モードです。瞳が元気ないのでログを読んだところ、色々とわかってきました。

つまりは神野さんと一年間同じ生徒会でキャッキャウフフしたかったんですよね。

その執念深さと諦めの悪さには敬意すら表しますが、私としては生徒会選挙で負けるわけには参りません。


私には野望があるのです。私は同性愛者だってトントンや家族にはもうカミングアウト済みですし、学校でも公言しています。

だからそうだというわけじゃないんですが、私は男性が嫌いです。


殺人事件は男が女を殺す場合が圧倒的に多く、その次が男を男が殺す場合です。

戦争などしていた時代なら、前者と後者は逆だったかも知れませんが、女による殺人とは桁違いに多いことではいつの時代も変わらないでしょう。


でも私が男の次に嫌いなのは男に頼らずに生きていくつもりのない女ですよ。

まあ名前は出しませんが、私の身近にも結構ちらほらと、そういうタイプはいます。

私はそういう女性にムシズが走るのですが、男が居なければそれも見ずに済む話。


私は生徒会長としてのある権限を行使するべく行動を起こした次第です。

その権限とは私立学校であるこの学校故の、校長でさえ逆らえない自治権。

この学校では校是により、生徒の意思による自治は、神野・四宮一族などめっちゃ偉い人が出てこない限りは尊重される決まりです。


そう、私はこの学校を女子校に生まれ変わらせるべく生徒会長への立候補をした次第です。

会長になりさえすればメンバーは自分で決められます。

瞳は神野さんと一緒にやりたいようですが、それは諦めてもらって、おまけして夏樹くんと一緒に生徒会をやらせます。

それなら神野春雪さんとの接点も辛うじて維持できて瞳も渋々受け入れるかと。


私は月曜日登校すると、候補者演説へ早速向かいます。

創立記念日である今日は丸一日使って候補者演説と投票を行い、お昼にはみんな帰ります。

国の選挙とは違い、無投票などありません。

この選挙で選ばれる生徒会長は自分たちの学園生活に直結するわけですから、みんな真剣そのもの。


ここで候補者達の公約などを振り返ってみましょう。


まず私、佐々木望は学校の女子校化、校長や教員全員の女性化などを求める公約です。

もちろん男子の使う様々な器具、部屋などは全て改装・買い替えの上女子のものに。

不可能ではないでしょう。男子は同じ神野財閥系の学校に入れればいいです。


次に岡本さんに本命と称された人が一年で風紀委員長に選ばれた岡田さんです。

この学校におけるあまりにゆるい校則を憂いている立派な好青年。

彼の公約はピアスや染髪、カラーコンタクト、女子が顔に施しているメイクなどの禁止でした。

神野春雪さんなど、牛は牛らしく耳にピアスをしており髪の毛もブリーチしたように真っ白なので、極端にチャラい印象を受けます。

私も地毛は黒なのに金髪に染めてますし耳のピアスも普通にしてますから、岡田さんは私の敵ですね。


次に須田さんでした。須田さんの登場は非常に久しぶりなのでここでちょっとトントンには改めて説明しておきます。

須田さんは心臓の弱い女の子で、彼女には「動物と話せる能力」があります。

しかし、それが本当かどうかは全くわかりません。単なる不思議ちゃんかも?

