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ボーイとガールがミートして  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
LOG2
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七月七日・その五

「ついに引っ込んだか……」


春雪さんはため息をつき、玄関前に正座し直しました。

それから数時間後、一人の女性が玄関戸を開けました。


「あら、まだ居たんですか!?」


「男に二言はありませんから」


先ほどの女性です。多分名前は四宮絹さん。

結婚はしてるんでしょうか。どっちにしろ四宮家も女性は婿をとる習慣ですから苗字は変わらないですし、判然とはしません。

と、そんなときです。家の奥からか細い、まるで幽霊のような声が聞こえました。


(きぬ)……早う、お客さんにお茶をお出ししぃ」


この関西弁は! そしてこのおばあちゃんボイスは!

間違いありません。これは四宮結さんですね。

この時代の人としてはかなりの長生きです。まあ、若いんですけどね。

現在九十二、三歳といったところでしょうか。

ちなみに神野幸村さんは七十代。いつ亡くなってもおかしくはありません。


「お母ちゃん……」


玄関までゆっ……くりと、しかし本人としてはそれなりに急いでやってきた結さん。

若いので、おばあちゃんなのに地獄耳です。案の定、姿は前と何も変わりはしません。


「奥様、いや……御寮様とお呼びした方が? お嬢様に会わせてください」


「よう勉強してはる……どうぞ」


そういえば結さんにとってこの春雪さんは孫なんですよね。

結さんに娘は逆らえないようです。春雪さんは家に上げてもらったうえ、イザナさんに会うことさえ許してもらいました。

いやー、まさかこの百年ほどあとにこの結さんと神野春雪さんが結婚するとは思いもよらなかったでしょうね、当の結さんですら。

客間に上げられ、お菓子とお茶を出された春雪さん。

それに手をつけず一人で座っていると、結さんが部屋にやってきてボソッと言いました。


「イザナにも会うてやってください」


「……はい。遠慮なく」


「ちょっとお母ちゃん!」


結さんは春雪さんの心意気に胸を打たれたようで、娘には無言の威圧をして黙らせ、春雪さんをイザナさんのところへ導いていきます。

家の中の奥まったところにある和室。隔離部屋と言った方が正しいのかもしれません。

そこの襖の前に案内された春雪さんにすかさず結さんが質問しました。


「何の道具も持ってはらへんようですが……」


「はい、今日は会いに来ただけです」


「会うだけでも染るかもしれまへんえ……ここからやったら声だけでも」


「いえ、ここまで来た以上会います。そのために来ましたから」


「わかりました……では……」


おばあちゃんは襖を開けました。和室の真ん中にふとんがしかれ、そこに寝ているのは当然イザナさんです。

ついに襖が開いた事に強いショックを受けた彼女は、本来好きな人にこんな弱った姿など見せたくないでしょうに、条件反射で上体を上げました。

春雪さんと目があいます。


「これは……夢……? 私、熱に浮かされてるのかしら……」


「君の病気を診にきた、そばに……」


「来ないで!」


まあ、当然そう来ますよね。この人に自分のせいで死の伝染病を感染させられるわけがありません。

側に寄ろうとした春雪さんの足がぴたりと止まります。


「考えてモノを言えよイザナ。側に行かなければ、君を治せない」


全くの正論ですが、イザナさんは無視です。


「ああ、でも夢でいいから消えないで、そこにいて!」


もう何日も人と目を合わせて話をしたことがないからでしょう。

イザナさんは涙ながらに訴え、春雪さんは黙って廊下に座り込みました。


「俺の父親は世界一の医者だ。結核だって必ず治してみせる」


「無理よ。こうなった以上私は死ぬしかないわ」


「無理に法則を見つけてそれを乗り越える。それが科学だ、医学だ。

今までは無理だったかもしれない。だがもうすぐだ、もうすぐ結核は治る病気になる」


「だとしても、もうこの家には来ないで。私のせいであなたが死んだら、もう二度と二つの家の仲は戻らないわ!

