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ボーイとガールがミートして  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
LOG 1
36/75

六月二十二日

【注意】


この作品は途中から読んでも全くわからないほど複雑です。

総集編から読むか、第一話から読まないと何一つわからないと思うのでご注意ください

翌日。六月二十二日。もう一度神野さんと放課後にその研究所へ行くと、神野さんの遺伝子の解析はすんでいました。

私達はそれを聞くだけです。どこかの大学の元教授だという先生は、私達を応接間に通すとすでに結果を書類に纏めてくれていました。


「全く、驚異的としか言いようがないな」


そう言いながら先生はガラス製のテーブルの上に持っていた書類の束を置いて私達に問題の箇所を指差して見せてくれました。


「見てくれ。これは大至急学生達にやらせた結果だ」


「これは何です?」


「サンプルデータをとりあえず百人取り出してきて比較した。

神野春雪くん。君の遺伝子を調べさせてもらったよ。

そして老若男女問わず、とりあえず百人の遺伝子と比較した。

知っての通り日本人は多民族国家ではないので遺伝子的な多様性は比較的低い。

同じ日本人同士で遺伝子を比較すれば、まあ簡単に言えば九十九パーセント以上一致するはずだ」


「そうですね……」


「だが百人全員と比較してみたが平均して九十八パーセントしか一致しない。

日本人の遺伝子をアフリカの黒人やヨーロッパの白人と比較してもそこまで掛け離れる事はない。

人種と呼ばれる概念はあるが、私に言わせれば線引きなどないも同然。

何となく見た目などで決めているにすぎない。馬鹿な概念だと思っている。

黒人とも白人とも、我々は交配可能で家族になれる。

家族になれるなら仲間と呼べるだろう。まして、犬や猫のように人間と子供を作れない生き物にも人間は愛情を向けられるわけだしな……」


「結論から言えば、僕はもはや人間とは違う生き物であるということですか?」


「そう言わざるを得ない。人間はネアンデルタール人などとも混血している事が、最近の遺伝子研究で判明している。

意外と人間が仲間と呼べる範囲は結構広いんだ。

だが、君は違う。見た目は完全に人間だが、もはや違う生き物としか言いようがない……」


「だと思ってました。やっぱりそうだったんですね。

つまり一般的な人間の女性と子供を作ることは……」


「できない。君が子孫を残すには『同じ種』の女性を探すしかあるまい。

君の母親以外に居ればの話だが……君達二人は恋人かい?」


聞きにくそうにしながら先生は聞きました。

もちろんそうですよね。私達が将来の子供の事を考えてここに来たと思うのが自然です。


「いえ。佐々木さんの双子の姉の瞳さんとは恋人ですが……」


「それは……お気持ちはお察しするよ」


「そして教授。この方は神野財閥の御曹司となられるお方です。

わかりますか、この意味が。この日本という国は人間以外の……いえ、『人間以上』の生物によって支配されている、これが現実です。

神野家の祖先が抗生物質や抗ガン剤を作ったのも人間以上の高い知能の人が一族に生まれたって事でしょう、多分。

そしてこの機関もそんな神野財閥なくして成り立たない……そうでしょう?」


先生も馬鹿ではないので、私が無言の圧力をかけていることは察知しています。

このことを他言すれば確実に命はないと。


「とにかく、話は以上だ。私も今でも全く信じられない事だが……」


「僕は、まあ薄々気づいてましたけどね。ありがとうございました、それじゃ」


神野さんは平気そうな顔。まあいつでも平気そうな顔なんですが。

そして衝撃的な事があった翌日以降にどんよりと曇り空のような不景気をばらまき始めるのが、お決まりのパターンでした。

帰り道、私と一緒に駅まで歩いていると、神野さんがぽつりと呟きました。


「僕の両親は不妊治療をしているが、どっちが原因なんだろうか」


「血筋的には結さんの流れで、一応神野家と子供を作れる家なんでしょうお母さんは。

それは単にどっちかの生殖力が低かったからでしょう……年齢もあると思います」


「そうだね。うちの家系の近親相姦の痕跡は単なる宗教的なものだけじゃなかったんだね。

