六月十三日・下
【注意】
この作品は途中から読んでも全くわからないほど複雑です。
総集編から読むか、第一話から読まないと何一つわからないと思うのでご注意ください
私達は連れだって歩き、部屋の北側にある先生の受付デスクへ書類を持って行きました。
パートナー選考理由は「共通の趣味」などと無難なことを書き、受理されると別室へ通されました。
案の定カップルだらけ。私は正直言うと今だけはカップルを見て不愉快な気持ちにさせられました。
私がこんなに神野さんと離れる事を心配して夜も六時間しか眠れないくらいなのに、幸せそうにするんじゃあないッ!
そう叫びたくなります。嫌です。嫌々。
私は目を伏せてしばし歩き、椅子に神野さんと隣り合って座ると、先に彼が口を開きました。
「瞳。正直言うと僕は怖かった。試練は乗り越えるなんて偉そうな事を言ったが、君と離れるのが怖かった。
僕は何というか……自分でも思うんだが、覚悟を決めたときは退路を断とうとする癖があるらしい。
ここで君に宣言しとく。今日、どんな展開になろうと真実を確かめる!」
神野さんと一緒に捜査をしたのは、実に一ヶ月になります。
普通の恋人同士なら付き合いはすごく短い方にはなるんでしょうが、私の主観で言えば何十年連れ添った夫のように思っています。
しかし彼はイザナさんと前世のやり直しをすることも、彼女に自分の身を捧げることも乗り気。
その彼の事も私は全くそれ以前と変わらず好きで仕方がありませんでした。
呆れるほど彼に心を奪われている私ですが、彼との別れになるかもしれない今日の捜査を、最後になるかもしれない捜査を私は承諾。
頼られて嬉しい思い、寂しい思い、不安。期待。恐怖。
私は万感の想いを抱き、こう答えました。
「はい。付き合いますよ」
私はこうして、婚活パーティーを終了しました。
放課後は、もちろんあのお方による今回のパートナー選定婚活パーティーの話題になることは目に見えています。
ですから、陰欝な気持ちで私と神野さんは生徒会室へ入り、そこには上級生二人がもう居ました。
私たちに気づくと岡本さんはニヤニヤしながらソファに座るよう促してきます。
「むふふ。まあまあ二人とも、こっち来て座りなさい」
「はい……」
言われた通りに座りますが、少し離れたところでデスクワークしている会長は話に絡んでくる気配がありません。
そっちの方を見ていると、特大の砲撃が反対側から私に向かって放たれました。
「このこの! ちゃっかりパートナーにしちゃうんだから、瞳ちゃんのしっかり者!」
「ええ、私たち付き合ってますから。そんなことより岡本さんは新しい相手見つかったみたいですね……その様子だと」
「その通り!」
「でも我々、放課後にどうしても寄らなきゃいけない場所があって、先輩のゲームとか付き合えないんですよ」
「我々ってあなたね……」
「察してあげなさい岡本さん。付き合いたての高校生の男女が放課後どうしても行きたい場所と言えば?」
「ああ……はい、そうですね会長。二人とも、今回のバレンタインデーの資料についての仕事もあるけど今日はもう帰っていいよ?」
無知は罪と言いますがその通りです。
私たち周りの人間が教えないのも悪いんですが、岡本さんにはツッコミを入れる気力さえ私たちには湧いて来ませんでした。
「どうも。じゃあ神野さん、お言葉に甘えて行きましょうか」
「うん。会長、岡本さん。本当に申し訳ありません。行ってきます」
放課後、荷物も下ろさず神野さんが手を引き、徒歩圏内にある例のマンションへ。
四宮家のマンションはすでに私も存じています。
