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ボーイとガールがミートして  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
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七月二十五日

そんなわけで翌日、七月二十五日。


世間はまあ普通に仕事ですが高校生は夏休みです。

夏樹くんには既に四人分のチケットを取ってもらっていて、あとは新幹線に乗るだけです。


駅で現地集合だったので、一応予定時刻五分前に到着しておくと、既に来ていた三人にダメ出しを食らう私でした。


「悠長なことしてんなぁ佐々木さん……来ない気かと思ったよ」


「佐々木ちゃん、私もさっき来たばかりだから気にしないで!」


「時間に余裕を持って行動した方がいいわよ佐々木さん」


私は表面上だけ適当に謝っておき、いざ新幹線は出発。

私は、アタッシュケースにしぼませた浮輪と水着、着替え、あと歯ブラシだけ入れて乗り込みます。


ご飯類は持ってきていませんでしたが、どうも荷物にはその人の性格が出ているみたいです。


岡本さんは無計画なのかほとんど着替えのほかはお菓子しか入ってませんでした。

でも、大量のお菓子は四人で食べるために持ってきてくれていたのも確かで、大阪まで行く二時間の間にお口が寂しくなることはありませんでした。

岡本さんの性格が出てますね。ちょっとおバカだけど優しくて、岡本さん嫌いっていう人はあんまり聞きません。


澄谷会長はとにかく荷物が多かったようで、私生活が伺えます。

多分家族に言われて色々持たされた過保護な家庭なんでしょうね。


夏樹くんは心配性なのか知りませんが、防災グッズであるとか、予備用のものを多く持ってきました。

手回し発電機、バッテリー、携帯の充電器、着替えの服やクツ、携帯が使えない時のための念のための現金など。


岡本さんの持ってきてくれたお菓子をみんなでツマみつつ、こんな話に花を咲かせます。


「でも夏樹くん、確かお父さんのとこ行くんだっけ?」


「ええ。父さんと結さんと、あと愛人の女性を連れてるんですよ……冷やかしたくもなるでしょ?」


「あ、愛人!? ひゃー、さすが神野家の会長ともなると違うね!」


「そんな男が私達の上に立っているかと思うと嫌になるわ」


口々に父親を批判されてムッとしたのでしょうか。

夏樹くん、そう誘導するような言い方をしたくせに怒るなんて面倒臭い性格です。


「愛人ですが……父さんの兄の妻なんですよ。叔父は死んだんですがその子を彼女妊娠してまして。

だから父さんが保護することにしたんですよ。愛人なんて言ったのは冗談です」


「あのさ。あんまりお父さんの話しないけど、夏樹くんってお父さんのこと好きでしょ」


「馬鹿な、そんなことないですよ!」


「だってお父さんのことを悪く言っていいのは自分だけだ、って言ってるみたい。

冷やかし行くんでしょ。私も会うの楽しみにしてるからね」


「ああ……そういえば二時間かかるんでしたね。せっかく大阪で泊まるんですし、降ります?」


「あれ、いいの?」


「いいんですって。妊婦が居るって言ったでしょ。あんまりあっちこっち行かないと思います。

大阪でまず一泊しようかな……どうします?」


「もったいないなぁ……あそこ地下街で普通売ってないもの売ってるんでしょ?

高い物ばっかりらしいから最初から諦めてたけど……」


「本当よ岡本さん。ブランド物のバッグやジュエリーショップ、高級料理店。

いずれも庶民に手が届かないから普通の街にはないわね。

ああいう高級品は売ってる場所を限定した方が効率もいいし」


「贅沢品しか売ってないらしいですねぇ。私も行きたい! そしてお金もちにモテたい!」


「あ、私一度行ったことありますよ!」


「え、ほんとに?」


私は一応その時のことを包み隠さず言いました。


「どうしても大阪に用があった時に男の人に連れて来てもらったんですよ。

その人に何でも欲しい物言っていいよと言われたんですが、目の飛び出るような金額に遠慮してしまって……」


「もったいない! 私だったら死ぬほど買いまくるけど!」


「岡本さんはカード破産とかショッピング依存症にならないで頂戴ね……」


「そのあと大阪を東へ横断したんですがびっくりしました。

基本的に街が無いんですよ。で、高槻市の三島っていう京都との府境に行ったんですね」


「へえ、京都と背中合わせみたいなとこだね?」


「そうなんです。京都も大阪も観光地になってるところは建物の高さや材質まで厳しく制限されてるでしょう?

