総集編
えー、ではこの辺で色々と整理してみましょうか。ものすごく煩雑なヤマですからね。
事件の始まりは五年程前の四月、春の雪が降る公園でした。
当時十歳の神野春雪さん、そして彼とはいとこで同級生の桜井千春さんが。
同じく同級生で、児童養護施設にいた井上鳰ちゃんも三人で公園で遊んでいたそうです。
すると、突如男が現れ鳰ちゃんを連れ去ったんです。
生き残った二人の少年少女は見た通りのことを証言し、過去を掘りだし、見ることが出来る世界最高の捜査官とうたわれる佐々木県警本部長も捜査に加わり、事件は早期解決を見るかと思われました。
ところが不思議なことに佐々木県警本部長は事件発生から数週間後には捜査を半ば放棄し、事件は誰も手を触れなくなりました。
この事件は未解決事件マニアのみならず、相当広範囲に渡って幅広い層の国民からの関心が集まったのでした。
まず井上鳰ちゃんを亡くした男の子、神野春雪君の素性が噂されました。
彼は何とこの日本を牛耳る世界最大の大財閥、神野家の男の子だったのです!
そのため陰謀論も論じられ、本部長は上からの圧力によってやむを得ず事件を捜査することを断念したのでは、とか井上鳰ちゃんは神野家に人体実験とかされている、とか色々噂が出ました。
ともかく、確定していたのは三つの事です。
まず公園にやってきた男と一緒に鳰ちゃんが消えたこと。
次に、その後男の姿も鳰ちゃんの姿も一切目撃証言がないということ。
第三に、陰謀論は論ずるにも値しないデマだということです。
それから五年後、神野春雪さんは、この私、佐々木瞳に接触を試みました。
私は佐々木本部長の姪で、血の繋がり故に過去を見ることが出来るという点で叔父の本部長の血を継いでいます。
そういえば神野さんが私と会うまでに色々あったことも話しておかなくては。
神野春雪さんは一歳の頃に母親と生き別れになり、翌年には父親も失踪。
その後父の弟とその妻の夫婦に引き取られ、三歳下の妹もおり、基本的に何不自由なく暮らしていました。
ただ神野家の出身なので国家で運営している児童養護施設に顔を見せに行く機会がありました。
彼は『王の中の王の器』であり、『王子様』でもあるわけですからね。
八歳の頃、気乗りしない児童養護施設行きだったはずが、そこで出会った井上鳰ちゃんに彼は度肝を抜かれます。
もちろん絶世の美少女として施設では人気者。もし男性職員が出入りしていたら、変なことをされててもおかしくないほどです。
ですがそれ以上に、神野さんは鳰ちゃんの事が気になってしょうがなくなり、本人談ですが、まるで生まれ変わって再び出会った愛しい人のように、自分たちは出会って当然の運命なのだというふうに感じたとか。
それと同じ頃の事です。彼の妹は小さい頃に無痛症と診断されており、幼少期から兄が、体が傷ついても気づきもしない妹の世話を焼きつづけました。
それで、彼女が小学校一年生の頃、また怪我をしては駆けつけてくれた兄の背中に負ぶさりながら、どうやら初恋に目覚めたらしいです。
むろん兄にです。自分たちは愛し合っていて、心が通じていて、自分が傷つくと兄も傷つき、まさに二人で一心同体であると理解したようです。
しまいには自傷行為に及んで兄の気を引こうとするまでになり、これはさすがに厳重注意のうえ妹さんは八歳までには辞めたそうです。
しかし大きくなるにつれ、自分たち兄妹は他とは大きく違っている事に段々気づきはじめます。
容姿が並外れて美しく、賢く、身体能力も高い。二人は集団で孤立するごとに、孤独感を共有できる兄妹の間の愛を深めて行きます。
私が聞いたところによると神野さんの妹は兄に「最近男子からの告白が増えた」と十二歳になったばかりの頃、語ったそうです。
これは想像ですが、妹さんは女の子からも「かっこいいお兄さん紹介して」とか何とか言われてたはず。
そして妹さんはこう想像を働かせたはずです。
