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ボーイとガールがミートして  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
LOG 1
15/75

五月十六日・上

どうも、またまたここからは佐々木・モード・望のログになります。

しかし見てもらったらわかるんですが瞳って私が言った通りの恋愛脳でしょ。

たった数日しか会ってないくせによくもまあこんなに、彼の気持ちをああでもないこうでもない、自分の気持ちはああだこうだと書き連ねられるものだと感心します。

ともかく五月十六日。月曜日の事を話しましょうか。



私と神野さん、それに夏樹ちゃんや会長や桜井さん、それに四宮イザナさんにも今のところ特に変化は見られません。

あるとすれば、神野さんに良からぬ噂が立ってしまっていることくらいでしょうか。

まあ噂は気にしてないようですが、私も神野さんに近づきづらくなったのは確かです。

私にその気はないですが、土日には神野さんと瞳は二人で帰省するんでしょうね。

帰省といえば、来週には地獄のイベントが待っているのですが、私はどうしようか少し悩みます。

あの学生達を悩ますイベント。皆さんご存知「バレンタインデー」です。

え? バレンタインデーは二月、ホワイトデーでも三月なのに、今は五月だろって?


勿論そうです。イギリスのバレンタインさんが考えて全世界に広めたもう一つの地獄のバレンタインなのです。

私のクラスでも体育館での授業の初めの先生の挨拶でもこんなことを言われてしまいました。


「えー、バレンタインデーが近づいていますね、皆さん?

一年生にとっては学校が始まり、体育祭前の大事業であると言えます。

今日はその練習として二人一組を作ってください。

うちのクラスは偶数になっているはずですから簡単ですね?

さあ初めてください。孤立は許しませんからね」


率直に言って神野さんにとってはかなりまずい状況になってしまいましたね。

神野さんは完全に孤立。

どこにそんなスペースがあったというくらい彼の周りから人気がなくなりました。

私はここが思案のしどころです。

別に誰と組んでもいいのですが、出来れば友達と。

と思っていると思わぬ人が私に声をかけてきたではありませんか。

それは、近づいて来ただけで存在を探知出来るほど背の高い女の子でした。


「どうも。佐々木さん、私と組まない?」


「はい……いいですよ」


桜井千春さんでした。怪しい人です。私はこの人がとても怪しいと睨んでいます。

何か隠しているはずですし、私の推理では今日話しかけて来たことですら、神野さんに協力する私に物申したかったからではと思っています。

私たちは四宮さんと絡んでいる神野さんなどを横目に、整列します。


あれええ!?


四宮さんと神野さんがいつの間にかペア組んでますよ。一体いつどこで!?


