五月十六日・下
何だかわかりませんがつい神野さんと息が合ってしまって、一緒に息を潜めてしばらく様子を伺う事にしました。
「……あー早く来ないかな。決めなきゃ決めなきゃ」
「ええそうね。少し寄り道でもして、話してるのでしょうか」
「会長は心配じゃないんですか。お付きの彼、佐々木ちゃんに盗られてしまうかも?」
「有り得ませんわ。あの娘は奥手そうですし、何より彼は鳰一筋ですもの」
「話によると彼、瞳ちゃんとかいう女の子をストーキングした上、思いっきり色目を使ってるんでしょ?
で、それ全部本部長に振り向いてもらうため。言ったら悪いけどキモいよね?」
「けれど、それは大元は鳰のためなのよ?」
「だからキモいじゃんそれ。いつまでも初恋引きずって死んだ子にこだわって。
せっかくモテるのに見向きもしないでしょ彼?」
「ええ。最近この漫画を読んで知ったんだけれど、それはモンスター童貞と言うらしいわ。
俺はモテる。その確固たる自信だけはあるし、実際モテるんだけど経験は全くない厄介な男の事よ」
「確かにモンスター童貞だねぇ彼。決して私は嫌いじゃないし、悪い子じゃないんだけど。
そのくせ童貞こじらせてリア充に嫉妬してるのは見苦しいって。
まあ見てる分には面白いから言わないけど!」
神野さんはここで声を潜め、私の肩に手を置きました。
「少し……風に当たって来る。しばらくあとで合流したほうがいいかな」
「わかりました」
神野さんは立ち上がると、顔に手を当てて笑いだしました。心配です!
「この風……目に染みるな……」
「窓閉まってますよ……」
ともかく、私も神野さんの姿が見えなくなるまで待ってから生徒会室へ足を踏み入れました。
「すみません、会長、先輩」
「あ、佐々木ちゃん。神野くんと一緒じゃなかったの?」
「それが先輩……さっき神野さんが女の子に告白されてまして」
と大嘘をぶち上げた私。必ずしも誰にでも好かれる訳ではない神野さんですが、一応フォローしといてあげます。
「こ、告白!?」
「フ……彼が受け入れることはないわ。残念無念ですわ!」
会長は余裕。一体何を考えているんでしょうか。
「それが会長、結構長引いてるのでどうかわかりませんよ?」
「有り得ないわ。ほら、そろそろ来る頃だわ」
言わない事ではありません。神野さんはタイミングよく生徒会室に姿を現しました。
「申し訳ありませんお嬢。ちょっと野暮用がありまして……」
沈んだ顔の神野さん。岡本さんも会長もてっきり女の子をフッた帰りだと思ってますから、困惑でしょうね。
「で、どうだったのかしら。彼女でも出来たのかしら?」
「有り得ない事ぐらいお嬢は百も承知でしょうが。
とてもじゃないけど恋愛する気分じゃないですよ。
自分の過去に決着を付けたら、その時は告白の一つや二つぐらいしますよ女の子に……」
「あ、ところで神野くん。ケーキが差し入れで届いたんだけどね?」
「はい……?」
岡本さんが、私たちを待ち望んでいた理由がこれでわかりました。
なるほど。ケーキが三個しかありません。
これでは全員分ないじゃないですか。
「ケーキ三個しかないですね、先輩」
「そうだよ? だからゲームで負けた人が食べられないゲーム!」
「……これ僕は遠慮しときますとか言っちゃだめなパターンですよね」
「もちろん!」
「わかりました。何をするんです?」
「名付けてまりあのラブバト!」
「出たよ……」
神野さんは悪態をつきながらもソファに座り、会長も会長専用の机を離れてテーブルにつきました。
会長は絶対に神野さんの隣をキープするので、結局私は岡本さんの隣以外居場所はありません。
ていうか岡本さんってまりあって名前だったんですね。初めて知りました。
「ルール説明! これからしりとりをします!
