五月三十日
五月三十日。月曜日です。
瞳は相変わらず恋愛脳。人を信じやすい純粋なところがありますが、実際腹の中では不純なことも考えてますよね。
そんな瞳を上回る恋愛脳がうちの学校にもいました。
月曜日に登校し、生徒会室へ。すると入ってすぐ岡本さんが私に絡んできました。
「あのさー望ちゃん。四宮イザナさんって知ってる?」
「ええ、まあ。私や神野さんと同じクラスの女の子ですよね。多分話したことはなかったですが」
ビックリでした。まさか岡本さんの口からそんな言葉が出て来るなんて。
一応岡本さんが何か聞いたのかもしれないので話は伺ってみました。
「えーと、岡本さん。四宮さんがどうかしたんですか?」
「いやそれがね。アナタ須田さんて覚えてる?」
「心臓が止まったところを危うく神野さんに助けられた女の子でしたよね。本当に奇跡的でしたが……」
「あの子が生徒会メンバーの私に伝言として伝えてくれって。
何で私なのか聞いたら二人に会うのは照れ臭いって」
「須田さん、何かとメッセンジャーにされがちな人ですね……」
「伝言。今度バレンタインデーがあるでしょう?
バレンタインデーで、四宮イザナと神野春雪がパートナーになるって」
「それは……まあいくらでもなってくれて構いませんけど」
「またまたそんなこと言って……付き合ってるくせに!」
「何を勘違いしているのか知りませんけど、私と神野さんの間には何もないですよ?」
「わかってるって望ちゃん。今日は神野さん呼びだもんね?
ユキくんって呼んでベタベタくっつくラブラブモードは今日は封印?」
「それはその……えっと……罰ゲームであれをやらされていただけですから。
本心ではそんな風には思ってませんよ」
瞳のせいで要らぬ誤解が学校で広まっており、一朝一夕には誤解を拭い去る事が出来ないことはわかりました。
正直、もう諦めました。このまま岡本さんには勘違いしたままで居てもらいます。
「ええそうです。ちょっと喧嘩しただけです。そういえば岡本さんはパートナー決まってないらしいですね?」
「そうなんだよぉー! 望ちゃん男にモテるでしょ。一人くらい、いいの分けてよ!」
「組めるのは同学年だけですよ先輩。あと私、全然モテませんよ?」
「ウソ!? 冗談キツいわ!」
「いえ。神野さんと付き合ってるって噂があるので。
さすがに他の男性達も彼から私を奪おうとは思わないようです」
「奪える気しないもんね……」
と岡本さんは納得してくれました。正直そこだけは神野さんに感謝です。
私は基本的に男性嫌いですから。父は母を捨て、トントンは瞳を利用しつくして、事件の捜査をするだけが喜びの抜け殻のようにしたんですから。
でもそんな瞳が神野さんのことになると幸せそうに話をし、ログでも文体から好きだという感情が溢れんばかりに伝わってきます。
友達に見捨てられたと思い、ふさぎ込んで空っぽだった瞳の心のスキ間に容易く入り込む神野さんの、ナンパ師としての手際には感心します。
いえ、こんなことをここで書いても仕方がないでしょう。
本音を言えば瞳を幸せにしてくれていることには感謝しています。
神野さんに対し、私は好感度は低いですが信頼度ならかなり高いつもりです。
ただ二人は、四宮イザナさんが別れる事を予言してきた事に対し割と楽観視してますが、私は心配しています。
神野さんを失ったら瞳がどうなるかは予測が困難ですが、もう傷つくところがないほど傷つき尽くすことは簡単に予想できます。
「あのう、これは友達の話なんですけどね?」
少し岡本さんに話を聞いてもらう事にしました。一ミリも神野家の事情や瞳のことなど知らない岡本さんだからこそ聞いてほしかったんです。
「ん? どうしたの? 恋愛相談ならこの岡本先輩に任せておきなさい!」
「はい。友達に好きな男子がいましてね?」
「ふむふむ」
「その彼がプレゼントを贈るっていってくれたアクセサリーがあったんですよ。
実はそれ、彼が自作したんだって自分で言ってたらしいんですよ」
「自作アクセサリー? それ贈ろうとしたの。その男キモいわぁ……」
「問題はここからなんです。そのアクセサリー、友達は一応もらっておいたんですよ。
そのアクセサリーはなんと、昔彼が好きだった女の子にもらったもので、彼女は不幸にも亡くなってしまっていたようなんですよ。
どうやらこれを贈ろうとしたことは彼にとって過去を吹っ切って、その女の子と向き合おうとしたってことだったらしいんですよ。
もちろん自作のアクセサリーなんていうのは嘘です」
ただし、その初恋の女の子は生きていて、しかも自分自身を乳児院へ置きざりにしたなどと意味不明な過去を持っているようですが。
「まあ何というか……女にそんな嘘ついて騙せると思ったその男、考えが甘かったね。
その彼にとっては、それを贈ろうとした件は、告白以上のものだったってわけだ?
私だったらまあ、嘘をついたのはムカつくけど、嬉しいかな。
こんな激しい愛情表現、なかなか難しい。その彼、気付かれないようにそうしたんでしょ?」
うわぁなんか言われながら恥ずかしくなってきました。
「岡本さん。あれって、そういうことだったって事でいいんですよね?
あの瞬間までは、彼はわたしの友達のこと大好きだったってことでいいんですよね?
初恋の人の形見にも等しいそれを贈ろうとしたってことは『過去を振りきってこれからはずっと、君を見つめるんだ』っていうことで、いいんですよね!?」
「だと思うよ。ああ、私もそんなことされてみたいなぁ……」
ああ何か、ちょっと安心しちゃいました。
瞳は神野さんと出会ってすぐにもう彼のことが好きになってしまいました。
あの子異常に惚れっぽいのでは、と心配しましたが、神野さんだって同じようなものだったって事ですよね!
「ふふふ。この愛の伝道師岡本まりあにはお見通しです。
それは望ちゃん、ずばりあなたと神野くんのことですね?」
「いや違いますけど。断じて違います」
「いいっていいて照れなくても。ちゃんとわかってるから。
望ちゃん。やっぱり私の思った通りだった。彼ってやっぱり女慣れしてるよね、
気をつけた方がいいよ。女慣れしてる男って体だけが目当てな事も多いから」
「そうですね……彼は体だけが目当てなのかもしれません。
既に散々利用されてきましたし」
「そうなの? やだ幻滅。別れたら?」
「そういえば、さっき話題に出た四宮イザナさんが、私たちを別れさせたいそうですよ。
私は成り行きに任せようかと思っています。
別れさせようとして別れないのなら二人は運命的なもので結ばれている。
別れたのなら所詮その程度で終わるもの。そう割りきってますよ」
「運命的? やだぁ、そんなお子ちゃまみたいな恋愛観だったの望ちゃん?」
「もう喋らないでください……話が噛み合わないですから」
私はつくづく岡本さんが好きじゃないな、と確信した数分間でした。
会長と何かの仕事をしていた神野さんも帰ってきて、その日は仕事をして終わったらすぐに帰りました。




