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ボーイとガールがミートして  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
LOG2
60/75

七月八日・前編


どうも、モードです。


瞳が七月七日のログで終わりである事は自分で書いていますね。

ところで、私のログもこれで終わりなのです。

これは日記のようなもので、瞳にもあれからのことを教えてあげようとちょっとだけ書いたものです。

まさかこれが、最後になろうとは書いている時は思いもよりませんでした。



七月八日。


この私佐々木モード望が生徒会に顔を出すと、全員揃っていました。

私も中へ入ります。神野さん、よく平気でこんなところに顔を出せますよね。

もし私が同じ立場ならイザナさんに会うことすら億劫で、学校にもいきたくないでしょう。

彼の企みは終わっていなかったのです。


彼はイザナさんとの関係を何とか終わらせたいなどと計画していました。

もちろん娘も納得の行く形でです。


なにがこんなに事態をややこしくしたかって、神野さんが娘を溺愛するあまり、娘の望む通りの家族を作ろうとしたことにあります。

イザナさんを揃え、息子を揃え、娘も加えて四人家族が出来ました。


その娘が望んでいるからそうしたわけですが神野さんは理解している訳です。

自分とイザナさんがもう元には戻れない事を。


もちろん、瞳は蚊帳の外です。神野さんが瞳を忘れられないのではありません。

ただならぬ関係にあったのは神野さんと娘のまなさん。

まさしく愛娘(まなむすめ)というわけですが、二人はお互いが初恋の相手。


神野さんが自分を探してさ迷い歩いている様子をまなさんはどんな気持ちで見ていたでしょうか。

そんな関係である以上、妻への思いより娘への想いの方が遥かに強い以上、どこかで綻びが出てしまいます。

もう関係修復は無理です。それはイザナさんも承知のはず。


堤防の石垣から一つずつ石がこぼれ落ちていくかのように、彼らの関係性は音を立てずに崩壊しつつあるのでした。

多分神野さんは、イザナさんにはっきりと物を申すタイミングを見計らってるんではないか、とも考えました。


「こんにちは。今日は皆さん早いですね」


「ああ。岡本さんと打ち合わせをしててね。イザナの前にどうやって登場するかを。

もうね。無理なんだ。僕と彼女をひき剥がそうとする夏樹を僕が大切に思っているかぎり、彼女と一緒には……夏樹も改心してくれるかと思ったが」


「でしょうね……もし私が四宮さんの立場なら同じ事を思ったでしょう……」


その後、岡本さんと神野さんが協議しはじめます。


「あー、やっぱさ、あんまり神経逆なでし過ぎても可哀相だから普通にいかない?」


「いいや先輩。やるなら徹底的にだ。殺されてもおかしくないぐらい過激にやろう!」


「ええ……」


「例えばよく僕らラップバトルするけど、イザナの目の前でお互いへの愛をぶちまけるラップを開陳するのはどうです?」


「いきなり無茶言わないで! 恨まれたらどうすんの!」


「で、カブトムシみたいなサングラスかけて僕と愛のラップを口ずさむんですよ。

即興じゃなく台本も用意したいと思うんで、憶えてください」


「ええー!? 全く君は最近遠慮というものがないね……」


岡本さんはあきれたり驚いたりしつつも、何だかんだ拒否の言葉は口にしません。

私だったらもう何回悪態をついているかわかりませんよこれ。


「あの、ちょっといい加減にしてもらえますか?」


目に余ったので、私は神野さんを厳重に注意します。


「さっきから聞いていれば、岡本さんの優しさにつけ込んで、なんという卑劣な人でしょうか。

わかりました。そっちがその気なら私にも考えがあります!」


「考えだと?」


「ちょっと待っててください!」


私は猛ダッシュすると、健康的な女子バスケ部のいる体育館へ。

ここにはイザナさんがいると思いましたが、やっぱり居ました。

いざ練習を始めよう、といった具合のユニフォーム姿です。


「四宮さん、生徒会の者です。至急生徒会室へお越しください!」


体育館の外から中へ叫ぶと、イザナさんは何もいわずこっちへ走ってきてくれました。


「……?」


「着替えなくてもいいですからすぐ来て下さい」


「……!」


私と一対一で話すのは、まだちょっと出来ないようです。

四宮さんは私に渋々ついてきて、生徒会へ。その間何の説明も私はしません。

生徒会室のドアを開け、神野さんとイザナさんを対面させたところで、私は二人に情報を共有させることにしました。


「いいですか。二人とも。今から格付けチェックを行います!