成績もよく、真面目な女の子が実は動物と話せる能力がある、と恥ずかしがりながら言うんだったら信じます。

でも須田さんは最初から一貫して不思議ちゃんでフワフワした印象のある、ちょっとあざといとさえ感じるタイプの人なので、動物と話せるのかどうか眉唾ものです。


その須田さんは何を思ったか、突然生徒会への立候補を宣言。

公約は、校内に動物小屋を作り、世話係は持ち回りで行うという、わりかしちゃんとした提案でした。

動物、特に犬などと触れ合う事で医学的にみてもストレスが解消されることは有名ですし、我々子供の情操教育にも良い影響があるはずです。

他者をかわいがり、慈しみ、世話をする事を教えるには犬など最適ですからね。


岡本さんは岡田さん推しだったようですが、須田さんは相当な人気を集めかねません。

一つ懸念材料なのは、須田さん本人に生徒会長の器があるかどうか、と有権者に思われていることですが。


最後に紹介する人ですが、私が張り出された選挙ポスターを見ながら固まっていると、その彼が後ろから声をかけてきました。


「かっこよく写ってるかな?」


「……あなたが立候補するとは、少し意外でしたが」


神野春雪さんでした。彼はあっさりと私に事情を説明してくれました。


「誰だか知らないが、僕の申請書を勝手に提出してたみたいだ。

僕は特に生徒会に興味はないんだけどね……」


「じゃあ今からでも辞退されては?」


「いや、でも息子と一緒に何か部活したい気もするからね」


「でも神野さん、誰かが勝手に提出したなどと言ってますけど一人しかいないでしょう。

あの人ですよ。九月一日、あの日にあなたと一緒に転校してきた人」


「鏑木芽衣子のこと? 何か知ってるの?」


鏑木芽衣子(かぶらぎめいこ)。二学期初めに転校してきた神野さんと同じタイミングのもう一人の転校生。

女子です。そこそこの身長、覚えにくい普通な顔、目立たない性格、平均的な成績。

これといってつかみどころのない、そして特徴のない女子生徒でした。


「神野さん鏑木さんのこと知らないんですか?」


「何が言いたい? あんまり喋ったこともないしよく知らないよ」


「あ……そうですか? 私はてっきり神野家関連の人かと」


「見たことないな。しかし須田さん立候補してるね。

動物小屋か……どこかの誰かさんの公約とは違ってトゲトゲしさはなくてほほえましい事だね」


「私の事言ってるんですか?」


「別にそうは言ってないけど……」


と神野さんは半笑いで答えました。


「それを言うならあなたの公約も馬鹿げていると思いますが……」


神野さんの掲げている公約は以下のようなものでした。

彼が生徒会長になったあかつきには、予算の大幅増を約束。

学食に有名店で修業した本職コックを雇い、プロがデザインしたオシャレで高級な制服が無料で支給されるとのこと。

いかにも女子生徒の心をくすぐるようなエサですね。


「またわかりやすくエサで釣る公約ですね……王の中の王だか知らないですけど、そんなに権力振りかざしたいんですか?」


「うーんでも確かにこれは内部の犯行だな。僕が神野家に顔が利くことを知っている誰かが勝手に公約を書いたのか」


「でしょう? でも夏樹くんはそういうことするタイプじゃないですし。

となると犯人は鏑木さんしかいないじゃないですか?」


「でもまあ、有権者がそれを求めているんならやるよ。

ただし政治家の素質とは、国民が求めていない政策をいかに出来るかだけどね……」


「いやなに生徒会選挙程度のことで政治がどうとか言ってるんですか……」


「君だって生徒会選挙程度のことで学校を根本から変えようとしてるじゃないか。

心配しなくても、僕がもし君に負けたならここを女子校にしてここを去る。

僕は夏樹と一緒に男子校にでも転校するよ」


「夏樹くんが男子校はダメでしょ! 大切な息子が盛りのついた猿に犯されますよ!」


「口が悪いな。心配しなくてもあいつは無敵だから、何十人の男に囲まれようと平気だよ」


まあ要するに、選挙に負ける気はしないと言いたいのでしょう。


それからしばらくの間は我々は一人一人時間をもらって皆さんの前で演説。

それが終了すると、次は私、須田さん、岡田さん、そして神野さんの四人でのディベートでした。


四人で壇上に上がると、四席がそこに配置されており、司会には前期までの会長、澄谷さんが。


「えー、ご存知澄谷です。こちらに集まりました皆さんは、互いの知力と知力を壇上でぶつけ合ってもらいたいと存じます。

ではまずさっそく私の方から議題を。皆さん!」


「は、はい!」