私が好き放題二人に目を奪われている間に等間隔を開けて十数組の皆が並び、私たちも二人で協力して柔軟体操をします。

ここで先手を打った方がよいと考え、私は開脚をして前屈する桜井さんの背中を軽く手で押しながら耳元で囁くように聞いてみました。


「すぐはっきりする事です。答えてください」


「……なにか?」


桜井さんの背中に手を当てているからわかります。

彼女の心臓は全くの平常。一切の動揺を示していません。


「鳰ちゃんが消えた事件。あなたは、神野さんとは別の物を見ていたんじゃないですか?」


「ふふ……どうしてそう思ったの?」


「いえ。ただ、神野さんが見たという男が本当にいたのか怪しいと思いまして。

それに澄谷会長が非常に怪しいと思って。

あなたや生徒会長は一体何を知っているのでしょうか」


と言って私は座って開脚をし、私が背中を押してもらって前屈する番です。

後ろに回った桜井さんは優しく、しかしゆっくりと万力のように私の背中を押し潰しながらこう答えてくれました。


「そう。あとで話してあげる。今日にでも」


「そうです……あいたたた!」


「ああごめんごめん」


桜井さんは手を引くと、次に腹筋をさせられるということで、私は桜井さんの脚を持ってあげ、彼女に腹筋させながらは悪いと思いましたが、話をつづけます。


「やっぱりなにか隠していたんですね。何故隠したんです?」


目をつぶって顔を赤くしている桜井さんの顔が消えて現れ、消えては現れ。

結構運動神経がいいんでしょうか彼女。


「私は……彼のことを守ってきた。私は、ずっと守ってきた。

まさかこんな形で再会するとは思ってなかったけど。

隠したのは確かに悪いと思う。でも彼を守るためだから」


「……?」


これはどういうことでしょうか。私は桜井さんに脚を持ってもらって腹筋をしながら思案を巡らせます。

それは文脈的に考えて、桜井さんが神野さんの罪を黙っているって事を意味していませんか?

でもそれは父の言っていた男の子は事件に関与していないという発言と見事に矛盾します。

ならばやはり、父の言っていた事は嘘という事で間違いありません。


「そういうことだから。あなたの気持ちはわかるけどね。

好きなんでしょ、ハルくんのことが」


「私は頼まれたから力を貸すことを引き受けたんですよ?

彼のことを好きなのは瞳です」


「だって目が。目が恋してるから」


「さすが鋭い洞察力ですね。でもそう思ったのは、土曜日の事だと思いますよ……」


私は会話を自分から打ち切ると、こっそり神野さんと四宮さんの方を盗み見ました。

全部は聞こえませんが、断片的に拾えます。


「君の家も医者の家系なのか。へえ。ああ、あの有名な」


「そう。日本史で勉強したでしょ。福沢諭吉や大村益次郎なんかも学んだ適塾の……」


「そうなんだよ。炭素菌ってほら、未だに……」


「それだけバイオテロ知識のあるユキくんが闇堕ちしたら世界は……」


えええええええ!? なんでユキくん呼びをもうしちゃってるんですか!?


残念でした会長、それに桜井さん。

四宮さんに言い寄られた以上、神野さんも、もうあなたのところに戻らないかも知れませんよ。


「だから違うんだって。あのお金はそういうことじゃなくて……」


「知ってる。あのリスでしょ。全くもう妬けちゃうな。

私だったら……いや、何でもない」


「絶対言うなよ……まあもう遅いか……」


二人とも、笑顔で会話し、仲睦まじく運動しています。

神野さんが四宮さんの脚を押さえているわけですが、腹筋がすごいです!

四宮さん、消防士か自衛官になる気ですかというほどの高速腹筋!

自慢げに神野さんに笑いかけると、彼も負けじと腹筋します。

高速で体を折り曲げては伸ばし。四宮さんに勝るとも劣らない腹筋を見せつけました。

私の推理では服の下は、きっちりシックスパックに割れているはずです!

そして四宮さんもそうかもしれません。ああ、見れば見るほどお似合いではありませんか?


「仲いいよね、二人」


「はい……」


桜井さんも見ていたようです。彼女は続けます。


「ああ。私ね、ハルくんの運命の人は自分だって思ってた。

でも彼は鳰のことを好きになっているってわかって、諦めてた。

それで最近わかった。ああ。私は最初から無理だったんだって。

あれがその証拠。運命の人……か……」


「ところで、四宮さんというのは?」


と聞いてみた瞬間、桜井さんの顔色が急変しました。

いえ、もともと背が高くて声が低く、テンションも低めな彼女で、顔色も極度に色白なのですが、色白を通り越して、死人のように青ざめました。


「で、結局あの子の情報をどこから仕入れたの?」


「はい?」


「イザナには関わらない方がいい。死にたくなければ」


「イザナって四宮さんのことですよね?」


「本物の、運命の人。私や、佐々木さんや、鳰ですら勝てない。

イザナはハルくんにとって運命の人。それが絶対の事実」


「運命の人って、恋愛的な意味で言ってるんですよね?」


「もちろん」


「運命の人なんて大げさな。冗談ですよね」


と言いつつ、桜井千春さんが冗談を言うタイプには到底見えない事は否定できないと、内心諦めの気持ちでいっぱいでした。


「今はそれでいいんじゃない? 私は別にそれで構わない。

いずれ私の言う通り関わらなければよかったと後悔する時は来るけど」


「大げさなんですって……」


と言ってる間に柔軟体操は終わり、地獄のイベントが幕を開けました!


