五月二十二日・下
家に遊びに来た鳰さんと妹さんを見比べてみて、わかりました。
そっくりです。うり二つと言ってもいいでしょうか。
四宮誘さん、四宮夏樹ちゃん、井上鳰さん、そして神野六花さん。
この四人の女の子は、四姉妹だと言われれば誰でも信じるくらいに似ています。
四人ともすべて日本人離れした美貌、牛のような角、大きな胸という点で共通しており、ソックリです!
そもそも、神野さんが妹と近親相姦したって話ですが、この四姉妹と彼もかなり容姿が似通っています。
そして、その自分と似ている井上鳰さんに一目惚れしたのですから、その鳰さんと似ている妹に面影を見て興奮してもおかしくありません。
一緒の学校に通っている井上鳰さんと神野さんの妹、六花さん。
姉妹のように似ていますが、まあ一旦この話は置いておきましょう。
以下は私が過去を見たのではなく、家で家族が話している事から組み立てた昔の日常。
学校では、お兄ちゃんが妹につきっきりのようでした。
汗をほとんどかかない体質でもあるのが、この六花さん。
体育の時間も辛うじてプールは入れるのですが、激しい運動は命に関わる熱中症を引き起こしかねないのでNGです。
それで、おとなしくしている彼女ですが元来活発な子なので、お兄ちゃんのあずかり知らないところで遊び回ってはケガをする事を繰り返していました。
そしてついに、骨折したということでそれでも平気で歩こうとする妹のいる校庭に、彼は走って到着すると問答無用で背中におんぶしました。
「もうしょうがないなぁ!」
などと言いつつもなぜか嬉しそうだった、と家で妹さんは兄のことを母親に語っていました。
そして、彼女はお兄ちゃんに彼の背中でこう聞かされたそうです。
「君が傷ついたら僕も、家族みんなが傷つくんだよ」
「それがわかんない……傷つくって?」
妹さんにとっては、傷つくという感覚が理解出来なかったらしいです。
傷ついたことがなかったのですから。それに、神野さんはこう答えたそうです。
「六花が大事にしているあのぬいぐるみの足が、もし朝起きたら取れてたら嫌だろ?」
「イヤだ!」
「僕も同じ気持ちなんだよ。この世にはかけがえのないものがあるのだということも、これから君に教えてあげる」
そうして、神野さんは保健室に妹さんを連れていき、そこで彼女はようやく悟りました。
傷つくということは、多分まだ完全には理解してなかったでしょうが、自分が愛されている、ということは理解出来たようでした。
そしておそらく自分でも気づいてないようですが、これが妹さんの初恋の瞬間だったのだと思います。
しばらく時間を飛ばして見て行きますが、やがて神野さんは大きくなると妹にご飯を作ってあげることが多くなりました。
両親がいない時も多かったのです。これも原因の一つですね。
妹さんにとって兄だけが家族で、恋人で、兄で、そして他人だったんです。
ほかに何もないという状況が長く続いたのは二人にとっては不幸だったかもしれません。
なぜなら彼女は言い付けを全然守らず、平気で体を傷つけまくりの日々を過ごしていたからです。
言うまでもなくワザとでしょう。そうすれば兄が心配して、構ってくれて、抱きしめてくれますから。
今も、もしかすると彼女の自傷行為は続いているかも。
もしそうなら根深いものがありますね。
そして、もちろんこれは既知の事ですが近親相姦に嫌悪感を抱かないよう、遺伝子的に進化してきた神野家の血を継いでいると思われるのがこの六花さんです。
神野さんだけが妹に興奮する変態なのではなく、彼女の方も兄しか考えられないという、ある種非常に内向的な傾向の女の子でした。
この家は神野さんが鳰さんと出会い、別れた五年前に引き払ったはずですから、ついに二人が一線を越えたのはここではありません。
決定的瞬間は見られませんでしたが、これで二人がそうなった理由は掴めました。
この二人は、要するになるべくしてそうなっているんです。
あらゆる要素が積み重なり、妹さんが十二歳になったばかりのときに兄を誘ったのも、彼が誘いに乗ったのも一時の気の迷いとか、性欲が溜まってて、なんていう言い訳では通用しない、結果を生んだんです。
当時の二人の間には恋人同士以上に何か燃え上がるものがあり、その根底に深い絆があった、ということも確かです。
さて、五年前の事です。
五年前、この地域にいづらくなった神野一家は引っ越しを決意しました。
そして同じく十歳の四宮イザナさん及び結さん、そしてその夫である会長なる男性と、夏樹ちゃんが越してきました。
しかしわずか二年で四人とも出て行きました。
イザナさんが中学に上がるタイミングで引っ越しをしたようです。
