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ボーイとガールがミートして  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
LOG 1
35/75

六月二十一日

【注意】


この作品は途中から読んでも全くわからないほど複雑です。

総集編から読むか、第一話から読まないと何一つわからないと思うのでご注意ください

六月二十一日。火曜日です。


今までずっと瞳が出ずっぱりでしたからね。久しぶりの登場となるわたくし、佐々木・モード・望です。

さて早速ですが、この火曜日、私は登校するなり暗い顔をして教室にいた神野さんに声をかけました。


「葬式と葬式と葬式が一緒に来たような顔ですね、神野さん!」


この一週間というもの、瞳は私と同じ家に住み着いてしかも外に一歩も出ず泣き暮らす日々。

まさかこんなことになるとは思ってもみなかったんでしょうね。

神野さんと瞳の二人は全く話をせず、一週間以上が過ぎました。

振り向いた神野さんは、これがまた実に不景気な顔で、今にも死にそうでした。


「君はそうでもないのか」


「そうですね。瞳の検査結果が出ました。全く問題なく、健康そのものです。

子宮はもちろんその他臓器や血管、あらゆる組織に異常のない理想的な健康体でした」


「……そっか」


神野さんは口数少なくそう言って笑みを浮かべただけで、素直に喜べない様子でした。


「どうかしたんですか? もっと喜びましょうよ」


「例えばこれから先、子宮を全摘せざるを得ない大病を患うとか、あるかもしれない。

その可能性が拭えた訳ではないから……でもそうだね、今は良かったと素直に喜んでおいた方がいいよね」


「そうですよ。それより私、その……もしかすると四宮イザナさん達でさえ知らない事実に気づいたかも知れません。

今日は瞳の検査の報告と、あなたの遺伝子の検査について相談したかったんですよ」


「いまさら僕の遺伝子を調べるっていうのか?」


「ええ。警察と普段は捜査のため協力する専門機関とコネがありますから是非今日はそちらへ一緒に来てください。

私の仮説が証明されれば、私は初めてこの事件の捜査で役に立てるのかも知れませんね」


「了解した」


「ありがとうございます。ところで、ログではあんなに口数の多いあなたが、今日は少ないですね。

どうです、話してみませんか。瞳に直接言えない事も私になら言えるかも?」


「君は優しいね……」


一言発するたびに魂が抜けそうな神野さんでしたが、ちゃんと言った通りに私に話をしてくれました。


「瞳との会話はすべてログで見てるだろ?」


「ええ。残念ながらあなたのプライベートな情報もかなり」


「瞳に言った言葉は本心だし、何ひとつ変わっていない。

これは試練だ。未熟な自分に打ち勝つための試練だと僕は受けとった。

初恋の相手が実は娘? 初めて女として愛した妹は運命の人の妹?

何も問題はない。全て……僕の予定には何の狂いもない」


「基本、あなたってそうやってしゃべってるだけで何もしないじゃないですか?」


「何だそのジャブ代わりと言わんばかりの人格否定は?」


「事実でしょう。何もしないあなたに何ができるか今一信用できない私がいます。

試練だと。乗り越えると。予定に何も問題はないと。どうする気なんですかこれから?」


「瞳の心次第だ。彼女が僕に興味がなければそこで終わりだ」


「もし、あなたを愛していると瞳が言えば?」


「それで契約は完了だ。今は若干の迷いがあるけど、彼女がそう言ってくれるだけで僕は何でもできる」


「じゃあ聞きますけど……四宮イザナさんと娘の方はどうするんですか?

彼女たちは思ったほど悪い人たちじゃなかったですし、あなたには何か責任があるのでは?」


「そうだね。前世など知るか。作った覚えのない子供や前世とやらのせいで自由を奪われてたまるか。

全く批判のしようもない巧妙な言い訳だ。実際誰も僕を責めたりしないだろう」


「ええ。あなたは善人とは言えませんが、さすがに私も責めはしませんよ。

責任を取ってくれなくても、四宮さん達ですら責めはしないでしょう」


「これは瞳にも伝えてくれるか?」


「なんです?」


神野さんはどこか遠いところを見つめるような、静かな目で言いました。


「ずっと一人で、孤独で、ずっと戦っている女の子がいる。

いや、女の子と呼ぶのは適切じゃないな。中身は違うんだからな。

あの子を救ってあげたいと思ってる。どんな手段を使っても」


この条件に当てはまる人というと、四宮イザナさんでしょうか?