むしろ、そうせざるを得なかった。数千年間、ほとんど交配できる相手がおらず近親婚するしかなかったんだろう。

やっと出会ったのがおよそ百五十年ほど前……結さんの血筋だった」


「あの家も、恐らくは……」


「そうだろうね。しかし娘が言っていたこととは、丸きり反対になってしまったな」


「私……最低な事を考えましたよ。子供ができない原因が、瞳にあったらいいのにって。

そしたらあなたは何の気がねもなく瞳と一緒に居られたはずです。

でもあなたの性格です。あなたが人間でない以上、瞳と一緒に居る事に負い目を感じないでは居られないでしょう?」


「瞳は子供好きだった。よく、妹が双子だったけど、どうせならもっと小さい妹がいたらよかったと言っていた。

子供好きなんだ。僕も好きだよ子供は。彼女の子を見てみたい気持ちは一応ある……父親が僕でなくてもいいから」


「それはちょっと気持ち悪いですけど……」


「あ、そうだった? ごめんね。子供と言えば瞳にこの話をしたことあったけど、君にはなかったね」


「はい?」


「伝統と継承の話だよ。この世には受け継ぐべき伝統がある。

文化であったり歴史であったり、そのほか、例えば限りある資源を子孫へ残してあげようとか、放っておくと絶滅してしまう種を保存しようとか……そういうのも受け継ぐべき伝統に入るよね」


「そうですね」


私は適当に返事をしました。神野さんは構わず続けます。


「逆に差別や偏見……迷信、因習、呪い、疫病など根絶すべき、受け継がれざるべきものもある。

僕らはどっちだ? 僕らの『種』は疫病だろうか?

確かに、種の存在を消そうとしている奴が身内にいるのも事実だけど」


「存在が悪だなんてそんな訳ありませんよ。

と、気休めを言っておきます。ただ、一族が他者にその素性を明かしていない事が答えでしょう」


「そうだね。日本だけでなく世界全体の医療を支配している神野家が人間以外の生き物と判明したら?

血眼になって殺しにくる。人間が、数の暴力に訴える事は目に見えて明らかだ。

断言してもいいが、このことを知った例の先生は最低でも家族を人質……最悪の場合消されるね」


「被害妄想です! と、人間の立場から言い切る事が出来なくて残念です……」


神野家は、多分知能が一般的人間より高めの一族、いや種族なんじゃないでしょうか。

だから世界中の医療を支配できた。今や日本のスーパーマーケット、ネット通販、リース業、金融、保険業界などは完全に掌握されてますし、下手をすると日本一国より神野家の方が力があるくらいです。

下手したら日本の首相達も実権はなく、実は神野家がずっと政治の実権を握りつづけているのかもと疑うほどです。


少なくとも日本の労働者の過半数が神野財閥傘下の会社で働いているでしょうから、やろうと思えば選挙で常勝できるでしょうね。


「もしかして今、神野家が政治を支配しているんじゃないのかって思った?」


「あ、いえ……図星です」


「案外そうかもよ?」


「そんなことより……どうするんですか、これから。何だか、捜査が進むにつれだんだん悪い方向に行ってますね?」


「そうだね。捜査をしたところで、見つかるのは僕の運命の人は四宮イザナしかいないという証拠だけだ。

君は僕に自由がないと言ったが全くその通り。僕に人間の女性を選ぶ自由はない。

僕は人間じゃなかった。本当に君の言う通り負い目を感じるよ」


「神野さん……」


私はその先に何も続けられませんでした。


「僕には子供がいるのに、瞳は僕のせいで子供を持てなかったら……そんな不公平、僕は耐えられない」


「あなたの性格ですから、そう言うと思ってました。

それ以上はもう何も言わないでください。あとこのことは父にも瞳にも伝えますが、それでいいですね?」


「頼んだ。瞳には、不安にさせて悪かった、僕がすべて悪いと……伝えてほしい」


「わかっています。でもそんな結婚の事ばっかり考えなくても……関係は若いうちだけでいいんじゃないんですか?」


「君……彼氏出来たことないの?」


「急に失礼な! あなたも出来たことないでしょ。

私だって父が県警本部長じゃなければ彼氏ぐらい……」


「別れることを前提で付き合う馬鹿がどこにいる?」


「いやまあそれはそうなんですが……」


「結婚する気微塵も無しに付き合っていて、最後には『同種』の中に戻っていくつもりだとしてもそれがいいのか?