そして、各自任意の人物に任意のワードを書いた紙を渡します。
その紙は自分以外の全員が見られるよう、おでこにくっつけましょう。
そのワードをしりとりで言わせられればその人は抜けられます。
好きな人に出やすいワードを与えるもよし、嫌いなあの人に非常に難しい単語を書いて与えるもよし。
ドロドロの愛憎が根底に流れる恐怖のラブバトです!」
「つまり、好きな人には『りんご』とか書いたらいいんですね?」
「はい。それでは、紙を与える順番はじゃんけんです。
いきますよ、じゃんけんポン!」
勝敗は簡単に決しました。神野さんがグー、残りは全員パーでした。
神野さんはさっき忸怩たる想いを味わったばかりです。
必ず握りこぶしを作り、グーを出すであろうとの読みは当たっていました。
「じゃんけんポン!」
しまった。今度は私だけがグー、あとはパーという結果に。
神野さんを出し抜いたという勝利の精神状態のせいで、うっかり手に握り拳を作ってしまっていました。
氷の女と呼ばれる私の中に眠るマッチョなオトコ心が顔を覗かせていたのです。
「じゃんけんポン! やった! 私の勝ち!」
岡本さんはこっそり紙に字を書くと、なんとわたしの額に貼り付けてきました。
「ふふふ……さあ、次は会長ですよ」
「もちろんハルく……いえ。佐々木さんに譲ってあげましょうか。
今くらい彼を貸してあげてもよくってよ?」
「タダでも欲しくないです!」
「あらそう? じゃあ岡本さんに貼り付けようかしら」
貼り付けられたワードを見て私は愕然としました。
『アセトアミドベンゼンスルホン酸アミド』
こんなの口にする訳がありません。脱落者は決まりましたね。
次は私です。神野さんは会長に忖度するはずですから、会長の申し出通り神野さんに言葉を贈る事にしました。
神野さんの額には小さい文字で『かいつぶり』と書きました。
神野さんの性格上、これは言いがちなんではないでしょうか。
あまり泥試合になられても疲れますしね。簡単なのがいいです。
しかしまあ、これをラブバトとはよく言ったものです。
確かに相手への理解度と愛が試されますし、相手にワードを教える手段もやはり相手への理解、愛、そして創意工夫が必要でしょう。
最後の神野さんはすぐに書きました。ワードは『りんご』です。
全くもって馬鹿正直な人ですね。本当にりんごと会長が言うのかは見物です。
その紙を渡すときです。そうです、このタイミングしかありません!
神野さんは期待していた事を言ってくれました。
会長の髪に優しく触れ、前髪を撫で付けて額に紙をちょこんと貼り付けます。
その際、あの言葉を口にしました。
「はい。終わったよ、お姉ちゃん」
「おねっ……や、やめていきなりそういうの! 反則!」
今まで何があっても飄々とした態度を崩してこなかった会長、初の赤面と動揺!
そして同じく神野さんも顔を真っ赤にして照れてます。
これなかなかの拷問ですね。軽い気持ちでけしかけてみましたが、自分が同じ立場だったらと思うと背筋が寒いです。
「うわー珍しい。会長もそんな顔することあるんですね?」
「だって仕方ないでしょ! お姉ちゃん、お姉ちゃんって懐いていたころを思い出すだけで私……」
「思い出すだけで?」
「何でもないわ。早くゲームを始めてちょうだい」
お嬢様口調が戻りました。立ち直った会長を見て岡本さんはこれ以上イジることを断念したようです。
「さてこの岡本まりあからしりとりスタートですね。
もちろん最後に『ン』がつく単語を言った場合その時点で失格ですからね会長?」
「早く始めなさい」
「では。しりとりのリ、リトアニア共和国!」
残念。アセトアミドベンゼンスルホン酸アミドには遠く及びません。
次はじゃんけんの順番通り、会長が回答します。
「クリームシチュー」
チ、それともユでしょうか。うーん、何でしょうか。
岡本さんは一体どんな難解な単語を私に贈ったというんでしょうか。
何にせよ、かで終わる言葉がいいでしょうね。
「チュニジア国歌!」
私、天才じゃないですか。あそこから『カ』終わりに持っていくなんて。
それでいて、非常に無理矢理なため、これで私が神野さんに『カ』で始まる言葉を与えられます。
神野さんにあたえた『かいつぶり』すなわち鳰鳥のことです。
鳰鳥とはもちろん井上鳰ちゃんのことです!
「か……」
神野さん助けを求めるように私を見ました。
口ではヒントを与えられないので、私は何とかして伝えようと自分の顔を指差しました。
それから携帯電話を取りだし、これを指差しました。
そして最後に会長を指差しました。
会長やあなたや私と同郷の、あの鳰ちゃんですよ!
