七月七日・その三
「待っていろよ……」
幸村さんはついに、神野家の人間の本格研究に乗り出していました。
そのための研究施設は大学内にあるガン研究センターの地下の秘密の基地。
この中へ入って行った幸村さんは、入口の椅子に座っていた一人の男の子に声をかけました。
年齢の頃は十代くらい。年齢が不詳な男の子。名前を聞かれていました。
「はじめまして。名前は?」
「神野雪光です」
「なるほど。俺の五代前くらいのおじいちゃんかな……」
「何か言いました?」
「いや別に」
神野幸村さんの五代くらい前の男の子はその時代の能力保持者だったようです。
彼は写真を撮られたり験体を採取されたり、薬を投与されたりしました。
どうやらこの研究は始まったばかりのようです。
当時としては高性能な顕微鏡を用いて細胞を調べていた幸村さんは突然真っ青な顔をして近くにいた若い白衣の研究員に叫びました。
「きみ! 今すぐ理事長を呼んでくれ!」
「はい、教授!」
程なくして理事長はやってきました。中年の男性。幸村さんとそう見た目は変わりありません。
「教授、どうされました」
恐らくこの理事長らは、数少ない神野幸村さんの秘密を知っている人でしょう。
幸村さんは理事長に事の成り行きを説明しました。
「研究は始まったばかりですが、もう既に人智を越えています!
これを見てください。私や理事長など神野家の大人の細胞を撮影した写真です」
「……遺伝子に謎の影。不気味ですな」
「そしてこれが、例の……」
「神野家では代々、神憑き様と呼んでおりますが」
「そう。この代の神憑き様はさっきの子ですよね、それを調べました」
「何かわかりましたか?」
「この子の遺伝子を調べた結果、遺伝子に呪文のようなものが書き込まれていました」
「……はい?」
「体を構成する分子に文字が書き込まれていたんです。
呪文のようなものです。言うまでもなく人智を遥かに越えた何かの力で書き込まれています。
しかもこれを調べた結果、Y染色体と呼ばれるもののみに書き込まれています」
「それがなにか?」
「父から息子へ。必ずそうやって伝わる遺伝子にそれが書き込まれているということです。
これが呪いです。神野家で男系の継承が断絶することはなかったですか?」
「それが、つい数十年前のことになりますか。
化野家はほとんど皆殺しになり、出家していた家のものが還俗し、家を再興し、不吉な化野の名前を変えて神野になりました。
しかし僧侶から還俗した際の年齢が年齢だったものですから子宝に恵まれず。
やっと出来た女の子で妥協するほかなく、婿を取りました。
男系では確かに断絶しています」
「しかし立派に呪いは継がれている。やはりダメか。この血統を根絶やしにする以外……」
「しかしですね、教授。そうは言いますが、この力を解析できれば抗菌薬の稼ぎどころではない、文字通り世界を支配できるかもしれませんよ?
しかもこの力は神野だけの独占! これ以上都合のいいことが他にありますか?」
「支配? 違うだろ。この力の使い道はそんなことじゃない。
救うんだよ、人類全員! この力で苦しめられる世界の人々を!」
「……はい? 何を言ってるんですか教授。お疲れなのでは?」
理事長が、一体何をこの幸村さんが悩んでいるのか推し量る術を持っているわけありません。
「理事長、いきなり呼び立てて申し訳ない。興奮しているもので……」
「構いませんよ。教授、お身体には十分気をつけてくださいね、それでは……」
理事長は本気で心配そうな目を幸村さんに向け、ドアを開けて去って行きました。
その直後にはデスクに手をつき、幸村さんはうなだれます。
「時間がない。時間がないんだ……俺が未来を、過去を変えなければ。
時間をかけすぎたか? いや、これでよかったはずだ……」
幸村さんは正しいと思います。そうなんですよね。
お金を集めることに集中してきたのも、全てはこのスポンサーを募る訳には行かない秘密研究を行うため。
スポンサーを募れば彼らの都合のいい使い道のために研究させられることになります。
それこそ本末転倒。だから幸村さんには、一九一六年というタイムリミットまでの時間を浪費してでもお金を集めるしかなかったんです。
「春雪。父さんがお前に残してやれるものはこのくらいだ。
俺の代でもし届かなくても次に繋げる。お前に兄さんが出来たんだぞ」
懐から幸村さんが取り出したのは、財布に入っていた写真でした。
財布に入っていた日本円もカードもこの時代には使えないでしょう。
写真を持つ手が震え、涙が滴り落ちました。
「すまない、こんなことしか出来なくて。
お前に父親らしいこと何も出来なかったもんな。
せめてお前が大切な人を失う心配がないよう、呪いを解きたい。
呪いのもう一つの読み方を知ってるか。『まじない』だ。
呪いと一緒に血脈に託す。いつかいい未来が作れますようにって呪いをな」
どっかで聞いたことのある台詞!