三島はギリギリ大阪なのでその規制はない上にすぐ近くに京都があって、京都でも大阪と一緒で地下に巨大な街があるんですよ。

だからその近くにあって、規制もないっていう三島には豪邸やスポーツカーがありふれ過ぎていて感覚麻痺しそうになったくらいですよ。

極めつけが、神野財閥を支配する神野家や四宮家のお屋敷もここにあったんです」


「はあー、住む世界違うなぁ。芸能人いっぱいいた?」


「いました、いました。ここだけの話、関西の某プロ球団の選手がいたんですよ。

奥さんの女子アナとドライブしてると思いきや明らかに容姿が違う女性でした」


「いや関西の球団の選手何で知ってんの?」


「私、叔父(トントン)とは警察の捜査で一緒にいて父親より父親なんですよね。

そのお父さんと話が合うのは純粋に嬉しかったので小さい頃に車のことや野球のことも勉強しましたし、今でもそういうの好きですよ?」


「偉いねぇー、私はお父さんとは全然……どうでもいい存在だし」


「どうでもいいですか!? それはお父さん悲しみますね……」


「普通年頃の女の子にとったら父親なんかどうでもいいでしょ。

佐々木ちゃんは本当偉い。話題合わせのために勉強して自分も好きになるなんて。

まるで恋人みたい。好きな人には死ぬほど尽くすタイプでしょ?」


岡本さんはごく稀に真実を、核心を気付かないうちにつきます。

全くその通りでした。私はこの期に及んで神野さんを追い掛けようとしているのですから。


「ええ、そうですね。私にとったら叔父(トントン)は誰からも尊敬されてて、格好よくて優しくて理想の男性でしたし、その人に好かれるために努力することは全く苦ではありませんでした。

私も男性に求める条件が死ぬほどキツくなってまして……明らかに叔父の影響です」


「どんなの?」


「お金持ちや美形でなくてもいいですけど、背は高くてガッシリしてて、人の役に立つ仕事をしていて、子供に優しくて、頼りがいがあって年取っても清潔感を保てる人がいいですね……もちろん私に優しくて浮気しないとかは前提として」


「お金持ちや美形じゃなくてもいいって前置きが、極端に焼け石に水に感じるね」


「そう言う岡本さんはどうなんですか」


「私? かっこよくて頭良くて背が高くてお金持ちなら何でもいいよ?」


「なるほど……じゃあ夏樹くんは?」


私は岡本さんをほぼ無視して会話する相手を変えました。

夏樹くんはお菓子を食べる手をとめ、車窓にかろうじて見える富士山を見つめながら答えました。


「僕は、誰にでも優しい人が好きだな。誰にでも優しすぎて損ばっかりしてる。

優しさにつけ込まれて厄介な頼み事とか頼まれてるような人を見ると守ってあげたくなるかな……」


「意外ね。夏樹くんはてっきり独占欲が強いタイプかと」


「会長、そりゃ誰にでも独占欲はありますよ。じゃあ会長はどうなんです?」


「私は、私を好きな人が好きです。別にそれ以外に条件はつけないわ。

強いて言うなら早い者勝ち。それにしても誰も告白してくれないわね……」


「あー私もそれです早い者勝ち。そりゃ条件なんて付けようと思えば無限につけますよ?

でも正直大切に思ってくれるならホント誰でもいい!

誰でもいいから恋したいー! 冬の夜の街で抱き合ったりピロートークとかしたいー!」


「はいはい……」


確かに岡本さんの言う通りです。大切に思ってくれるなら誰でもいいのは凄く思います。

そんなこんなで他のお客さんの大迷惑になりながら四人でしゃべり倒し、ついに新幹線は駅に着きました。

駅に着いた途端、明らかにただ者じゃない人達の団体客がいました。

大荷物をかかえ、よくわからないユニフォームで統一された人達です。


「あれ何でしょうね?」


すると事情通の夏樹くんが答えてくれました。


「大阪ってほぼ全土が観光地化による強制立ち退きを喰らったんだ。

もちろんそれ相応の見返りは与えたからスムーズに進んだけどね」


広島、岡山、東京には大阪の人が移住させられました。

実に八百万人ですからね。立ち退き後、大阪はもはや会長の趣味の遊び場みたいに色んなものが建設されました。

年間一千万人以上が訪れる大人気テーマパーク。もちろん古風で純和風な観光地の方とは水と油のように相反するメルヘンなテーマパークです。

それにF1サーキット。日本にここだけのスポットです。

本当はテーマパークもサーキットも東京に作りたいところですが、そんな土地はないですからね。


「その甲斐あって大阪の土地は広々空間になって、F1のグランプリが毎年開催されてるんだけど、どうやら近いみたいだね」


「えふわん? 知ってますか会長?」


「えーとたしか……すごく速い車でレースをするのだったわね?