私たち四人は澄谷さんの突然の大声に萎縮し、飛び上がります。

更に澄谷さんは、誰も全く予期しない事を言い出します。


「時に皆さん。十万円硬貨は金貨ですが、五十銭硬貨は何で出来ていますか?」


「は……?」


私が事態を飲み込めず呆然としているうちにカウントダウンが始まり、更に神野さんが挙手をしました。

早くもこの状況に順応した上で、適切な答えを出せた自信があるようでした。


「はい、神野春雪くん?」


「こちらです」


神野さんが、手元にあったフリップに用意されたマジックで大きく字を書いており、澄谷さんはそれを読み上げます。


「尿路結石……ですか」


恐ろしいほど滑っていました。私は滑りたくない一心で答えを考えますが、問題が難しすぎて答えること叶いません。

そうしている間に須田さんが続いて答えを発表します。


「パイン飴……ふむ」


生徒たちはほんの数名、わずかに笑っていました。私と岡田さんは問題を書くことも出来ず、澄谷さんは次なる問題を出してきます。


「続いての問題です。水泳の百メートル自由型で金メダルをとった選手が、あまりに自由過ぎると物言いがつけられました。

さて、この選手は何故物言いをつけられたでしょうか?」


「はい」


ここもやはり、大喜利には自信満々ですぐ答えを出す神野さんが答えます。

フリップに書かれた神野さんの回答。それが澄谷さんに読み上げられました。


「審査員を買収した。なるほど勝負は水着を着る前から既に始まっているというわけですね……」


相変わらずギャグセンスがない神野さんですが、それよりはわずかにマシな須田さんが答えます。


「はい!」


「金メダルをとったのはマグロだった? なるほど、国籍のない選手のメダルをどう扱うかは揉めますね……」


ほんのわずかにだけウケましたが、聴衆はほとんど無反応です。

試しに私も答えてみました。


「はい」


「えー、他の選手の水着を全部隠した。なるほど論理的な答えですね」


恥ずかしい。一生残るレベルの恥ずかしさでした。何より答えに性格がありありと表れてしまってます。


澄谷さんは第三問も用意していました。


「続いて第三問です。ウガンダ版水戸黄門にありがちなことと言えば?」


時代劇など見ているはずのない私に全く不利な問題でした。

多分瞳なら、トントンに付き合って見ていたと思いますが。


「はい!」


三問連続で、一番最初の解答者は神野さんでした。


「印籠を出すと周囲十キロぐらいの人が全員かしこまる」


聴衆には、小ウケしました。神野さんにしてはよくやった方だと思います。


「はい!」


須田さんと神野さんの一騎打ちの様相を、この謎の大喜利大会は早くも呈し始めました。


「お供にスケさん、カクさん、ウンバボさんがいる」


中ウケしました。私もライバルの回答なのにウンバボさんでちょっと笑ってしまいました。

神野さんの悔しそうな顔といったらありません。勝っても生徒会長になれるわけではないんですが。

会場がちょっと沸いている今がチャンスと感じた私。

今なら多少威力が乏しくてもそれなりの笑いが取れそうでした。


「女性のお色気シーンが川で水浴び」


またも中ウケしました。私にしてはよくやりました。次の問題です。


「サッカーにルールを一つ足して面白くしてください」


次の問題では、須田さんがついに最初に挙手しました。


「はい!」


「須田さんの回答はこちら。全員ミニスカートを履く!」


一瞬だけウケました。大喜利だけでいうなら、我々四人のトップは須田さんでした。

しかし神野さんも負けじと回答に移ります。


「はい!」


「えー、神野くんの回答こちら。ハイヒールでサッカー。被ってるので無効とします」


「すいません……」


確かにミニスカサッカーなど、観てみたい気もします。多分普通のサッカーより面白そうです。

かくして、地獄の大喜利大会は幕を閉じました。別にそれで何かが決まる訳でもないですが。

しかし私と神野さんは数時間後、満面の笑みで体育館の壇上に上がって演説をする須田さんを見るハメになったんですよ。


「あー、えー、私がみんなの新しい会長に選ばれた須田です!

動物達と触れ合えるコーナーを作りたいと思っています!

皆さん是非協力してください。特別に我が家の家族も学校で住んでもらう事になりました!」


さっそく須田さんが持ち出したのは鳥かご。

中にはフクロウがおり、何の躊躇もなくカゴの扉を開けてあげ、フクロウは須田さんの腕をピョンピョンと駆け上がって肩に乗ってしまいました。

「この子も皆と暮らせて嬉しいって言ってます!