中途半端に優しくして、愛しても、むしろ最初から何もしない方がずっとマシかもしれないよ」


「わかってるんですが……」


子供が作れないなら結婚しなきゃいい、という大胆な解決策も却下されました。

確かに、瞳にとって最初の男が彼だと、瞳は誰なら満足出来るのかと、少し不安になります。

それならキスすらしていない今、別れておく方が長い目で見て優しい事かも知れませんね。


「もはや僕の力だけでは、どうすることも出来ない。

瞳がそれでもなお僕を選んでくれるかどうか。もはや賭けに近いのかもね……」


「瞳は何があってもあなたを選びますよ?」


「これは試練だ。恐らく瞳にとっても。しかし参ったな。

神野の女が他人を見下しているのは、本能的に自分と自分以外の種族としての壁を感じていたのか……?」


「しかし『新種の人類』とは話が大きくなって来ましたね……」


「ああ。少なくとも澄谷家と高見家という家はそうだったんだろう」


「澄谷ですか? ああ、言われてみれば澄谷家も神野家と婚姻してますもんね?」


「そして僕らの生徒会長の名前……」


澄谷拱(すみたにこまね)先輩ですか?」


「こまね……恐らくはコマネズミの事だろう。何かと動物に関する名前が多いな……」


「ネズミに鳥は鳰さんがいるでしょ。更にはヤタガラスもいましたか。

あと神野家は牛。いよいよ十二支の動物が出てきたら面白いですね?」


「まあ……十二支の話が、本当に僕らの先祖の実際に起こったことが伝説化している可能性はゼロじゃないね。

牛は誰より早起きし、神様のところへ一番乗りしたが悪いネズミに騙されて二番手になった。

そしてネズミに騙された猫はそれ以来ネズミを憎むようになった……」


「ごめんなさい。これ以上出てこられても困りますよ……忘れてください」


「はは、そうだね。そろそろ家か……ちょっと四宮家に寄っていかない?」


「ああ……まあいいですけど……今、あなたへの用事も思い出しましたし」


「用事?」


我らが家のすぐ近くで私は立ち止まり、かばんを漁って神野さんに例のものを渡しました。


「瞳からこれを預かって来ました。鳰さんに贈られたものらしいですね?」


「ああ、これか……」


鳰さんに贈られたという琥珀のアクセサリー。

これを返さなくてはいけないと考えた瞳のなんたる杓子定規なことでしょうか。

私なら同じ手放すにしてもどこかで売りますけど。


「鳰……ていうか、娘だね。鳰が生きていた以上、正直返してくれと言いたかった。

格好悪いから我慢をしていたんだけどね。君に渡されるのも、実に格好が悪い」


「気を遣ったんでしょう。瞳もあなたとは知らない仲じゃありませんからね」


「見せてあげたら喜ぶよね……うん……二十五なら父親にそこまでされる義理もないと困惑するかな?」


「知りませんよ、文字通り私には十年早いですから……」


「そうだね。いや、父として接した事などないよね。

下手に態度を変えないほうがいいか……とも思う。行こうか」


「ええ、気になります……結さんという人にも」


「ああ」


そうしてこの前瞳と一緒に行った四宮家へ到着し、入ってみると、結さん夏樹ちゃんの母娘がお出迎えしてくれました。


「あれー、どうしたの二人とも。また何か用事?」


「イザナはいますか?」


「今はいないけど……どうしたの?」


「それは好都合。お邪魔させてください」


「ええ、どうぞ……」


私は特に夏樹ちゃんには挨拶も会釈もせず、無言で部屋の中にお邪魔します。

そして実に意外な事に、この家には男性がいました。中年の男性です。

リビングのソファに座って本を読んでいた彼はこちらに気がつくと軽く会釈します。


「はじめまして……四宮幸村です。どうぞよろしく」


「どうも……」


私も会釈を返します。四宮幸村さんは中年くらいの年齢。

正直、この人のことを神野幸村さんではないかと疑ってました。

捜査の資料として幸村さんの顔を見たことがありますがわかりません。

本人であるような気もしますし、幸村さんとちょっと顔が違う気もしました。


「そちらが佐々木さんとかいう子か……過去を見に来たのか?」


「いや、あなた。違うわ、この子はその能力がない方の双子の子よ」


「あ……そうなのか。まあどっちでもいいが俺は話はしないぞ……女子高生とは話が合わない」


