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ボーイとガールがミートして  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
LOG 1
17/75

五月十七日・上

五月十七日。火曜日です。私こと佐々木・アンジェリーナ・瞳は妹のモードに申し訳無いですが、ずる休みしてもらって学校に向かいます。

学校は要注意人物が蔓延る危険地帯なのに、当の私が変装しないと来られないのは実に不便なことですがしょうがないですよね。

私はユキくんの家にわざと迎えに行くことにしました。


《それなら桜井さんは私に遠慮するでしょうからね》


とゲスいことを考えている私です。ピンポンとチャイムを鳴らすと、ユキくんが玄関から出てきてくれました。


「瞳。今日は僕と一緒に学校へ?」


「はい。都合が悪かったですか?」


「いや。なんかそんな気がしていたからね。早めに用意をしていてよかった」


ユキくんは出てくるやいなや、私の手を無言で取りました。

もはや私達が手をつなぐ事には遠慮も会釈も断りも要らないかのようです。

それが嬉しくて既に相当上がっていた今朝の私のテンションは既にマックス。

登校中はあえて事件には触れずに世間話をして過ごし、そして普通に授業を受けました。


「おっと、もうチャイムか。次は科学か……準備係は佐々木と須田だな」


と担任の先生が言い、私は移動教室なので躊躇なくユキくんに助けを求めました。

昨今の風潮で女性は自立するべきだとか、男に頼るなんて女のするべき事ではない、と言う人もいるでしょう。

しかしあえて開き直ります。これが私です。良いふうに言うなら、人は誰かがいないと生きていけないんです!