それはあなたも望まない事でしょう、違うの!?」


「俺は死ぬつもりは毛頭ない」


そう言って神野春雪さんはついに強攻策にでました。

おもむろに立ち上がり、一歩足を踏み出したのです。


「来ないでって言ってるでしょ!」


イザナさんはすぐ近くにあった蒔絵の箱を投げつけ、春雪さんの顔にあたり、中身は飛び散りました。

そこに入っていたのは薬。恐らく効き目は無かったでしょう。


「来ないで!」


「聞けない頼みだな」


無造作に距離を詰め、ついにイザナさんの側までやってきた春雪さんには彼女も観念し、抵抗をやめました。

それでも何とかして感染だけはさせまいと顔を背けます。

しかしここで、春雪さんは驚愕の手段にでました。

彼女の肩を抱いて引き寄せ、自分の頭に彼女の頭をくっつけたのです


「何で……」


嬉しいのと苦しい感情が入り混じった複雑な表情で泣きながらイザナさんは脱力しました。

彼女の体はずり落ち、彼の胸の中で大声を上げて泣きわめきだします。


「何で私だけ、こんな……こんなところで願いが叶ったって、意味なんかないのに!」


どうやら二人はこれまでそういう関係ではなかったみたいです。

しかしながら、もう二人に後戻りする道は残されていません。


「早く離れて! うがいをして、手を洗って! それから二度と近づかないで!