《自分は男子からの告白が増えた。女の子もお兄ちゃんを紹介してと言ってくる。
お兄ちゃんの方もそういうことはあるだろう。私だけのお兄ちゃんで居てほしいのに。
そういえば最近、地元の秋田県によく行ってるけどそっちで彼女でも作ったのかな……?》
実はこのころ、私に接触しようと神野さんが行動を開始してたらしいです。
十二歳になったばかりの妹さんが上のようなことを考えたかどうか、確証はありません。
ただ、その日彼女が兄との近親相姦という、人としての一線を越えたことは間違いありません。
この妹に対する深すぎる愛情が悲劇を生むんです。
妹が十二歳になったばかりの頃というと三歳上の彼はもうすぐ十五歳になる、十四歳。
ところで、時間を遡って鳰さんに出会ったばかりのころに話をうつします。
彼いわく、深く愛している妹と将来結婚できないことは八歳の時点で何となくわかっており、残念だけど仕方がない事だ、と割りきっていたそうです。
ところが井上鳰さんと初めて出会って驚きます。
鳰さんはなぜか妹そっくりの美少女で、しかも自分は彼女と結ばれる事が出来る。
神野春雪さんは有頂天に。鳰さんに夢中になり、結ばれるのは時間の問題でしたが、十歳の時に鳰さんは誘拐事件に巻き込まれました。
傷心の彼はその後引越し先の小学校を卒業し、中学に上がりますが、その間に妹も成長してきます。
妹がもともと大好きだっただけでなく、鳰さんの面影すらも備える妹さんが、あろう事か自らセックスに誘って来て断れなかったとしても、私はあまり責める気にはなれません。
そして妹と初めて結ばれたその夜、側に眠る妹が今までで一番遠く感じたと彼は語っていました。
妹に対し彼は失恋しました。もう二度とこんなことはしないと、その夜誓いました。
そして鳰さんが消えてからおよそ五年。この日彼は鳰さん以外の人と肉体関係を結び、鳰さんとの距離もまた一段と離れたと感じました。
いい加減諦めようと思って諦められなかったのですがその夜ふと鳰さんはもう生きていないと思ったと言います。
彼女が消えてからおよそ五年、初めて涙が流れたそうです。
その神野さんはそれから数ヶ月、妹の妊娠の可能性に怯えていましたが、やがてその可能性もなさそうだとわかると、ついに私に接触を試みてきました。
神野さんは佐々木本部長、つまり私の叔父では話にならないと考えました。
そして同じ能力を持つ私ならどうとでも操れると。妥当な判断だと思います。
実際、私は彼の話術によってまんまと乗せられた形です。
神野さんは私に会ってからこんなことを言ってきたんです。
「井上鳰誘拐事件を知ってるか?」
「ええ、私と同い年の女の子が地元のすぐ近くで誘拐されたので……両親がピリピリしてたのを覚えてます」
私がそう答えると、神野さんは次にこう来ました。
「あの事件には不自然な点が二つある。一つは、誘拐事件は子供が一人のときを狙うのに公園に子供が三人居たのに平気で犯人が突っ込んで来たこと。
次にあの事件は史上最高の捜査官と言われた県警本部長が捜査したのに五年間、手がかりの一つも見つからなかった事だ」
「それがどうしたんです?」
「それらを総合して考えてみると、本部長が事件を隠蔽してる……犯人と知り合いの可能性が高くなる」
「私の尊敬する叔父ですよ! 何で部外者のあなたにそんなこと言われなきゃならないんですか!」
「僕が目の前で鳰を失った、この事件の重要参考人だとしてもか?」
「うっ……」
というわけで私は神野さんに何も言い返せませんでした。
「僕は五年間待った。十分待ったと思わないか。
君が怒るのもわかる。だからこそ僕に本部長の無実を証明して見せてくれ。
本部長と同じ過去を見る能力で君が疑いを晴らすんだ!」
こんな巧みな言葉に乗せられて私は神野さんに協力しました。
最初はいがみ合ってさえ居たのに、私も尻軽ですよね。
その後私はまず神野さんの父親の失踪について二人で調査をしました。
