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ボーイとガールがミートして  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
LOG 1
49/75

六月二十七日・後編

【注意】


この作品は途中から読んでも全くわからないほど複雑です。

総集編から読むか、第一話から読まないと何一つわからないと思うのでご注意ください

「驚いた?」


「いや……その……」


私は一瞬パニックになったものの、良く考えたらこれが神野さんであるわけない、と判断して、息を整えながら言いました。


「あなた、夏樹ちゃんですか?」


「正解。ごめんね驚かせて」


「ああいえ……」


神野さんの格好をした夏樹ちゃんは普段の格好に戻り、さらに続けます。

普段の格好というと、デニムの……なんと言ったらいいのか、オーバーオール風の服を着ているんです。


「私、言うなって言われてるんだけど……その……どうしても、伝えなきゃと思って」


「私なんかに、そんな大した事は出来ないとおもいますよ?」


「お姉ちゃんじゃなきゃ……私はお姉ちゃんがいいと思ったから」


「しかしびっくりした……話ってなんです?」


とりあえず服だけは着させてもらい、その間は夏樹ちゃんを待たせました。

今日に限ってうっかりお風呂場に着替えを持って行き忘れてたのを後悔し終えたところで、夏樹ちゃんは本題に入りました。


「お姉ちゃんは、パパ……いや、神野春雪が考えそうな事ってわかる?」


「それがどうしてもわからないんですよ。見当もつかないっていうか」


「パパが言ってた。わからないだろうと思うから、答えは言うなって」


「答えを言いにきてくれたんですね?」


「うん。あの人の考えてることは……自分もお兄ちゃんのところに行くこと」


「お兄ちゃん……ああ、夏樹くんのことですか。誰かと思いましたよ一瞬」


「あの人は、自分自身でお兄ちゃんのところへ飛び込みにいくんだって。

そしたら自分は死んで能力は神野家で一番若い私に移る。

その私が、イザナさんを……消し飛ばすんだって」


「なるほど……そういうことですか」


確かに、言われてみればいかにも神野さんの考えそうなことです。

そうして閉じられた世界で三人の家族は暮らす、ということでしょうか。


「ということは、異次元へ飲み込まれたらもう出てくる手段はないってことですか?」


「一般人なら出てこれる。それに、異次元の鍵を持ってた人間でも二十歳以上なら出てこれる。

私のパパが丁度そうだったように。二十歳を過ぎて能力がなくなった後、自分の息子に消し飛ばされた……」


ストローの例えですね。ストローの口の中にもう一方の口が入り込んだら無限ループが発生。

出てこられなくなってしまいます。

それは丁度異次元の出入口である神野の人間がもう一方の出入口である、四宮家の人間に飲み込まれるケースにも応用できる理論でしょう。

確かこの前神野さんが話してくれた事だったと思いますが。


「夏樹ちゃん。私に話してくれたってことは、私にそれを止めてほしいんですか?」


「止めてほしい。この作戦は誰にも知られないまま、きっともうすぐ決行されちゃう!」


「困りましたねえ……止めると言っても……」


止めると言っても私ごときにできるでしょうか。

出来るとは思えません。だって運命はそれを望んでるんでしょう?


「夏樹ちゃん……私には特別な力も何もないですよ。そんなの……」


「パパが言ってた! お姉ちゃんが関わった事には必ず意味があるはずだって!

私にはそれが何なのかはわからないけど、でも必ず意味があるはずだって!」


「そうですか……神野さんがそんなことを」


喜んでないと言えば嘘になります。私は喜んでしまいました。

神野さんが瞳を無視していないのがわかっただけで喜ぶなんて酷い重症ですよこれは。

でも私は喜んでしまいました。

夏の雨雲のように、むくむくと体の中からやる気と元気と希望が湧き上がります!

まだ可能性は残されています。まだ、きっと。


「わかりました、やります。必ず阻止します。この命に代えても!」


「本当に! お姉ちゃん大好き!」


このテンションMAX状態で夏樹ちゃんに抱き着かれようものなら、私は痛いほど彼女を強く抱きしめる他何も出来なくなります!

ああ、神野さんが羨ましいです。こんな可愛い女の子に懐かれて、嫉妬すらしてしまいます。

それなら私は外堀を埋めてしまいましょう。まずは夏樹ちゃんを手なずけるのです!


彼は結さんに対し、あまりいい印象はないでしょうし、この子はイザナさんにいいイメージはないでしょう。

それならこの子に懐かれれば彼も夏樹くんですら私を無視できないはず。


依頼を完了しましょう。神野さんの実質的な自殺を止めるんです。


「……ん? 待ってくださいよ?」


「どうしたのお姉ちゃん?」


「いる! いるじゃないですか、他に一族の子供が!」


「いる?」


「そうですよ! えーと名前は確か、神野六花さん!