「あの、ユキくん。準備の事なんですけど……」


「もちろん僕がやるよ。人混みが苦手だったよね。僕に掴まって」


ユキくんというのは全盲の女の子に従者のようにかしずいている自分に喜びを感じる人なんです。

むしろ喜んで私を受け入れてくれました。あとは体を委ねるだけです。

教科書と筆記用具だけ持って私は彼と手をつなぎます。

教室まで行って所定の場所にノート類をおき、そして静かに座りました。


「終わったら呼んでください。神野さん」


「うん。須田さんもだったか……」


「出席番号順の持ち回りだから……」


そういえば忘れてました。須田さんの事。

ログによると、モードは彼女らしい気遣いを見せて須田さんを助けたんですよね。

なんかクールっぽいイメージのあるモードですが、意外と他の人が気付かない思いやりポイントによく気づきます。


「あの、えっと、噂があるんだけど」


「なに?」


「神野くんって誰と付き合ってるの? 澄谷先輩って噂もあるし、桜井さんや佐々木さんとの噂も。

ついには私と付き合ってるなんて噂もあって……笑っちゃうよね?」


などと、須田さんがじっと座っている私に聞こえるようユキくんと話しだしました。


「須田さん。僕は佐々木さんに告白するって約束したんだ。

それ以外の人と付き合うつもりは全くない。噂してる人がいたら否定しといて」


「わかった……」


須田さんとユキくんは実に気まずい雰囲気です。

恐らく彼は命を助け、助けられたという否応なく強くなる絆が、強くならないよう気を張っているんだと思います。

偶然そこにいて偶然助けられただけだから、お互い気にしないようにしようっていう意味なんでしょう。


ユキくんは話を終えると私のところに戻ってきました。

そして隣の席に座り、段々と他のみなさんも教室に入ってきました。


「瞳、瞳」


「何ですか?」


ユキくんが近くに寄ってきて声を潜めるので私も何故か釣られて小声になりました。


「好きだ」


「な、何で……?」


驚きすぎて一言しか言えず、私は呼吸を乱して動揺を隠しません。


「いつか交際を申し込むとは言ったが、別に好きだと言うのはダメってルールはないだろ?」


「それはわかるんですが……何で今?」


「僕はあの時、言いたくても言えなかった。今のうちに言っておかないと……ふとそんなことを思った」


「ダメですよユキくん。そんな死亡フラグ重ねたら本当に死にますよ?」


「そんなまさか」


「侮れませんって。ただでさえ春の雪なんていう儚く散って溶けそうな名前してるんですから」


「わかったよ。君の忠告は肝に銘じておくよ。

今日死ぬかもしれない。そう思って毎日を生きる事にする」


「そうですよ! ペルシア人とかの外国の血は混じってますが、日本男子たるもの侍の心を持ってください!」


「明日死ぬかも知れない。将来の約束は、守れないかもしれない」


「ええ、そうですね」


「だから今ここで先に言っておこう。好きだ、僕と付き合ってほしい」


「嫌です」


私にとっては今のが絶好のチャンスでした。既に言った通り、私は彼の告白をすぐに受け入れるような安い女に見られたくないので、どの道一旦は断ることに決めていました。


「先の約束か……そういうのが守れる男になりたかった」


と、こぼしたユキくんは、そもそもどういう精神状態で先の約束を果たせないと言ったんでしょう。

もしかすると本当に果たせなくなる事を悟ったんじゃあないでしょうか。

そんなことも考えて怯え、心底不安になる私です。

授業が終わると生徒会ですが、この日は岡本さんが大暴れする事はなく、大人しく私たちは下校です。

そしてもはやいつもの事と化しましたが、ユキくんに手を引かれて家の前まで私はやってきました。


この玄関前にたどり着いたら私はまた独りです。

ここにいればトントンと一緒に捜査するハメになる事はないですし、モードも居てくれます。

会いに行こうと思えば神野家へだって簡単に行けます。それが逆に寂しさを助長させるんです。

私が彼と一緒にいるためだけに、桜井さんは気を使って時間やルートをずらして登下校してくれています。


その時間が終わってしまう。ただただ甘えていられるこの時間が終わってしまう。

そう思ったとき、私は自分でさえ思いがけない言葉を口にしていました。


「あのー、ユキくん。少し止まってもらっていいですか」


「あ……大丈夫? なんかあった?」


などというユキくんの心配をよそに、私の頭脳はまるで二重人格のように思いもつかない自由な発想で言葉を紡ぎ出していきます。


「そうやって心配してもらえるのが嬉しくて私はつい甘えてしまうんですよね。

そんな自分が好きじゃないんですけど、どうしたってやめられないんです」


そう告白したところ、私は思いがけない回答を得ました。


「君の妹には怒られた。君には優しくし過ぎだって。

冷たくしようと思った。でも僕の方こそ、頭で止めようと思っても止められない」


私はユキくんに抱きしめられながら彼の耳元で肺の空気を搾り出すようにしてかすれた声を出しました。

軽い嗚咽のせいで息が苦しくて、そうするしかなかったんです。


「ごめんなさい。あなたの瞳が欲しかったものですから……」


「ん? あなたの瞳? えーと……付き合いたいってこと?」


「誰がそんなこと言ったんですか!?」


「でも君は、瞳だし……」


《あ、もしかして神野さんは、私、あなたのものになりたいんです!

と言ったのだと解釈したんですか。ならすぐに釈明しなければ!》


私は焦ってこう言いました!


