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ボーイとガールがミートして  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
LOG 1
21/75

五月二十一日・急

固いベッドと寒い部屋、という刑務所のイメージとは程遠い普通の部屋です。

相変わらず温かみのある人の痕跡がほとんどないので殺風景極まりない簡素な部屋ですが、ともかくベッドに横になり、私は目を閉じました。


「……結さんか。そうですか。まだ報道はされてないみたいですね。

そうですよ。こっちの話はいいですから。夏樹ちゃんはちゃんと親のところに……え?」


ユキくんが結さんと電話で夏樹ちゃんの話をしています!

いつの間に連絡先を? まあ親戚らしいですからおかしくはないですが。

これは聞き耳を立てなければいけませんねっ!


「ええ。はい。いやいや、年上ですから。そうは見えないけど、年上なんですよね。

敬語も使いますって。はい。ですから行ければ今日にでも中原公園で例の事件について捜査を。

はい。それだけが、それだけが僕の望みです。佐々木さんは関係ないでしょう。

彼女とは愛し合ってるんです。事件を解決してもイザナと結婚とかはしませんよ」


私はさらに息を潜め、壁に耳を張り付けます。


「いやいやいや、何回も言わせないでくださいよ。結婚しませんって。

金持ちになれるかも知れませんけど、それでも僕は佐々木さんとですね……ん?

なんでそんな自信満々に言えるんですか。いや、確かに彼女は誰もが認める美人かも知れませんよ?

僕だってそれは認めま……はい。財閥当主の権利とか関係なく彼女を好きになるとか言われても!

じゃあ何でそれを餌に僕を釣ろうと……ああはいはい、そういうことですか!

やっぱりそうだったんですか。僕の親は最初からそのために僕を引き取ったっていうんですか?

ん? え、それじゃあ、えっ、あ、妹も……ですか?」


私は向こうに聞こえないようにつぶやきました。


「いもうと……?」


まさか、と私は考えました。まさかそんな事が?


「そうだったのか。妹を引き取るように言ったのもあんたか結さん。

いや文句はありませんよ。仕送りはしてくれたんでしょう……ええ」


話が見えてきました。ユキくんの妹さんに関して不思議な女の子だと思ってましたが。


「じゃあ聞かせて欲しい。鳰のことについてです。このことは佐々木さんにも聞いてもらっても?

はい。それじゃちょっと移動しますね……」


その後ノックの音が聞こえ、私はドアを開けて来客を招き入れました。

さっきまで私が寝ていたところへ、ユキくんが腰掛けて話は続きます。

その間、多弁な私が一言も喋りませんでした。


「ええ、もう大丈夫です。鳰は結局一族の人間なんですか?」


私はユキくんの顔にギリギリまで頭を近づけていたので、結さんの声も聞こえてきました。


「あの子……確か春雪さんによると天涯孤独で遺族もいないとか?」


「そう聞いていますが」


「あの子について、本当の事を言ってもいいわよ。

あの子は確かにうちの一族の娘よ」


「……何だって?」


「一族の血を引く子供達が結婚して出来た分、血が濃いのよね。

あの子は赤ん坊のころ消え去って……気付けば井上家とかいう家に引き取られてたわ」


言い方がおかしいです。一族の血を引く子供達がっていう口ぶりが。


「僕と血が繋がってますか?」


ユキくんは意外にも冷静に言っていました。


「……鑑定すればわかるかもね」


「生きてるんですね?」


鳰さんの遺品や遺体はどこにもないですからね。

遺伝子を鑑定するっていうことはつまりそういうことです。


「どこにいるんですか?」


「会いたい? 例の事件の後、幸い一族で保護できた。会いたければ会わせるけど」


「別に会いたくはありません。会わせる顔もありません。僕のせいで危うく死にかけたんですからね」


「春雪さんを操って鳰を消し飛ばさせた人に心当たりは?」


「見当はついてます」


「そう。その人物が主犯だとしても責任感じる?」


「当然です」


「そう……会いたくなったらいつでも連絡して。それじゃ……あ、ちょっとまって!」


結さんが何か言ってますが、ともかく私は携帯電話を引ったくりました。


「もしもし?」


「あ、お姉ちゃん? 私です私」


「あ! 夏樹ちゃんですか。何か用でも?」


「はい。実は私、四宮夏樹って名前だったんですけど」


「……はい?」


えっ。えっ。えっ。私の推理が音を立てて壊れました。

ユキくんのお父さんが夏樹ちゃんの父親では、と思っていたのですが。

四宮というのはもちろん聞き覚えがあります。

ユキくんの運命の人です。奇妙な話ですが、本当にそうらしいのです。

何故、その四宮さんと同じ名前が?