神野春雪さんとイザナさんの共通の妹の!」


「聞いたことがある。確か今は中学一年生だっけ?」


「そうです。あの人と夏樹ちゃんを押さえる事が大事ですね。

考えて見てください。イザナさんが神野さんを消し飛ばすなんか有り得ませんよ。

仮に誰かに操られても気合いで拒否しそうなレベルですよ」


「確かに……」


「であれば、イザナさんをどうにかして排除したあとで彼は妹さんを使おうとするはず。

妹さんはおそらく現在生きている人間で唯一、四宮の血を継ぐ子供でしょうからね」


「排除って?」


「一番簡単なのは不意を突いてイザナさんを消し飛ばす事ですね」


「……それはしたくないんじゃないかな、パパも」


「え、あ、そうですか?」


「うん。異次元の鍵持ちは他とは全く違う特別な存在。

今のままイザナさんを消し飛ばしたら神のような力をみすみす与える事になると思う。

どんな悪企みをするかわからないし、お兄ちゃんも対抗出来ない可能性が……」


「あ、そういえばそうでした。だから神野さんはあなたに託したんですね」


私がバカでした。そうでした。一人で盛り上がって、バカです。

十歳の女の子よりバカでした私は。刑事の娘が聞いて呆れますね。


「お姉ちゃん。私達は計画を止めなきゃ。アホなこと言ってないで」


「すみません……」


「計画を止めるにはどうするか一緒に考えてくれる?」


「あ、はい。じゃあこういうのはどうですか夏樹ちゃん。

イザナさんもしくは神野さんを殺すというのは?」


「無理。見たでしょ。毒も効かないし物理攻撃も効かない。

完全に無敵。多分何しても無駄だと思う。

戦おうとすること自体が間違ってるんだと思う」


「もちろんわかっていますよ。えーとですね。

やっぱりイザナさんに言うしかないと思うんですよ、その神野さんの計画を」


「知っても笑って終わりだと思う。私が彼を消し飛ばすわけないじゃないって」


「……じゃあそもそも、あなたのお父さんはどうやって消し飛ばされる気なんですか?」


「多分お兄ちゃん……の力を借りるんだと思う。でも成功確率は低いと思う。

彼は何かの意思に頭が侵食されつづけてて、このままだといずれ飲み込まれる……らしい」


「だから言ってたんですね。僕には時間がないと。

その血を持つ彼にしかわからない何かがあるんでしょう。

そうか。あなたのお父さんが必死になるわけですね……」


「うん……」


神野さんが、鳰さんを捨て、自分の人生から恋愛など消し去り、もしかすると二度と帰ってこられないかもしれないとしても今度こそ時間のない自分の息子を助けようとしている。


確かにそうなんです。神野さんは、紛れもなく大人なんです。

私に彼を批判する資格は全くないどころか、それは、瞳を見てくれないが故の八つ当たりにすぎないのです。

彼に比べれば私は恋愛に非常に大きな比重をおいて物を考えていたんでしょう。

いえ、今もです。私は子供なんでしょう。それでも構いません。

でも今、気づきました。私だけじゃない。イザナさんも子供であると。


どれだけ過去を見ようと、人によって反応は違う。やっぱり、神野さんは割と最初から優しくて、困っている子供には黙って手をさし述べるタイプなのかもしれませんね。


イザナさんと来たら、自分と神野さんの仲を裂こうとする息子には裏切り者扱い。

間違いなく恋愛の事しか考えていません。人によって反応は様々です。


あの人を放置して、ただ、自分は彼女の依存を支える杖でいい。

それが、神野さんらしいことなんでしょうか。自信がありません。


確かに神野さんは瞳に対してもその毒のような優しさで甘やかし、心を捕らえました。

でも彼も変わったはずです。ただ優しさを注ぐだけが誰かを大切に思うことではないと。


多分。


「あの、夏樹ちゃん。お父さんはイザナさんとどうなるつもりだと思います?

ただ側にいてあげて、尽くしてあげるつもりなんでしょうか?」


「わからない。でも、あの人らしくないような気はする。

パパはお兄ちゃんの事だけを救えればそれでいいなんて、思わない。

思ってほしくない。だって、私のことも救おうとしてくれたから」


「夏樹ちゃん……」


「あの人はママのこと本気で憎いに決まってる。

でも私のために諦めてくれた。自分の子から母親を取り上げる真似出来ないからって……」


神野さんが子供思いなのはもう十分にわかりました。

もうわかりましたから。むしろ、聞きたくないような。


「そうだったんですか……結び……あの人にはこの物語の結びまで見届けてもらうという風なことは言ってましたが……」


「あの人は息子一人助けて満足。そんなタイプじゃないはず。

何かを変えるはず。イザナさんの何かを。きっとそれが……」


「それが?」


「それが、恐らくは鍵になる。お姉ちゃんも薄々気づいてるでしょ。

過去に四宮イザナと神野春雪が結婚して何かが起こった。

それってつまり、百年前のあれのことでしょ?」


「あれって?」


「言うまでもなく、世界の異能覚醒の事。

百年前の異能覚醒は絶対間違いなく神野春雪と四宮イザナに関係しているはず」


「そう聞いていますね」


「この世界には二人のプレイヤーがいる。一人は神野夏樹。私のお兄ちゃん」


でも、夏樹くんは二〇三〇年ごろ生まれ。

つまり私から見ると三十歳くらいは下になる子供ですからね。

夏樹ちゃんからしたら二十五歳下の弟になるはずなんですが。

でもこっちの方が妹感があるのは認めましょう。


「それで?」


「私たちが今まで手に入れた情報を総合するよ?