そっか、今の団体はレースのスタッフとかドライバーなのね」


「そうですね。佐々木さんなら知ってるんじゃないですかね?」


「知ってますよ。時速三百キロ以上で走行するカーレースです。

数億円以上のお金がかかった機体に乗るのは年収百億円といわれるドライバー。

これはあらゆるスポーツ界でも破格の待遇ですね……そのぐらい厳しい世界ですが」


「百億ってすごいね。男が夢中になるわけだ。夢はレーサーって人結構居るけど、年収百億円のレーサーの事だったのか!」


「いやそうとは限りませんけど……でもそのかわり過酷な世界です。

走行中ドライバーにかかるGやコーナーでの遠心力は訓練しないと失神します。

あらゆるスポーツでも最も過酷な世界の一つでしょう」


「F1並の過酷な世界っていえばマラソンや自転車レースだろうね。

レース、競走には終わりがないからな……」


「本当に超人の世界ですからね。一見女性も活躍出来そうなのに女性ドライバーが全然いないのにもそういった事情があります。

叔父に連れられて、実は大阪のグランプリには何度かいったことあるんですよ?」


「どうだった?」


「世界中から集まった観客およそ十万人の歓声をかき消すほどのエンジン音。

少年に戻る父親。フランス人だったのでモータースポーツは故郷で盛んだったんですね。

私はそんなに大ファンっていう程でもなかったですけど、普段仲の悪い叔父(トントン)と父が一緒になって応援している様は見ていて嬉しかったので、あの轟音は嫌いじゃありませんよ」