「えっ、夏樹ちゃん。それ本当ですか?」


「うん。ママがどうせ忘れるから話してあげるって。

お姉ちゃんは私に服をくれた人でしょ?」


「は、はい……」


「そういうわけだから」


結さんが電話を代わったようです。


「この子は(あて)の娘……(あて)四宮結(しのみやゆい)と言います。

佐々木さん。まあ別にこちらで全部情報を教えてもいいんだけど……それだと味気ないし、本人も受け入れるのが困難だと思うわ。

春雪さんには引き続き情報を教えてあげて」


さきほどから異常な喋り方をするのがこの四宮結さんでした。

まず一人称がおかしい。お年寄りの話すような古い大阪弁では、(わたし)をわてと言うことがあるそうです。

それは非常に古い古語の名残りだそうで、現代ではほぼ絶滅したはず。

それに、一族の子供達が結婚して云々という口ぶりもまるで井上鳰さんの生みの親より自分の方が遥かに年上のような口ぶり。


そして極めつけが、自分に近い血筋の女ほど神野家の男と惹かれ合う、という言葉。

まるで彼女が一族の始祖たる、悠久の時を生きる不老不死の魔女のようです。


その割には十五歳くらいの娘が居たり変な人ですが、実際産んでるかどうか怪しいものです。


そしてまた、私は次のことを確信しています。

この結さんは確実に神野・四宮家を掌握する女王蟻と言ってもいい人物です。

そして、結さんこそが四宮イザナさんと神野春雪さんの縁談を取り決めた張本人であり、日本最大の財閥の経営一族である神野家の実権を握り、跡取りを誰にするかも決められるのでしょう。


ユキくんの電話を盗み聞きしてわかりましたが、ユキくんがイザナさんを選ぶことは結さんの中で絶対の自信がある事柄の様子。

私と一緒に居て、彼と私がただならぬ関係であることは当然承知した上での事です。

あと、夏樹ちゃんと居るのですからかなり近くに居る事もほぼ間違いありません。


「わかりました……大変ですね、娘が記憶喪失になって出て行ってしまうだなんて……」


「まあ(あて)も経験あるから。じゃあまたねー」


これで確信しました。この人は不老不死です。

夏樹ちゃんの能力は、桜井さんいわく『超高性能な細胞変質能力』との事。


その能力が暴走し、脳細胞まで勝手に変質した結果寝たら記憶をまるっきり忘れてしまう症状を引き起こしたのが夏樹ちゃんです。

しかし彼女、本当に見た目通り十歳とかそのくらいの年齢なんでしょうか?


そしてその母親の結さんも十五歳の娘が居るんですから三十代後半から五十代前半というのが妥当な年齢ですが、本当にそうでしょうか。

細胞を自由に操り、動物に変身しながら人間の知能を保つ、神懸かり的な能力の夏樹ちゃんとは親子で同じ能力なんですよ。


変身系の能力は割と居るそうですが、ここまでの完成度の人は世界中でも他に居ないでしょう。

それほどの能力ならば細胞の寿命をごまかして永遠に生きたり、老化や幼児化も自由のはず。

結さんが見た目通りの年齢であることはもちろん、夏樹ちゃんの年齢も疑ってかからなければならないでしょう。


そして、結さんからの電話は切れ、私は無言で携帯電話をユキくんに返しました。

彼は困ったとき頭をかくいつもの癖で手を耳のところに持って行き、深くため息をつきました。


「はぁ。悲しくなるな。僕は自分の意思で鳰を好きになった、そう思ってた。

違うんだね。あの子は結さんの一族の子で、その一族と神野家は惹かれ合う……か」


「でも、妹さんもそうだっていう話じゃないですか。ユキくんはどう思います?

妹さんに対して特別な感情を抱いているとか?」


「ないない。それに妹の方も僕に対して何とも思ってないはずだよ。

千春だって、決してルックスは悪くないし一族の女だから僕とは惹かれ合うはずだが……せいぜい姉ぐらいにしか思えない。

僕の母に至っては一族の女でありながら僕と父の前から消えた。

妹や千春……それに僕の実母は血が薄かったのかな?