この家で何が起こったか。すぐに描写すべきですよね。
私たちはマンションの指定された部屋の前に行き、ドアを開けました。
中から二種類の声が聞こえてきました。
「来たわね……どうぞ」
と言ったのは結さん。身長が一三五センチくらいしかないんですが、声は艶のあるセクシーな低い声でした。
次に、身長が一八〇センチ前後あって、確かに十五歳には見えようもない鳰さんの、身長相応の低い声。
「二人とも来たの……やっと自分の事を話せるかと思うと……」
「イザナはいないんですか」
「そうみたいね……佐々木さん、見れば?」
「言われなくても。失礼します!」
五年前が大切です。この時にイザナさんはここに住んでいたはずですから
そして五年前に視点を合わせ、微調整をしていき、ついに問題の過去を見ることが出来ました。
五年前、十歳のイザナさんは平日の夕方、宿題をしてゲームなどしていたときです。
突如部屋を女性が訪ねて来ました。二十歳前後の女性。もちろん鳰さんです。
「あ、なっちゃん! 好き好きちゅっちゅっ!」
などと、イザナさんは鳰さんと会うなりキスを雨のように降らしました。
「えへへ、大げさだってママ……」
ママ。その意味が一瞬私には全く理解できませんでした。
「どうしたの。三嶋の家にいたんじゃなかったの?」
「ここに来るべきことは、この過去に飛んで来る前からしってた。
予言を受けていた、というべきかな。入るよ」
「あ、お菓子食べる? 買ってこようか?」
「大丈夫。すぐ帰るから」
娘がすぐ帰ると聞いてイザナさんは不満顔。鳰さんは娘。それが事実です。
しかしそれが意味するところはこの時点ではまだ早合点するわけには行きませんでした。
そして、鳰さんはまだ五歳の夏樹ちゃんをも抱き抱えて、今度は彼女がキスする番でした。
「元気にしてた? 相変わらず夏樹ちゃんかわいーね!」
「おかえりお姉ちゃん! だいがくはどう?」
などと天真爛漫に質問する五歳の夏樹ちゃん。おそらくは何もわかっていません。
もしかしてお姉ちゃんではなく、自分の方が鳰さんよりお姉ちゃんかもしれないことも。
だってもし本当にイザナさんの娘なら、夏樹ちゃんは鳰さんの叔母ですからね。
「大学は順調。研究室では……まあそれはいい。そんなことが言いたくて来たんじゃないから」
「なっちゃん、どうしたのまた?」
出てきたのは結さんでした。当然、五年前ですが何一つ背格好に変化はありません。
相変わらず夏樹ちゃんと母子であるとは到底思えない外見です。
「おばあちゃん。今日はいないの、パパ?」
「居ないわね……あの人経営に忙しいから」
「大財閥の神野家の実権を持ってるとなると、パパも大変……」
「じゃあ私らは二組、親子水入らずで過ごす?」
「そうしてくれると有り難いです」
「じゃあパパに会いにいこっか?」
「うん行くー!」
夏樹ちゃんはパパが好きらしく、喜んで結さんと一緒に家を出ました。
すると、その直後。部屋のドアが閉まった瞬間に、イザナさんが鳰さんの目を見据え、こう口にしました。
「さて。鳰……いや本当の名は、真夏」
なっちゃんと言われているのは前から知ってましたが、真夏という名前らしいです。
「……約束通り私は来た。薄々わかってる、何をするのか」
「なら話は早い。お前の事を逃がそうと思っていた。でもあろうことかお前のクソオヤジ何考えてんだ!?」
口が悪いです。イザナさんは十歳の女の子どころか、大の男のような荒々しい口調。
それに慣れているかのように、二十歳前後の鳰さんは無表情でこう返します。
「それを責めるのはさすがに父さんに酷じゃない?
