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ボーイとガールがミートして  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
LOG2
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七月十日

翌日の七月十日、早速結さんのところを訪ねてみました。

部屋にはいつも通り会長はおらず、結さんだけが居て私に応対してくれます。


「あらどうしたの? 春雪さんやったら上よ?」


「会長に会いたいんですけど?」


「あの人? 今はアフガニスタンのカンダハールにいるけど……写真見る?」


「またアジアに行ってるんですね……会いに行ってもいいですか?」


「会いに? うんまあ……えっ、本当に会いに行くの?」


「はい」


「じゃあそうね。送ってってもらいなさい。まなちゃーん?」


てっきり誰もいないかと思ったら真夏さんが中にいました。

そういえばこのデカい真夏さんを見て思い出したんですが神野さんがちょっと前、自分の昔のことを語っていました。


ある日千春さんが一人でいると、当時十歳の神野さんが寄っていって耳打ちしたそうです。


「あのね、僕、鳰の背を追い越せたら告白するんだ!」


その当時神野さんは百四十センチ台の身長でしたが、鳰さんは当時すでに百六十センチを超えて十五歳の私より大きいくらいです。

千春さんも鳰さんと同じくらいでした。千春さんは内心《もしかしたら一生追い越せないかも》という思いが顔に出ながら引きつった愛想笑いをしてくれたなんていう無駄話を彼としたことがありました。


現在鳰さん=神野真夏さんは身長百八十センチくらい。男泣かせの長身ですね。

彼女は一応初対面ではないので、私の事も知ってるようでした。


「あ、確か佐々木さん……だっけ。どうしたの」


「ちょっとアフガニスタンまで瞬間移動させてほしいんですけど……」


「ちょっと何言ってるかわからない」


「緊急の用件です!」


「ああ、まあいいけど……」


私は突如真夏さんに手のひらで突き飛ばされました。

もんどり打って後頭部をしたたかに打ち付けるかと思いきや、結さんの四宮家の室内ではなく、すでにそこはどこか暗いホテルの一室でした。

それなりに整った調度、広い部屋、漂う大人な感じの香り。

いや、大人な感じの香りって言うのは簡単ですが表現するのは難しいので、受け取り方は任せます。


その暗いホテルの一室に瞬間移動した私はペルシア絨毯から起き上がると、ふと、ガラス製のテーブルに向かい、高そうなソファに座って、しかもエキゾチックなアフガン美人の女性とピッタリ寄り添う長身の中年男性を発見したのです。


「あ、あの……」


声を出してみると二人ともこっちを振り向き、すぐ私を認めた会長は横の女性に「静かにしていろ」と言ってから私に日本語でこう言ってきました。


「俺は……君の事を知っている。さては娘に瞬間移動させてもらったか」


「はい!」


「ちょっと待っていろ」


会長は次に隣の露出度の高いドレスを着て小麦色の肌をなまめかしく剥きだしている美人な女性に英語で伝えました。


「瞬間移動能力だ……」


「すごいわね、時空間系の能力なんて何十億人に一人の……」


「あの娘は知り合いだ。少し外してくれ。長話になるかもしれない……部屋はどこでも好きに使うといい」


「ええ、続きは?」


「一時間以内には」


「わかったわ」


美人な女性が出ていくと、次に私は彼女について質問するしかありませんよね。


「今の人は?」


「ガイドだ。キリスト教系の孤児院にいたので多少英語が話せるらしい。

さっき会ったばかりだ。確かな年齢は自分でも知らないと言っていた」


「なるほど。このホテルは……ホテルですよねここ?」


「うちの建設業者に建てさせた。こちらの政府高官との会談にも必要だしな。

部屋は空きが多いので彼女には好きな部屋に居てもらうことにした」


「武装勢力の闊歩する国なんでしょう……危なくないですか?」


「資金源は断った。逆に日本からアフガニスタンには既に十兆円規模の支援が届いている。

先方の商品を買ったり建物を建てたり……このホテルもそうだ。

特に女性や下層民に現金収入を与えるため工場を建てている。

現金収入があれば自立した生活も出来るようになるからな。結構女性も駆り出されたよ。

国民の支持がどちらに傾くかは明らか。地元民に支持されないゲリラほど弱いものもない。

地元民に支持されるゲリラほど厄介な者もないがな」


「何か改めてすごいですね……確かに女性の地位が低いこの国だと良いかもですね……」


「さっきのガイド兼通訳の彼女とは次どこに仕事を与えたらいいか等の協議をしていた。

彼女の情報は結構正確で助かる。しかし君、まさかそんな話をしにきたんじゃないだろう。

まあだいたい君のような思春期の言い出しそうな事はわかるが」


「じゃあ言いますけど、私あなたの分身にフラれたんです!」


「男は何十億人でもいるだろう。君なら引く手数多だ」


「会長、あの人イザナさんをほっとけないとか言ってるんですよ!」


「俺に何とかしろと? あいつはお利口さんだからなぁ。

俺の言うことを聞くようだったらはじめから君を選んでいるよ」


「そんなことは頼んでいません。会長、あなた精子バンクに興味は?」


「ないな。それがどうした?」


「これは最後の手段ですが……彼の子供を産んじゃったらもう彼も無視は出来ないと思うんです!」


「呆れた子だ……そんな事不可能だとわかってて言うな」


「不可能なのは知ってますよ! でも私は勝っていたんです!