ご飯は冷凍ネズミで、必ず私が朝夕にあげますので、皆さんは決して変なものをあげないようにお願いします、それから……」


須田さんの後ろから登場したのは、大きめな犬でした。

長毛種で冬はあったか、夏は一日中涼しいところで寝てそうな犬です。

多分スイスのアルプスの山奥とかスコットランドとか、寒いところでの生活を想定した犬でしょうに、東京暮らしは暑そうです。


「この子は佐衛門四郎(さえもんしろう)と言いまして、前世は江戸城の半蔵門を守る侍でした。

武士ですから我慢強いですが、さすがに小屋にはエアコンを入れてもらいます……」


出ました。須田さんの不思議ちゃんが発動。前世なんてないでしょう。

いや、瞳は前世はあると言うでしょうが、少なくとも生まれ変わりとかはないと思いますよ私は。

だってどうみても犬はパトラッシュ、もしくはヨーゼフって感じの名前なんですよ。

せめて秋田犬だったら佐衛門四郎でもよかったですが。


「しかし須田さんが当選するとは……この学校は動物好きが多いのか……?」


と、落選した私の隣で同じく落選した神野さんがつぶやきました。


「自分が落ちた原因を冷静に分析するのも辛いですけどね。

私が落選したのは過激過ぎたからでしょうが、岡田さんも面白みに欠けて落選したんでしょう」


「じゃあ僕は?」


「男性陣から強烈に不人気なのでは? もちろんあなたはいい人だと思いますよ?

でもそれが伝わるには時間が短すぎたようです。いきなり転校してきて女にモテるあなたは嫌われたんでしょう」


「まあ……若い世代っていうのは、ちょっとだけ男が多いものだからなぁ。

世の中間違ってる。女性の寿命は長くて世の中おばあちゃんばっかりで、若いときは男の方が多いってどうなってるんだ……」


「仕方ないでしょう。人間は戦争ばかりしてきて、歴史上世界のいつどこでも、モテない男は一発逆転で成り上がろうと軍に入隊して、そして死ぬものです。

今の世の中、モテない男も死ぬことはないですからね……だから男が余ってるんですよ!」


「何かそう言われると可哀相になるな。ただでさえ既婚者は税制で優遇させてもらってる。

事実上の独身税とも言える。モテない男に厳しいからなうちの国は……」


「全くそうですよ。モテない男性最後の望みは、成り上がって金を作ってモテる事ですよ!

それなのに何ですか神野さん! あなた世界一の金持ちで美形とか、少しは下々の男性のこと考えたことあるんですか!」


「ナンバーワンになれなくてもいい、元々特別なオンリーワンだからね」


「自分はナンバーワンだと心の中で思ってるくせに!」


「ばれてたか?」


「見ればわかりますよ。至極真っ当な驕りですけど」


神野さんがナンバーワンなのは、全く反論の余地もなくその通りです。

彼が世界一の金持ちで、権力者で、頭脳もルックスも優秀なのは間違いありません。

頭脳などで勝っている人間もいるでしょうが、総合力では人類最強と言っていいでしょう。


まあその割には、彼を見ていても全く幸せそうではないのですが。


「さて、問題は須田生徒会長による組閣がどうなるかだな」


「静聴しましょう」


その直後、タイミングよく須田さんによって内閣の顔ぶれが発表されました。


「えー、それでは私の仕事を補佐する生徒会役員メンバーについて発表します。

副会長に私が任命したいのは神野春雪さんですが……どうですか!?」


神野さんは名指しで呼ばれたらもう仕方ないと覚悟を決め、須田さんのすぐ側へ寄って行き、マイクパフォーマンスを披露します。


「いい獣医を何人か知ってます。力にならせてください、会長」


「はい、こちらこそ!」


何故か須田さんは手を広げ、無言でハグを要求。

一瞬戸惑う神野さんでしたが、文句一つ言わずにハグしていました。

円満に話は終わり、続いての発表です。


「会計は引き続き神野夏樹さんにやってもらいたいんですが、どうですか?」


夏樹くんは面倒臭そうに「はい」とだけ壇上で言った後、すぐに列に戻っていきました。


「二人とも牛さんみたいでかわいいですよね! さて次は主査です!