「さて皆さん。仮のパートナーも作ったところで、能力を発表してもらいます。

努力すれば能力は伸びます。是非皆に自分の成長した姿を今後見せられるように頑張って行きましょうね!

それでは番号順に。青木さん?」


「はい……」


青木さんが能力を見せた後は井端さん、五十嵐さん、上田さんなどが順に。

私の番はもうすぐです。私はとくにプレッシャーはありませんが、神野さんが心配でした。

一体、あの人はどういう説明を皆の前でする気なんでしょうか。

私の一つ前は桜井さんです。一列に並んだ生徒の中からモデル歩きをして進み出ると彼女は簡潔に述べました。


「桜井千春です、能力は……見せたくありません」


「ええ!? そう言わないで。資料によると雨を降らせる能力となってるようだけど?」


「まあそんなところです。今雨を降らせるわけにもいかないので」


「はい。戻っていいですよー。次は佐々木さん?」


「は、はい。えー、オホン」


私は咳ばらいしてから、おちついて答えました。


「佐々木です、能力は超視力。視力検査では誰にも負けません。

具体的に何かを皆さんにお見せする事はできません、すみません」


「いいですよ佐々木さん。皆知っての通りですからね。さて。

次は四宮さん、前へ出て自己紹介してください?」


「はい」


四宮さんが前に出て行くにあたって、私は彼女が神野さんの運命の人だという情報をいやがおうでも思い出します。

瞳とは勝負にすらなっていません。瞳が神野さんの恋愛対象に入るはずもありませんし、私のほうも仕事で付き合ってるわけですから公私混同はしません。

しかし四宮さんは、なんでこんなに妖艶なんでしょうか?