そして東京でモードと同じ学校にイザナさんも。
どうやら神野さんが私とのつながりを目当てに学校に来ることも把握されていたようです。
ということはあの鳰ちゃんが消えた事件についてもそれなりに深く知っているという事ではないでしょうか。
視点を現在に戻した私は、二階へ。二階で三人が戯れているはずです。
そう思って二階の部屋のドアの前まで言ってみると神野さんが両手に花、結さんと夏樹ちゃんに絡まれているところでした。
「お兄ちゃん私のこと探しに来てくれたの? わざわざ?」
「いやそうじゃなくて……例のお姉ちゃんと一緒に捜査をね?」
「じゃあ偶然ここに来たってこと!? もうこれは運命でしょ!」
「そうそう。運命のような力でここまで引き寄せられた。
だから春雪さん、観念して私のことを抱きなさい!」
「絶対に嫌だ!」
「照れちゃって。春雪さんが私のことを好きなのは知ってます。
その娘になるこの夏樹のことも当然好きよね?」
「もちろん好きですけど……」
「聞いた!? 春雪さんが私のこと好きって!」
「ママったら強引なんだから!」
私は我慢しきれなくなって部屋の中に無理矢理押し入りました。
「神野さんその人は抱いちゃダメです!」
「瞳、何かわかった?」
「ええ。すべては一階の夫婦の部屋で起こったこと。
詳しく説明はしません。私は事件の記録を残すログを書いているのでそれを参照してください」
「わかった、あとで見させてもらう」
「ところで神野さん、今でも妹さんとは仲がいいんですか?
昔はお風呂に入ってたみたいですが今でも?」
と私は必要の無い質問をしてしまいました。
神野さんは一応十歳の時に七歳の妹とお風呂に入ってましたが、今でもそうかちょっと確認したかっただけです。
「まさか。いまさら風呂になんか入るわけないだろ。実の妹なんだから。
君も見ただろ。神野家特有のツノとか巨乳とか」
「ええ」
今はまだ妹さんが何者か言わないでおこうと考えた私でした。
「胸がペッタンコなら今でも入ってたかもだけど、あいつ去年ぐらいから胸が大きくなっててね。
あの胸を見てると、もう一緒に入るのはマズいよなぁって思う……」
「なるほど。夏樹ちゃん、私のこと覚えてますか?」
「ごめんなさい……」
夏樹ちゃんは私と昨日まで親しかった事を何となく察したのか、申し訳なさそうに俯いてしまいました。
「いいんですよ謝らなくても。でも私は覚えています。
あなたに助けられたことも。だから結さんに対しては複雑な気もします」
なんかこう、結さんは黒幕っぽいんですよね。一体何なんでしょうかこの嫌な感覚は。
私は神野さんが結さんに性的に迫られていたという事実だけでも気を悪くするような面倒臭い女だとでも言うんでしょうか。
そのことはあえて考えないようにし、とりあえず私は結さんに聞いてみました。
「あのー、不思議なんですよ。同級生の四宮イザナさんはあなたをおばあちゃんと言っていました。
そしてあなたの夫らしき男性のことは会長と。
私はお二人が彼女の両親かと思ったんですが違うようですね」
「イザナはかわいそうな子……あの子の母親は四宮家の人間。
夫は大学で知り合った男。ともに医者だったのよ」
「イザナさんの保護者にあなたがなる、そんな理由があったんですね?」
「そうよ。イザナは小さい頃から見えないお姉ちゃんと話す不気味な子だった。
四宮家では時たまそういう子が生まれるのよ。
私も何があったかは聞いてない。誰も答えないから。
イザナも答えようとしなかったけど、とにかくイザナはうちに家出してきた。
わずか四歳の時に。それ以来同居してるけど、家事は出来るからこうして母親代わりの私が外泊することもあるわよ」
見えないお姉ちゃん。神野さんが見てたのと同一人物でしょうか。
「何があったらその歳の子が家出するんでしょうね。
親は絶対でしょう、その年齢だと」
「それからというもの家族に飢えてるのか何なのか……うちの夏樹にべったりで。
取り入るように可愛がるようになってねぇ。
そんなイザナだから春雪さんに執着するようになったのよ。
あの子の夢は暖かい家庭を築く。本当にそれだけだから」
「暖かい家庭を築くですか。私もそれは目標の一つですよ。
イザナさんほど凄絶な人生は送ってませんが……」
「そう言われると何だか彼女のために何かしてあげなくちゃって気分になるね。
暖かい家族を作るって手伝いだけは出来る気がしないけど」
「いや……春雪さん。あんたはイザナの運命の人。
確実にあの子のところに収まるように世界は作られてる」
「そうかよ。こんなにも有り得ないと思ってるのにですか」
「それでも、イザナの運命の人だから。まあ信じなくてもいいわよ?