この任務には鏑木芽衣子さんにあたってもらいたいですが、如何ですか!?」


鏑木さんはやはり「はい喜んで」とだけ壇上で答えると、階段を下りてすぐ列に戻りました。


「えー、最後に書記。佐々木望さん……私の力になってくれませんか?」


「あ、私でよければ……」


私の間抜けな返事とともに会は終了したんですが、我ら新生生徒会は居残りミーティング。

来期、つまり来年四月以降の動物小屋に関する事や、その他諸々の雑事を片付けるものです。

しかし、私は見たのです。謎の団体がまだ残ってパソコンと向き合っている姿に。


私は知り合いの多い新生生徒会メンバーと一緒に廊下を歩きながら、どこかのクラブの部室でパソコンに打ち込んでいる数名の生徒を発見。

この中で一番学校のことを知ってそうなのは残念ながら須田さんなので、須田さんにこう聞いてみました。


「あのー会長?」


「須田さんでいいよ佐々木さん?」


何故須田さんが私を選んだのかも聞きたいところですが、とりあえず疑問がより強い方から質問してみました。


「じゃあ須田さん。さっきのパソコンの人たちは一体?」


「ああ、あれは確か今年のミス学園の投票もついでにあの人達が開票してるの。

完全志願制の生徒会総務部。佐々木さんが知らないはずはないけど……」


「ミス学園なんか知りませんよ! 何でこの学校そんな下らない事をやってるんですか!」


「さあ? でも面白いからいいじゃん!」


「面白くもなんともないです!」


「でもまあ確かに今年は優勝候補が出場してないから勝者なき闘いってーー」


と須田さんが言っていると、さっきの部室のドアがガラリと開き、中の一人が大急ぎで須田さんのところまで走ってきたんです。


「あの新会長!」


「どうしたの?」


「おめでとうございます、優勝です!」


「私が? えー、そうなんだ。なんか意外」


須田さんがちょっと弱いリアクションなのですが、驚きなのはこっちです。

須田さんがミス学園などに出ていたこと自体が摩訶不思議でした。


「順位の方見せてもらっても?」


神野さんが言うので、総務部の方が持っていた紙を渡してくれました。

そこにはしっかり須田さんが一年女子部門及び、全女子生徒の中でグランプリに選ばれていることが記されていました。

二年生部門の一位は澄谷さん。あの人、私の知らないところでちゃっかりそんな選手権に出てたようです。

なお、岡本さんは二年生部門で六位、全生徒部門でも十五位と健闘していました。多分外見より内面でのマイナス評価があったのだと思われます。

ミス学園といえば女の中の女を決める選手権ですから、ただの女ではなく才色兼備で優雅な淑女ではなくては。

私が審査員でも岡本さんには高い評価はつけられないと思います。


ちなみに私は不参加者部門では一位。夏樹くんが二位で瞳は三位、四位に教育実習でやってきた大学生もいました。


私は男性からの人気が少なかったのに対し女性票が多め。何だか、見た目の評価だけではなさそうです。

一方、八方美人で鈍臭いところのある瞳は男性票が夏樹くんはおろか、一位の私よりも多く、女性票が明らかに少ないという顕著な特徴があります。

正直、男性が好きなタイプはムッチリお肉がついていて隙が多いタイプの瞳でしょうからね。

その点、夏樹くんなどは瞳よりも美少女ですが、隙という点で言うと絶無です。

彼女、いえ彼がお父さん以外の男性に恋をするところなど想像だに出来ません。


「何で発表前に教えちゃうんですか?」


「でも佐々木さんも食い入るように見てたよね?」


須田さんらしからぬ鋭いつっこみ。完全に図星でした。私は反論出来ず押し黙ります。


「佐々木さん、一位でよかったね? 僕は二位だけど」


と夏樹くんが言うと、すかさずそのお父さんが言いました。


「僕にとっては夏樹が一番だけどね」


瞳のいないところでは息子を十割増しで可愛がる神野さんです。

彼、正直瞳のことを鬱陶しがっているのではないでしょうか。


神野さんは夏樹くんの言う通り、自分を軽く見すぎて、他人を重く見すぎているタイプです。

彼にとっての女性のタイプはあるにはあります。鳰さんでした。

井上鳰さんは神野さんとは子供のころ、どちらかが依存するということもなく、鳰さんもどちらかと言えば施設でも年下の子供の面倒を見るタイプだったそうだ、と井上鳰失踪事件の資料で読んだ記憶があります。


一方で依存的な女性、つまり瞳や妹さんなどに頼られると無制限に言うことを聞いてしまうタイプで、ついつい相手を図に乗らせがちなんです。

瞳とか、めちゃくちゃ図に乗りましたよね。

彼も必要とされること自体は嬉しいのでしょうが、瞳は異常に依存的な上に子供好きな瞳に自分のせいで我慢を強いる事になり、速やかに離れたくなったんでしょうね。

しかも瞳は依存的なだけでなく、痛々しいほど献身的で、ネガティブな攻撃性を持つ非常に危ない女だと確信しますから、逃げたい、というのが本音でしょう。


彼の言っていた通り瞳は彼に対し子宮を人質に取って関係を迫るとか、とりあえず逃がさないために体の関係を持とうと急いだ事も。

古い話を持ち出すなら、父親やトントンに必要とされるためなら視力を失っても全然構わないと、まるで崖に向かってアクセルを全開にするように過去を見る仕事を続けようとしたことがありましたよね。