「美しい思い出があるってわけだ? 会長ってレースのファンなのかな?」


「あの人は多分何でも一位にならないと気が済まない人なんだと思うんですよ。

世界一の自動車生産国なら日本もF1に参戦してサーキットも作ろう。

やっぱり欧米は速いので日本が何が何でも一番になろう、という具合に……」


「そんなことよりグズグズしてないと地下街が人でごった返すわよ?」


会長にはそんな事よりでバッサリ切られたF1談義でした。

まあ女性人気はあまりないですから、予想はついてましたけどね。

私達は会長についていき、早速目指したのは地下への階段。


地下街へ降りた途端、岡本さんのテンションがマックスに。


「うわぁ、外国人とか有名な俳優さんもいる! あー、あそこアイドルの!」


「今のはF1ドライバーですね。百億円プレイヤーですよ」


「しかし何で東京にこういう街を作らないのかしら」


「構造上仕方ないでしょう」


まず前提として、この国の産業という産業はほとんど神野家系の企業に独占されており、もはや一個人が起業して成功するのは事実上不可能です。

結さんの時代までは、つまり二十年ほど前までは大阪も他と変わりのない四十七都道府県の一つで、人口は九百万人ほどでした。


しかし会長は大阪、奈良、京都という古来から五畿内と呼ばれた地域の完全観光都市化を進めました。

大阪市や京都市などその府県の観光地は、軒並み非常に厳しく観光地化のための景観の制限が設けられました。


結果、木造平屋一戸建てや長屋などしかそれら市内の地上にはなくなったんです。

車の交通量が恐ろしく減り、区画整理もされたので交通の便は大改善しました。

観光客が年に一億人以上押し寄せる五畿内でも渋滞などとは無縁です。

建築に制限がある以上、どうしても人口は少なくならざるを得ず、追い出されるように他県へ行く人が一千万人近くも出ました。


その五畿内で観光客相手に商売する人を会長は黙認しました。

この日本でお金持ちになる手段は少ないですが、五畿内での商売は認められており、大体観光地のお店の店主は大金持ちです。

それが近代的な大都市として生きる道を奪い、完全に観光地として生きる道を強制した会長なりの心遣いです。


大阪や京都では木造平屋一戸建てが中心で、電車がないですよね。

景観のために観光地では家の見えるところに車を駐車する事すら許されず、観光業で儲けたお金で買った半地下ガレージや納屋に見せかけたガレージを持つ人が大半に。

もちろん観光業で生計を立てる皆さんは大金持ちなので、木造平屋ばかりの純和風な景観に似つかわしくない外国の高級車なども多数。


また、観光業で儲けたお金があっても皆さん遊べないわけですよね。

それに外国人観光客もただ日本文化を満喫するだけじゃなく、現代的で刺激的なところに立ち寄る事への興味もあるわけです。


その要望が必ず出ると予期していた会長は関西を観光地へシフトする政策を打ち出す前から、巨大で現代的な地下街の建設を始めていました。

そのことについては、四人でまずお風呂に入っている時に生徒会長が話していましたよ。


「しかし大阪にこんな温泉があったなんて……地下で温泉もいいですなあ?」


と岡本さんが聞くと、それなりにお客さんも入っている女湯の湯舟で、岡本さんと仲良く肩を合わせて浸かっている会長が言いました。


「日本の平野ってほとんど全部川が山の土砂を削ってそれが積み上がった平野なの……知ってたかしら?」


「理科のお勉強ですか? 私あんまり得意じゃないですけど……」


「地学ね地学。特に大阪なんてほとんど全部川が運んだ土砂が堆積した地形なのよ。

弥生時代には現在大阪と呼ばれてる地域はほぼ全部海だったそうよ。

そこに水が砂を運んできて、蓄えられてるのよ。

積もり積もった土砂の層に地熱で温められたお湯が溜まってるのよ」


「なるほど……これだけ大きい地下街を建てられた理由もそれですか?」


「そう。地下のかなり深いところまで岩盤がなくて土砂の層だからとにかく掘りやすいの。

だから他に大きな地下街は日本にないんだわ。地震が起きたらオダブツだけど」


「逆にそんな柔らかいところ掘って大丈夫なんですか……?」


「平気平気。ただ、万が一の時に女子供が逃げ遅れないように居住区になってる地下一階を大きく作ってある。

地上の区分では東大阪市とか堺市とか区切ってあるけど、地下街は四つの市にまたがってるぐらい扁平なの。

地震起きたら三階から下に住んでる人は多分助からないと思うわ。その分家賃は安いけれど」


「家賃安いって……この国では給付金も結構ありますし福祉サービスも充実してるじゃないですか?

わざわざ日当たりも悪くていざという時逃げ遅れるようなところに住むんですか会長?」


「三階から下は夜のお店があって、通常考えられないくらいの高収入があるのだそうよ。

あと売れない俳優や夢を追いかけてる人とか、働く時間が制限される人も安い家賃のところにいるみたいね。

まああと、単純に金銭感覚がダメな人が借金作ると大抵地下街の安い家賃のとこに住んで色々仕事するみたいだわ」


「あー、単純に金銭感覚が……ギャンブルで借金作るような人とかですか。

まあ、博打でスったお金は公営ギャンブルの国営企業に入って公共サービスに使われますから……いくらでもギャンブルしてもらって結構ですけどね」


「確かにそうね。しかし外国の方ばかりねここは」


様々な言語での会話を聞きつつ、私たちは二時間座っていたオシリの疲れを癒します。


話の続きですが、要するに観光地になった大阪では地上のお金持ちが近場に遊べるところが欲しいという要望から、地上にも地下にも様々なお店などが建てられました。

地上に建てられたのは前述のサーキットやテーマパーク。

コンサートホール、ライブ会場、野球もできるドーム、美術館、国際大会でも使われるプールやサッカースタジアムなどなど東京では土地を占有し過ぎる施設ばかり。

先ほど話題にしたギャンブルの出来る巨大カジノ施設もあります。

大阪の人口はたった百五十万ほど。二十年前のおよそ五分の一以下です。

百万人ほどが観光地の地上と地下にそれぞれ住んでおり、サーキットなどの運営に携わる人などが数万人ほど中部に住んでる以外はもうほとんど全部プールだの、どこかの大学のキャンパスの陸上競技グラウンドだの、ライブ会場だのという土地を占有する施設か、そうでなければお金持ちの豪邸の敷地です。