まああの人の言ってる一族の血が引き合うとかいう話を信じたらの話だが……」


「多分そうですね。そして鳰さんは恐らく結さんも言ってた通り血が濃いんでしょう。

結さんの娘の夏樹ちゃんはどうです。可愛いと思いますか?」


「まあ確かに可愛いし、好きだけど女としてはちょっと……年齢のせいなのかはわからないけど」


「そうですか……ならユキくんが本心から好きになったのは私だけという事になりますね?」


「そうだね。佐々木家に例の一族の血が混じってない限りは」


「混じってませんよ!」


「さあ、そうとは言い切れないよ。現に僕らの地元にも結構いたんだし、実家も割と近い」


「どれどれ……確認しますね」


ユキくんがいつもシャツの胸元を開けています。

白と黒のドットで構成されたウシ柄のネクタイを見せびらかすように胸元をはだけているんです。

変なファッションでしょこの人。正直言うとバカみたいです。

そこに顔をくっつけてニオイを嗅ぐと、まずミルクの匂いがします。

彼の香水がそういう柔らかな匂いなのか、服やネクタイに染み付けさせてあるのか知りませんが、お腹が空いて来る匂いでした。

それから石鹸で洗った人間の肌の匂い。別に、私としては嗅いだらドキドキしてしまうとか、下半身が疼くとか、そんな事はなかったですね。

もし私が結さんの血を引いてたとしても、匂いに即効性はないようです。


「ニオイ嗅ぐとかやめてくれよもう! 恥ずかしいから!」


「私の匂いも嗅いでみてください。血を引いていればお互い惹かれ合うらしいですからね。

あと、ユキくん気をつけてくださいね。

うっかり結さんに出会ったりしたら惚れちゃうかもしれないですから。

あの人とどうやって連絡先交換したんですか?」


「いや。知らないアドレスからの電話に出たら僕の親戚を名乗る人だった。

面識はない。でもまあ確かにあれだけ可愛い夏樹ちゃんや四宮イザナの母親だからなぁ。

相当美人なんだろうね。神野の男じゃなくたって惚れるだろう」


「私も見たことはないんですよね……でもよかったですね。美人な女の子にモテモテで」


「茶化すなよ。代わってみたいか?」


「それは遠慮したいですね……」


「じゃあ遠慮なく」


ユキくんは私がさっき彼にしたように、私の着ている特に何の変哲もないワンピースの胸元のボタンを外し、鎖骨に唇を、私の貧弱な僧坊筋に鼻を当てて空気を吸い込み、やがてコメントしてくれました。


「濃厚な匂いがする……」


「どういう意味ですか!?」


詳しい説明を聞こうとしていた、まさにその時でした。

今思い出しても恥ずかしいです。私の見知った顔の女性警官が、トレーに乗ったご飯を部屋に運んできてくれたんです。

目があった瞬間、私はこう言っていました。


「あの! すみません、別にいかがわしい事をしていたわけでは!」


「お嬢、別に何も言ってないでしょう」


見知った秘書風の女性警官は鈴木さんなんですが、鈴木さんは私に気を遣って極力事務的に仕事をこなしてくれました。


「ここ、食事置いておきます。それでは」


鈴木さんが部屋から出ていこうとする背中にすがるように私は叫びました。


「待って! 誤解ですから!」


「何が? 口約束も要らないほどの相思相愛なんでしょう?」


「全部知ってるんですか!?」


鈴木さんは消えました。この地下三階は監視カメラはおろか、内部の音声もばっちり録音していつでもモニタリング可能になっていたのです!