神野さん、ここは頭の使い所ですよ。

せっかく頭が良いんですから、くれぐれも答えを間違えないように。

今からこちらのパネルを使ってですね……」


生徒会室においてあったパネル。これは顔出しパネルです。

写真を撮り、SNSで自由に上げてもらう奴ですね。

去年二年生が作ったやつで、今年も文化祭で流用予定です。


「いいですか。今からこの顔出しパネルごしに私たちが手を出します。

神野さん医者の心得もありますから、触診は得意ですよね。

この手をランダムな順番で出しますから触って確かめて、誰の手か当てるんです」


「なるほど。面白そうですね会長?」


岡本さんは無邪気に聞きました。


「そうね。ハルくんはどう思う?」


「やりましょう。いいですよ」


神野さんは不敵に笑いました。もちろん笑ってられる余裕などないでしょう。

もしうっかり私の手を間違えようものなら、イザナさんは喜ぶかもしれませんが、彼は恐ろしくヘコむでしょう。

それに岡本さんや会長の手を百発百中で正解しても何か変な空気になるでしょうし、神野さんの理想としては岡本さんの手だけ正解し、あとはわざとでもいいから不正解、というのが正しいでしょうか。


「でもそれだと簡単過ぎる。見ればすぐわかるから。だから逆はどうかな?」


「なっ……!?」


何という余裕! 俺がこの程度でビビるかよと言わんばかりの強気の提案です!


「逆というと?」


「僕が顔出しパネルから手を出すから、僕から見えないところでそっちから手を握ってほしい。

そうすればわかる。そのくらいの難易度がないと、格付けチェックにもならないだろ?」


「なるほど。じゃあ私たちは隠れますからね!」


さすがに四人で隠れるには狭いですが、何とかパネルの裏に全員で納まりました。

女四人で密着した上で、神野さんの手が顔のところから差し出されました。


「誰から行きます?」


「あ、決めてなかったね。瞳ちゃんどうする?」


「岡本さんくじ持ってなかったですか?」


「もちろん常備してる」


「わかりました、ちょっと今引きましょう」


くじの結果、一番が私でした。


「神野さん、一番の人が行きますよ?」


「どうぞー」


恐る恐る手を握ります。スポーツマンじゃないのであまりがっしりした手ではありません。

色も白いですし、骨張った手で指が細長く、ピアノかバイオリンでもやってそうな手です。

まるで脚の長い蜘蛛のような手。でも温かくて、ねぶるように私の指一本一本を確かめて太さや長さを計っています。


「時間制限とかある?」


「ないですけど、一番さん、引いてください」


「君のさじ加減一つかよ……」


私は手を離し、次は二番の会長です。

例によってエイリアンが卵を生み付ける場所を探しているかのように細長い指が会長の小さくて柔らかい手をまさぐります。

何か見てると変な気分になって来るので、私がこれを制しました。


「はい終了。三番さん、行ってください」


三番はイザナさん。彼女としては私がイザナだよとヒントを出して正解されるより、なるべくフェアな勝負で正解してほしいのが当然の心理。

脱力し、されるがまま。何一つ自分からは情報を発信しないよう心掛けています。


「終了。次は四番さんです」


もちろん最後は岡本さん。無表情で顔出しパネルの手と手を繋ぎます。


「あ、これはすぐわかった。もう正解発表していい?」


「じゃあ私たちはここから出ます」


私たちはテーブルにつき、厳正なる審査を開始しました。


「それで神野さん、一番から順に手の持ち主と、そう判断した理由を答えてください」


「わかった。一番は佐々木さんだね。この中で一番小さかったのと、あと毛深かった」


「えっ!?」


「もう女の子になんて事言うの!? 本当の事でも言っちゃダメな事があるでしょ!」


神野さんは岡本さんにハリセンチョップを喰らっていました。

それでも彼は悪びれもせず続けます。


「フランス人とのハーフなんだから仕方ないだろ。

毛深いのは個性で……別に悪いとは……」


私はモデルなのでムダ毛処理は完璧です。

毛深いはずないんですが、もしかするとこの時は剃るのを忘れてたかもしれません。


「毛深いのは個性じゃなくて怠慢!」


何という事でしょう。私が始めたこのゲームで最初にして最大のダメージを受けたのが、この言い出しっぺの私だとは!