とてもとても孤独な人で、見た目は女の子ですが中身は最低でも三十代以上でしょうから。


「救って、そしたら瞳は?」


「僕を必要としてくれる限り瞳の側にいる。それだけでいいんだ」


「私から見たあなたの人物評を言いましょうか?」


「何だ急に……」


「あなたはすべてを持っているのに不幸な人です。

可愛い娘、妹、美人な許嫁、有り余るほどのお金。

由緒正しい血筋。愛情ある家庭環境。無敵の戦闘能力、あと美貌。

それに優しい従姉妹のお姉さんや、面倒臭い性格だけど献身的な恋人まで。

すべてを持っているのにあなたは完全に不幸です」


「やれやれ。真実なのが余計傷つくね……」


「なぜならあなたが求めているのは、元々持っているものより遥かにちっぽけなもの。

それが自由。それ以外何も要らないくらい。そして、それだけは全く手に入らない。

多くのものを手にしているということは、多くの物を重荷としている事でもあるわけですから、当然ですよね。

あなたが自由になるために、瞳は傷ついても傷ついても立ち上がって来ます。

検査結果こそ良かったですが、結果が出るまではずっと泣いてましたからね……」


「彼女は僕の自由のためにどれだけ尽くしてくれたことだろうか?

僕は彼女にしてもらうばかりで、何も返す事が出来てないだろ?

これからは違う。未熟な自分に打ち勝つ試練は必ず乗り越える。

そして今度は彼女の自由のために努力する……話はもう十分だろう?」


「ですね……」


私達は会話を切り上げて席につき、普通に授業を受けました。

その後、生徒会室へ入るなり、この世の誰よりも恋愛脳な岡本さんがお節介を焼いてきました。


「あのぉ、付き合ってるって聞いたんだけど、最近二人大丈夫?」


「何がです?」


「最近目も合わせないし、会話もしないし、いよいよ別れそうだっていうなら、まず愛の伝道師であるこの私に相談してほしいなって」


全くもって見当違いのズレた岡本さんに心を和らげてもらったのか、神野さんはフッと少し笑いを漏らしてからこう答えました。


「先輩は後輩の面倒見がいいんですね。心配要りませんよ」


「ああ、そうです。私達これからデートです。ね、ユキくん?」


「そう呼ばれたのは、何だか久しぶりだな……」


「デートですからね。彼が私と子供を作れるかどうか調べるんです」


「え!?」


岡本さんをからかって言ってみましたが、予想以上に驚いてくれました。

奥で真面目に仕事をしていた会長ですらこっちを心底驚いたような顔で見てきました。


「ちょ……ダメよ。ちゃんと避妊はしなさい!」


「そうだよ二人とも! 若いと出来やすいんだから!」


「そういうことか……確かにそれは興味深い問題だ。確かめてみたいと思うのも無理ない」


神野さんはどういうことか理解してくれたようです。さすがです。


「確かめなくてもデキるから、好奇心のせいで一生後悔しても知らないわよ!」


「変な気を起こしちゃダメだからね二人とも!?」


「ところで、このこと本部長には許可とってるよね?」


「もちろんですよ。父も納得している事ですから、先輩方は心配要りませんよ?」


「お父さん納得してるの!? じゃあまあ、いいか……育てられる経済力もあるしねぇ……」


「佐々木さんはモデルでしたわね。ママさんモデルとして一定の需要があるかも……」


先輩方も納得してくれました。この話はこれで終わり、私達はとりあえず表面上の落ち着きを取り戻して夏の行事へ向けての仕事を始めました。

そんなときです。私のせいで蔓延してる生徒会の変な空気を一新しようと会長が日常的な話題を出してくれました。


「ところで夏休み前最後の試験、もうすぐ始まるわよ?」


「僕は余裕ですよお嬢。僕は医者よりむしろ警察を目指してたくらいですから」


そう。神野さんは本物の警察官僚になり、東京帝国大学法学部などを卒業して警視庁で出世し、鳰ちゃんを捜査する権力を手に入れるという遠大な戦略まで練っていたくらいです。