彼のごく近しい人が二人失踪しているので、父親の失踪も鳰ちゃんのそれと何か関係があるのでは、と思ったんです。
すると思いがけない事がわかりました。
二歳の神野さんは右手から黒い煙を放出し、住んでいたマンションの一室が煙に覆われかけたほどです。
するとお父さんは消えており、しかもお父さんが消えた原因を神野さんは何もわかっておらず、泣きわめいて助けを呼びました。
しかし誰も来ず、五日間もの間、誰も来ない部屋で孤独に飢えをしのぐも、水も食料も二歳の子供の手が届く範囲には殆どなく五日後には衰弱しきった姿で発見されました。
お父さんの医者の同僚に見つけられなかったら、本当に死んでいたかもしれません。
幸い後遺症も残りませんでした。妻と離婚してから父親は男手一つで、しかも医者なので忙しい身分でありながら息子を育てていたのですが、心配して弟夫婦がよく世話をしてくれました。
父親まで消えた後は神野さん、その弟夫婦に育てられます。
これもわかったところで、神野さんは怯えだします。
まさか鳰ちゃんも自分が父を消し飛ばしたのと同じ方法で消したのではないかと。
そして、事実そうでした。二人で捜査したところ神野さんは確かに十歳の時に鳰さんを消し飛ばしたんです!
ただ事件の顛末はそう単純なものでもありませんでしたよ。
例の公園で神野さん、いとこの千春さん、そして鳰さんが遊んでいると、本当に背の高い男が現れたんです。
ここまでは事前の情報通りなんですが、その現れた男が問題でした。
現れたのは当時から八年前失踪したお父さん。
そしてお父さんは息子を抱きしめるとその直後、鳰ちゃんを見てこう言いました。
「おお可愛い。なんて可愛いんだ。会いたかった」
神野さんは怯えだし、鳰ちゃんとお父さんはもう一度黒く煙る彼方に消えうせたんです。
その後、彼は謎の男が出てきたところぐらいから記憶がすっぽ抜けていました。
しかしもう一人の目撃者である千春さんは、全てをしっかり見ていました。
そして彼にこう約束するんです。
「私が黙ってさえいればわからない。かならずハルくんは私が守る。
そして……ハルくんの家柄である神野家には必ず秘密があるから、私が潜入して探る!」
千春さんはその後、著しく有能なスパイとして様々な情報を得たのですが、それが逆に口を閉ざすことになったようです。
なぜ千春さんが口を閉ざしたのかは後にわかりました。
一方この話を神野さんにしてあげるとしばらくの間は自暴自棄になったり頭を抱えたり泣いたりしてました。
しかし冷静になって来ると、彼は一つの可能性に怯えだします。
「父が鳰を知ってる風だった。まさかとは思うが、父の隠し子が鳰?」
「じゃあ二人は実の姉弟?」
「じゃあ結局妹と一緒で僕とは所詮結ばれないじゃないか!」
そんなはずはない、と神野さんは決めつけ、その後も捜査は続きます。
そして彼が黒い煙のようなものを出して人間を飲み込む事についても色々と判明しましたが、それは千春さんなどによる情報提供がなければ私では突き止められない事でした。
いわく彼の力は『異次元への扉の入口を出して形状を操作する』という能力でした。
真っ黒な煙のように見えたのは、光さえ飲み込む次元の扉だから黒く見えたんです。
その力を持ってるだけならよいのですが、彼の場合、鳰さんや父親を消し飛ばしたとき、何か超越的な力によって操られていたというのです。
その証拠に、彼は雨に打たれた事も銃弾に撃たれた事もありません。
彼の体は、危害を加えるものを触れた物質が問答無用で吸い込まれる次元の扉で全自動防御をするので、銃弾でも日本刀でも、彼の体に触れる前にこの世から消滅します。
要するに完全に無敵です。触れたら物質が消滅する煙を盾にも武器にも出来るので、正直戦うという選択肢そのものが間違ってます。
そして彼を守っているのは、そうした得体の知れない超常的な力を持つなんらかの存在であることだけは間違いありませんでした。