「何回も毛深い毛深い言ったらかわいそうでしょ!?」


「四宮さん、いいんです。本当の事ですから」


何か私が毛深かったせいで変な空気になりましたが、神野さんは気をとりなおして続けます。


「二番は会長。この中で一番手が小さかった。

一番背がこの中だと低いし」


「毛深くは?」


「なかったですね。文字通りよく手入れされた、会長の性格がよく出た素晴らしい手だと思います」


「岡本先輩、あなた悪ノリし過ぎですよ。佐々木さんが可哀相です」


「いいんです。私が怠慢なせいで毛深いのは本当ですから」


「ごめんね佐々木ちゃん。お詫びに私がいつも使ってるクリームあげるから」


岡本さんがかばんから取りだしたのは除毛剤。

いつまで毛を引っ張るんですか岡本さん。


「ありがとうございます、今度から使わせてもらいます」


「いいのいいの。困ったときはお互い様!」


岡本さんのことが今日で嫌いになりました。

基本はいい人ですけど子供っぽすぎるとの神野さんの評価は妥当ですね。


「えー、じゃあ三番は誰だと思いますか、神野さん?」


「三番が難しいんだよなぁ……岡本さんとイザナって身長体格ほぼ一緒じゃないですか?」


「うん確かに。私は一六〇センチだけど、イザナちゃんは?」


「全く一緒です」


「なるほどね。僕がちょうど好きな身長なのかもしれないな」


と言いつつ、神野さんは実際のところ息子のことを考えているのだと私は確信します。


「おや? そんなこと言っちゃって、答えられないんじゃないの?」


岡本さんに煽られて神野さんも語りだしました。


「ええと……三番は……触った感じ、若干荒れてた。

爪も短くて家事をする手だった。

問題は指だな……指が四番より太かった。

このことから見てスポーツをやってない他の人の線は消える。

バスケは指先を酷使するスポーツだし。

つまり三番がイザナ。四番目の岡本さんはすぐわかりましたよ」


指が太かったと断言されてイザナさんの顔が曇りますが、毛深かったと言われた私に比べれば遥かにましでしょう。


「ほう? どうしてまた?」


「指も細くて肌も綺麗。爪も校則に違反しない範囲で伸ばしてる。

この中で一番手も含めた美容に気を遣ってるのは間違いなく岡本先輩のはずだ」


岡本さんは素直に褒められて、顔の筋肉が緩みまくっていました。


「えへへ、ありがと!」


「あとさっきお菓子食べてたのでベタベタしてた」


「うそ!?」


岡本さんはあろう事か自分の指をぺろぺろしだしました。

そういうところですよアナタ。ちゃんと手を洗ってきて欲しいです。


「神野さんあなた女の子を傷つける余計な一言入れなきゃ気が済まないんですか!?