まあ結果的にはこんな早い時期に彼女が見つかって、彼にとっては最高なのでしょうが。


「私も全く問題はないわ。生徒会長として学年一位くらいはキープしないと……」


「私もまあ、無理なく勉強してますけど……赤点はとらない程度に」


「ところで、あなたは?」


今まで珍しく黙っていた岡本さんが挙動不審です。


「あー忙しい忙しい。仕事大変だなー!」


「うちから留年者なんて出たら、即刻罷免して新しいメンバーを加えますからね?」


「そんな!」


「あっ、僕教えられますけど」


「なんで一年生が二年の勉強教えようとしてるの!?」


当然のツッコミです。神野さんは無視して岡本さんにノートを提出させ、それから次にドリルを見せてもらっていました。

私も覗いて見ましたが、これが結構酷いです。

頭が悪いわけじゃないですが、単純に不真面目である事がよくわかりました。


一応小声で神野さんが教えてあげてるのが書類仕事のかたわら断片的に聞こえてきました。


「まったく。デオキシリボ核酸は……母親から受け継がれるのが?」


「わかりません先生!」


「ミトコンドリア。父系の遺伝子はY染色体、で、これがAG、これがTC……こんなの中学でやったでしょ。

ゴルジ体でしょ……細菌とウィルスは別物。

それで、ウィルスはRNAっていう不安定な構造の分子でですね……だからインフルエンザウイルスが変移しやすいんですが……」


皆さん覚えましたか。遺伝子はAGTCで構成されてるんですよ!


「数学もか……ほらこれがイプシロン。デルタ。イプシロンデルタ論法ってやったでしょ。

あとほらこれ。シグマです。シグマが出てきたらとりあえず極限って覚えたらいいですから……ていうかまあ、微積分なんですけど」


「なんでギリシャ語が出てくるの!?」


「まあまあ、怒らないで。ああ、そういえば集合は先輩得意そうですね。

岡本先輩、地頭はいいですから、そういう人は集合が得意なんですよ」


「褒めてくれるのは嬉しいけど……なんか見慣れない記号ばかりで好きじゃない、集合……」


「そんなことないですよ。あと、先輩は世界史と日本史どっちです?」


「世界史だけど」


「よかった。世界史はストーリーとして人と名前と年月日を覚えればいいだけの話です。

一方日本史だとわけのわからない壺や土器の名前と作者も覚えさせられる苦行ですからね。

まあ英語覚えるのと一緒ですよ。

よく聞き流して覚えるとか留学して覚えるとかいいますけど、ひたすら単語を暗記した方が手っ取り早く英語で会話できるようになりますし」


「そうなの?」


「僕が言ってることはダイエットするとき、食べないで運動すりゃいいじゃんって言ってるようなものですけど……」


「やる。そんな血も涙もないスパルタ指導でもいいから、留年だけは!」


「わかりました。先輩がいなくなると、生徒会の雰囲気が悪くなりますから……先輩は我が生徒会の置き型ファブリーズのような存在なんです」


「それ、喜んでいいの……?」


というわけで神野さんの先輩との二人三脚の一週間が始まりました。

試験は一週間後。それまでに先輩に勉強のイロハを叩き込む事は無謀というほかありません。


しかしある日は数学を。


「はい。物理で使う波動関数についてです」


何を教えているのでしょうか。私はさっぱりです。

高校二年生になると物理で波動関数っていうのをやるんですかね。

そしてある日は世界史を。


「シュリーヴィジャヤ朝とヴィジャヤナガル朝の区別は注意してください」


「了解!」


「そういうわけで、まあだいたいインド・アフガニスタン方面は終わったかな」


「ムガル朝支配の衰退。ホータキー朝独立。サファヴィー朝滅亡。

アフシャール朝成立。ホータキー朝滅亡。アフシャール朝崩壊。

ペルシアにガージャール朝、アフガニスタンにドゥッラーニー朝。

第三次パーニーパットの戦い……なんだ、結構シンプルじゃないの」


「テストに出ますよ。よく暗唱できましたね」


褒めてあげてますが、本当に出るんでしょうか。

聞いたこともない単語がいくつも出てたような。

そしてある時は英語を。


「アイムハングリー!」


「我慢してください」


「ファッキュー!」


「八つ当たりしないでください」


こんな英語覚えたての小学生レベルの会話を聞いてしまうと、進捗状況がわからない私にはどうも不安ではあります。

しかし、夏休み前の最後のテストで岡本さんは見事平均点を獲得。

一週間勉強漬けになっただけで成績を大幅改善する地力の高さを見せつけた形です。

まあ、大事なのは岡本さんの勉強ではなく六月二十一日の話です。


私と神野さんが結婚すると先輩方に勘違いさせたまま、向かったのは専門機関。

鑑識とは別に存在する遺伝子学の専門機関です。

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