戻れなくなる! あなたには将来だってあるのに、こんなところで無駄にしてほしくない!」


「だから言ってるだろ。俺は死ぬつもりは毛頭ない。

離れるつもりもない。これを最期の思い出にしないためにも」


「何を言っているの!? 訳のわからないことを言わないで!」


私も意味がわからないと思いましたが、次の瞬間意味はわかりました。


「君が死ぬ時は俺も一緒に死ぬ。だから俺と一緒に生きよう」


「春雪さん……あなた……本気で言っているの!?」


「本気だ」


「死ぬのが怖くないの!?」


「死ぬのが怖くないやつに、誰かの命が救えるか。

これは慰めでもなきゃ、感傷的な自殺行為でもない。

君を治す。そのことは絶対だと示すためだ。

だから安心しろよ。俺は生きてここにいる。

今も、明日も、十年後もここでな」


うわうわうわうわ、私は今まで神野幸村さんが世界一いい男だと思ってました。

結婚するならこの人がいいと、息子がちょっと変な子だったくらいで離婚した奥さんは勿体ないことをしたなと、そう思っていました。


春雪さんも甲乙つけがたいくらいだな、と私は思わされました。

この人ものすごいオレ様なのに、意外なほど優しいですね。


こんなのもう、プロポーズじゃないですか。

極限の、命懸けの、プロポーズ。

今まで一度も手さえ触れてくれなかった彼が、ここまでしてくれたら、もう私だったら一生付き従ってもいいと思える程です。


こんな男らしくて魅力的な二人に比べてハルくんのなんとチャラくて格好悪いことか。

私はもう、イザナさんと春雪さんの抱擁を見ているだけで心が温かくなって、危うく泣きそうです。


ついにイザナさんは泣き崩れ、彼女の体を春雪さんが両手で抱きしめ、これ以上ないほど密着した姿になりました。


「何という事を! 春雪さん、自分が何をしたかわかってるんですか!?」


一部始終を見ていた絹さんは非常に冷静でした。

確かに、それが常識人の反応だと思います。


「心配要りません。ただ……御寮様、この家で研究を続けても?」


「お母ちゃん! 情にほだされたら……!」


「家に住みなさい。つきっきりで治してください。お願いします」


結さんは孫として可愛がっていたイザナさんの命を必死に助けようとしている春雪さんを全面的に信頼しました。

これには絹さんも折れました。


「ハア……わかったわよ。全てあなたの言う通りにするわ。

その代わり絶対にイザナを治して頂戴ね」


「はい」


「正直言うと情けないわ……私は保身のためにイザナを独りで閉じ込めたんだから……」


「それが普通だと思います。俺も治せる自信がなかったら、ここには来なかった。

彼女を傷つけるだけだからです。でも俺は間違いなく治す……約束します」


そう言い終わった時でした。まさにその時、けたたましい音とともに玄関がノックされました。


「すみません! お坊ちゃま……神野春雪さんがこちらに来られていませんか!?」


誰でしょうか。お坊ちゃまというのが春雪さんのことであるのはわかりますが。


「……出ます」


春雪さんはイザナさんを優しく布団に寝かせ、立ち上がりました。

廊下を元来た道順で戻り、玄関を開けると、見知らぬ男性が切羽詰まった様子です。


「お坊ちゃま!」


「それ以上近づくな」


「えっ」


「近づいたらぶん殴る」


「は、はい……お坊ちゃま、大変でございます! ご当主がお亡くなりに!」


ご当主というと、もちろん神野博士ですよね。


「それで?」


「至急通夜、葬儀にご出席の準備を!」


「体調不良で行けない。そう伝えてくれ。あと父に手紙を渡したい。

頼まれてくれるか。俺は今時間がないんだ」


「しかし! 家督は幸村様が継げばお坊ちゃまは次期当主です!

あなたがそのような態度では周囲の反感を買います!」


「なら次期当主の命令だ。寒天とこういうフタ付きの皿をありったけ買ってきてくれ。

金に糸目はつけなくていい。ありったけだ。木のテーブルも買ってきてくれ」


「いや、あの……!」


「頼まれてくれ。いいか、そこを動くなよ」


春雪さんは大急ぎで紙とペンを用意し、書きなぐりました。


『ワレ リカンセリ。ガイシュツ フノウ。

クダンノ テジュンニテ ケンキュウヲ カイシスル。』


寒天培地法での薬効確認はペニシリンやストレプトマイシン等の研究で使われた常套手段。

それは神野博士が初めて考案したらしいですが、どこまで本当かはわかりません。

ただ、これは父にだけ伝わる事です。


何故息子が結核に罹患(リカン)したかあの父なら、書かなくてもイザナさんのためを思った無鉄砲ながらも優しさと愛に溢れる行動だと瞬時に理解してくれるはずだと予想したのでしょう。