「それイザナのこと? 嫌われてるもんね?」


「パパ嫌われてるよね、お姉ちゃんに……」


娘にまで言われた四宮幸村さん。さすがに可哀相でした。

一応、イザナさんの生活の面倒を見てあげている同居人、いわば養父ですよ。


「まあ当然だが……それで、二人は何が聞きたい?」


「いまさらトボけるなよ。結さん、あなた僕に夫の代わりをして欲しがってたみたいですが……」


などと神野さんは純真な夏樹ちゃんの前で下ネタにつながりかねない話題を出しました。

もちろん結さんは性にオープンな女性なので、娘の前でも平気でこの話に食いつきます。


「そうなのよ。一緒に寝るどころか、家に居ることさえ珍しいのよね……あの人、政治家なのよ」


「政治家?」


「シンクタンクってわかる? 政府には政策へ助言を行ってもらうための外部の知の専門機関があるわ。

つまり実質的に政策を決めてるのはその機関」


「で、その機関の人間は神野家の大学出身しか入れないとか、神野家が出資してるとかなんでしょう?」


「そう。専門機関からの助言を政治家は聞かねばならない……逆に言えば専門機関の助言通りでない政策は行えないわ。

そして(あて)の夫こそ神野財閥全ての統括者よ」


「スケールのデカい話だな……」


私も神野さんと同じで、呆れて腰が抜けてソファに座り込んでしまいました。

私は皮肉混じりに結さんにききました。


「神野家当主、結さんの夫、それに軍で言えば作戦参謀長にあたる役職……これら全てを合わせ持つ事が日本国王であるということですね?」


「まあ、そうかもね?」


「王の中の王というわけか……さて。佐々木さんは賢い。

四宮幸村という男が神野家当主になれるというのはおかしい。

結さんの夫っていうだけでなれる立場じゃないだろう。

いい加減トボけてないで答えてくれ。四宮幸村、あんた何者だ?」


「俺が何者か、既にわかっているはずだが?」


と、四宮幸村さんは大胆不敵に答えました。


「フン……医者になったり政治家になったり忙しい奴だ。そういや、不妊治療の保険適用に関する法案もあんたが?」


「まあな。我が国も少子化してきている……支配者として、『人間たち』の生活を保障するのも任務の一つだ。

まあ、かくいう自分たちの種族も数が減って虫の息だがな」


「ああ、子供と言えば佐々木さん。瞳ちゃんのことで鳰たちが変なこと言ったみたいで本当にごめんなさいね?

あの子の健康には何も問題はないと思うわよ。

春雪さんと子供を作る事は出来ないだけで……」


「ああ、いえ別にそれは……それより結さん、聞きたいんですが、あなたの親は?」


「親がどうかしたのん?」


「いえ、あなたの親も不老不死の能力があるんでしょうか?

今も生きているって可能性も十分有り得ますよね?」


(あて)は親の顔を見たことがないわ……というか、完全に忘れたみたいよ。

夏樹も(あて)と同じ轍を踏む可能性はあったけど春雪さんが助けてくれたわね」


「なるほど……」


「そんなことより春雪さん。瞳ちゃんとは別れたのよね。

だったら(あて)の相手してくれてもいいわよね?」


「相手ですか? まあ、おばあちゃんの肩を揉むのとそう変わらないと思いますけど……」


「ママの肩揉んであげるの? パンダのお兄ちゃん?」


神野さんがいつも着ている白黒模様のホルスタイン柄ジャケットを、夏樹ちゃんはパンダ柄だと思ったらしいです。


「パンダじゃないけどね。でも夫や娘の前でそんなことを言うってことは、もう決定的だな」


「そうね。佐々木さんにも聞かせてあげなさい、春雪さん?」


「そうですね……念のため聞きますよ。結さん、僕に色目を使って来る理由、あなたは長生きの秘訣が若い男と寝ることだ、みたいに言ってましたけど、それだけじゃないんですね?」


「そうね。(あて)はいつでも恋に本気よ。正確に言えば、若い男に恋をするのが若さを保つ秘訣よ。

夏樹、あんたも恋をしなさいよ、恋を!」


「ああ、うん……頑張ってみる」


夏樹ちゃんは何のことかわからないまま頷きました。

少し話がそれたので、私が代わりに質問します。


「では結さん、神野さんと四宮幸村さんについて私はてっきり、親子だと思ってました。

でも違うんですね? 四宮幸村はただの偽名!