それがわかったのと同日、もう一つの事実もわかりました。
前から《入口があるなら出口もあるのでは》と漠然と疑ってましたが本当にその通り。
出入口はもう一つあったのです。二歳の時消し飛ばした父親が十歳の時、出てきた訳ですがその出入り口から鳰さんも出てきていると見るのが妥当。
そこで出入口を探す事になりましたが、それはすぐ見つかりました。
この世でただ一人、神野春雪さんと全く同じ能力を持ち、次元を超えて彼と繋がるただ一人の存在。
それが四宮イザナさんという神野さんの同じ学校の同級生であると、千春さんが紹介ししてくれました。
ああそうそう、四宮家について説明をしなければいけませんね。
イザナさんの生まれた四宮家は神野家と似たような医者の家系。
そして神野家と共同で、神野財閥のグループ企業の経営に携わる人が多いみたいです。
そして神野、四宮両方の実権を握る事実上『この国の王』とも言える『神野財閥会長』である四宮幸村氏とその妻で『ファーストレディー』である四宮結さんの存在が浮かび上がりました。
奇妙な事に神野春雪さんの父親の名前は神野幸村。
四宮幸村と繋がりがあること明白なのです。
そしてひょんなことから私たちはこの夫妻と接点が出来ます。
記憶喪失の女の子が、何故か突然神野春雪さんの側に現れて彼に突然懐きはじめ、一緒に住みだしたのです。
まあそれはいいんですが、その子の親というのが四宮幸村氏と四宮結さんであることが判明。
名前は夏樹ちゃん。神野さんが適当につけたところ、本当にその名前という偶然の一致もありました。
夏樹ちゃんは言うなればこの国の『姫』。今後この国を支配していくであろう存在です。
その母親である四宮結さんと接触する機会があり、色々と話がわかって来るようになりました。
そして結さんは何度も強調してこう言って来るんです。
「もし核心に触れる情報を知りたいと本気で言うなら教えるけど後悔はしないように。
もちろんおススメはしない。そのまま平和に学生生活を送って、佐々木さんと結婚した方が幸せかもよ?」
私はもうこの時点で神野さんとなら添い遂げてもいいぐらいの気持ちでした。
しかし、私はあるジレンマを抱えていたんです。
それは神野さんに必要とされるのはこの私の目の能力を使った捜査をしているからで、終わってほしくないけど捜査を続けないと私は彼の側にいる理由もなくなってしまうという事でした。
私は彼と一緒に核心に触れる情報を得ることを決意。そして神野さんは生きていた鳰さんと再会します。
しかしちょっと想像してたのとは違う姿でした。
鳰さんは二十代後半くらいの熟した感じのある女性で、とても同い年とは思えません。
実際見た通り肉体年齢は二十代後半。彼女は二十五歳のようでした。
私は彼女からヒントを得て、過去を見てみます。
彼女は捨てられているところを乳児院に拾われ、そのまま大きくなって児童養護施設にいた生粋の孤児、天涯孤独の中の天涯孤独でした。
その鳰さんが誰にどう捨てられたのかは見る価値のある事です。
そして見てみると頭がおかしくなりそうな光景でした。
乳児院の前に、ある日の夜、女の子が赤ちゃんを捨てて行ったんです。
十代前半ぐらいに見えるので、いくらなんでも母親という可能性はなさそうだ、と思っていると、子供を捨てた女の子は、鳰ちゃんそのものでした。
つまり鳰さんは彼女自身を十五年前、乳児院に捨てたんです。頭がおかしくなりそうでした。
もうわかったですよね?
五年前、十歳の時鳰さんは消し飛ばされた。そして現在から見て十五年前へ飛んで赤ちゃんを捨て、それからずっと生きてきました。
つまり十足す十五で現在鳰さんは二十五歳だったわけです。
そして、そのことを私に教えてくれた神野さんは次にこう述べました。
「鳰がどうなったかは複雑な話だけど納得がいった。理解できた。
しかし問題は残ってる。彼女は何者で誰から生まれ、どこから来たんだ?