うーん。今更列挙して思うんですが、我が姉ながらクレイジーですね。

今、何となく神野さんを諦めた風で、しれっと学校に通ってますけど、気が狂ったような突拍子もない行動をアレがいつするかわかりません。


そのことを私は、アレから解放されて表情に余裕が出てきた神野さんを見て思うのでした。


「ん? 僕の顔に何かついてる?」


「目鼻口が」


「なかったら怖いよ。さ、着いたね」


神野さんはサラッと流して会議室の扉を開き、私達、新生生徒会を先導します。

当然、フクロウと大きな犬は連れて来てますよ。

それぞれ四人で席へついたところで、一番最初に私が発言しました。


「あの須田さん。神野さん達はわかります、実務が出来そうですから。

でも私を選んだのは一体どういう事なんでしょうか?」


「どうって……私達波長が合うよね」


「そうは思いませんけど……」


「いや合うったら合う! 私、動物さん達ともお話するときまず波長を合わせるんだからね!」


「へえ。じゃあそこの鳥は何だと言ってるんです?」


窓の外に留まっている鳥を指差して聞いてみると、須田さんは振り返りもせず、私の目から視線を一切動かさず答えます。


「聞こえる。最近白いツブツブが美味しくてよく食べてると」


「米でも食べてるんですかね?」


「さあ? でもたとえば鏑木さんの出す波長からも心の声が聞き取れるよ?」


「何て言ってるんですか?」


「しかしまた生徒会は女ばっかりになってしまった。

私が神野春雪さんを立候補させたのに須田さんが当選してしまった、でも過ぎたことはしかたないって」


「なるほど……他には?」


「神野くんの心の声も聞こえるよ? 聞きたい?」


神野さんはあえて自分のプライバシーを広めるな、などと抗議する事はありませんでした。

沈黙を許可だと考えたのか、須田さんは遠慮なく続けます。


「おほん。えー、神野くんはこう思ってます。

やっぱり鏑木さんは僕の知り合いか。十中八九、結さんだな。

あの人の相手するのは疲れる。もし本当に鏑木さんが結さんなら面倒臭そうだな。

しかし俺の息子マジで可愛いな……ひいき目とかじゃなしに。

ていうか息子って僕は頑なに呼んでるけど正直無理あるよな……周りも思ってるだろうな。

だってこんなに可愛いのに息子呼びは無理があるだろ。

胸だって大きいし、一緒にお風呂入るのもさすがに止めた方がいいよな。

抱きたいのを我慢するのも大変だ。俺は手を出したい相手に我慢してばかりだな。

などと、不純な事を考えてるでしょ神野くん!?」


私は一通りの台詞を聞き、須田さんが本物である事を理解しました。

神野さんの息子が夏樹くんだなんて、どんなエキセントリックな発想力でも思いつくはずありません。

全て知ってるからとしか言いようがありません。

そしてこれに対し、神野さんは素直過ぎるほどに告白しました。


「うぅ……その……実は……僕は夏樹の事をいやらしい目で見ている!」


夏樹くんは顔を真っ赤にして俯き、この件について何かコメントする事を拒否します。


「可哀相に。結構思い悩んでたんですね、そのことで。

好きな相手と肉体的関係を持ちたいと考えるのは当然の事だと思いますよ、私は。

私は性的マイノリティーですし……他人が近親相姦しようが、アブノーマルな性癖であろうが否定するつもりはありません」


「で、夏樹くんもお父さんに同じこと考えてるよね?」


「ちょっともぉ~! こんな心読んじゃう人と一緒に仕事できないって!」


夏樹くんはごまかすためにか、逆ギレ気味に言いましたが誰も取り合いません。


「ね、波長が合うでしょう?」


「頼むから須田会長、話をしましょう話を!」


赤面しながら夏樹くんが言うと須田さんはさすがに悪ふざけをやめて真剣そのものな顔つきになります。


「あのぉー、で、えっと何の話だっけ?」


「しっかりしてよ須田さん。この子達の小屋について決めたり、前期生徒会の政策をどの程度継承するか決めたりとか」


「そうだね神野くん。もうすでに図面はあるから!」


須田さんの持ち出した図面は恐るべきものでした。

馬小屋、牛舎などは序の口、ライオン、ヘビ、さらにはユニコーンまで入るスペースが確保されていました。


犬と、特殊なエサを食べるフクロウだけでもキツいのですが、全く論外な図面でしたので、夏樹くんは冷徹に進言しました。


「犬、フクロウ、イグアナ。ここまではいい。これ以上は生徒の負担もありますからやめましょう」


「え~! 私は真剣なんだけど!?」


「ユニコーンはないでしょう。処女じゃなかったら角で腹を突き破られるんですよ?」


「いや夏樹くん、そういう問題ですか……?」


「うーん確かに……ユニコーンは危険か……」


ユニコーンは却下。牛も運動する場所がなく、健康面を考えて却下。

ヘビも却下。ライオンはエサ代の面からも却下。

しかし、須田さんはウマだけは何としても守ろうとします。


「ウマだけはダーメ! 私ウマに乗りたいの!」


「運動する場所がないでしょう、かわいそうじゃないですか」


「え~!? だって私神野くんとタンデムしたいんだもん!」


「何でですか会長……僕も馬には乗れますけど……」


「私は憶えてる。動物さん達が全部憶えてるから。

死にかけた私を助けてくれたのに私何でそれを忘れてたのか知らないけど……」


ウッ、ヤバイ! これ以上須田さんに喋らせてはいけない!