神野さんが、「結びのもう一つの意味を知っているか」と言っていたのとそっくりです、さすが親子!
「これが、父の真実か……」
「あっ、神野さん居たんですか」
後ろから声がすると思って振り返ると神野さんが。
この人いつも神出鬼没ですね。いつも変なタイミングで現れて私をおどかすんです。
そして彼は私の隣で何事か語り出しました。
「僕も同じ事をしていた。父も、僕を忘れないよう名前をつけてくれたんだね」
「時間の概念がぐちゃぐちゃでもうわけわからないですが……」
「二重螺旋の物語、か……」
「それにしても一体結さんは何人の男性の子を産んでるんですか!?」
「あの人照れ屋なんだよな……実は誰よりも恥ずかしがり屋さんで一途な恋する乙女なんだよ」
「だ、えっとだ誰がですって?」
「だから男の体を求めるときはいつもこう言う。
最近男と寝てないから溜まってる、とかね。
本当は素直に好きとか愛してるとか言いたいけど言えないんだ……面白い人だろ?」
「それはどうでもいいですけど、でもまあしかし、謎は解けました。
あの人は要するに幸村さんのことを心底愛していたんですね?
そして彼が羅紗さんと結婚するまでの十年以上の間、仕事上もプライベートでも蜜月関係だった。
何から何まであなたの分身が結さんと結ばれたケースと同じですね」
「僕に父を重ねていたんだと思う。でも僕の自由に任せたらイザナのところへ行くわけだから、最初から諦めてたところへもう一人の僕が来た。
当たってる宝くじが落ちてたから拾って換金した、みたいな心境だろうね、僕を拾った結さんからしてみれば」
「結さん、百年間も幸村さんのことを忘れられなかったんですね……」
「だから言ったろ、あの人は二百歳に届こうかという今でも一途な恋する乙女だって。
同時に複数の男と関係を持ったことはないし、不倫もしてはいない」
「ちょっと、あなたまで結さんが好きになってきたんじゃないでしょうね……まさかもう既に……!?」
「そんなまさか。でも父にこれだけ身も心も捧げてくれた女性だ。
僕からしてみれば第三の母ってところかな。母親を愛するように結さんを……ってこの台詞はもう使い古したな」
「ええ、二、三回聞きました」
神野さんはちょっと照れて咳ばらいをしてごまかしました。
「ゴホン……続きを見よう。神野春雪の事を、まだ僕らは見ていない」
「そうですね……」
謎解きタイムは続きます。時代はこの二十年くらいあとに移り、大正時代。
大正っぽい女学生がいますが、これはイザナさんでしょうか。
時代は第一次大戦中のこととなります。日本は朝鮮を支配し、日露戦争にも勝利。
台湾を領有し、遼東半島などを占領。
私は日本人なので、ああ惜しいなぁと思います。
もし一九一六年に暗黒時代が訪れなかったら中国の一つや二つ併合した大帝国に日本がなってたかもしれないのに。
結局日本は台湾や朝鮮を含む大陸利権のすべてを消失してしまいましたからね。
あるいは、あのまま行ってても中国は倒せず、英米あたりに目を付けられて倒されたりしたんでしょうか。