その証拠というわけではないですが、神野春雪さんはアメフトが好きでよくスーパーボウルを見にアメリカに行くとか。

贔屓チームはカリフォルニア・ウェンディゴズだそうです。同一人物である会長も多分そうだと思います。


逆に地下ではコンパクトにまとまった施設が多いです。

一階は飲食店や温泉付きのホテルがあります。ホテルでは地下なので眺めこそ良くありませんが格安で温泉に入れて泊まれるので外国人にも人気です。

上で泊まると倍ぐらい価格が違うらしいですからね。

最も広く作ってある一階ですから、夥しい数の居住区、テニスコート、バスケコートなどスポーツもできる設備があります。

それに中には学校まであり、ここにほぼ全住民、およそ五十万人が暮らすとか。


上の街が全部木造なのでとにかく消防士の数と質が求められます。

彼らを診る医療関係者、そして外国人を取り締まる警察官、そしてその妻子で合計五十万近くにのぼるという話です。


彼らの住む地下一階は世界一治安のよい場所ですが、地下の二階になると様子が一変。


大人な高級レストラン、ジュエリーショップ、骨董品屋、画廊、ブランド物の衣類を売るショップなどの並ぶ、私のような子供にはちょっと入りづらい、余裕のある大人向けの空間。

ここにも人は住んでますし家賃も低いですが、さすがに地下二階は災害時に逃げ遅れる可能性も十分あるのであまり人は住んでません。

更に下には大人のお店。お酒を出すバーとか、もっと下にはディープなお店があるとか。


もっと下には地下街を動かす超高性能な発電所と浄水施設があるらしいです。

是非見学を、と言いたいところですが友達連れなので我慢します。


そういえば、言うのを忘れてましたがこんな一幕がお風呂でありました。


「ねえ会長、あの二人どう思います?」


「どうって?」


会長達が私の方を見ていました。正確に言うと私と夏樹くんをです。


「さすがフランスの血が入ってるだけあってデカいよね?」


「大きいわね。ではここで問題。密度が水とほぼ同じと考えられるバストが浮力で水に浮くにはどれだけの体積が必要かを求めなさい」


「勝手に求めないでください! あと浮くほど大きくないですよ!」


「冗談よ。でも夏樹くんも相当に大きいのではなくて?」


「僕の体ジロジロ見ないでください」


「ああホントですね会長。夏樹くんて身長体重は?」


「身長が一六〇センチ。体重五〇キロですけど? まあ若干普通の女の子よりは重たいですかね」


「バストは?」


「九〇センチくらいじゃないですか? 別に興味ないですけど」


「まるで牛のような胸ね……佐々木さんは?」


「あ、身長体重ですか。一五十九センチ。体重六〇キロです。

モデルやってる妹より身長が五センチも低いのに体重は十二キロも重いんですよ……おデブです……」


「じゃあ妹さんは一六十四センチの四十八キロ前後ってこと?」


「さすがにスタイルいいわね」


「そういう先輩達も当然教えてくれるんでしょうね?」


「私は一四十七センチ、体重四〇キロよ」


生徒会長の割に生徒会で一番小柄な会長でした。


「あ、私は佐々木ちゃんとほぼ変わらないけど」


「ですね岡本さん。だと思ってました」


「それと夏樹くん、そんなセクシーな体してたらお嫁さん貰えないわよ?」


「いいですよ別に。女性に興味ないんで」


「あと前から気になってたんだけど、具体的にどうなってるのかしら」


「どうとは?」


「だからその……失礼だけど大事な部分がその……」


「見せはしないですけど、一応説明すると一般的な女性と変わりありませんよ」


「あ……そうなの?」


「女性器も男性器も同じ物が発達する方向を変えただけなんですが……僕は男になる予定だったのに全く男になれないまま女の姿で生まれたってことです。

卵巣もありますし子宮も生理もちゃんとあります。

ただ……間違いなく僕は男だったはずなんです。僕は染色体もX染色体二個とY染色体を受け継いでますからね」


「どうしてそんな男にこだわるの? 前世男だったとか?」


「言っても引かないですか皆さん?」


「引かないですけど……」


「僕はマザコンと言われてもおかしくないくらい母親が好きでした。

母と破局した父ですが……むしろ父のことを僕はとても恨んでいたくらいです」


「そうなの?」


「ええ。でも父のことを憎んでいたエネルギーがそのまま愛情に変わったっていうか。

むしろ大好きなんですよ。この女の体じゃなけりゃ父のことなんか……そう何度も思ったことがあります。

僕が自分を男だと思うのは母にとって僕が息子だったからっていうのもあるんですが、積極的に男が好きというより、女の自分が嫌という消極的理由も……」


「確かにね。会長って俳優さんみたいに格好いいもんね……」


「というわけなんでそろそろ出ましょうか……買い食いでもします?