「そういう意味じゃありません!」


《そういう意味ではなく、鳰さんにばかり向いているユキくんの瞳を私に向けて欲しかったって意味で。

あ、ダメだ。そういう意味でした。そういう意味にしか聞こえません。

無理です。これは挽回不可能です。もう無理です!》


私の精神状態はそんな感じです。愚かで忙しい心です。


「そういう意味じゃないのか……そう……でもまあ、これをあげるよ」


「はい?」


ユキくんがカバンから取り出したのは、石っぽい質感のブローチらしきものでした。

彼はそれを私の手に握らせてきたんです。


「小さい頃、博物館かなんかに行ったとき安かったから、琥珀を買って自分で作ったんだ。

確か三千円くらいだったかな。細かい工作は趣味だったから。

琥珀。僕の目に似てるだろ。これを僕の瞳だと思って。

寝る前や一人で寂しい時はこれを僕だと思って」


ユキくんがブローチを私の手に握らせて来ました。


「要りません! これじゃまるで、私がいつもあなたに見ていて欲しいみたいじゃないですか!」


「あれ、違うの? 僕はてっきり……」


女心のわからない神野さんにしては、私が彼の瞳を欲しがったことの理由について、鋭い推理だったと褒めてあげましょう。

彼の若干色素の薄い瞳によく似た琥珀を贈ろうとしたセンスも、これは評価してあげます。

彼に非はないのですが、残念。私はこれを突き返しました。


「モノで釣ろうとしてもそうは行きませんよ神野さん。

わたしをモノで釣って散々利用した挙げ句捨てる気なんでしょう?」


何故私が、これを突き返したか。モードならわかってくれますよね。

私は自分自身で、私はユキくんに安い女だと思われたくない一心でつれない態度を取っているものだと思い込んでいました。


でもブローチを贈られて私は気づいてしまったんですよ。


私は、彼の気持ちを確かめたくてわざと申し出を断ったりプレゼントを断る、ということに。

私は自分でも情けないほど臆病で面倒臭くて、彼の気持ちが本当に信じられるかを試すため、わざと「付き合って欲しい」との申し込みさえ断ったんです。

それでもなお、彼はプレゼントを贈ってきてくれました。私はそれも断りました。


いくらなんでも、ここまでしたのに心を開いた態度を示してくれない私にユキくんも困惑の表情です。

私は、じゃあどうすれば彼の気持ちを受け入れられるのか自分でもわかりません。


「わからない……女心わからない……夏樹ちゃんどうおもう?」


とあろうことかユキくんは夏樹ちゃんにアドバイスを求めました。

するとポケットからリスが顔を覗かせたんです。

そういうところがダメだって言ってるんですよ全く。


「いやー、一部始終聞いてたけど、お兄ちゃんは完璧だったと思うよ?」


「だよね、僕何も間違ってないよね?」


「お姉ちゃんもういい加減認めたら。お兄ちゃんの事好きだって。

私、鼻と耳がいいからわかるんだよね。

汗の匂いからかなり強い興奮と緊張と喜びがわかるし、心臓もバクバクしてるでしょ」


「こいつめ! 乙女の心をぺらぺら喋るんじゃない! お仕置きだ!」


ユキくんは言葉とは裏腹に、心底満足そうに笑ってリスを手のひらの上で可愛がってあげています!


「あ、そこ、だめ。ああっ、気持ちいい、もっと、もっとして!」


などとユキくんの指テクで背中やワキの下を刺激されて喘いでいるリスを見てふと冷静になった私は二人にこう告げました。


「ええと、私は今度、警察の車が来て送ってもらう手筈になってます。

ユキくんは警察の車に乗れないでしょうし、別のルートで来て下さい」


「そうだね……まあ、何とかしてみるよ。じゃあまた」


ユキくんは今日地元へ帰るのかどうか不明ですが、まあどっちでもいいでしょう。

極論、別に私だけ公園で過去を見て事件の全貌を見れば終わる話ですし。

こうして私たち二人は別れ、私は帰ってすぐお風呂へ入ってから、頭も乾かさずに母方の叔母に報告します。


トントンとその奥さんである叔母。

母方の叔父の夫婦は子供がいないと言ってましたが、ここは母方の親戚のおばさんの家です。

例によって子供はいません。うちの家系は偶然不妊、または子供を授かりにくい人が多いのかも知れませんね。


「あの、聞いてると思いますが明日にでも地元へ戻りますので!」


親戚の叔母に言うと、おばさんは今日の晩御飯になる料理の下準備をしながら私に背を向けたまま言いました。


「ああ、聞いてる聞いてる。でも大丈夫? 警備とか……」


「大丈夫ですよ。警察の車で護衛されるんですからね」


「ならいいんだけど。ちゃんと気をつけてね。本当に物騒な世の中なんだし。

あ、そういえば面白い事をあの人から聞いたんだけど」


「はい?」


叔母さんは強烈な言葉をいともたやすく吐きました。


「誰か連れていった方がいいと思うよ?

ほら、最近仲のいい……神野くんだっけ?」


「あの人は別に……そういう仲じゃないですよ。私とんでもないこと知ってびっくりしたんですからね!」


「なになに?」


「あの人同じ学校の女の子とは許婚なんですって! 信じられます?」


ついうっかり叔母さんに口を滑らせてしまいました。

まあ、そんなに隠すほどの事でもないでしょう。

学校で知れ渡ればユキくんにとっては面倒臭いことになるかもしれませんが、叔母さんならその心配も要りません。


「許婚ですって? 大金持ちなの?」


「ええ。恐らくその女の子の家は……ただ、それ以上にユキくんの家が半端じゃないお金持ちみたいです」


「だからって、何で子供のうちから結婚させる約束を……?」


「大人の事情でもあるんでしょう。知りませんよ私に言われても。

ただ、どうも話によると同じ一族で多少遠縁なものの血は繋がってるみたいです」


「そうなの?」


「ええ。そのお嬢さんと結婚すれば彼は日本最大の財閥の当主になれるらしいです。

そして二人の子供はそのグループを継ぐ、まさに王子様。御曹司というわけです」


「なんか別世界の話みたいねぇ……」


私は特にその件について掘り下げる意思を持ちません。

いえ、知りたくないと言った方がいいのでしょうか。

その話になるとすぐ叔母とは話を打ち切り、夜ご飯を食べてからしばらく部屋で勉強をしていたわけですが、ふと、私は例の件を思い出しました。

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