私も同感です。大賛成です。春雪さんはすぐさま行動を起こしました。

手紙を持っていくと、謎の使用人のような人物に伝言を頼みました。


「済まないと思ってる。父には、無茶をして悪いと伝えてくれ」


「お坊ちゃま、本当に行かない気ですか?」


「あの方と僕に血の繋がりはないんだ、別に故人も構わないだろう」


「わかりました……それでは失礼致します」


「寒天と皿だぞー?」


「フタ付きの、ですよね。木のテーブルも。何かの研究に使う大きいのですね?」


「ああ、さすがだな!」


短い登場ながらちょっといいキャラしてる謎の男性は街中に消えていきました。

その数時間後です。寒天やその他の道具が揃ったところで、春雪さんはおもむろに家の庭の土を採集し始めました。

どうやら土の中の菌からスーパーバイキンを発見し、培養し、薬用成分を取り出す事を目標にしているようです。


「何をしてるんですか!?」


と縁側に立って絹さんが驚くのも無理ありません。


「詳しい説明は省きますが、とにかくこの菌が……菌が重要なんです。

時間が本当にない。俺自身もいつまでこうしていられるか……」


「菌……」


こうして四宮家と一部神野家を挙げての大プロジェクトが開始しました。

神野博士の国を挙げての通夜・葬儀に幸村さんは参加してから研究に参加。

こちらは薬効を試すための菌を入手し、四宮家に出入りして研究を行う事になりました。


ところで、春雪さんをお坊ちゃまと呼んでいた人は執事兼家庭教師だそうです。

凄まじい英才教育を叩き込まれたんでしょうね、彼は。


それで、幸村さんは驚くべきことに結核の治療も可能な抗生剤の製法を完璧に暗記していたんです。

普段そんなに思わないですが、やっぱり最上位クラスのお医者さんは想像もつかない程の天才なんですね。

その息子二人が優秀なのも頷けます。結果、研究が始まって三日の間に元気いっぱいな増殖済みのバイキン達が続々と四宮家に届きました。


幸村さんが教授をしている大学の学生まで動員したこの大規模プロジェクト。

神野博士の後継としてただでさえ忙しいであろう幸村さんは激務に追われました。

しかし、やっとの思いで育ててきた息子の命まで懸かっています。

既に老齢に差し掛かっている彼ですが、協力を惜しみませんでした。


研究を始めてから三ヶ月、最初の変化が現れました。


菌にではありません。春雪さんが病に倒れました。

私は知らなかったのですが、喀血というのは喉に炎症などとともに腫れ物ができ、これが潰れて血が出る事で起きるらしいです。

文字通り、血を吐きながらの作業。それを誰にも隠したまま彼は作業を続行しました。

何が彼をそこまでさせるんでしょうか。恋愛なら話は単純だったんですが、どうにも恋愛ではなさそうなんですよね。


これは男のプライドの問題だったのです。

彼は自分の父が世界最高の医者と信じ、その功績を吸収する神野博士にいい気はしてなかったでしょう。

そして、その最高の医者の息子としての自分が、最高の教育を受け、帝国大学医学部というエリートしかいない環境でも常にトップで居続けた自分へのプライドは高く高くそびえ立っていました。


その誇り高くエリートな自分と父が、女の子一人助けられないわけがない。

そんなことは俺達のプライドが許さない、というわけです。


ただ、イザナさんが気力で踏ん張っていることは間違いなく恋愛でしょう。

私だって同じ立場だったら絶対惚れてます。惚れぬいてますよ。

見てて恥ずかしいくらいです。でも羨ましいです。

私も彼女と似たような立場ではありますが、私の命を助けてくれた人は私に全く興味がありません。

結局二人は結婚するんでしょ。そうなんでしょ。どうかお幸せに!


まあ私はそうは行かないってことを嫌というほど知ってるんですが。

二人が結婚するまさにその年、世界に異変が起こるんですからね。


血へどを吐いて頑張り通した春雪さんが、やせ我慢を続けて一ヶ月程が経過した頃の事です。

いつものように青い顔をしていた春雪さんがお皿のフタを開け、次の瞬間血相を変えて走り出しました。


「父さん! 出たぞ!」


襖を開け、父の寝る寝室へ無断で侵入した春雪さん。

奥さんとは別居中なのか死に別れたのか。幸村さんはまた一人です。

仮眠をとっていた、老いてなお健在の名医はさすがに不機嫌です。


「出たって? でかい糞でも出たか」


「薬効ありだ! 父さんの言っていた菌だ!」


「やっと出たか……出たならもう話は簡単だ。

そいつを培養して一番効能の高いやつを選び、成分を抽出して完成だ!」


「人間に投与できるか!?」


「国の認可とか臨床試験とか、ごちゃごちゃ煩わしい手順が必要だがな」


「そんなこと俺は知らない! 父さんが言うなら俺は信じる!

彼女に投与する。静注すればいいんだよな!?」


「お前ならそう言うと思ったよ」


幸村さんは軽く笑いながら上体を起こしました。


「お前の患者第一号か。助けてやれよ、彼女をな」


「ああ。その次はあんただ」


「……気づいていたか」


当然です。結核患者であるイザナさんと濃厚接触した春雪さんの側にずっといたんです。

恐らくこの家の人みんな感染してますし、それは最初から結さんたちもわかっていたことでしょう。

最初から一蓮托生。結さんは全てを春雪さんに賭けたというわけですね。

全くもう、感染症に自ら罹るなんて医者として恥ずべき事ですよ。

黄熱病の研究中に黄熱病にやられた、とかなら医者としてはカッコイイですが、春雪さんは全くやらないでもいいのに自分から濃厚接触した底なしのバカです!