まさか井上鳰が、自分と四宮イザナとの間に生まれた実の娘だなんて……鳰本人も知らない事だし」
それが真実でした。神野さんの正真正銘の実の娘。もちろん母親は四宮イザナさんです。
イザナさんは十歳の時点で、すでに前世で娘を産んだ覚えもあるようですね。
それならば思春期にさえ入っていない年齢の子供には相当過激な記憶ですね。
初恋も、初めて結ばれた日も、しまいには出産まで全部記憶にあるということですからね。
「ま、神野と四宮は近親相姦を何とも思わない家系……仕方のない事だが。
あの子を切り離す必要性が出てきた。実の娘と間違いを起こされたらたまらない。
隠蔽工作は既に考えてある。それにこの事件を利用した更なる戦略もな」
「何を考えてるの? あなたは昔から何を考えてるかわからない人だった」
「佐々木瞳という女は知らないよな?」
「佐々木県警本部長なら聞いたことあるけど?」
「その娘だよ。彼女は佐々木本部長しか持ってないはずの目の力を母方の血筋から受け継いでいる」
「その子がどうかしたの?」
「良いことを思いついたよ。あの女に必ず会いに行くよう、僕が神野春雪の運命を操作することにした……使えよ」
使えよ、と言った瞬間でした。イザナさんの目の前に三十代くらいの男性が出現。
美形で長身のその男性、私は見覚えがありました。これが神野幸村さんです。
何も事情が飲み込めない彼は周囲を見渡し、女の子一人に二十歳くらいの長身の女子大生がいるのを確認。
そして一言、鳰さんに言いました。
「ここはどこだ……?」
「話せば長くなる。今からその女の子が話をしてくれると思うから黙って聞いてくれる、おじいちゃん?」
「え、おじいちゃん!? まだそんな歳じゃ……」
「黙って聞いて」
「はい……」
孫娘とはつゆしらず、非常に背の高い女子大生に言いくるめられて幸村さんはイザナさんの目の前に正座します。
すると、イザナさんの口を借りて今までずっと話をしていた誰かさんが、話を再開します。
「計画を説明する。まずその人は神野幸村。鳰に会わせ、神野春雪にも会わせる」
「俺の子がどうかしたのか?」
「丁度いい。鳰のこと説明してやって」
「わかった。神野幸村さん、あなたの息子は今現在十歳です。
あなたの知る世界からは実に八年後の世界である事を説明しておきます」
「八年後……十歳か。元気で居てくれればいいが」
幸村さんはすんなりと、自分がタイムスリップしたことを受け入れました。
「その神野春雪さんの初恋の人がいるんですが、その名前が井上鳰といいます」
「鳰ちゃんか。それがどうかしたのか?」
「その子はあなたに計り知れない事情があって、実は私と全く同一人物なんです。
時間のズレた同一人物がこの世界に二人いる事を飲み込んでください」
「同一人物……? 平行世界のようなものか? そういう能力者も居るのか、怖いな……」
「まあそう思って頂ければ十分です。次に、井上鳰と私は同一人物なわけですが、そもそもの出自をお教えします。
私も彼女も、遺伝子的には神野春雪さんの実の娘で、あなたの実の孫娘です」
「ま、まごぉ? おいおい、八年後の未来じゃなかったのか?」
「とにかく計り知れない事情をもって、あなたの孫娘が二人、この世界に居るんです」
「しかし待てよ、井上鳰は春雪の初恋の女の子だと言わなかったか?」
「そうです。二人とも何となく自分たちの血の繋がりがあることは気づいてますがそこはそれ、神野の血を引くので抵抗はありません。
事実あなたのご両親は叔母と甥の夫婦ではありませんか?」
「……春雪は実の娘と知らずに恋をしてるとでも言いたいのか?」
「さすが私の祖父。物分かりがよくてとても助かります。