神野さんは少し考えてから頷き、こう述べました。
「過保護」
「どうしてそうなったんですか!」
私はついうっかり大声を出してしまいました。
「どうしてって。君が自分の顔と携帯電話とお嬢の顔を指すからどっちも携帯電話を管理されてて、親が過保護だなぁと」
「バカ! 真面目にやってください!」
「何か怒られた……」
「ふふ、まだ遠いわね。私は正解に近づきつつあるかもしれないよ?」
などと鬱陶しい得意げな顔で岡本さんは言いました。
「ご……五酸化窒素!」
お、惜しい! 目的地の遠さから見れば驚異的な惜しさです!
「うーんこれも違うかぁ……」
「ソ……ハルくんが私に難しい単語出すわけないし。空!」
「ラ……」
「国歌シリーズは禁止。ラトビア国歌とか!」
「はい……」
急に岡本さんに規制を受けました。この人結構奉行体質ですね。
「頼山陽……」
「ウニ」
「二酸化炭素!」
またソで来ました。恐らく会長は私に『カ』で回しやすい言葉も考えているはずです。
「孫子!」
「し……頌歌!」
よし、これで。私と会長は同時に会長の顔を指差し、特に口を指差しました。
確か、かいつぶりは息が長いのがどうとか言ってたので。
会長はぷくっとリスみたいに口元を膨らませます。
「か……海水浴」
「だからなんでそうなるんですか!」
「息とか止めて苦しそうな様子だったから……」
「もう! おバカ!」
私はこんなに正解に近づいても外れる神野さんに怒りすら覚えました。
それに引き換え岡本さんと来たら。異常なほどの勘のよさですよ。
「クロロホルム!」
「棟方志功!」
「うですか……」
戦いは長期戦の様相を呈しました。一向に誰もキーワードを言えず。
時間だけが過ぎ、段々と四人に疲弊の色が現れてきます。
そんなとき、歯車が回転を速める出来事が。
「フランス!」
「正解!」
私はフランスと言っただけでスタンディングオベーションです。
どうやら正解に辿り着けたらしいですね。
「確か瞳ちゃんフランス語話せるって聞いたから、フランスにしたのでした!」
「なんだ岡本さん……私にも結構愛情、あるじゃないですか」
「何だって何ですか! 私も後輩愛はあります。
それじゃ加速する回転、いってみよう!」
「ス……スーパーノヴァ。ウまたはアで始まっていいですよ」
神野さん。これまでアで返してこなかった神野さんが岡本さんにデレてあげました。
というか早いところ終わらせたいんでしょう。二十分もかかってますからねこの勝負。
「それじゃあね。アセトアニリド!」
「おお近い!」
会長がガッツリ言ってしまいました。さすがにダレてきたようですこの勝負も。
「ドリル」
「ルイジアナ」
「中臣鎌足」
ついに岡本さんもリを選択。これで、終わりです!
「り……りんご!」
「正解です会長さん!」
「お嬢。本当にここまで長かった……」
何故か私は一体感のせいで会長がしりとりで『りんご』と言っただけでちょっとした感動すら覚えてしまいました。
ここから二人の息詰まる激闘、一騎打ちが始まります。
「ここまで戦ったよしみ。対決中はケーキに手をつけないでおきましょう」
「ええ……そうですね」
私は会長にこれまでにないほど深く同意しました。
さて残った二人。どちらも頭はいいですが、ポンコツです。
「ゴア」
「アセスルファム」
「ム、ム、ムスタファ一世!」
「ア……アルギン酸ナトリウム!」
「ムーランルージュ!」
「有機溶剤!」
「イタリア!」
来ましたね。アが。さあ答えをどうぞ!