あの赤ちゃんを産んだ母親はどっかにいるはずだ。鳰は十五年前、あの女の赤ちゃんをどこから持ってきた?」
「そうですね、無から生まれた訳でもあるまいし……」
という風な会話があり、さらに神野さんは突っ込んだ事を聞きます。
果たして鳰さんは何者で誰から生まれたのでしょうか?
その答えは本人が話してくれました。
神野春雪さんが操られて父親を消し飛ばしたり、鳰さんを消し飛ばしたり、そもそも鳰さん自身がどこからともなく出現したり。
そういったことで運命が歪められ、変更されたのです。
本来神野春雪さんは鳰さんには出会わず、従って彼女を探すことを私に依頼する事もなく、何不自由なく日々を過ごしました。
鳰さんの一件が最後のトリガーになり近親相姦に及んだため、何とかギリギリ妹とは一線を越える事なく健全な兄妹として育ち、高校生になりました。
すると入学直後から彼は一人の女の子に夢中になって、赤ちゃんや犬や猫を可愛がるように、その女の子を構いまくります。
彼女は場面かん黙という、よっぽど心を開いた人でない限り会話をすることが出来ない人でした。
そもそも会話をしないと中々親しくなりにくいのに、その会話が出来ないというジレンマ。
神野春雪さんはその人生で女にモテたことしかない、という風な人でした。
従って「オレと話してくれない女の子は初めてだ。逆に興味が湧いた」などと言って彼女に構い続けます。
やがて彼の中では「彼女と一言でいいから話したい」という目的が変わっていきます。
一方彼女のほうも構い続けてくれる彼に嫌な気はしません。
ついには彼女の前で話が出来ず、目も合わせられないのは神野春雪さんの方になるという逆転現象まで起きました。
一日のうち、彼以外の誰にも話し掛けられない事ぐらいザラだった彼女は急によそよそしくなった彼に不安を抱きます。
《ついに一言も喋ってくれない私に愛想が尽きて飽きたの!?》
などと全く見当違いなことを考えて彼女は、ついに勇気を振り絞って好きだと告白までしてしまいました。
すでに学校では卒業シーズン。三年近い時が二人の間に過ぎており、それまで一度も会話はありませんでした。
彼女の名は四宮イザナ。奇しくも神野春雪さんと全く同じ能力を持つ、対になるもう一人の次元の扉を持つ人でした。
二人は大学を同じくし、医者になると結婚。三十歳のときに双子の子供が生まれました。
妹の方の名前は神野真夏。人生真っ盛りでいてほしいとの願いがあってつけられました。
また、普段は「まな」とか「まなちゃん」と呼んでおり、まさに「愛娘」という言葉ともかけてあるようです。
男の子の方は「夏樹」くん。その名の通りお父さんによく懐きました。
というのは冗談で、「春の雪が解けたとしても、それは夏の樹を育てるから」とかなんとか詩的な事を言ってお父さんがつけてくれた名前でした。
そして真夏さんは突如、この世から消し飛ばされます。
親から次元の扉を開く能力を受け継いだ息子の夏樹くんが消し飛ばしたのです。
どうやらこの力は、二十歳になると自動的に消えて若い一族の人間に移動するみたいです。
そして真夏さんは突如として今から十五年前に出現。
くしくも自分の母親が『出口』となりました。もちろん母親も当時は赤ちゃんです。
そしてそれと同時に、十歳の鳰さんはこの時点から十年ほど未来から過去に飛ばされて来たんです。
もう、これで意味はわかりましたよね?