そしてトントンやこの鈴木さんも当然モニタリングしていたんです。

何という辱めでしょうか。そしてトントンは目の前で可愛いがっている姪のあられもなさ過ぎる姿を見て心を痛めた事でしょう。


ユキくんが分別ある人じゃなかったら、私の妊娠の危険を承知であそこで最後まで行っちゃう人だったら。

背筋が寒くなる思いです。よく踏み止まってくれたものでした。


「それと……」


意地悪を終えて秘書風の鈴木さんはこっちを振り返り、ドアの中に向かって部屋の外からこう言いました。


「本部長から伝言です。ご飯を食べたらすぐに上へ上がってください」


「わかりました。ユキくん、いただきましょう」


「いただきます。あ、食事はここじゃなくてあっちでしよう。

ここだと二人で食べられるだけのテーブルがないからね」


「ええ……」


ソファの方に行き、鈴木さんのもってきてくれた妙に美味しいふわふわのサンドイッチを二人で頂きながら私達は鈴木さんからの説明を聞きました。


「まず神野くんだけど、本部長に挨拶する必要はないわ。

今から現場へは二人で普通に徒歩で行ってください」


「はい」


「僕を信用するって事ですか?」


「そうね。本部長は例の事件について情報を誰よりも知っているわ。

私達警察の人間もそれは知らないのよ。本部長は自分の口から話すより二人で見た方が早いとおっしゃったわ」


「言えない何かがある、という事ですね。僕は正直事件の犯人が本部長じゃないかと心のどこかで疑ってました。

でも瞳さんに過去を見る許可を出したのなら……どうやら違うようですね」


「本部長が犯人? まあそれは聞かなかった事にするわ。

じゃあ私はこれで。後で食器は誰かに片付けさせるから早く行っておいで」


「はい」


「はい」


気付けば時刻は午後十八時。そろそろ父も時間が空いているでしょう。

というか、あの人は基本的にそこまで仕事はありません。

県警の本部長ともなると地道な仕事はなく、踏ん反り返ってるだけでいいのです。

ただし、一人の刑事が一生に解決出来る事件の数百人分以上は働いた父だからこそですが。


「許可は出ました。さて。お望み通りの場所へ行きましょうか」


「これが終わったら君に何かお礼をさせてくれ」


と言ってユキくんはは重い腰を上げ、あくびを一つしました。


「ほんとに何時間も車に乗ってたから眠くて……」


「別にいいです。じゃあ、行きましょうか」


私たちは部屋の電気を消し、さっき使った食器を食洗機に入れるとフロアの電気も全部落としてエレベーターに乗り込みました。


考えて見てください。女の子と二人きりであれだけ過ごし、今、密着状態でエレベーターに乗ってるんですよ。

ユキくんは全くの無反応。それどころか、忘れていたとばかりに親御さんに電話をかけて説明をしています。

別に運命の人とか恋愛とかは置いといて、ここまで子供扱いされるとちょっと戸惑ってしまいます。

正直、さっきは避妊具さえあれば私を抱いてたと語ってましたが、本当かどうか。

戸惑います。自分に魅力がないんじゃないかとか、実はユキくんに嫌われているんじゃないかとか。


「……何か浮かない顔だけど大丈夫?」


ほら。ユキくんは口ではこうやって心配してくれますが、口だけです。

これ以上は特に何もありません。

口では何とでも言えますが、私が心配なのは、完全に自分のためだということです。

とかへそを曲げていることは鈴木さんにもユキくんにも隠しました。


「大丈夫です」


「あ、そういえば君の好きなケーキってなに?」


「普通のイチゴのショートケーキです……」


「君らしいね。じゃあ今度買ってくるよ」


「ありがとうございます。さ、ここから歩いて数分ですからね……」


何が数分ですからね、なのかは自分でもわかりませんが、ともかく私は本部ビルから出て行きました。

どうやら本部に人が集まっていないので、まだ情報は拡散していないようです。

ただし時間の問題でしょう。明日にはどうなることか。

女子高生が襲われ、それを助けたのが、なかなかにハイスペックな同級生の男の子。

それだけでネタになること間違いなしですが、私の父は有名人ですし、ユキくんは滅多にいないレベルの美少年。

センセーショナル極まりありませんよ。


さてここから例の事件現場までの数分の道をユキくんとぴったり離れずに過ごし、呆気なく土曜日の子供と親御さんが群れていたはずの、のどかな公園へやってきました。

今は帰って国民的長寿アニメでも見ている事でしょう。

思えばここは県警本部からほど近く、行った覚えもあるような気がします。


小さめで遊具もそれほど揃ってはいませんが最低限、公園としての体はなしているという感じでしょうか。

この入口と一番向こうに同じく入口があり、どちらの出入口も木々が繁っており、確かに怪しい男が入ってきてもちょっと気づきにくいかもしれません。


「ここですねユキくん。私、フラフラするかもしれないですけど、人がいたら危険ですよね。

そこは留意してくださいね」


「本部長が僕を信じて君を預けてくれたんだ、その気持ちを無駄にはしない。

君からは目を離さない。それに今は誰もいない……やってくれ」


「はい……」


やっぱりユキくんは私のように対等に接する相手にはこういう、子供扱いするような態度ですが、父のように高圧的な人には従順なようです。

私も今度からそうしてみようか、と思いつつ、私は携帯電話を取り出して父に一報を入れました。


「もしもし。こちら瞳。現着しました」


「了解した。速やかに情報を集めて帰投せよ」


「らじゃっ!」


電話を切ると、すでに頭に入っている時刻に視界を合わせます。

ユキくんは極端な早生まれなので、その事件当時は十歳になったばかり。

小学校四年生が終わり、五年生になるという時期です。

彼らは一応四年生。しかし、ユキくんは明らかに他の子より子供っぽいです。

きっと鳰ちゃんや千春さんといった彼の友達も彼を弟のように普段は思ってたかも。


公園で隠れんぼをするにはギリギリくらいの年齢ですね。

それ以上大きいとちょっとそういう子供っぽいことはしなくなります。

背伸びをし出すわけですね。

桜井千春さんは年少の時から既に身長が高いみたいですが、大きな体を隠すのが上手く、ユキくんはこの女の子二人にすっかり溶け込んでいます。

むしろ彼がこの中で一番可愛いかもしれません。

鳰ちゃんとはしゃぐ声は甲高いボーイソプラノ。女の子のような長い髪、中性的な顔だち。

しかも二人に比べてかなり幼い子供です。


これは私の主観ではなく、間違いなく客観的な事実として、彼は絶世の美少年でした。

顔立ちが日本人ではないんですよ。明らかに。もちろん今の彼もです。

南ロシアとかイランとか、西アジア人って感じの顔です。


ユキくんの先祖は五千年近く前に大陸から日本に来た中国人だと言ってました。

それがある程度事実を反映しているとすると、一つの仮説が考えられます。

実は彼の祖先は神農を信仰する中国人だけではないという可能性があります。


神農は医学薬学、農業の神であり、医学薬学は古代では呪術と同じようなものだったので、呪術の神様でもあります。

そして、ユキくんはファッションでしているチョーカーや白黒のネクタイ、角のように見える髪の毛のハネ、それに黒髪にかなりの割合で混じる白髪。

牛の神様の特徴を色濃く受け継いでいるのですが、その牛の神様というのが神農なのです。


実はですね。医学薬学と関係があり、呪術や農業と関係があり、「春の太陽」を象徴し、「太陽の牡牛(おうし)」の名前を持つという、神農と非常に似ている有名な神様がいるのです。