ブランドバッグとかは買ってあげませんけど、そのぐらいなら奢りますよ」


「えっいいの!?」


「岡本さん。旅費出してもらってる分際でまたタカるなんて卑しいわよ」


「でも……」


「すぐ男に奢られたがるところ、直さないといけないわ。

だから数回のデートで男性に見切りを付けられるんじゃ……私はエサで釣られる卑しい女ですと宣伝してるような物ですわよ」


「そこまで言うことないでしょ!? 事実だとしても!」


「まあまあ会長。岡本さん、僕が奢りますって。何食べます?」


「あ、あそこの高級トルコ料理らしきお店は?」


「まあどこ入っても競争率激しいんで間違いないと思いますね。

この大阪の地下街の特色の一つが、神野家系のお店がほぼ入ってないって点です。

自由な競争がありますからね。おっ、見たところシェフもトルコ風ですよ。雰囲気いいですね」


「佐々木さんはトルコ料理食べたことありまして?」


「一応はい。ドネルケバブが有名ですけど、遊牧民であるトルコ民族の料理ですからね。

とにかく羊などの挽き肉とスパイスをよく使うのが特徴です。もちろん乳製品……チーズやヨーグルトも遊牧民なのでよく使います。

イタリア料理を更にワイルドでエキゾチックにした感じでしょうか……」


「さすがは三大料理。行ってみましょうか」


お昼ご飯は、トルコ料理を頂きました。意外にイメージしてたより繊細なお料理の数々には驚きました。

お馴染みシシケバブを頂き、その後これは日本人の私たちには間違いないということで実はトルコ料理であるピラフを頂きました。

トルコは米食のアジアとも文化的繋がりがあるんですね。

続いて餃子によく似ている料理を。数種のスパイスを練り込んだ鶏と羊の合挽ミンチとチーズを小麦粉の生地に包んで油でこんがり揚げた謎の料理でして、本当にトルコで食べてるのかも不明ですが、脂っこいことこの上ないこれを、シチリア産のレモンを搾って食べたところ絶品でした。


