七月七日
七月七日。
夏樹ちゃんはその日、迎えに来てくれました。
私が七夕の朝、起きて真面目に勉強していると彼女は私の部屋の窓ガラスを嘴で叩きました。
烏に変身してきたのです。本当便利で汎用性の高い能力ですね。
凄まじい視力、聴力、嗅覚、それに飛行能力まで。
やはり偶然ではない、と私は確信しました。
神野家や四宮家に近い人間は異常に強力な能力を持っています。
神野さんと私の母方の先祖は同じ地方出身ですが、私や父が世にも珍しい時空間系の能力を持っていることも関係が?
「あ、忘れてた」
一瞬ぼーっと考え事をしていた私ですが窓を開けなければいけないことにやっと気がつきました、
窓を開けてあげると闇夜をちぎって取り出したような真っ黒の烏が部屋に飛び込み、一瞬の後に女の子の姿へ戻りました。
「お姉ちゃん、こんばんは」
「どうも……」
「今日は泊まってもいい?」
「構いませんよ」
夏樹ちゃんは神野さんと同じで自分勝手でマイペース。
人がどう思ってるかなどお構いなしなところがありますが、こういうところも可愛いものです。
私の寝ているお布団に勝手に入り、手招きしてきます。
「ピロートークしよ。ね?」
「はいはい……今行きますね」
私も夏樹ちゃんの側に寝転び、一緒の布団の中に入ってみました。
お互いの匂いが充満し、混ざり合って、憶えのある匂いもしてきます。
「夏樹ちゃん。服とシャンプーの匂い、お父さんと一緒ですね」
「やむを得ないから」
「今も一緒のところに住んでるんですか?」
「学校はあそこからでも通えるから、一緒にあの家にいる。
私、正直あの家は好きじゃない。だってイザナさんがいるんだもん……」
「あのお姉ちゃん、いくらなんでも夏樹ちゃんに嫌がらせとかはしないですよね?」
まさか。いくらなんでも。腐っても神野さんの子供ですから。
自分とも一応血縁が繋がってますし。
「嫌がらせとかじゃなくてその逆……気持ち悪いくらい取り入ろうとして来るの。
自分の事をママって呼ぶようにしつこく言ってくるし、話しかけて来るときは猫なで声だし……」
「うわっ……それはちょっと胡散臭いですね……家にいたくない気持ちもわかります」
「最近ではパパと一緒に住みたいって言って引っ越しさせようと画策してるし……」
「そんなに悪い人ではないんですけどね。イザナさん……」
「私、岡本さんよりお姉ちゃんがママの方がいい! 何とかしてよ?」
「何とかと言われても、私は……」
「パパのこと好きじゃないの? 他に好きな人がいるとか?」
「私じゃないんですよ、ふさわしいのは。じゃあ行きますか」
「うん、じゃあ私窓から出るから、戸締まりよろしく!」
私も急いでついていき、自分の部屋の開け放たれた窓を閉めてから、急いで寝癖を整えて服も着ました。
「全くせっかちなんですから……」
「ハヨー! ハヨー!」
何か聞いた事のないパターンのカラスの鳴き声が外からしてきます。
全く自分勝手ですねあの子はもう。世の中のお母さんの苦労がちょっとわかった気がしました。
別にそんな気合い入れてオシャレなどする必要のある相手ではないと思い、私はこの前ファミレスに行ったのと同じ格好で玄関から外へ出ました。
「あっ」
「おはよう。娘が迷惑かけなかったかな?」
「あ……えっと……はい……」
私は答えながら神野さんの肩に乗ってるカラスを睨みました。
「この小娘、謀ったなッ!」
そう言いたいところをグッと我慢しました。
「神野さん。きてたんですね。えーと、夏樹ちゃんは本当にいい子でした、はい」
「それならよかった。まさかついて来るなとは言わないよね?
これから会うのは何を隠そう、この僕だ」
「わかっています。腹を割って敵の首魁と話すときがきた、という事ですね。
でも瞳は? 約束では、瞳は……」
「いますよ!」
ヒョコッと神野さんの影から出て来た瞳を見て、私は正直イラッとしました。
この女私にも内緒で抜け抜けと。と思いましたがまあここからは瞳にバトンタッチですね。