今はゲームやアニメの影響か割と有名なバビロニア。

そのバビロニアで信仰された神様、マルドゥク神です。


つまりユキくんの祖先は古代バビロニア人であり、後に中国人とも混じった可能性があるんです。

そして互いの神様が混じった結果、中華の神様のみ残ったのかも。


などと長い考察をこのログで書いてしまうくらい、ユキくんは美少年だったって事です。

よくいますよねこういう人。中性的で、いつも女の子グループにいて、女の子からは全然恋愛対象とは見られない男の子。

まあ、ユキくんが可愛い子供だったのはこの際置いときましょう、重要じゃないですし。


それよりも鳰ちゃんも相当な美少女です。ああ、誘拐されても無理ないなってくらいの美少女です。

しかも実物を見てみて気づいたんですが、胸が大きいです。


確かにまあ十一歳にもなれば大きくなって来る子もいるでしょうが、彼女は既に大人並み。

しかも髪は白が目立ち、ツノのような髪の毛も確認できる事から、なるほど神野家と同族で間違いありません。

さっき言った通り、顔も南ロシア、西アジア系なんですよね。

美人の多いウズベキスタンとか、アルメニアとか、そんな感じです。


そんな鳰ちゃんが神野さんに追いかけ回されているちょうどその時。

鳰ちゃんは急停止。二人はあわやぶつかりかけ、千春さんは隠れているので二人の異変に気づきません。


「あれ……」


鳰ちゃんが指差した先にはたった一人で佇む一人の若い男性が。

身なりはラフで、まるで部屋着です。背が高いですね。

百八十センチくらいあるでしょうか。一体誰なのか私は見覚えがあったので、一応注視します。

これが例の事件の犯人と目されている人ですね。

言うまでもなくこの人、神野さんと同じで日本人離れした顔立ちです。

男性は立ち止まっている子供二人に近づき、二人は怯えて足が動きません。

男性が神野さんの前に立ち、そして、彼の肩を掴んで言いました。


「今まで悪かった。少し遠くへ行っていたんだ」


「な……なにを……!?」


神野さんは困惑するばかりですが、私も頭が真っ白です。

まさかこんなことって。ああ。私の予感は的中しました。


「俺だ。二歳の時失踪してしまったが、こうして帰ってきたんだ。

俺はお前の父親だ。また、また一緒に暮らそう!」


ユキくんは全く状況が理解出来ていません。脳が理解を拒絶しています。


「何なんだおまえは!?」


などと言っているうちに男は、いえ、神野春雪さんの父親である神野幸村さんは鳰ちゃんの方に興味を移しました。

またもや彼の目に涙が浮かび、愛おしそうに鳰ちゃんを抱きしめます。


「会いたかった……おお、可愛い。なんて可愛いんだ……」


私は一瞬だけこう考えましたが、すぐに忘れました。それはさすがに有り得ないと思い直したからです。


《鳰ちゃんをなぜか可愛いと言って抱きしめる幸村さん。

実は彼というのは、神野春雪さんと全く同一人物では?

だから、鳰さんの事を可愛いと抱きしめ……?》


というのは有り得ません。色々と有り得ない点が多過ぎますが、特に生みの母親と子供を作るのが有り得ません。

そうと知らないならともかく、知っていて生みの母親とは絶対に結婚しないはずです。

どうやって息子が二歳の時に息子に消し飛ばされ、およそ八年後のこの時代に生きて帰ってきたかは知りませんがこの人は幸村さんです。

そしてその幸村さんが鳰ちゃんを抱きしめる理由が意味不明です。


ともかく、ユキくんは鳰ちゃんを抱きしめる見知らぬ大人に激昂しました。


「鳰から離れろ! さもないと殺してやる!」


「おいおいおいちょっとまって! 俺がわからないのか!?

それに鳰だって? なにかおまえ記憶が混乱しているのか……しっかりしろ!」


と言った直後。ユキくんの口元が歪み、冷笑的な表情を作ると喉の奥から乾いた笑いが漏れ始めました。


「仕上げだ。出て来て早々で悪いが死んでくれ」


絶対に、これはユキくんの意思で出た言葉でない事は確信できます。

次の瞬間にはユキくんを中心に公園の一隅が真っ黒に染まりました。

荒れ狂う渦の中へ無尽蔵に墨を垂らしていくような、まさに暗闇の暴風が吹き荒れ、そしてそれはわずか一秒後には収まり、ユキくんは膝をついてうなだれ、気を失っているようでした。


わけがわかりません。これを書いてるのはこの日の夜ですが、実際意味不明です。


鳰だって? 記憶が混乱しているのか?


幸村さんは何を知っているのでしょう。

恐らく彼は鳰さんが生みの母親のところにいた僅かな時間の事を知っているんでしょう。


「ハルくんどうしたの!?」


異変に気がついた桜井さんがユキくんの側へ駆け寄って来ました。

私の心の中に形容しがたい嫌な感情が芽生えました。

こうして二人は一生続く暗い絆で結ばれたんですね。

互いが互いを思いやった結果、守るためにそうなったんです。

誰にも秘密な二人だけの真実を抱える事が、どれほど二人の心を密接にすることでしょうか。

不謹慎ながら、私はユキくんと桜井さんを少しロマンチックに思い、そして少し憧れもするのです。


彼は桜井さんに肩を揺すぶられる事によって意識を取り戻し、最低限だけ現況を把握したようです。


「あれ……ダメじゃないか千春、勝手に出てきたら」


「何言ってるの! ハルくんが……鳰を殺し……」


「面白くないってその冗談。鳰はどこいったの?」


と言ってユキくんはキョロキョロしますが、ああ、哀れな鳰ちゃんは遥か遠くへ行ってしまい、もう探すことはできません。

彼には全く記憶はないようです。いつからないんでしょうか。

ともかく鳰さんを殺したことも、謎の男が父親だという事も、記憶にはないようです。


「ハルくん、鳰はどこ行ったの!」


「だから聞いてるのはこっちだって……」


「覚えてないの?」


「なにが?」


「何がって……男の人がハルくんの肩を掴んだらブワッてなって、そしたら鳰と男の人が……」


「嘘言うな!」


「ほんとだって! ほらそれ!」


と桜井さんが指差したのは、地面に落ちている人間の切断された手でした。

手首から先を切り落とされた誰かがここに居たことだけは確かです。


「そんな……これは男の手じゃない……女の……?」


とユキくんがしゃがんで落ちている手を覗き込みますが、私と当時の彼は同じ意見を持ちました。


「ふざけるなよ……どうせ作り物だろ、冗談はやめろ!」


明らかに小さい女の子の手です。これは一体?