本当の名前は神野春雪。つまりこの部屋には同一人物が二人居るってことでいいんですよね?」


「その通りよ。春雪さんにとって、鳰だけが娘とは限らない……この夏樹が、(あて)と春雪さんの大切な一人娘なのよ」


「そういうことだ。言いづらかったのは、どうやら佐々木という女の子と彼が恋仲だったみたいだからだが……そうでなくなった今となっては、隠すこともないだろう」


「気がねはしないでいいと思う……」


「春雪さん、これでも(あて)すごく我慢してたのよ?

愛してる夫が十五歳にまで若返ったようなもので……しかもあの人政治とグループ全体の経営までやってるから忙しくてあまり家に居ないのよ。

でも二人の仲を引き裂くのは忍びないから言うわけには行かないし……」


「わかってますって。後で話ぐらいは聞きますから……いや、馴れ初めとかは聞きたくないかな」


「あれは俺がこっちに飛ばされて……」


「話さなくていいって! もうっ!」


珍しく神野さんが声を荒げましたが、彼が怒らなければ私がそうしていたところです。

自分の知らない自分の恋愛模様なんて親の馴れ初めと同じくらい恥ずかしくて聞きたくないでしょうからね。


「他に何か聞きたいことはあるか?」


「夏樹ちゃんの名前、奇しくも僕があんたと同じ発想をしてしまった事はまあいい。

あんたらのことだ。何か目的があったんだろう。

何であなたたちが、結婚して娘を作ったんですか……?」


「なんでって、そりゃ愛し合ったからだけど?」


「何言ってるんですか結さん、あんたに限ってまさかそんな……有り得ない。

少なくとも僕の同一人物がここにやってきてあんたと結婚するだなんて何か意味があるとしか思えない」


「諦めろ。思春期の純朴な少年には認めたくない事だろうがな」


「認めたくないに決まってるだろ、僕に二人も……しかも母親が別々の娘が居るなんて!」


「強いて言えば、俺に四宮家の女と子供を作ってもらっては困るんだろうな」


と言ってもう一人の神野さんは娘の夏樹ちゃんの頭をちょっと撫でて続けます。


「この子に四宮の血は流れていない。それに、家族を失った同士の俺達が結ばれることぐらいは許してくれたみたいだな……」


この短い台詞だけで、二人の愛の深さも、そして二人が子供を利用しようなんて考えがないことも、十二分に伝わりました。


「もういい、あんたたちのことは。鳰が……いや、娘が帰ってくるまでここで待たせてもらいます」


「ああ、あの子に……多分帰ってこないけど、何か聞きたいことでも?」


「ならこれ渡しといてください」


神野さんはかばんから例の琥珀のアクセサリーを取りだし、結さんに預けます。


「鳰が僕にくれたものです。まさか、娘だとは思わなかった頃に……」


「あらそう。わかった、必ず渡しとくわ」


「不思議な感じだ……俺の人生に幼なじみなど居なかったからな。

妹も生まれなかったし……佐々木本部長のお嬢さんになど会ったこともない……だが同じ神野春雪だ」


「僕も大企業の経営と一国の政治を一人でこなしたことはないよ。

しかし改めてすごいスケールの話だ……グループ全体で数百兆円のグローバル企業と日本一国の実権とは。

そこまでの権力者は歴史上でも数える程だろう、それに僕がなっているとは」


「これっぽっちも楽ではないがな。金があっても使う時間はない。

見ての通り、ここも一般的な家賃のマンションで特に贅沢はしていない。

この権力も財力も父祖から受け継いだもので、自分のものではないからな。

確かお前……伝統とは願いだと言っていたらしいな」


「何で知ってる!?」


これはログではカットされてましたが、瞳と男系、女系継承とかの話をしているときに伝統の話になって、そんな台詞も出ていました。


「少し小耳に挟んだだけだ。確かにそうだ。人は願いを込めて何かを後世に伝える。