神野さんはそう判断しました。何故わかったかというと、私もそう思ったからです。


「やれやれ。動物とはな……こんな方法で記憶を取り戻されるとは」


「で、どうなの? ウマ乗る?」


「ダメですよ会長。馬はお金もかかるし、都会で飼うのは健康にも良くないです。

今は妥当な案を決めましょう。会長、それでいいですよね?」


「あ、うん……」


須田さんは神野さんにだけは弱いようで、ちょっと押されるとすぐ折れました。

彼女が計算したわけではないでしょうが、不思議ちゃんな須田さんをコントロールできるのは神野さんだけなので、彼を副会長にしたのは全く適材適所でした。

そして神野さんはテキパキと必要事項を決めていきます。


「犬の佐衛門四郎(さえもんしろう)は暑さに弱いですし、クーラー必要ですね。あと確かイグアナの……」


「腹黒先生です!」


「……腹黒先生は寒さに弱いでしょう。あと、プレーリードッグでしたっけ?」


「ぷれまるクンです!」


ペットへの命名に全く統一感のない須田さんでした。しかもどれも一筋縄ではいかない名前です。


「多分ぷれまるクンも寒さに弱いでしょ。フクロウは、暑さに弱そうですね」


「ああ、お銀のこと?」


どうやらフクロウは女の子らしいです。


「統一感を持たせるべきでしょう。その方がエアコン二台も三台買わなくて済みます。

寒さに強く暑さに弱い犬なら、フクロウと、あともう一匹同じ系統のを入れて飼育は三匹にしましょう」


「そう……? じゃあ私の取っておきのペット、クマムシ! 寒さに強いよ?」


「微生物は目に見えないでしょう。例えばノルウェージャンフォレストキャットとかヨーロッパアナウサギとか寒さに強いんじゃ?」


「あー、ノルウェージャン! いるいる、持ってくる!」


「ちなみに猫の名前は?」


興味本位で聞いてみると、やっぱりというか、予想通りのヘンテコな回答が返ってきました。


「ノルウェージャンフォレストのキルヒアイスです!」


「キルヒアイスですか。まあそういうオーソドックスな動物なら人気も出るでしょう。飼育も難しくないですし。

でもフクロウの世話は会長に任せますよ。学校の子が冷凍ネズミとかあげられないでしょう?」


「ああ、たしかに……」


「決定。小屋は十平米くらいでいいでしょう。原案の五分の一くらいです。

動物は犬、猫、フクロウ各一匹ずつでいいですね?」


「はい……」


何か不満そうにしてる須田さんですが、不思議と神野さんの言うことは聞きます。

彼の心を読んでいるが故でしょうか。何を考えているのやら。

と思っていると、須田さんはまさにそのことについて突然言及しだしたのです。


「しかし結ばれない恋は悲しいね……私でよければ慰めてあげよっか?」


この言葉が出ているということは、神野さんの本音はこうでしょう。


《十二歳のあの娘と僕はいつでも結ばれていいのだが、年齢的に体の関係は無理だ。

息子のことも我慢ならないくらい抱きたいと思ってるが、手は出せない。

周りの女子高生にしたって、手を出すことはできない。俺だって男だぞ、性欲ぐらい人並みにある。

ああ、須田さんも明らかに僕のことが好きなのを隠していないし、可愛いよ。

グランプリになるだけはある。皆見る目があるよ。抱きたいな。無理な話だが……》


という感じですね。当たらずとも遠からずでしょう。


「まるで子供扱いですね会長。僕は一度我慢出来なくなって、それで我慢をしないと後悔する事を覚えました。