やっぱり、鳰ちゃんの手でしょうか。


「これ……誕生日に……」


「それ以上言うな千春!」


決めては落ちていた手首につけられていたおもちゃのブレスレットでした。

実に子供らしいプレゼントです。

十中八九、既に鳰ちゃんに恋をしていたユキくんが必死の勇気を出して贈ったものでしょう。


「ハルくん。人が来る……下手に隠れたりしないほうがいいって」


「鳰……こんな……鳰……」


話を聞いていません。ユキくんはくずおれて目に涙を溜め、嗚咽を始めています。

こういうとき結構女の子が強いものでしょうか。

少なくともこの二人の場合は女の子の方が冷静で強かったようです。

というより、桜井千春さんの生まれながらの資質に私は驚愕を禁じ得ません。

この年でこの子は的確で冷静な判断を迅速に下しました。

身長だけでなくIQも非常に高いことが伺えます。


そしてユキくんが気を失った事を桜井さんが知ると、聞こえてない事は承知でこう言いました。


「佐々木本部長。見ていますね。あなたがこの事件を捜査する事はわかっています。

見ての通り、ハルくんは悪くない。そして本部長。

わたしはハルくんの能力の性質を利用する。

ハルくんの能力は検査でも見つけられない特別なもの。

警察は証拠がないかぎり逮捕は出来ない。

ハルくんの能力で鳰は死んだけど、それを絶対に立証出来ない以上、白を切り続ければそれで大丈夫だから」


何という事でしょうか。桜井さんの資質は本物。

言うことも非常に論理的でこの年としては相当に賢いようです。

そして頭がいいだけでなく度胸も相当に優れている様子です。


「ハルくんは私が守る。そして……ただ情報を黙秘するだけじゃない。

ハルくんの呪われた一族には秘密がある。そして秘密を知る人がいる。

そこへ潜入して情報を集めたいと思っています。

警察に必要なのは情報と証拠。私が見つけて突きつけるつもりです」


決意。それは断固たる決意でした。わずか十一歳かそこらの女の子とは思えない堅牢で冷徹な決心が見ていて伝わってきました。

口調はたどたどしく、子供っぽい棒読みで一見熱などないようで、その裏に青白く燃える執念がありました。


「だから、雪を……」


桜井さんが一言そう言うと、春の雪が舞う寒い秋田県の公園から雪が消えうせました。

ユキくんの生まれた日に降った春の雪。

祝福するようだった春の雪が、せめて彼にとっての別れの象徴に変わらないように。


「今……わかった。私は天候を操る能力……起きてハルくん」


ちょっとゴメンなさい、シリアスなシーンなんですが、あまりの衝撃に気絶してしまったユキくんを桜井さんが雷雲から電撃を作り出して、叩き起こしたのはちょっと笑ってしまいました。