あと何をサラッと全問正解してるんですか、全くもう!」


「いけなかった?」


「もちろんです。次は目に物を見せてあげますからね!」


「僕何か君を怒らせる事したか……?」


何もわかっていないようなので、私は無視して女子ズを集めて協議を行います。


「皆さん。ちょっと難易度が低かったようです。難易度を上げましょう」


「上げるって瞳ちゃん、どうするの?」


「ちょっと部屋の外に出ましょう」


女四人で廊下に出ると、私は適当な紙を引っ張り出しました。


「先輩、私メイクしないんですけど……ルージュあります?」


「ル……? ああ、あれね。はいはい」


岡本さんのポーチから口紅を取り出したところで、まずは私がそれを口に塗りたくりました。


「難易度激増ですね。全員分のキスマークから、唇の持ち主を当ててもらいます」


「なるほど……これは難しそう。じゃあ私最後でいいや。

会長とかイザナちゃんは自分の持ってるの?」


「……!」


「うーん、ちょっと通訳!」


「はいはい……」


イザナさんと会話することを諦めた岡本さんは神野さんを呼び付けます。

通訳さんはイザナさんに耳打ちで話をきき、本人の口調を尊重して言いました。


「私は他人にどう見られてもどうでもいいので……と言っていました」


「イヤミ過ぎるぅ~っ! その顔で~!」


岡本さんはイザナさんをかなり直接的に非難し、イザナさんは怯えて神野さんの陰に隠れてしまいました。

まるで小動物。確かに、もう見慣れてしまっているんですが四宮さんは世界中どこに出しても恥ずかしくない美少女ではあります。

それに、言ったら悪いですが、彼女は瞳にとてもよく似ています。


恐ろしく臆病で性格は依存的そのもの。自分に自信がなく、過去ばかり見つめている。

まさに鏡映しのごとくそっくりなのが瞳と四宮イザナさんなのです。


あ、ごめんなさい。言ったら悪いですが瞳によく似ているなんて、私の瞳に対する評価がそこまで低いことは本人には内緒ですよ。


まあともかく、神野春雪さんというのは元々からして、こういう依存的な女性が大好物なのです。

自分に頼り切る妹を愛し、四宮イザナさんを愛し、もちろん瞳の事も好きでした。


唯一結さんだけは例外でしたが、まあ例外だからこそ特別なのかもしれません。

その依存的な仲間から抜け出し始めたのが、成長を遂げた瞳です。

夏樹くんの言っていた通り、現在を見る目を取り戻したことで、精神的にも前向きになってきている気はします。


神野さんの目的は四宮イザナさんが前を向き、過去ばかり見つめる自分に決別してもらう手助けをすることだと聞いています。

彼女にできるでしょうか。いえ、瞳に出来たのならできるはずです、いずれは。


ところで話の続きですが、イザナさんが化粧はどうでもいいと言ったところ、会長も同調してきたのでした。


「私もよ。女は毎日それで何十分も損しているわ。

一生分ともなれば途方もない時間。

学生時代でも社会人になっても、それだけ男に差をつけられるんだから。

世界中の女が一斉に化粧をやめればいいのに、と思う事もあるわ」


「会長相変わらずドライでクールですねぇ……私も本心では面倒臭いですよ?

あ、そういえば聞いてみたかったんだけどイザナちゃん、神野くんってメイクしてあげたら喜ぶタイプ?」


「あ、たまにしてあげますよ。これがなかなか……画になるといいますか。と言っています」


「自分で言っちゃうのそれ? すごい自信家なんだね?」


「ええ、メイクの技術自体は私は自信ありますね。滅多にしないですけど……とのことです」


「してあげたらどう? 盛り上がる?」


「私一人で盛り上がるだけで……他の人にメイクした姿を見せようとは思いませんね、だそうです」


「このラブラブカップル!」


「照れますって……」


私はこの会話の不自然な点に気づきましたが、あえて黙っていることにしました。


「メイクするときとしないときで、露骨に反応変わる?