医者としてあるまじき愚行です。


「だがまあ、まずは自分の体で試してからだな」


と、春雪さんは珍しく笑いました。


「お前も食えない男だな?」


「ああ。正直な話、俺の体で薬を試す必要があったからな……」


「わかってる。彼女には黙っておく。美談は美談にしておこう……俺も起きるか……」


その後二人は薬効のある株を培養、その後更に選別を重ね、スーパーバイキンが完成。

それをなんか難しい科学的合成を行い、見事抗生物質が完成しました。

もちろん人に打つなんて絶対ダメですが、春雪さんは躊躇なく自分の体で試しました。

わずか数日のうちに効果は上がり、劇的に回復。

一週間後には咳もしなくなるほどの回復ぶり。

まあそもそも春雪さんは普通の人間の体じゃないと思うので一般人も実際結核からこんなに回復するのかはわかりません。

ともあれ普通の体でないのはイザナさんも同じ事ではあります。

間違いなく彼女にも薬効があることでしょう。


その次に迷惑をかけた四宮家の人々にも注射を。

絹さんと結さん以外は事前に避難をしていたため、罹患者は二人だけです。

絹さんが最初に症状を改善し、次に春雪さんが結さんの腕に注射し、それが終わって医療器具を春雪さんが片付けていた時でした。


彼のひざもとの布団に寝ている結さんが終わると、物欲しそうに春雪さんの顔を見つめ出したんです。


「親子揃って良え男よね……昔の幸村さんに似てきた?」


「確かあんた父さんと昔……」


「絹はあの人の子よ」


「そうか。危なかった。一歩間違えばイザナも俺の妹だったところなんだな」


「ふーん……何で危ないのん? 血が色濃く繋がってたらなんか春雪さんに関係でも?」


結さんは白々しくも、全てわかった上で質問しました。


「いや、別に……」


「イザナには悪いけど、どうしよう。(あて)……春雪さんのことも欲しくなってきたわ」


結さんが春雪さんの瞳に誘うような揺れる眼差しを送り、頬に白く繊細で、まるで雪を固めて作ったような細い指を添えてきても春雪さんは完全に無視します。


「俺は誰の物にもならない。それに父さんとも違う。

あんたに元妻の面影を見たらしいがな……」


「あんっ、もう連れないお人やわ……」


「病み上がりは寝ていろ」


「自分も病み上がりのくせに……」


春雪さんは全く結さんには取り合わず、結さんは寂しそうにまた布団に入って、それを見届けてから春雪さんは外へ。

一瞬冷たい態度は取ったものの、春雪さんは自分を患者と対する医者と認識している間は結さんのことも優しく見守って、暖かくして寝るところを確かめるまでは目を離さなかったのでした。


薬が出来てからおよそ二週間後、ついにイザナさんに投与するときが来ました。

もうこのころには四宮家の人や幸村さんも全員回復済み。

最後に残ったイザナさんの周りを家族が囲んでいました。


「イザナ……良く頑張った……」


一番掌返しの激しい絹さん。そして、九十代にもかかわらず結核から余裕で生還した異常な生命力をもつ結さんの姿も。

苦節四ヶ月、イザナさんが罹患してからは実に半年近くの苦闘の末、ついに彼女の静脈へ注射の針が刺さり、奇跡の薬が投与されました。

もちろん注射をしたのは春雪さんではなく医師の免許を持っている幸村さんです!


「君を助けたくて、何十人の人がこの半年努力を続けた。

中にはどうしようもない馬鹿も混じっていたがね」


「知ってます。この病気にかからなかったら、私はその人がドのつく阿呆だとは知らなかったでしょうね」


「全くな。彼は格好をつけたがる癖があるから隠していただろう。

いや、格好をつけたかったから、馬鹿な真似をしたのかな。

だがそんな馬鹿が命懸けで見つけた薬だ。効かない訳がない」


「はい。その馬鹿な人に、よろしくと伝えて下さい」


「だそうだが?」


話を振られた春雪さんはバカバカ言われ過ぎてスネています。

きっと彼の人生、賢いと褒められた事しかなかったでしょうからね。


「その馬鹿はきっとこう言うだろうな。これからもどうぞよろしくって」


「はい……」


イザナさんは満足したように枕に頭を乗せました。

一瞬死んだかと思いましたが、別に眠っただけのようで私はホッとしました。

そうです。二十歳までは絶対生きていたんですから、死ぬわけないですよ。


それからの神野幸村さんと春雪さんの快進撃はものすごいものがありました。

『結核の特効薬のついで』とばかりに世界初の抗がん剤を菌から抽出。

どちらも後に特許や認可を勝ち取り、神野製薬は凄まじい大富豪に。

まあ、後の暗黒時代で全部リセットされるんですけどね。


イザナさんは元気に回復すると学校にも復帰。

大学生と高校生なので普段は会いませんが、病気から回復して一ヶ月後。

ついにイザナさんが例の場所に顔を出しました。もちろん大学の研究所です。

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