「ぐわーっ! 痺れる!」


「ハルくん。落ち着いて聞いて。鳰は謎の男に誘拐された」


「いやでも……確か……死んだんじゃ……?」


「そういうことにする。他の誰も見てないし、誰も見ることは出来ないから」


「……わかった。わかったよ。そうする。何が起こったかはわからないけど、一つだけわかるよ」


ユキくんは服に着いた砂を払い、俯いたまま呟きました。


「千春が守ってくれた事だけはわかる。ごめんね、僕のせいで」


「そう思うなら一つ約束して。能力を誰にも見せないで。他の誰にも」


「僕は自分の能力を知らない……検査でも出ないし……」


「そのまま出さないで。言いたい事はそれだけ。後は私に任せて」


「なんで千春はそこまで……」


「世界中の誰もがハルくんを責めても、私は味方だから」


「……どうして?」


「私の居場所だから。鳰が居なくなっても、私の居場所はここしかない」


二人はしばらく見つめ合ってから、ユキくんが立ち上がって服についた砂を払い、何かに目を覚ましたように表情が一変しました。

今の彼は泣いている子供ではなく、何事かを決意した目をしていました。


「千春。僕は君に償っても償い切れない事をした。

でも諦めたりはしない。僕は鳰を探す」


「……そう言ってくれると思ってた」


心から嬉しそうに桜井さんは微笑みました。彼女は賢いですから、鳰さんが生きている可能性がある事も気づいていたでしょう。

二人が公園を捜索したあとは、神野幸村さんが入ってきた方へ向かい、痕跡を探りました。

そうこうしているうちに警察がやってきて、あとは私も知るところです。


視界を現在へ戻し、目を開けると、私は公園の出口に佇んでいました。

その隣には、あの頃から声も低くなり背が伸びたユキくんの姿がありました。


「あ、戻ってきたの? 大丈夫? 顔色が悪いよ、とりあえず座れるところへ……」


「はい……」


手を引かれ、ベンチにとりあえず座ります。

用意がいいことに私にどこかで買ってきた清涼飲料水まで渡してくれた気の利く人がユキくんです。

でも、あんなことがあったなら、私に優しくはしても異性としては全く扱わないのも納得の行く話です。

私だって、多感な時期にこんなことがあったら、他人と恋愛なんて考えたくもないでしょう。

ましてポッと出の私なんかが対象になるわけありませんよ。

だからこそ同じポッと出の四宮さんが桜井千春さんなどを差し置いて運命の人だというのは奇妙な話ですけどね。

私はベンチに座り、ちょうど喉が乾いていたのでジュースを頂き、息を整えてからこう言いました。


「ねえ、ユキくん」


「ん?」


「……復讐は憎しみしか生みませんよ。あの時の男を殺したくて、ただそのためだけに生きているんでしょう」


「今まで、復讐に燃えている人を見てきた?」


「はい。実際にやってしまって、警察に捕まった人も知っています。

復讐なんて、そんなの空しいし家族にも迷惑がかかりますよ?

絶対やめるべきです。人生は有限なんですよ。

憎しみで塗り潰すより、愛する事に使った方がいいんです。

私はこれ以上の協力は出来ません。

私も、優しくしてくれるあなたに情が湧いたので」


と言うと、私に対してはなるべく優しく穏やかな表情を見せていたユキくんの顔が強張りました。

怒り出す寸前だという事は簡単にわかりました。


「……別に理解してもらいたいわけじゃない。止めて欲しいわけじゃない。

止まる気もない。鳰をさらいにきた男は野放しには出来ない。

次の悪行をする前に止めなければならない。だから追っている」


「それは警察と司法の役目では?」


「警察がこの間に、証拠の一つでも見つけたか?