さあ、二人とも用が済んだんなら家に帰って保護者を安心させてあげなさい」
「そうですね、なかなか鋭い事を言う。じゃあ行こうか?」
「はい……夏樹ちゃんも、気が向いたら遊びに来て下さいね?
今度は記憶喪失にならないよう自分の力をちゃんと自分のものにしてから」
「……わかった」
私達は父に報告をするため、一度県警の本部に戻る事に。
本部ビルに入るとすぐエントランス。タクシーの車内よりクーラーが効いていて涼しいです。
皆さん学生がタクシーなんて贅沢だと思うかも知れませんが、今や報道されて顔も名前も全国に知られている私達がその辺を歩いていて、人に見つかっても面倒なのです。
さて父に報告を済ませると、エントランスホールのソファに私たちは、この普段誰も座らないソファに座りました。
そして、車内では聞けなかった事を聞きます。
「神野さん。あなたが鳰ちゃんを好きだった理由、わかりました」
「なに?」
「私はてっきり、鳰ちゃんに似ているから妹さんとセッ……ごほん。
関係をもつに至ったのだと思っていました」
「……」
「でも本当は逆だったんですね。あなたが本当に好きだったのは妹さんでした。
むしろ、鳰ちゃんというのは妹に似ていたから一目惚れしたんですね?」
「全くもってその通りだよ。僕はわずか九歳。思春期もまだだった。
でも妹と僕が結婚できないって事は何となく理解していたよ。
残念におもっていた。そんなとき、施設へ行って鳰に出会った。
その時これは運命だと思ったって、この前言っただろ。本当にその通りで、運命だと思った。
妹とは結婚できないけど、この子とだったら結婚できると、僕はもう、実に有頂天だったよ本当に……」
「根深い。実に根深いですが、こうなってくると気になるのは神野幸村さんが鳰ちゃんに向けて言った一言です。
かわいい、おお可愛い。そう言って抱きしめたんです。これは一体?」
「さあ……娘と見違えたって事はないだろう。夏樹ちゃんは当時五歳児くらいか?
まあ可愛かったんだろうけど、鳰は十一歳近くて、体つきは随分異なっていた。
二人の顔は似ていても見間違えるはずがない」
「ですよね。恐らく彼は鳰ちゃんの正体を知っています。
結さんも。彼女は言う気はないでしょう。でも、四宮イザナさんなら答えてくれそうです。
あの鳰ちゃんという女の子は確実に神野、もしくは四宮家の血を色濃く引いてますからね……」
「恐らく父は時空間を越えたんだろう。あの時の父は八年後にタイムスリップしたんだ」
「二歳のときあなたに消し飛ばされて、消えたって時の話ですか?」
「ああ」
「じゃあ夏樹ちゃんの父親は誰ですか? あの子は明らかに神野の血を継いでいました」
「例えば過去に生まれた神野、四宮一族の赤ちゃんが現代に飛ばされていたというのは?
いや、忘れてくれ。夏樹ちゃんが僕の腹違いの妹というのが一番筋が通っている。
では、鳰は……恐らく父の知っている子だったはずだ。それは何だろう?」
「だから最初からそれを話題にしてたんですよ。私が思うに鳰ちゃんというのは夏樹ちゃんと両親の同じ姉妹じゃないですか?
何かの理由で赤ちゃんのときに乳児院へ行ってしまい、四宮結さんも探しましたが、発見したときには井上家へ引き取られていました。
だから引き取るのは断念し、知らんぷりをしていたら、予想外なことにあなたと仲良くなってしまった……とか?」
「かなり、ありうる。そうでなくては四宮家が今も生きている鳰のことを把握していないだろう。
瞳。君、ログを書いているって言ってたね。これからは僕が捜査する。
少しだけ報告書を書くことになるかもしれない」
「それは……会えないって事ですよね」
「寂しい? ならお別れのキスをしようか?」
「別にいいです。早く帰ってください」
「冷たいな……」