神野真夏さん=井上鳰さんは未来から過去に飛んできた神野春雪さんの実の娘。
初めて彼が鳰さんと出会った時、「まるで生まれ変わってまた出会った愛しい人のようだと思った」のもある種当然の事。
出会ってすぐ愛するようになったとしても当然の事でした。
そして神野春雪さんが間違いを犯した妹さんが、鳰さんと酷似している点もこれで理由がはっきりしました。
だって二人は叔母と姪なんですから似ていて何の不思議もありません。
ついでにいえば神野春雪さんの妹というのは血の繋がった妹ではなかったらしいです。
彼女は赤ちゃんのときに四宮イザナさんによって次元の扉へ消し飛ばされました。
そしてすぐに神野春雪さんというもう一つの出入口から出てきて、ご両親は困惑の極みでしたが結局その突然現れた女の子を引き取ることにした素晴らしいご夫婦です。
まあ、近親相姦してしまったのは、ある意味引き取らない方がよかったかもしれませんけどね。
ただどっちにしろ井上鳰=神野真夏さんとは実の叔母と姪ですから顔は似ていました。
そして彼が愛した三人の女性は、三人ともソックリ。血も繋がっており、性格も似ています。
要するに神野さんのタイプど真ん中だったんでしょうね。
神野さんは心の中で、鳰さんの正体をついに知ってしまってこう思ったでしょう。
「娘かよォ~~~~~~!?」
しかも自分はすでに一度、妹のことを断腸の思いで諦めてます。
それなのに、生きていた鳰さんと五年間思いつづけてやっと会えたのに「実の父親と娘だから結ばれない」ではあまりに救いがなさ過ぎです。
結さんは散々神野さんには「核心に触れると後悔する」と忠告してくれてたんですが、案の定こうなって「だから言わんこっちゃない」と呆れた顔。
鳰さんは悲しげに俯き、初恋の父親とはぎこちなくしか会話できませんでした。
そんな傷心の神野さんは色々考えた挙げ句、イザナさんともう一度やり直して見ることにしたようです。
二人が結婚する未来は無くなってもまたやり直せる。そう思ったようです。
私は彼のことが好きで仕方がなかったし、一日中彼のことで頭が一杯だったんです。
でも「娘のためにも」イザナさんとやり直そうと考えた彼に何も口出しする権利がないと感じ、何も言いませんでした。
その彼はついに、自分の運命を操ってきた強大な力の持ち主と対峙しました!
実の息子、四宮夏樹くんです。全てを知る四宮結さんいわく、「一族の歴史上最も特別な子」だそうです。
一対の次元の出入口である神野家と四宮家。
二つの家は何千年か前に別れた一族だそうですが、その二つの家が婚姻すると良からぬ事が起こるらしいです。
それで神野さんの実の息子である夏樹くんは自分自身の力で、自分を消し飛ばしました。
彼は特別な子でした。従って異次元空間に入っても自分をコントロール出来たんです。
普通の人は一切身動き取れないままいつの間にか反対の出口に出て来るものらしいです。
二歳の息子に飛ばされ、気付けば八年後に飛ばされていた神野幸村さん(神野春雪さんの父親)のように。
異次元空間の中は『次元の扉を開く鍵を持つ一族の者』と繋がっています。
つまり私の今生きている時代であれば、夏樹くんの両親である神野春雪さんとイザナさんですね。
そして鍵を持つ一族に干渉することで夏樹くんは運命を色々改変しました。
しかし彼にとって妹にあたり、神野春雪さんにとっては実の娘である井上鳰さんに恋をしたことには夏樹くんもご立腹です。
まだ小学生で、神野さんもイザナさんと付き合い出すのに三年の時間と相手からの告白が必要だったように恋愛にはすごく奥手とはいえ、中学か、高校か、いずれ二人が結ばれるのは時間の問題となってきたことには夏樹くん激怒しました。
そして怒りに任せて鳰さんを消し飛ばし、完全に二人を隔離しました。
また、自分のもっている過去や未来の運命を改変するほどの力を危険視した夏樹くんは、両親が結ばれない未来を作る事を決意。
その際、妹だけでも生きてほしいと彼女を過去へ飛ばしており、その際に父親が娘に恋をしているのに気づいてすぐ対処したようですね。
とにかく根絶やしを、と言っている夏樹くんの裏に更なる怪しい影が。
どうやら夏樹くんが居る異次元空間は時間も空間も超越した領域なのですが、まだほかに誰かいるみたいです。
ともかく、そんな自分の人生をめちゃくちゃにした息子を神野さんは許します。
そして彼には約束します。この異次元空間から息子を救い出すこと、娘の事は諦めること、それに、異次元空間から脱出した後は、息子のことを心から愛して一緒に暮らす事を。