友達から聞いたんだけど、彼氏は時と場合によって態度が全然違うんだって」


「そうですか……私がメイクするといつも嫌がりますね、とのことです」


「えー意外! 絶対可愛いのに!」


「彼、キモいから嫌だってすごい嫌がるんですよって言ってます」


「嘘でしょ、キモいとまで言うの!?」


岡本さんと会長の顔色が一変しました。


「髪結んであげただけでも嫌がりますし、私がメイク取るまで顔も合わせてくれないんですよ。

この前なんか次やったら怒るとまで言ってましたから。と言ってます」


「そこまですっぴんが好きな男も珍しいね……」


「えっ」


「えっ」


一瞬の沈黙。イザナさんはこう続けます。


「えー、何の話でしたっけ? 先輩?」


「だから、エッチの時にメイクすると彼氏が盛り上がってくれるって私の友達が……」


「えっ」


「えっ」


「えっと、僕にメイクしてあげたら嫌がったって話を……」


「えっ」


「え……」


私たちは誤解がとけると暫し沈黙し、神野さんを再度追い出してから無言で紙に唇を押し付けました。

それぞれに私が番号を振り、かなり待たされた神野さんの懐にこれを届けます。


「神野さんできました、四人分のキスマークです。じっくり鑑定してください」


「番号があるね。またくじ引き?」


「はい。何番は誰々だ、と宣言してください」


「やれやれ……僕、全問正解しても怒られるだけだったんだがな……」


神野さんにとっては何の得にもならない格付けチェック

彼はしばらく難しい顔をして悩んだあと、答えを述べはじめました。


「一番の唇だけど、何だろう。口紅を塗り慣れている感じがする。

あとこのブチュッとかなり強くキスしてるこの感じ。

間違いなく岡本さんだ。性格が色濃く出てる」


顔には出さないでいようと努力してるんでしょうが、岡本さんとイザナさん、恥ずかしがって耳まで真っ赤です。

どっちでしょうか。どっちでしたっけ一番。

それには気付かずキスマークを凝視し続けながら神野さんが続けます。


「二番……難題だなぁ……小ぶりで色が薄い……キスも控え目だ。

ここだけ見ると佐々木さんのように見える。

でもこの、適当に塗りたくったような口紅の色が出てる四番も佐々木さんに見える……」


その通りです。四番が私です。二番は会長です。


「決めた。二番は会長。三番の見知った形の唇がイザナ、四番が佐々木さんだ」


「ファイナルアンサーですね神野さん。では岡本さん、発表を」


「えー、またしても全問正解です。どうしよう瞳ちゃん。

三問目はもっと難しくしないといけないね!?」


「……私たちは何と戦っているんでしょうか?」


「まあいいから。おもしろくなってきたところでしょ!」


私たちはいつの間にかリーダー格になってしまった岡本さんに導かれ、またも生徒会室を出て廊下で作戦会議が始まりました。


「手ソムリエ。キスマーク。三問目はどうする?」


と聞かれると、会長さんが意見を出しました。


「はい岡本さん。筆跡鑑定はいかがですか?」


「それ採用。他には?」


「心理テストはどうかしら。私ならいくらか出せるわ、面白そうなやつ」


「さすが会長。いいですね。瞳ちゃんは何かある?」


「私ですか? えーと、じゃあですね……二十の質問をしましょう」


「なるほど……じゃあみんな、とりあえず最初は会長の最初のを採用しましょうか」


私たちは生徒会室に戻るやいなや、テーブルに紙を置いて規定の文を書き、もちろんくじ引きで番号を振りました。

それを持っていくのは進行役になった岡本さんです。


「はい、これ見て」


「愛してる……て……四人分かぁ……まさか誰が書いたか当てろってか?」


その通り。紙には既に四人分の愛してるが書かれています。


「もちろん! 愛してる女の子なら筆跡くらいわかるよね?」


「岡本さん、僕は何を試されてるんですか……?」


「まあ頑張って!」


相変わらず岡本さんは放任主義です。

神野さんは私たち女性陣に急かされている空気を敏感に感じ取り、まるで家庭教師のお姉さんに宿題を持っていく子供のように、書類をもって私たちのいるテーブルまで持ってきました。


「私は何番だと思いますか、神野さん?」


「……三番かな。君の字を見た覚えがないから、勘だけど」


「どうして思ったんです?」


「字が汚かったから。君は日本語とフランス語と英語のトリリンガルだろ?」


「なんて事言うんですか神野さん! なまじ本当なだけに怒りますよ!」


「そうか。岡本さんも適当な性格だから字が汚そうだと思った。

それがわかればあとは簡単だな……最も字が綺麗な一番が会長。

二番がイザナ。四番が岡本さんだろ?」


「何という……筆跡鑑定まで正解されたよイザナちゃん……」


「会長の心理テストとやらのお手並み拝見といきましょうか岡本さん?」


「何だよ心理テストって……僕はどれだけイジメられたらいいんだ?」


「始めますよ?」


読めないですねぇ。会長のことですから恋愛脳一辺倒ということはなさそうですが、読めません。


「あなたはリスを拾いました。どうしますか?」


はい、でました読みづらい問題。何を暗喩しているんでしょう。


「リスを拾った? 何でも言うこと聞いてあげるかな……今は一緒に暮らしたいと思ってる」


「神野さんそれ特定の個人の事を言ってませんか?」


「何の事かわからないな」


と神野さんはとぼけました。まあそれならそれでいいです。

私の読みでは、リスというのは子供の暗喩。


つまり「子供を授かったらどうするか」という質問ではないでしょうか。

それなら私も答えは決まっていますね。


「何でもお世話してあげます。可愛い物好きですから」


「なるほど。四宮さんはどうかしら」


「リスを拾ったら持ち主のところに返して勝手に外に逃がさないようきつく説教しますかね……と言ってます」


「だからあなたたち特定の個人のことを言ってませんか?」


「どうしたの佐々木さん。さっきからちょっと変だけど?」


「別に何でもないです会長……」


最後に岡本さんが回答しました。


「リスか。可愛がっちゃうだろうなぁ。ナッツ食べさせたり一緒に寝たり、撫でてあげたり……」


「これは好きな人へのスキンシップの度合いを表しています」


「ですよねー」


「第二問。あなたは馬、豚、犬を連れて森の中をさ迷っています。

お腹が減って死にそうですが、どうしますか?」


答えが読めない問題! これは地雷回答を避ける事がさっきより困難そうです!