今となっては知るよしもありませんが、実際神野家の尽力でさっき言ったような大帝国に近い事が達成されつつあります。
アフガンより西を除くアジア全域で三十億近い人口。
それらの購買力と工業生産能力、資源力は世界経済が依存する事になります。
経済によって軍事的衝突の政治的不可能を実現し、世界に平和と秩序を日本がもたらしています。
その日本が出来るまでのお話。続きです。
イザナさんは十六歳。女学生のようです。この女学生が進学した先は何を隠そう、『雪斎塾大学附属高等学校』ではありませんか。
私立大学附属高校。大正時代ですが、共学の学校のようです。
私は何となく次の展開が読めました。案の定、同級生に聞き捨てならない名前の人が居たではないですか。
「ご機嫌よう」
「ご機嫌よう」
などといかにも女学生っぽい挨拶を交わしたイザナさんと、ある女性。
その女学生は、こう自己紹介しました。
「わたくし、神野御雪と申しますの」
「まあ。では?」
「ええ、祖父はあの神野博士。もちろん父は理事長よ。あなたは?」
理事長というのは、ついさっき見た人ですね。神野幸村さんにとっては義理の兄弟にあたります。
そしてこの理事長というのが、結さんの娘と結婚しています。
つまりイザナさんと神野御雪さんは叔母と姪という関係に。
「えー、わたくしは四宮イザナと申しますの」
「ふふふ……お初にお目にかかりますわ、叔母さま!」
「いえ、そんな滅相もありません……」
初対面で同い年の叔母と姪。異様な人間関係ですが、もう私のほうも感覚が麻痺して来ているのか、特に疑問には思いませんでした。
「御雪、どうかしたかい?」
あっ。なんかイケメンが出てきました。同い年の男の子でしょうか。
私は何となくこの人が誰なのか察しがつきます。
もちろんイザナさんに察しがつくわけでもなく、こう聞いていました。
「あの、あなたは一体?」
「御雪の婚約者の澄谷と申しますが……あなたは?」
「私は四宮と申しまして……」
「なるほど。四宮家のご令嬢でしたか。これはご無礼を」
「この方を家に誘おうかと思いまして。恐縮された上、遠慮されたので諦めたところです」
「そうか。御雪の一緒に住んでいる兄には気難しい人がいてね。そろそろ身でも固めるか、と言われているのだが勉強ばかりで女性を寄せつけない困った人なのだ」
この兄というのは正確に言うと幸村さんが羅紗さんとの間に授かった息子、春雪さんです。
彼は御雪さんとは、いとこ同士という事になります。
「男色を好む方なのですか?」
「その可能性はあるが、会ってみる価値はある。いずれ全てを継がれる方だ」
「すべて……?」
「神野家の特許、財産、その全てをだ。名は神野春雪。帝国大学に通っている。
神野家と四宮家が合併すれば日本の製薬界は独占状態になるなぁ……」
澄谷家は根っからの商人の血なのか、ずいぶんお金の話が好きそうな人です。
そして春雪さんが全てを継がれる方と書きましたが、もうあの疑問点もお分かりですね?