それを『尊敬』する後継者が次代へ『託す』。

そして『生き残った』ものだけがいつしか『伝統』と呼ばれ、受け継がれていく。

この財力と権力は、王の中の王の血筋、神野家の能力がただ生み出した『結果』ではない。

これは社会正義をなし、あらゆる病気や呪い……特に神野家の呪いを研究するためのものだ。

それには金が必要だった。神野幸村が医療を先へ進め、莫大な金を稼いだのもそのためだ」


「自分は名君だと? さっきから思ってたが……前世の僕はずいぶん自信家らしい」


「対外資産額世界一。日本円も世界の基軸通貨の一つだ。

政府の経済基盤が圧倒的に強いため、先進国最低水準の税率で高福祉を実現している。

健康寿命世界一。医療水準は世界一位だ。

幸福度も上位をキープ。出生率は低くなってきているが、毎年二パーセント以上の経済成長を維持。

若者の失業率は数パーセント程度だ。

汚職率も低く、治安は言うまでもなく世界トップクラスに安全だ。

貿易では七十五年連続黒字。そうそう……当然のことながら、実質上の政治のトップも相当勤勉に働いている」


「自分で言うな!」


「それに、先進国で漏れなく問題になるのが、国内の大企業問題だ。

国内に圧倒的に大きい巨大企業が出来たら政府にももう止められない。

ある意味企業というのは国の中に国が出来るようなものだからな。

やれ法人税を下げろ、やれ忖度しろ、税金をうちに投入しろ、という風にな。

だがその点、我が国日本ではその国内最大の大企業のトップが国のトップだ。

故に他の先進国に比べ、既得権益や大企業の思惑に影響されず、制約のないクリーンで自由な政治が行われている」


「クリーンで自由だとさ。佐々木さん、前世の僕は自信家であるだけじゃなくジョークも達者らしいね」


「ええ、まあそうですね……国民が誰に投票しようと実際政治には何の関わりもないんですからダーティ極まりないですよ。

まあ神野春雪さんが本当にこの国の実権を全部握ってたらの話ですが。

私は今でもちょっと疑ってますけどね……」


「残念ながら事実だ。人間は人間以外の生命体に支配されている。

下手なSFのような話だが、本当のことだ。

だが俺を反民主主義的な独裁者だと非難する資格は日本人にはない。

なぜなら投票率は毎年五〇パーセントを大きく下回っているからだ。

投票率が半分以下になった投票に意味などない。

実質的に、日本人は独裁者を認めているわけだ。

世界一成功した独裁国家と日本が評される事もある」


「投票しても無駄だとわかってるからだろう。そうしたのは神野家の人間だ」


「だがそうしなければ今頃日本はどうなっていた?

医療分野で世界をリード出来ない以上、これといって得意分野はないままだろう。

資源は少ない。土地も狭い。その上隣国がロシアに中国だろう?

日本にアメリカやイギリス海軍基地なんか置かれるかもな……ゾッとする。

英米の影響を強く受けた場合……日本は言語も独特だから、英語など学ぶハメになって苦労したはずだ。

研究職でさえ日本語だけで一切研究や論文発表に困らない現状をもっと有りがたく思った方がいいぞ。

それに、英語力が人生をわける厳然とした学歴社会になれば少子高齢化は今よりもっと進んで取り返しのつかない事になっていただろう。

低い経済成長率。上がらない賃金。

そして金が金を生むことで働かなくても年に何億円も稼げる一部の金持ち以外の貧困化が進む、よくある先進国になっていたのがオチだろうな」


「やめにしよう……こんなことを話していても仕様がない。

確かに……実質的な神野王朝と言ってもいい体制が安定して続いたからこそ今の世界一位の経済大国日本があるのかもしれない……でも今はそうじゃない。

とても大事な話がある。鳰……いや娘に関するすごく大事な話だ!