ていうか何ですかその見たことない問題。会長が今作ったんじゃ。

神野さんも私と同様にこの質問が何を意味するのか頭を巡らしているはずです。

ややあって、神野さんはこう答えました。


「全員で街でも目指すかな。豚を飢餓状態になるまで食べなかったなら豚は僕にとって大切な存在だ。

豚を犠牲にすることなく必ず全員で助かりたいね」


神野さんらしい、視野が広くて優しく平等で、なおかつ問題文の読解力も高い答え。

神野さんってやっぱり、綺麗事を言わせたら右に出るもののいない詐欺師の才能の持ち主ですよね。

結婚詐欺やホストクラブ勤務とか向いてそうです。


「私は豚を犬と分け合って馬で行ける所までいきます」


とイザナさんの通訳を買って出た四宮さん。


「何を言ってるの二人とも。豚を犬と分け合ってから馬で駆け抜けるに決まってるじゃん。

もちろんお腹が限界まで減ったら同じ豚を分け合って私を信頼している犬、次に馬も食べる」


岡本さんは多分想像力が欠如しており、犬や豚などに対し、人間的な扱いをしようという発想がないタイプですね。

決して悪い人ではないですがサイコパス感が酷いです。

前にサイコパステストで結構な高得点を神野さんが出してましたが、いつか機会があれば岡本さんにも出してみたいです。


「岡本さんはサイコパス感のある回答ですねぇ。

私は豚に犬を護衛としてつけて、先に馬で助けを呼びに行きますかね。

もし助けてもらえたらあとで救助に向かいます」


「えー、この質問では馬は親、豚は子供、犬は伴侶を表しています。

正直な話、豚イコール子供は人間が真っ先に切り捨てやすい弱い存在。

その次が伴侶=犬。この犬は人によってイメージするタイプがかなり違いますね。

例えば佐々木さんのイメージだと伴侶は子供を守ってくれる強くて優しい大型犬のような存在。

それゆえ、豚を犬が食べないと信頼して任せました。

逆にハルくんの場合子供も伴侶も親も全部オレが守ってやるぜって感じの考え方みたいだから、犬は小さめをイメージしたんじゃないかな。

頼りになる親=馬は最後まで切れません。ただし、馬に関しては例外がある。

もちろん質問を受ける年齢が高ければ、むしろ親は守るべき存在になってるでしょうけど……」


衝撃のネタバレでした。


「えっ、じゃあ岡本さんは……」


岡本さんの方を向くと、笑ってごまかしていました。


「あっはっは、まあ、そういうときもあるさ!」


「佐々木さんはまともな回答。岡本さんはサイコパスね。

ハルくんはもっともらしい回答。四宮さんは何というか……すごく……あなたらしい回答ですこと……」


ニヤッと頬を歪ませて会長は悪魔のように笑いました。

これぞ噂に聞く暗黒微笑! 恐ろしい事です。

もしかしてイザナさんを神野さんの前でおとしめるために心理テストなんて事を言い出したんでしょうか。


「続いて第三問よ。あなたが暗い場所を歩いていると後ろから誰かが声をかけてきました。

それは一体誰ですか」


「暗いところで話しかけられる……夏樹かな?」


「神野さんそれはかなり実体験に基づいてませんか?」


「何のことかわからない」


また神野さんがしらばっくれました。


「ハイ、私はジェイソン! チェーンソー持って襲ってくる!」


「私は……やっぱり神野さんですかね。

神野さん、よく私を驚かせようと突然予想してないところで話しかけて来ることがあるんですよ」


《ふーむ。これは何を意味するのか。会長はやはりイザナさんをおとしめようとしているはず。

私が神野さんと答えたこと、マズかったでしょうか?》


などと考えつつ会長を待ちます。


「急に話しかけてきた人はあなたの好きな人を表しています。

ですので岡本さんは相当なジェイソンファンであると言えるでしょう」


「そうでしたか……」


告白同然の言葉を無自覚に吐かせられる。恐るべき心理テスト!

イザナさんはこっちを睨んでおり、岡本さんはニヤニヤしながらこっちを見てますよもう恥ずかしい!


「そうだったの……瞳ちゃん、元気出して。彼女持ちに恋は誰もが通る道だから!」


「岡本さんが言うと説得力がありません」


「そんな瞳ちゃん!?」


「第四問」


鶴の一声とばかりに会長が声を発し、みんな黙りました。


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