確かに結さんが神野春雪さんに執着したのは、百年前に愛した幸村さんと重ねていたからという意味もあります。
しかし、それよりも重要なのは『神野財閥の全てを作り上げた偉人・神野幸村の現存する唯一の息子』が神野春雪さんだから、彼にこだわったのです。
そして結さんは経営件も全てを彼に譲渡し、神野春雪さんは『会長』としてアジアに勢力を拡大しています。
むしろ結さんは幸村さん唯一の直系の息子、春雪さんに経営を任せるために、バトンを繋ぐために百年間財閥を守り、育ててきたんです。
いわば結さんにとって彼女と幸村さんの娘が財閥にあたるのでしょう。
それを春雪さんに与えるために手塩にかけて育てたんです。
これが今まで疑問に思っていた謎の答えでした。
「そこまで言われては行かない方が失礼にあたりますね……」
「ですが修一さん、あの言い伝えをご存知ないの?」
「言い伝え?」
「神野家には言い伝えがありますの。かつて二つの家が婚姻した際、口にするのも忌まわしい事件が起きましたの。
どうやら元を辿れば二つの家は同じ祖先を持っているらしいのです。
それが関係あるかはわかりませんが、おばあさまもお爺様も、絶対に四宮との結婚は避けるようにと」
「では何故誘った?」
「社交辞礼ですわ」
「困った子だな……四宮さんを困らせてしまったぞ?」
「いえ。私は別に……」
イザナさんは逃げるようにして二人から離れました。
こうして、四宮と神野のコンタクトは未遂に終わりましたが、どうあがいても絶対二人は結婚するしかないのですから、こんなことは障害にもならなかったのでしょう。
それと同じ頃、幸村さんはいつものように大学の秘密研究所の所長室で理事長と二人だけで秘密の会話を。
所長室はシャーレ、何かの書類、顕微鏡などが置かれたデスク以外はほとんど何もない殺風景な場所です。
「……娘が話してくれました。学校に四宮家のお嬢さんが入ってきたようで」
「四宮か。まあ子供さえ作らなければ無害なものだが」
「ええ。ところで四宮家について、こんな話を知っていますか?」
「理事長、急に何です?」
「五千年前、我々の一族は中華の王家であったそうです。
しかし王家が悪政を敷くようになると黄帝と呼ばれる伝説の帝王が現れ、これを駆逐したそうです。
だが実際には中国の歴史に毎度あるように、王朝が北の異民族に倒されただけらしいです。
王族達の中には当時まだ未開の地であった大陸の東へ移動し、ついには東の果ての島国にまで逃げた者がいたそうです。
我々の先祖は三皇の一人に数えられる神農。医学薬学、農業、商業の神。
故に日本へ渡った神野と四宮の祖先は医学薬学、農学知識で土地の王に認められたのだそうです」
「なるほど」
「時を経るにつれ、医学薬学の知識は別の方向に使われるようになりました。
薬草の知識とはすなわち毒物の知識の事。毒殺された人間は古代では呪い殺されたのだとされました。
こうして毒の知識を持つ先祖は呪いの家系となりました。
幾多の政敵などを依頼を受けて殺す闇の一族。呪いを生業とする一族に。
言い伝えによればあるとき四宮家の開祖は、毒殺の家業に嫌気がさして出奔し、当時の平安京を離れて摂津の国に。
神野家の前身である化野家はその後も医者及び暗殺の家系として京都の嵯峨野に残りましたが、大阪に蘭学塾が出来たことをきっかけに偶然四宮家とまたお近づきになったそうです。
しかしその時もう既に二つの家が離れて千年の時が過ぎ、受け継ぐ技も随分違ったものになっていたんだそうです」
「初耳だ。そして興味深い話ですね」
「そして、神野家と四宮家が結婚し二つの血が混ざった子供が大きくなると突然発狂。
近くにいた身内を殺しまくったそうです。それ以来神野と四宮が接触する事は禁忌となったみたいです」
「是非研究したい。理事長、その子と会ってみたい。それに細胞も採取したい」
「お安いご用です。教授の頼みであれば喜んで」
嫌な予感しかしないんですが。
翌日の事です。すぐ翌日。東京に本社を構える神野家の邸宅に四宮イザナさんが。
ちなみに秋田県の方には神野博士が住んでいます。
どうりで小さい頃の私が神野さんのことを知りもしなかった訳です。
実は昔から実権を持った分家は東京に住んでたんですね。
このあと関東大震災などがあったものの、変わらず住んでいたんでしょうか。
いや、それは有り得ません。なぜなら関東大震災を知っている幸村さんがいるからです。
谷崎潤一郎がそれをきっかけに大坂移住したのと同じ。
被災を避けようと考えるのは当然の道。
私たちの知る史実だと、暗黒時代なので資料とかはのこってませんが、どうやら関東の住民が東北や東海に流入して大変な混乱が起きたそうです。
この混乱と難民発生による人口の偏りは東北地方で大量のスペイン風邪による死者を生み、日本全国ではスペイン風邪で推計二百万人が死んだと言われます。
とすると、その混乱から遠くて東京に匹敵する都市があったところというと当時は大坂だけですね。
私はこのあと神野家の本家が移動するんじゃないかなと推理しました。
その神野家の邸宅の客間に四宮イザナさんは通され、応対しているのは、神野幸村さんです。
「ようこそ四宮イザナさん。しかし、どうしてまたここへ来る気になったんだ?」
「家同士の歴史は知っています。そう遠くない過去に……凄惨な過去がありました」
「ふむ……そうだな。しかし君には何の責任もないだろう?