二人に会いに行きましょう。別れさせる必要がある……そうだよね、ママ」
「フフ、ママか。ああその通りだ」
「ママ!?」
さっきから幸村さんが面白いリアクションばかり取ってくれてます。
今回もママと聞いて血相を変えてイザナさんの方をふりむきました。
「その女の子は私を産んだ正真正銘のママです。
もちろん夫は神野春雪。あなたの義理の娘にあたる人です」
「あ、これはどうも。ひとつこれから、どうぞよろしく……」
幸村さんは素直に頭を下げ、そしてイザナさんを操っている何者かは、無視して続けます。
「これからあなたには、そこにいる実の孫娘と一緒に地元へ帰っていただく。
予定では公園で井上鳰、神野春雪、あと桜井家の千春という娘もいる……会いに行っていただきたい」
「おお、千春ちゃんか。ほとんど丸一歳くらい上の子だからなぁ、きっと春雪の……いやいや。
まあそれはいい。何が俺の身に起こったのか知らないが感謝するよお二人さん。
八年後とはいえ……おれは戻ってきた。法律的には死亡扱いとはいえ、もう一度家族のところへ……そうだ、春雪の親はどうなってる?」
「あなたの弟が妻と一緒に面倒を見ていますよ」
「よかったよかった。礼を言いにいかなきゃな。
二人にもいつか礼をさせてくれ。だがすまん、交通費だけ貸してくれ!」
幸村さんは女の子相手に躊躇なく土下座しました。
「いや、私は瞬間移動も出来ます。交通費は要りませんよ」
「時空間系!? 俺の孫はすごいんだなぁ……背も高いしモデルさんみたいだな!」
「いやぁ、それ程でもないですけど」
「それに美人だな。はは、正直春雪の下に娘も一人くらい欲しかったが……知らない間に綺麗な孫とかわいい娘がいたなら得した気分だな」
「はは……」
鳰さんは愛想笑い。まあ、お祖父ちゃんに可愛いと言われても愛想笑いが精一杯ですよね。
「うちは男三人兄弟で、次男は結婚しないし末の弟は子供いないし……むさ苦しい限りだったからな」
「会えますよ孫娘に。父さ……じゃなくて、神野春雪さんと同い年の十歳。
私が今から連れて行きます。いいですね?」
「わかった、連れていってくれ!」
その後の展開は知っての通り。鳰さんは自分が神野春雪さんの実の娘だと、あの公園での事件の後十五年前にタイムスリップしてから気づく事になります。
彼女は自分、つまり井上鳰の事を「神野春雪の初恋の人」とハッキリ言ってますが、彼女の方はどういう気持ちだったかについては触れませんでした。
彼女も恐らく彼のことが、初恋の相手だったんでしょう。
終始暗い顔でした。自分が初恋の人と結ばれないように仕組む協力をせざるを得なかった。
そしてお父さんと一緒に消えた次の瞬間にはもう東京の家へ戻ってきていました。
「戻ってきたね」
イザナさんはまだ意識を乗っ取られたままです。
「あれからすぐ、祖父は消えるのね。そして私は十五年前に……」
「その通り。神野春雪はこのあとどうすると思う?」
「……当然井上鳰が消えた原因、そして鳰が今いる場所を探そうとするでしょうね」
「そうしていけば佐々木本部長の娘に必ず行き当たる。
父さんは、女性と一緒に居て惚れられないほうが難しい男だ。
その上佐々木瞳は、今はまだ健康体だが五年以内に視力を失う」
「ママも場面かん黙……父さんがいないとダメだった。
あの人は自分がいないとダメっていう、依存的な女に目がないからね……」
「現在四宮家も神野家も他に若い人間はほとんどいない。
今生きている若い世代を根絶やしにすればそれで完了だ」
「まだ根絶やしなんて言ってるの? 何がそんなに苦しいの?
私達の一族は確かに他とは違う特別だけど、根絶やしになんて……」
「お前は何もわかっていない! 天国だ、人は天国に行かなくてはならない!