「アル……アル……アセトアミドベンゼンスルホン酸アミド!」
「……正解!」
「えー!? せ、正解!? やったー! なんかこれめちゃくちゃ嬉しいっ!」
私たち女子三人は肩を寄せあい、喜びを分かち合いました。
クリア条件を盛り込んだしりとり自体はクソゲーでしたが、なかなかどうして盛り上がりを見せたものです。
生徒会はかつてないほどの一体感を見せました。
「ごめんねー神野くん。私だけ神懸かり的な幸運でケーキにありついちゃって……」
神野さんは半ば無視して自分の額にあった紙ばかり見つめていました。
「かいつぶり……バカかよ! そうだバカだよ。思いつかなかったなんて!」
「勝負は時の運です神野さん。じゃあケーキを……」
ケーキの箱を改めて開けると、そこには見事に食い散らかされた残骸と、でっぷり太った一匹のリス。
全く予想外の事態に、我々三人は言葉も継げません。
「どうしたの三人と……」
神野さんも絶句です。リスは、ばつが悪そうに言いました。
「えへへ……こ、これはお兄ちゃんが悪いんですよ。
今日はお昼抜きだったものですから……」
神野さんは無言ででっぷりのリスを胸ポケットにおさめると、次にこう言って部屋を出て行きました。
「今度……ケーキ買ってきます……」
神野さんが去ったあとの生徒会室。地獄ですよこれは。
肝を冷やすほどの静けさ。張り詰めた空気。
しかし、ここでリーダーシップを発揮したのはやはり会長でした。
「仕方ないですわね。あの子は私の知り合いの子でもありますわ。
放課後は好きなお店に連れていって差し上げますわ」
「はい私ケーキバイキング!」
「いいですよ。太りますけどね」
「なんか青春って感じのこと、このメンバーでするの初めてですね……神野さんは抜きですが……」
「まあ、ハルくんは呼んでも来ないでしょう。放置しておきましょう」
「貧乏くじ引かせすぎたかな……」
「私にも非はあります……ちょっと難しすぎたかも……」
「瞳ちゃんが謝る必要ないでしょ。さあ、私たちも撤収しようか」
「そうですね岡本さん……」
このあとその日のうちに会長主催の盛大な宴が催され、神野さんが仲間ハズレにされた件ですが、まあそれは可哀相なので触れてあげないことにします。
そう。問題なのは、この次の日なのですから。
宴は一時間ほど続き、その際神野さんはというと、店員顔負けの勤勉さで会長のドリンク運びを行い、自らは何も口にせず、リスの夏樹ちゃんに果物などあげていました。
そう。彼は仲間ハズレです。というより自らその立場を選んだと言うべきでしょうか。
彼からすればあわす顔がないといった感じでしょうか。
食事会がお開きになり、会計を全て持ってくれた会長は、店の出口でこんなことを言いました。
「よかったら皆さん、うちの車でお帰りに?」
「あ、私いつも家の車あるので。みんな今日はありがとう。それじゃあね?」
毒舌ですが底抜けに明るい岡本さんは家の車があるとのことで、実際すぐに車が来て去っていきました。
それに間髪を入れず、澄谷家の車も到着。
会長はそれに乗る前に、もう一度確認してきました。
「えー、二人はどうするのかしら?」
「私は神野さんについていきます。薬局に寄るとのことで」
「そういうわけですお嬢。今日は申し訳ありませんでした、また明日」
「ええまた明日。それと、例の件だけど……」
「はい?」
「ま、ま、またお姉ちゃんって呼んでくれるかしら……」
何というわかりやすい人でしょうか。会長はもじもじと動きながら顔を赤らめて言うほど、恥ずかしさを我慢しています。
それほどの価値をお姉ちゃん呼びに認めているってことですね。
ほほえましい事この上ない光景です。
「お……お姉ちゃん。また明日」
「うん、また明日」
車のドアは閉まり、私たちは取りのこされてしまいました。
その後私たちは二人で薬局へ行き、私はあろうことかケーキを食べた後にお菓子を買いましたが、神野さんは例の検査薬を。
薬の染み込んだアイスの棒みたいなものを口にくわえてしばらくすれば唾液の成分でリトマス試験紙のようにわかるそうです。
私たちは二人で家に帰りつつ、神野さんのポケットにいるリスに薬局で買ったお菓子を与えることにも余念がありません。
わずか数分で結果はでました。
神野さんが口から引き抜いた棒は、綺麗な赤色。
口に入れる前となんら変わりありませんでした。
私はすぐ近くにあったごみ箱にそれを捨てると、迅速に頭を下げました。
「すみません疑って……」
いや、だって絶対神野さんにはとんでもない能力があるはずだと思ってたんです。
絶対そのはずなのに、何故か検査薬は無反応でした。
「君に嘘をついた。僕を疑って当然だ……」
「でもこんな……人の気にしているであろう部分にこんな、土足で踏み荒らして……」
「気にしてないよ。僕は能力がまだない。
それは可能性を持ってるっていうことだからね」
「あっ。神野さん私の目はごまかせませんよ?