その後、まるで日本の和菓子のようでもあり、洋菓子のようでもある不思議な伝統デザートでシメました。

名前は教えてもくれませんでしたが、強いて言えばおまんじゅうに近かったでしょうか。いや、マカロンに近かったかもしれません。


そもそも、あそこはトルコ料理屋さんであったのかさえ正直わかりません。


ご飯を食べ終わると眠くなり、口数が少なくなるものです。


「イヤーあれは絶品だったよねぇ。来てよかったなぁ。

四人で五千円だったけど全然高いとは感じなかったよね会長!」


「あ、ああ……とても美味しかったわね。ふわぁ……」


と会長があくび。私も釣られてあくびをします。

今回の女子旅の進行役、夏樹くんは続いてこう言いました。


「温泉入ってご飯食べて……服でも買いたいとこでしょう。自由行動にします。

泊まるのはさっき温泉入ったホテルですよ。僕は明日の新幹線の切符買うんで」


「さっきのホテル? ウーン、でもあそこ景色は見えなくて残念……皆と来れただけでも十分楽しいんだけど」


「そう言うと思いましたよ。でも実はこのホテル、地下三階まであるんですが、地上でも二階建ての合計五階建てになってるんですよ。

地下の部屋は狭くて景色も見えないけど安い、上の部屋は庭園の見える部屋。

もちろん観光地のど真ん中の庭ですね。泊まるのはここの地上二階ですよ」


「え、じゃあお庭の見えるお部屋で泊まってもいいの!?」


「夏樹くん太っ腹ですね!」


「用意がいいわね」


「残念ながら高層じゃないんで海は見えませんけどね。まあどっちみち大阪湾なんぞ見てもおもしろくも何ともないですが。

じゃあ適当に手続きしておくんで。しばらく自由行動にしましょうか」


別にそこまで大阪湾を酷評するつもりはありませんが、やっぱり日本の美は海にはないと思う私です。

日本の美と言われて思い浮かぶのは山や自然と調和した平安京、そして霊峰富士山ではないでしょうか。

もしくは飛騨の山奥の合掌造り集落、平山に建つ姫路城など。

日本的な美というのは、私は山にあると思います。山ばっかりの国ですから。


「賛成ー! なっちゃん愛してる!」


案の定エサに釣られている岡本さんを今度は会長もツッコミませんでした。

私達は四人で来ましたが仲のよい二人組に分かれ、というより一年生と二年生組に分かれて別行動を開始。

私は眠たくなっていたので夏樹くんに断って先にチェックインし、浴衣に着替えて一足先に地上階へ。


私たちが泊まる二階の部屋を先に見せてもらったところ、一つルールがあって、どうやら二階の部屋の人は二階のお風呂しか使ってはいけない模様。

二階のお風呂は源泉を建物内の強力ポンプで吸い出してバルコニーにある木製のタライのような湯舟に注いで入るタイプ。

まあ洋式建築ではないのにバルコニーと言うとおかしいんですが、バルコニーと言うしかないんです。


ちなみに源泉を吸い出したパイプは部屋中をぐるりと巡っており、多分これは冬になると暖房の役目を果たす模様。

なお、パイプの道筋を二股に分かれさせており、夏の今は短いルートでお湯を注いでいるので、熱湯の詰まったパイプが部屋をグルグル巻きにしてお客さんを蒸し焼きにすることはありません。


私はついさっき入ったばかりなのでマッサージ器に座り、全身揉みほぐす事にしました。

気付けば時刻は午後十八時。三時間くらい寝ていた事になります。


皆もうすでに帰ってきていて、服を脱いでいるところでした。


「あ、起きたの佐々木ちゃん。ごめんね?」


「いえ寝過ぎたくらいです……みなさんもうお風呂に?」


「うん。だけどなっちゃん、これバルコニーでお風呂入ったら外から見えない?」


「大丈夫ですよ。この辺にこれ以上高い建物は存在しないですから。むしろこの開放感が人気なんですけどね。

そんなに気になるんだったら地下の温泉入ります?

昼間入った時より混雑してると思いますけどね」


「あと岡本さん。聞いた話によるとここの温泉、住民の方もよく利用するので女湯に小さい男の子とお母さんが来ることがあるそうよ?