お前はその邪魔をするのか。わかっていないようだな。お前と俺とでは力が違いすぎる!」
「……あなたは誰? 私の知っている誰とも違う」
「ふん、誰でもいい。いいか、人は天国へ行くのだ。
そのためには根絶やしだ。俺の邪魔をできるのは一族の人間のみ。
それを根絶やしにしてはじめて始まるのだ、天国への儀式はな」
意味不明です。私は神野さんに息子がいたのかと思ってましたが、運命の支配者は、実はそうではない誰かなんでしょうか。
まあいい、それはいいです。今は考える必要はないでしょう。
とにかく、男のような口調で話していたイザナさんが意識を取り戻しました。
イザナさんのところへ大学生の娘が来てからわずか数分。
イザナさんは気を失っていた事すら、あるいは気付かない程度のわずかな時間です。
一瞬だけこの東京の家を離れてすぐ戻ってきた鳰さんは何食わぬ顔で、この家の電気ポットで紅茶など淹れ、食卓について飲み出したではありませんか。
意識の戻ったイザナさんは実の娘のことを不思議そうな顔で見つめます。
「ええっと……あ、そうだ。お菓子食べる?」
「お構いなく」
「そう……?」
「ママ。私が必ずあなたと父さんを巡り合わせてあげるからね」
「信じてるよ! 好き好きちゅっちゅ!」
内弁慶と言いましょうか、家の外では大人しく、一言も喋らないイザナさんが娘と二人きりの時はこのハシャぎよう。
微笑ましくもあるんですが、この娘を信じきっているイザナさんの事を、私は、何となく嫌いにはなれません。
不幸になってほしくありません。神野さんを私が独占する事は既にこの母と娘を不幸にする事なのでした。
それが核心に触れる真実。井上鳰さんは娘。私は意識を現在に戻すと、すぐ側にいた神野さんにそのことを詳しく説明しました。
あの公園の事件は、神野さんと結ばれるのは時間の問題となり始めていた鳰さんがくっつかないようにするため仕組まれた事。
それに加担したのは鳰さん自身。理由は、井上鳰は神野春雪の実の娘だからです。
そしてこの事件の黒幕が目指したのは、実は私と彼が結ばれる事でした。
鳰さんは黙っていれば私と彼が結ばていくことを知っていて、完全に我慢しました。
それにイザナさんもこのことを知っているようですが言うのは我慢していたようです。
あくまで、彼がどうしても聞くという意思にならない限りは言わないように。
そのことも私は神野さんに説明をしました。
「イザナ、それに鳰。つまりこういうことか?
二人は僕が佐々木さんを選ぶのなら、それはそれで良いと思っていた。
わざわざ邪魔をする事はないと遠慮していた。でも本心では家族を取り戻したいと思っていた、そういうことか?」
「そう。だから言ったはず。果実が熟して二人は愛し合ってるのに、どうしても聞くというのなら思い知るべきだって。
自分が十歳の時実の娘に何をしようとしていたのか。それに、あれが絶対に結ばれるはずのない恋だったって事も。
思い知ったでしょう。そして何故佐々木さんだけが認められたのか……」
「何故彼女だけが!?」
鳰さん、いや真夏さんはボソボソと暗い声で言いました。
「わからない? 私も確信は持てないけど……佐々木さん、あなたには産婦人科へ行くことをお勧めする。
生理はちゃんと来てる? 何か問題はない?」
「……まさかとは思いますが」
「そのまさかが有り得る。相手は未来も過去も見通せる半全知全能で、神野家を根絶やしにしようとしているのよ」
「じゃあ何ですか、私は子供を産めない体かもしれないと言うんですか!?」
「もし、父さんがそれを知ったらどうなるか。別れると思う?
いや父さんに限ってそれはありえない。答えはひとつ。
子供は出来なくても一緒に居ようって、むしろ決意は堅くなるに決まっている。
結果神野家の新しい世代は生まれず、根絶やしは完了する」
「言いたくなかった、こんなこと同じ女として!
でもそうとしか考えられないの二人とも。言いたくなかったの、本当に……」
四宮イザナさんは、知らない人が居る場で話しづらい特性なのに、それでも私のために涙を流し、声を張り上げてくれました。
「そんな、泣くほどの事じゃないでしょう……私なんかが。まだそうと決まったわけでもないですし。
あ、ちゃんと生理は来てます。他の人と比べて何も違った事はないはずですが……」
「受診はお勧めしておく。その先を決めるのはあなたたち次第。
二人は子供を考える年齢でもなければ、焦って一生のパートナーを決める年齢でもないからね」
「はい……」
私は神野さんの娘である井上鳰さんに、思い切り人生の先輩風をビュービュー吹き付けられました。
その後私達は気まずくて、重苦しい雰囲気でしたので二手に別れて家に帰り、その夜、このログを書いています。
はっきり言って私が子供を産めない体なのは、事実でしょう。
鳰さんは気を使って確証はないけどと前置きしてましたが、間違いないでしょう。
一族を根絶やしにする。それと、私が神野さんに出会った事は関係あるのかないのか疑問に思っていました。
大ありでした。ないわけがなかったんです。とにかく、検査の日取りとかはパパに伝えておきました。
ママンと一緒に行ってみようと思います。