だから我慢なら事は得意なんです。心配は要りませんよ」


「でも夏樹くん、さっきの事を聞いて……」


「お節介ですよ会長。それより決めましょう、前期生徒会の政策の引き継ぎです」


隙があれば夏樹くんと神野さんが禁断の関係に踏み込むように仕向ける須田さんと、神野さんの格闘が続きながらも会議は進み、そして終わりを迎えました。

しかし、鏑木芽衣子さんは……もちろん鏑木さんは明らかに結さんです。

鏑木さんは、何故か神野さんと人気のないところへ消えました。


私は、特異な目を持ってます。瞳は過去を見る目がありますが、私は現在をつぶさに見る目を持っています。

望遠鏡、顕微鏡、スーパースローカメラの機能を全て兼ねていますから。


私は屋上からそれを見ていたので、二人が校庭を歩きながら話して居るのを、読唇術で読みとったのをここに書いておきたいです。


「……で、話って?」


「春雪さん、(あて)が誰かわかってる?」


「いや一人称が(あて)の人って他には居ないでしょう?

結さん、一応言っておきますけどまた旅行とか行くんだったら一ヶ月前に言ってくださいよ?」


「まだ旅行はいいのよ。それよりどうしても我慢出来へんことがあってね……」


「何ですか? 生徒会に不満でも?」


「そうやなくて……七月はオリンピックあったし、私、会長とは殆ど会われへんかったのよ。

せやから(あて)、もう我慢の限界。春雪さん、一緒に帰ろ?」


オリンピックありましたねぇ。リオデジャネイロオリンピック。

日本はついに金メダル三十個の大台に到達しましたが。


「僕の前ではいつもの色気のない結さんで居てくださいよ。

これでも、いつもは手を出すのを我慢してるんですからね?」


「そんな必要あるのん? そりゃ人間、抱きたい相手を必ず抱けるとは限らんわよ。

せやからこうして、今選べる一番魅力的な人に決めるんとちゃうのん?」


鏑木さんの顔はもはや無く、神野さんの腕にしがみついているのはただの制服を着た結さんでした。

意外と似合うものですが、神野さんはこう答えました。


「その顔は反則だって。僕の血が否応なく引き寄せられるんだから……」


「知っててやってんのよ」


「ところで、一個聞いていいですか?」


「どうしたのん?」


「結さんの産んだ夏樹ちゃんって、ぶっちゃけ誰の子なんですか?

結さん似にも程があるでしょ。無性生殖で産んだ子なら会長とは関係ないという事に……」


「まあ失礼してまうわ! 会長の子に決まってるやん!

あの白い頭見たらわかるやろっ! 正真正銘私と会長の子です!

それとも……あの子最近色っぽくなったとか思って、そんなこと聞いたのん?」


「別にそういうわけでは……」


「多分あの娘は春雪さんに抱かれたいと思ってるけど……(あて)は別に構へんよ?」


「実の娘が父親とそんなことしても気にしないんですか!?」


「別に? 我々の種ではそれが普通やもん。

私も、拾われた家の息子とは兄妹として育てられたけど結局結婚したし……」


「いや、やらないですよ? あの娘が僕の子かどうか一応聞いてみたかっただけです」


「だからそれは、あの娘を抱きたいから血縁が遠かったらいいなぁって思ったんと違うの?」


「しつこいなもう!」


などと、神野さんは結さんにやり込められながら帰って行ったのでした。

さすが結さん、出てくる台詞のほとんどがクレイジーでした。

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