あの子は今、大学を卒業した年齢だと思うけど今何を?」


「大学院生。うちの研究所で研究を。もちろん取り組んで居るのは自分自身の一族、神野家の遺伝子研究よ」


「彼氏とか居るの?」


「は?」


基本ツッコミを受けるばかりのボケ担当である結さんですら素で聞き返す、アホな質問でした。

さっきまですごく難しそうな話をしていた神野さんのIQがドカンと下がる音さえ聞こえてきそうでした。


「彼氏ですよ。いるんですか? 父親として聞いておきたい」


「あの子から浮いた話は聞いたことないわね……そもそも人間とは子供が作れないぐらいに種族が違うから。

イヌやネコは可愛いと思っても、結婚したいとは夢にも思わないのと同じで。

かといって、同族の若い男ってほとんどおらんからねぇ……」


「その貴重な同族の若い男の一人も、実の父親の僕ですもんね。

別に女は結婚してこそ幸せがあるとか、古臭い価値観を持ち出す気はないですよ?

でもその……あの子は異性愛者だと思うんで、二十代後半ともなればそういう相手の一人ぐらい居たほうが安心ですが……」


「初恋だったんじゃ?」


「いつの話してるんですか! そんなもんとっくにふっ切りましたよ!

だからその鳰にもらったアクセサリーを瞳に贈ったけど、今日返しに来たんじゃないですか!」


「悪い悪い。確かに、まああの子からそういう話を聞ければ安心やとおばあちゃん思ってました。

そういうことは直接本人に聞きましょか……」


それから数十分後、本当に鳰さんが帰ってきました。ついでに四宮イザナさんも。

イザナさんを見た途端結さんが厳しいおばあちゃんらしい一面を覗かせます。


「おかえりイザナ、ちょっとあんた後で話あるから!」


多分、勘違いで瞳を傷つけるような事を言った件で怒られるんでしょう。


「わかった……あ、ユキくん。いらっしゃい。どうしたの?」


「僕らの娘について話が……真夏だっけ? 彼氏居るの?」


「かっ、彼氏?」


まさかそんな質問を父親から受けるとは思わず、いつも飄々として無愛想な真夏さんが面食らって目をパチパチしました。


「あー、まあこの年にもなれば結婚を考えてる彼氏ぐらい居た方がいいよね、パパ?」


「その口ぶりだといないみたいだが……」


「手頃な人がいないからね……それに『(しゅ)』が絶滅寸前なのに、人間の男性を選ぼうとも思えないし。

だから今はビッグデータを利用した種族再生プロジェクトを大学でやってるの」


「……何だって?」


「医学的に見て私たちと子供を作れる同じ種の人を日本から探すプロジェクト。

全国民の遺伝子情報を確認する政策を、パパが進めてる」


「パパって……僕の同一人物のことだな? あいつ君に手とか出してないか?」


「まさか。それをやる人かどうかは自分の胸に聞いてみて」


「……やりかねないと思うよ」


「忘れてた。確かにそうかもね?」


真夏さんはいたずらっぽく笑いました。

いたずらっぽく笑うって聞いたことはあってもどういうものか、正直ピンとこないところがありました。

でもこの時私はその表現の意味を言葉ではなく、心で理解できたんです。

そして次の事実も私は理解しました。


鳰さんは、父親の子供を産んでも全然構わないと思っている事は。

十歳までの記憶を失っているわけではないのです。

彼女もやはり、父親が初恋の人だったんです。


「さて、夏樹ちゃんも聞いておく事があったんだ。そのために来た」


「え? 彼氏とかいないよ? あ、でもパンダのお兄ちゃんとなら結婚してもいいよ?」


「君話聞いてた? 僕が夏樹ちゃんの父親なんだって!」


「そうなの……? よくわかんない」


「その気持ちはとても良くわかります、夏樹ちゃん。

それで神野さんは何を聞きたかったんです?」


「ああ……君は見えないお姉さんとかに乗っ取られたことある?」


「ないけど……」


「そうかよかった。まあ聞きたい話は全部聞けた。僕は満足……これで帰ります」


「ゆっくりしていったらどうだ?」


「春雪さん、(あて)と寝るって約束は?」


「話ぐらいなら聞くって言っただけです」


「パンダのお兄ちゃん、またね?」


「パンダパパ、またね」


神野さんは娘二人に言われ、無言で手を振り、立ち上がりました。

私も早く帰りたかったので、彼の背中にくっついて、人間とは違う異種族が集まった部屋から脱出を成功させたのでした。

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