いくら小さい子とはいえ男の子に裸を見られるのは気分がよくないんじゃなくって?」


私はそういった類のお風呂屋さんに行った事がありません。

どうやら地下の温泉だけは、銭湯としても解放しているみたいですねここのお風呂屋さん。

そんなところなら地下の部屋で泊まると安くて人気なのも納得。

多分一泊、食事付きでも五千円しないでしょう。


「へえー。昼間出くわさなかったのは運がよかったんですかね。

なんかそう言われると二の足を踏んじゃいますね。

確かに、もう夜だしうっかり見えるなんてことないかな?」


「あ、小さい男の子に裸見られても平気な人います? 私は別に平気ですけど」


「僕もまあ別に……」


「えー、信じられない! 男への警戒心足りないんじゃないの!?」


「私も断固拒否よ。夏樹くんは男だからともかく、佐々木さんはよく平気ね?」


「私は基本的に男性を意識しないので……まして子供になんて何とも思いませんね」


「ああ、それは僕も思う」


「カルチャーギャップかしら? フランスと日本の……」


「私はフランスに行ったこともない純日本人ですよ!」


「フランスはヌーディストのビーチが……」


「フランスの話はもういいです!」


と、私が座布団にジャンプしてダイビングし、正座したところ後ろから陰口が。


「フランス嫌いなのかな?」


「アンジェリーナ、と呼ぶとしばらく口をきいてくれなくなるらしいですよ」


はい。そう呼んでも許すのは神野さんだけのつもりでしたが、一度しか呼んでくれませんでした。


「じゃあ逆にご飯待ってる間フランスの話でもしましょうか」


澄谷会長は悪魔のような事を言いだし、私はムッツリと貝のように押し黙って正座します。


「皆さん、フランスの歴史上の人物で誰が好きです?」


「はい、私はジャンヌダルクが好きですね。カッコイイじゃないですか。全世界の女性の憧れ女騎士部門第一位ですよ」


「僕はアンリ四世が好きですね。宗教戦争で傷ついた国土を統一して回復することに努めた素晴らしい名君だと思います」


「二人とも良い答えね。私はやはりナポレオン一世が好きかしらね。

あの上り調子からの凋落ぶり……日本人的には詫びサビを感じてならないわね」


「いやー、それにしてもナポレオンといえばナポレオン三世のパリ大改造も外せないところですねぇ」


「でもセダンの戦いで大敗したのではなくって?」


「まあ軍事的な才能は一世には及びませんでしたね。

新生プロイセンのスパーリング相手になったらボコられたって感じ」


「浮き沈みの激しい、山あり谷ありで面白い人ですよ会長。

それまでのパリはまだまだ中世感の残る古い街でしたからね」


「フランス・パリと言えばラヴォアジエなどの科学者や文学、絵画など数々の芸術が花開いた所ですね会長。

私もいつか行ってみたいですよ。ダバダバダ……」


「絵画も科学も舞台も芸術と名のつくものならなんでも生み出したパリですけど、一つ苦手分野がありますよね。

音楽ですよ。フランスが産んだ誰でも知ってる有名な音楽家ってドビュッシーくらいじゃないですか?」


「いやもっといるってほら……ほら……!」


岡本さんは捻り出そうとして出てきませんでした。


「確かに素人はドビュッシーくらいしか知らないわね。さっき岡本さんも口ずさんでたのはフランシス・レイの『男と女』ね。

あとはまあ、有名なのはラヴェル、サン=サーンスくらいかしら。

ドイツ・イギリス・イタリアはおろかポーランドやロシアにさえ見劣りするわね、正直」


「ポーランドはショパンだけでお釣りが……でもショパンは主にパリで創作したんですよ会長!」


「物は言いようね。パリ行ったことあるわ。でもなんてことはなかったわ。

芸術家志望かよっぽど欧米コンプレックスでもないと日本が恋しくなって一週間もたないと思うわ」


「またバッサリ切り捨てですね……そんなに気にいらなかったですか?」


「だから、別に欧米コンプレックスが激しいなら止めないわよ。

水は硬水でまずい、治安が悪い。カルシウム分が多すぎるせいでお風呂に入ったら髪がキシキシにきしむわ。

当然外国人に手厚い福祉サービスなんかないしフランス語喋れないと意思疎通も無理。

おまけに街を走ってるのはフランス車よ? むしろ可哀相になってくるっていうか……」


「フランス車僕は嫌いじゃないですけどね。かわいいじゃないですか。

ルノーとかですか。嫌いなんですか?」


「あと道にいっぱい自転車走ってるのも嫌い!」


「なんですか会長、フランス嫌いなイギリスの回しものですか?」


「まあ、ヨーロッパで巡った中だとイギリスは結構好きかしら。その次がロシア。

イギリスいいわよね。車も高品質で交通マナーも厳しいし、ヨーロッパだと日本に近いわ。

立憲君主制ってとこも島国ってとこも似てる。音楽でもフランスに圧勝ね。

二十世紀のポピュラーミュージックでもフランスに大差をつけてるし、『木星』のホルスト、『威風堂々』のエルガー、『メサイア』のヘンデルもいるわ」


「うーん二十世紀のポピュラーミュージックではイギリスが世界最高でしょうねぇ。

経済大国日本でも音楽でイギリスには絶対敵わないと僕も思います」


「あの、もうその辺で!」


私がちょっと涙目だったのを見て、悪乗りしすぎたと皆も反省してくれました。

程なくして晩御飯が到着。大阪って、具体的には食べ物でどういう名物があるのかと聞かれると特にないと答えるしかありません。


お昼トルコ料理など調子のって食べすぎた胃には嬉しいあっさりめのメニューで、女性客を露骨に意識した内容でした。

お鍋に京野菜とお豆腐をふんだんに盛り付け食す定番のヘルシーお鍋。

中には京料理でよく使われる(ハモ)がふんだんに使われており、鴨出汁のよく出ているお鍋ですね。


シメに古代米という名前の怪しい赤いお米を投入して土鍋ご飯を皆で食べておしまい。

一言で言うと絶品の夕食でした。その後は疲れたのですぐ寝ました。


翌朝チェックアウト時に確認しましたが、一泊一万円のところを四人割引で三万二千円でした。

意外と庶民的なところに泊まったのだなぁ、でも楽しかったなぁ、と昨日のことを一瞬振り返った振り返った私でした。

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