あなたみたいな暗い人からそんな前向きな言葉が出てくるとは考えられません。
さては誰かの受け売りを喋りましたね?」
「ばれたか……」
神野さんはため息をつきながら、頭をかいてごまかしました。
「ああ。鳰がそう言ってくれた。また鳰の話かって、君は怒るかな?」
「いえ。好きなんですよね?」
「好きだよ。ああ、鳰はかいつぶりの別名でね。息長鳥とも言った。
水中に潜って魚を捕る息の長い鳥。転じて長生きの象徴でね……間違いなく鳰のご両親は教養ある人達だったはずだよ。
可愛くて長生きするようにって願いをこめたんだ……」
ああ、これですこれ。この前聞いた話ですこれ。
相変わらず鳰さんの事になると饒舌かつ早口で気持ち悪いです。
もちろん私は人がいいと自負しているので絶対態度には出しませんが。
「えー、ところで神野さん?」
「ん?」
気持ちよく鳰さんのことを語っている神野さんを制止してから私はこう続けます。
「こっちは全然家と違う方向ですけど?」
「こっちは病院の方だよ。今日は妹が通院する日だから寄ってみようかなって。
薬局行こうなんて言ったのも薬局がこっちの方向だからだけど……よかったら来る?」
「妹さんに会いにですか? ふむ……」
神野さんの妹さん、正直存在そのものが怪しいです。
「そういえば、まだ私はあなたのことよく知りません。
妹さんって……父親違いの妹、ということですか?」
「そうなるね。むしろそうであってくれれば嬉しいけど」
「仲はいいんですか?」
「僕が女の子にそんな好かれるとおもう?」
「思いません」
「即答……もうちょっと手心というか……気遣いというか……」
一般論として、女は群れの中で弱い立場の男を好みません。
もうそれは何十万年も前から遺伝子に刻まれてきた習性です。
逆に、男性は地位の高い女性を好みません。
地位の高いメスは地位の高いオスの物である事が多く、リスクが高いので本能的に敬遠するのだと本で読んだことがあります。
いわゆる年収や学歴の高い女性ほど子供を産む数が少なく未婚率も高い現象の一因でもありますね。
神野さんの場合、何故かイジられやすいし暗い性格をしているので、集団の中では地位が高くなりにくいようです。
例の性格診断は全く正反対ですよね。神野さんは優しいのは間違いないですが、優しいだけに舐められやすいです。
本当に支配者タイプだったらあんなに岡本さんに舐められることもないはずです。
今さっき、神野さんが女の子に好かれそうだとは思わない、という私の暴言にも殆ど言い返して来ることがなかったのもその証拠です。
「女の子に好かれたかったらまずもっと堂々としてください。
そして、大胆で積極的な人になってください」
「別に女の子に好かれたいなんて思ってないよ。
僕が好かれたいのは……生きてる人間の中では、瞳と君だけだ」
何の恥ずかしげもなく神野さんはそんなセリフを口にしました。
「なら私に好かれるタイプを教えましょうか?」
「是非聞きたいね」
うわー!? 相変わらずですねこの人。今、叫びそうになりました。
いや、まあ、そうなんです。私だってわかってますよ。
恋愛的な意味ではないことは。ていうか神野さんの目当てはあくまで私の協力。
私など一ミリも眼中にありません。全くもって腹立たしい限りです。
「私の好きなタイプは強くて、頭が良くて、かっこよくて、大人っぽくて、好きとか愛してるとか頻繁に言ってくれる情熱的な人なんです!
瞳もそうです。あら残念、神野さんとは真逆ですね! 能力もないし!」
怒りに任せて暴言を吐いてみると、神野さんは呆れたようにこっちを見据えていました。
「何と言うかもう欲望に果てしなく忠実だな……」
「ふふん。何とでも言ってください!」
「例えば僕が瞳と付き合い始めたとしても、本部長は……僕の過去を見ることを認めてくれるだろうか?」
「そっ……そう言われると厳しそうですね……?」
「……じゃあ僕はこれで」
病院の見える所まで来たので、神野さんとは別れ、私も家に帰ることに。
玄関を開けるやいなや、まるで主人の帰りを待っていた犬みたいに瞳が飛び出してきました。
「ユキくん?」
その期待した笑顔を曇らせるのは忍びなかったですが、ここは本当のことを言いました。
「残念、違いますよ」
「なんだモードですか……」
「失礼な。親しき仲にも礼儀ありと昔の人も言うでしょう……」
「すみません……」
「別にいいですよ。瞳は私に恥ずかしいところを見られた……それでおあいこです」
その後私は普通に夜寝たのですが、明日、つまり十七日は、瞳が私に変装してまたもや学校に行ったときのことに関して綴ったログです。