白痴の奴隷、と呼ばれる人物は化野という男だった。

私にとってはヘンなことだけど、ママの娘の息子だから甥にあたる人でもある。そして、私の姉には四宮イザナがいる」


「百年前の人ですね。二十歳で死んだ……もしかすると神野と四宮の二十歳で能力が消えるというのはそれが始まりかもしれません」


「そう。そして、そのイザナという人が白痴の奴隷の主人。

お兄ちゃんの意識を冒し、このままだとそう遠くない未来、あの人の一強時代がやってくる。

お兄ちゃんという対抗勢力がなくなればやりたい放題するはず」


「やりたい放題って?」


「見てきたでしょ。四宮イザナと神野春雪を百年ぶりにもう一度くっつける。

それがあの人の目的なんじゃないかと思う。

そして、パパはイザナさんとの間に子供を作らざるを得なくなってしまう。

自分でどれだけ拒否しようと。何故なら神野と四宮両方の血を継ぐ白痴の奴隷って人は、百年前の四宮イザナの奴隷だから。

白痴の奴隷を媒介にしてあの人は神野にも干渉できる。

それを、お兄ちゃんは必死になって今まで守ってきたんだって言ってた」


「つまり二人のプレイヤーの攻防は、今まではかなり拮抗してたんですが、時間の関係で徐々に夏樹くんが不利になって来ているということですね?」


「そう。だから早急に何か手を講じなければならないってこと。

乗っ取りが完了すれば、パパは意識を奪われて、望んでもないのに、知らないうちにイザナさんと子供を作る事になってしまう。

もう嫌なのに。お兄ちゃんは、自分や妹のような犠牲者を出したくないだけだったのに……」


「そこが問題です。そこなんですよ。そこが一番の謎です。

どういう理由があって、神野と四宮の血を混ぜた子供を作り、研究させたがるんでしょうか?

研究は何かの役に立つはずです。話し合いさえ出来ればいいのに。

そもそもどうやってイザナさんは白痴の奴隷を従えるようになったんですか。

血筋的には叔母と甥とはいえ、そんな一方的な……」


なんかイメージ的には両方の血を継ぐ方が特別な感はあるんですが。

しかも時系列的には恐らく化野行遥=白痴の奴隷という人が異空間へ入り、世界の支配者になった方が先。

それを後からイザナさんが牛耳るようになるだなんて。

出来過ぎというか、むしろ、彼の方が彼女に従おうとしたような。

それなら理解出来ます。それこそまさに奴隷ですね。


「そういう事ならパパに頼んでみるのは?」


「明日は日曜ですから会えません。なんか予定入ってるとかで」


「聞いてないけど…」


「ともかくそういう事ですから。夏樹ちゃん。今日は帰って。

ところで、夏樹ちゃんって普段何してるんですか。学校ちゃんと行ってます?」


「住んでるのは東京なの。お姉ちゃんはうっかり神野家の本家と勘違いしてた?」


「ならよかったです。ばいばい、夏樹ちゃん?」


「ばいばい。お姉ちゃん、私はお姉ちゃんのこと応援してるからね。

イザナさんは嫌い……お姉ちゃんがママだったらいいのに」


「それは出来ませんよ……お父さんの決意は恐ろしく固いですからね」


「あ、そうだ。じゃあ、もう一人のパパに会ってみる?」


「……会長ですか?」


「うん。会長。私のパパに会ってみて。何か教えてくれるかもよ、突破口みたいなもの……」


私は思わず夏樹ちゃんをぎゅっと抱きしめてしまいました。


「ああーんもう、何ていい子なんですか!? よくあの両親に育てられてまっすぐ育ちましたね!?

行きます、会います。必ず会います、会わせてください!」


大好きなパパならともかく、私に抱きしめられてもちょっと迷惑に思ってる事を隠さない夏樹ちゃんでした。


「わ、わかった……じゃあ、来月の七夕の日は?」


「空いてると思います、いや開けます」


「じゃあ、ばいばい」


夏樹ちゃんはそう言うが早いか我が家の窓を開けて飛び去って行ってしまいました。


「ちゃんと玄関から帰ってくださーい!」


もう聞こえません。とっくに闇夜に溶け込む一羽の烏となって空を舞っているからです。


「やれやれ……優しいけど勝手なところはお父さんに似てますね……」


窓を閉めると、私はいよいよ決意しました。


「よしよしよし。七夕というと……」


十日後ですね。

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