今日の今日まで、何一つ進展はなかった。

本部長までもが匙を投げたんじゃないのか!?」


「それは……」


「君以外の誰も真実に迫る事すら出来なかった。

僕は十分に待ったと思わないか」


「だとしても……悪人だとしても、あの人に復讐したらあなたも悪人に!」


そう、そのロジックは割と多用されるし説得力もあるはずです。

でもユキくんにはどうやら効果はなかったようです。


「お前に何がわかる」


初めてでした。もはやユキくんは口調を飾る余裕もないほど怒りを我慢しているようでした。

当たり前です。こんなにも必死で鳰さんの手がかりを探していて、執念で私のことを見つけて、それでやっとここを調べ終わって。

それでも私がくだくだと説教しだすんですから、焦ってイライラして気が狂いそうなのは、痛いほどわかります。


「ユキくん……そんなに殺しがしたいんですか。

あの凶々しい能力を隠し持って、その牙を研いで……泣きながら非情に徹して……」


「ああ。男の情報を教えてくれないか。下らない説教なら後にしろ」


ユキくんは険のある声で鋭く言い放ちました。

嫌われて当然です。私は父と同じように情報を秘匿しようと考えてしまったんですから。

私は臆病で、卑怯です。彼のためを思って秘匿しようとしたのに、嫌われたくないという思いが勝ってしまいました。


「君の前でも非情になれそうだ」


何という事でしょうか。ユキくんはこの状況で最も有効な一言をいとも容易く放って見せました。

心を読むことが可能なのでしょうか。あるいは、私は感情が顔に出やすいんでしょうか。


「あ、あの、本当に言っても大丈夫なんでしょうか……」


「聞いてから考えるよ」


「そ……それじゃあ、私も、信じられないんですけど、言います」


ユキくんはまったく酷い人です。私がもう既に彼のことを好きなのはお見通しな上で私を利用する事しか考えていません。

全く酷い人です。出来ればもう関わりたくないと思ったほどです。

私は大きく深呼吸してから言いました。


「男が公園に現れました。そして男は言いました……俺はお前の父親だと」


「……なんだって?」


ユキくんの当惑ぶりは言葉に表せないほど深刻でした。

私は気にせず続けます。


「しかも、鳰さんについてなにか我々の知らない情報をお父さんは知っていたようです。

直後あなたは、笑い出すとこう言いました。殺してやる、と。

その直後公園が真っ黒な霧に覆われ、気付けば二人は消えていました」


「おい……」


ついに忍耐が品切れたユキくんはおもむろに立ち上がって言いました。


「嘘をつくな、ふざけるなよ!?」


私は諦念を顔に表し、ベンチの低い背もたれに頭を預け、首筋と胸元をさらし、目は無意識に虚ろに流れて下を向きました。


「……それが私の見た現実です。あなたは初恋の女の子と死んだはずの父親を自らの手で殺したんです」


私たちの間に深く暗い沈黙が横たわりました。

夕方の薄ぐらい公園。ユキくんの膝は震え、立っていられなくなってベンチに座り直しました。

気付けば彼は顔を伏せて、手で顔を覆っていました。


「僕が……僕が何をしたっていうんだ。何でこんなことを言われなくちゃならないんだ……」


「私は信じてませんから。あれは偽物なんです!」


「偽物なもんか。あれは正真正銘僕の能力だ」


そう言うとユキくんは私から飲み干したスポーツドリンクのペットボトルを引ったくりました。


「僕は、右手から黒い煙のようなものを出して操る事が出来るんだ」


「それが……あなたの能力ですか?」


「そうだ。僕の出す黒い煙は、触れた物質をこの世から消滅させ、削り潰す」


音も聞こえませんし、もちろん何も見えませんが、ペットボトルがどこにも無くなってしまったことは確実なようです。


「検査では何故か陰性が出る。僕は能力がない。自分で見せない限りはね」


「ユキくん、こんなことって。こんな……」


呆気に取られてうまく言葉が出てきませんでした。


「僕は無敵だ。全てを消滅させる無敵の盾が僕の意思に関わらず全自動で防御する。

守ってくれているんだ、誰かがいつも。

君を助けるとき至近距離で銃を乱発されても、野球ボールが飛んできても無事だったのはそのせいだ」


今度はあまりの事に絶句しました。あの野球の一件って、そういうことだったんですか。


「守ってくれているんだ。誰かが。僕はずっとそう思っていた。

やはり……薄々気づいていたけど……この力で鳰を殺していたのか……」


私は深呼吸をしてから、改めてこう質問しました。


「じゃあ、例の犯人達は?」


「この煙は全てを消滅させる。最強の刃であり盾でもある。

人間の目で捉えられないほど細く薄くした刃を飛ばして腱や筋繊維を切断した。

僕は医者の息子だからどこを切れば人が動けなくなるかはわかってる。

恐らくこの煙というのは、ただの煙じゃない」


「じゃあ何なんです?」


「恐らく次元の扉。暗黒空間への入口だと思う。

ブラックホールってあるだろ。重力が強すぎるあまり光も出てこられないから漆黒の闇になっている。

それと同じだと思う。僕の出す次元の扉は光すら違う次元へ飛ばしてしまうので、真っ黒に見えるはずだ。

そして、また次のことも言える。この次元の扉はどこかに繋がっていて、人間がまるごと飲まれた場合、生きて出てこられるみたいだ。

僕の父は僕の手で殺されたのを君も見たのに公園にきた。恐らくそういうことなんだろう……」


「……あなたはずっとこの能力を隠していたんですか?」


「人に見せれば鳰を消したのは僕だと言われることは目に見えている。

ずっと隠して生きてきた。そして、それが本当だと証明された。

でもまさか、父を……僕は……段々生みの父親を知るごとに好きになって行ってたんだけどな……」


「いやっ、まだっ、でも! あなたがそんなことをするとは到底思えません!」


「誰がそう言える? 僕自身、僕が何をするか断言は出来ない。

覚えてないだけで、僕は鳰を殺したかったのかもしれない」


「有り得ませんよ! と、とにかく! いますぐ県警本部へ行きましょう!」


「なんだって?」


「父もこれを見て捜査を打ちきった。あなたが正常な状態で犯行に及ぶわけがないと考えたからでしょう。

私も同じ意見です。父に話を聞きに行きましょう!」


「ひ、瞳……」


と言いながら泣きそうな顔でユキくんは黙り込みました。

そして次の瞬間には私はまた、彼の腕の中に抱きしめられていました。


「こんなに……自分をまっすぐ信じてもらえるなんていつ以来だろう。

僕は、僕自身ですら信じられなくなっているのにね」


泣きそうな声が聞こえ、私は条件反射的にこう言いました。


「勘違いしないでください。私は父が信じる事にしたあなたを信じるだけです」


「わかってる。わかってるよ……ごめん、冷たい態度をとって」


「それは平気です……気持ちは痛いほどわかりますから……」


「ありがとう。本当にそれしか言う言葉が見つからない」


「お礼にはまだ早いですよ。何も解決してはいませんから」


「そうだね。そろそろ行こう。早く帰ってこいと言われたからね……」


「はい。じゃあ電話をしますね」


私とユキくんは来てものの十分ほどで公園を後にし、既にこの公園からでも見えている県警本部ビルにむかって歩きます。



「もしもし、瞳か。見てきたか?」


「はい、もちろんです。あれが神野春雪少年の真実という訳ですか。

納得が行きました。腑に落ちたというべきでしょうか」


「ああ。そうだな」


「ほんとうは、薄々桜井さんの魂胆に気づきながらも復讐に身を投じて……そうして視野を狭くして何も考えないようにしないと気が狂いそうだったのかも知れませんね。

でも二人は生きているとわかっています。トントン、この事件は今後どうするんです?」


と、横の神野さんに聞こえるように私は言いました。


「フン、そうだな。皮肉なものだ。お前から彼を遠ざけようと思っていた。

彼はそれを知ってて正体を隠しながら瞳に近づいたのだったな。

それが今や、身内の買収や裏切り……一番信用に値するのが彼だという状況になっている」


「神野さんが一番信用できる理由は、私の力を必要としているから、私を狙う悪者から絶対守る必要がある……って事ですね」


「そうだな。今後事件については当然既に二人の行方不明者の居所、及び神野家について調べているが……早く帰ってきなさい」


「はい、ではまたのちほど。ミッションクリアーですね」

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