私はあんな……突然出てきたポッと出のバツイチ子持ちの!

私なんてピチピチ女子高生ですよ、男性経験なしですよ!

普通男性って経験ない女の子の方が好きなんじゃないんですか!」


「まあ人それぞれだとは思うが……あいつはまあ確かに、君がどんなに魅力的でもそれには目をつむる奴だな。

他の男を愛した女でも関係はない。俺もそうだ。

今の妻は出会った時から二百歳近いし、それまで何人もの男に抱かれて来たようだが特に気にした事は……」


「もう会長! お願いですからあのイザナさんもあなたが引き受けてくださいよ!

王の中の王なんでしたら一夫多妻くらい構わないでしょ別に!」


「人を荷物みたいに言うな。君は本当に余裕がないんだな。

恋に夢中で周りが見えてない。そういう時期は俺にもあったがな……」


「……すみません、取り乱しました。でも全くどうにもならないわけじゃないと思うんですよ!」


「ふむ……じゃあ少し君に話をしよう」


会長は貴重な時間を取ってこんな話をしてくれました。


「神野イザナ。彼女は娘や妻が色々と教えてくれたよ。

どうやら妊娠したまま異次元空間の中に入った彼女は、まだ妊娠してるようだ」


「え!? 子供を助けることに成功していたんですか!?」


「そのようだな。さすが俺だ。何が起きたか知らないが、奇跡は起きたらしい。

奴はその子を戸籍上自分の子供として育て、息子と一緒に同じ十五歳の少年という設定で君の学校へ行くつもりらしいね。

ああ、そうだ妊娠してる彼女も同じく同年代の少女として学校に行くんだったな。

奴はそこまで考えている。君がしようとしているのはそれを壊すことだ。

止めろとは言わないが成功する確率はごく低いぞ?」


ここまで言ってくれた会長に私は憤然と反論しました。


「そもそも会長、恋愛というのは実に自分勝手で、正義とは程遠い事だと思いませんか!

相手に条件をつける。条件付きで愛する。これはもう差別ですよ差別!

公平なる正義とはまさに対極の概念。公平な正義という概念に取り憑かれたのがあなたの分身です!」


「まあそうかもな……天使に対し、悪魔になれと囁くようなもpのだ」


突然熱を噴き上げ始める私に、会長は大人の対応でちゃんと話を聞いてくれます。


「そうです。彼に私を選べというのはそういうことですよ。

恋愛というのは相手に条件をつけ、もし飽きたら勝手に捨てても誰も文句は言いません。

私はもし私に飽きて彼が私を捨てるなら、それでも構わないんです!

要は恋愛は競争、恋愛は勝負です。勝負や競争が苦手な私にとってはちょっと過酷なものではあります。

でも私は土俵にさえ上がれず、あっちはどうしようもない理由だから君は諦める、としか言ってこなくて、それが悔しくて!」


「要するにあいつが君を体よく無視するのが嫌だというわけか。

ハァ、思春期の恋愛相談聞くのはかなり疲れるが……まあ俺の撒いた種のようなものだしな。

罪滅ぼしというわけじゃないが、最後まで聞くよ」


私は正直に申せば、四十歳をとうに過ぎ、父親より年上のこの会長に言いようのない感情を持ちました。

もう一人の彼とは全然違う人生を歩んだ、いわば一卵性の双子のようなものですが、それでもそっくりな顔です。

そしてその顔で、加齢から少しだけ若い時より低い声で私に優しい言葉を言われると体中が喜ぶような思いです。

もう一人の方には全く無視されるのに、こちらは優しく見つめてくれるので余計に。


「どうしたらいいんでしょう? あの人の事……私……」


「奴は君を見ようとしない。見たくないのだ。奴は妹や娘に自分の正体を隠し、記憶を消した。

君の事もだ。君には自分を忘れて欲しかったんだ。余計な事を思い出しやがって、と内心思ってるはずだ。

もちろん本音では君が好きだからだ。今の自分を鏡で見てみるといい」


「私の姿を……?」


「苦しんでいる、寂しがっている。そうなると分かってたから記憶を奪ったのだ。

賭けてもいいが……君がもしそのままなら奴はもう一度君の記憶を消す。

そして過去を見る目を奪い、もう二度と自分と関わらないようにする」


「そんな、私どうすれば……」


「奴の事を忘れて生きていくか、もしくは記憶ごと忘れて生きていくしかないな」


「そんなデスorダイみたいな選択肢……あっ!」


「何だ急に大声を……」


「会長、私真夏さんに送り返してもらわないと日本に帰れません!」


「そうだな。騒ぎになっても面倒だ。娘と連絡はつける。

あの娘は俺以外に父親はいないと思い込んでいるがね……」


「助かります……」


「最後に言っておく。瞳ちゃん、君は自分で言ってる通り男性経験はない」


「な!?」


「奴とは何もなかった、そう胸を張って生きていける。

二人の間に何かが起こっていたなら君の話ももう少し俺は真剣に聞けただろうがな。

じゃあ帰ってくれ。こっちも仕事があるんでな」


会長は急激に素っ気なくなり、私はその後瞬間移動で日本へ送り返されてこの日記を書いています。

ああ、哀れなる私はそう遠くない未来に記憶を失うのでしょうか。

この作品最初はもっとバトルバトルしてたのに、いつの間にかバトルなんか無くなった。

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