姉といっても六十歳近く離れているではないか。ところで……」
「え、はい何でしょう?」
「君の姉、絹の父親は私だ」
「……母からそう聞いています」
「参考までに聞いておきたい。君の父親は誰だ?
まあ、もしかすると聞くまでもないかも知れないがな」
「ええ、そうかも知れませんね。私の父親は四宮家の人間です」
「ほう。道理で四宮と神野の手を取り合う事の出来ない歴史にこだわるわけだね?」
「ええ。実はその……私……母の養子なんです。
だから多分母は、あなたを人生最後の男と見ていると思います。
何度も何度もあなたの話をされました。嬉しそうに思い出を語っていたんです。
何度も一緒にお酒を飲んだ事や、あなたの目標を娘達と一緒にどれだけ献身的に支えたかとか。
神野家の男性がそんなに素敵ならなぜ私達は結婚出来ないのか……と」
「慎重になるのは当然だ。あんなことがあったんだからな。
しかし君……私は結さんから聞いていなかったが、養子とはどういうことかね?」
「神憑きと呼ばれる私や神野家の一部の男性は、大なり小なり人とは違う部分があります。
それが母には耐えられなかったらしいんです……そして追い出されました。
その後妹は四宮家の正統の当主として選ばれました……私さえ居なければ母にとって完璧だったんです」
「そうか、悪い事を聞いたな。君は、だから一族間の蟠りを解消したいと?」
「はい。過去の世代の負の遺産を帳消しにし、未来へ有益なものを残していく。
それが人々が生まれてきた意味ではないですか? そうじゃないなら生まれてくる意味があるでしょうか?
少なくとも私は自分が生まれてきたのはそのためだと思っています。
きっと神野と四宮の間の子が発狂したというのも偶然に決まっています。
元々同じものであったのが一つになる事が悪いことだなんて思えませんから」
「素晴らしい。その年齢でありながら君は立派な人格者だね。
では例の奴を呼ぼうか。おーい春雪、こっちへ来なさい!」
言うが早いか、神野春雪さんはドアを開けて客間へ入ってきました。
着物を着ています。神野家の男性は皆そうであるように、背の高い美男子、というやつですね。
現在二十歳のはず。東京帝国大学医学部在学という半端じゃないエリートです。
彼の子孫の方の神野春雪さんは医者でしたが、非常に志が低く、医学部ならどこでもいいや、という感じで一番規則の緩くてしかも身内の大学を選んでいたことを思えば雲泥の差ですね。
そのせいもあってか、この百歳以上年齢差のある兄弟はあまり似てません。
兄の方が見た目もいいし頭もいい。真面目そうですが、ちょっと無口ですし、陰気で怖い感じがします。
弟の方は最初こそ暗い人かと思えば、趣味が作曲、ラップ、料理。
髪の毛も長く耳にピアスをいっぱいしていて、非常にチャラいです。
その上コミュニケーション能力が高く、髪も長いし、校則ぎりぎりのアクセサリーをよく着けていますし、夏樹ちゃんとお揃いの香水でもつけてるらしく、何かミルクのようないい匂いしますし、とにかくものすごくチャラいんです!
「あ、今僕のことチャラいとか思っただろ?」
「あ、居たんですか神野さん」
私が神野さんを脳内で批判している最中、私の心を読んだかのように彼が言ってきました。
「確かに僕は東京帝国大学医学部なんかに入れる人間じゃない。
それに、どうあがいてもこの会ったこともない兄のようにはなれない」
「そんな子供みたいにスネないでください。さあ、続きを見ましょうよ」
「わかった……」
続きです。イザナさんを見下ろし、目つきの悪い神野春雪さんはこう言い放ちました。