十五で出せる妖艶さではありませんよ。バツ三くらいありそうです。

四宮さんはわざと鼻にかけたような悩ましい声で言い出しました。


「すみま……せん……」


びっくりしました。とても小さい声で恥ずかしそうに言うと引っ込んだんです。

何を恥ずかしいんでしょう。それだけ美しくて恥ずかしいなら世の中のほとんどの人は素顔を晒して外を歩けませんよ。


揺れる眼差しで先生の方へ助けを求めるように眺めた四宮さん。

女教師である体育の先生や私でさえ一瞬見惚れるような美貌。

男子生徒の皆さんも色めき立っています。

これが神野さんの運命の人。でも、彼女が神野さんのことを見ていたり、話している姿を昨日までは全く見た事がないですが。

妙ですね。いや、まあ、結婚相手が必ずしも青少年時代に出会って結ばれているとは全く言えませんが。


「おかしいわね。資料によると能力なしでは?」


「最近出たので」


と言ったのは桜井さん。四宮さんは恥ずかしがって何も言いません。


「あ、あ、そうなの。ありがとう桜井さん。それでは神野くん?」


「はい」


神野さんは何の躊躇もなく出てくるととんでもない事を言い出しました。


「神野春雪です。能力はありません。以上です」


「はい。こちらの資料にも能力はなしとあります……次、須田さん」


「はい」


須田さんが出てきましたが、まだ生徒の間で興奮が冷めません。

当たり前です。基本、人間は六から十三歳くらいまでの間に全員能力が出ます。

世界記録にある、アメリカの少年の十七歳三ヶ月までにはまだ遠いとはいえ、結構なレアケースです。

正直、私はそれを信じていませんが、資料と検査結果はごまかせません。

いくら神野さんのお父さんがお医者さんでも無理です。

専門の機関へ行って必ず調べ、国に能力を登録しなければいけないからです。


考えても見てください。異能力とは暗殺やテロなどにうってつけです。

暴力的な能力の人を野放しには出来ませんから、全世界一致団結して検査システムと専門のスタッフを揃えた組織を作ったわけです。

ですから検査は絶対であり、医者の息子であってもごまかしは効きません。

つまり、絶対に、神野さんには能力はないということになります。

ああ。これは大変な事になって来ましたよ。馬鹿にされたりしなければよいのですが。


ともかくこうして、激動の能力紹介タイムは終了しました。

相変わらず神野さんといい四宮さんといい底知れない人たちです。


《私は本当にこの人達と関わり合いを持っていていいのでしょうか、とは思っているのですが、一度決めた事です。

父に半ば逆らってそこまでしたのですから、私は謎をとことんまで追求したいと思います》


体育の授業が終わって更衣室で着替えている間にそう決め、私は女の子達が噴霧する大量の香料の中で意識を朦朧とさせながら部屋を出ていこうとしていたとき。桜井さんが私の手を引っ張りました。

もちろん何かを話してくれる気だろうと思い、私は抵抗しません。

二人で人気のない廊下を皆より一足先に歩きながら桜井さんがこう切り出しました。


「約束通り話してあげる。私は、この事を誰にも秘密にしたかった。

でも無理みたい。だから話す。私の証言した事は、嘘」


「……でしょうね。そうだと思っていました。本当は、何を見たんです?」


「私が見たのは、ハルくんが鳰を殺したところだった。間違いない」


「それは嘘ですよね?」


「何が?」


「いや、だって……」


頭が混乱し、恐怖で動悸が止まらず、足取りはおぼつきません。

息が切れて吸っても吸っても足りないくらい。

まさか、あの神野さんの優しさは完全に演技だったとでも言う気ですか!


「あ、あの。あの桜井さん。本当なんですよね?」


「彼は男から私と鳰を守ろうとして。単なる事故だった。

彼は気付けば気を失って倒れていた。あまりの事に……記憶を自分で封じて殻に閉じこもってしまったのかも……」


「……」


真実はともかく、どう見ても桜井さんは本当の事を語っているつもりなのは間違いありませんでした。

なぜなら、私は確かめようと思えばいつでも確かめられるからです。

ここでわざわざ嘘をつく意味はありません。


「あの、桜井さん、それは……」


「隠すしかなかった。ああ。私と彼だけの、二人だけの秘密だったのに。

仕方ない。諦めてあなたに話した。あなたが首を突っ込むから……」


「そ、それは、神野さんは知っているんですか!?」


「……鳰を殺した事は話した。私たちは口裏を合わせた」


「知って……いたんですね」


私はここで話を打ち切りました。裏切りです。ひどい裏切りです。

もう何が何だか。泣きたい気分です。私は桜井さんを置き去りにして人気のないトイレで一人になり、しばらくは鏡で自分の顔を眺めていましたが、すぐ飽きて教室に戻りました。

私は、その次のご飯の時間になってもまだ気分が晴れません。

裏切りでした。神野さんは私にそんな大事な事を隠していたんです。

ああ。父もです。父も大嘘をついたものです。

自分と瞳以外にそれを見つける事は出来ないからって無茶苦茶なウソをついたものです。


「あ、いや……待ってください」


と、叔母が作ってくれた春野菜のキッシュを頬張りながら私はつぶやきました。


「どうしたの?」


「あ、いえ……」


友達に心配されましたが、相談することは出来ません。

ちょっと待ってくださいよ? 

神野さんが無能力なのは、これは間違いありません。

検査をごまかすなんて、日本一の財閥の御曹司ならできなくもなさそうですが、彼はまだ違います。

例の四宮さんと結婚して初めて当主になれるそうですからね。


事件当時彼が鳰ちゃんを殺したなら、当然例の謎の男は目当てを失って逃げたと思われます。

しかし、(トントン)は遺体を発見することができていませんし、二人の子供が警察が来る前に一体の遺体を完全に証拠隠滅するというのは厳しいですよ?

(トントン)の能力を持ってしても遺体を発見できないほど細かく刻んでばらまいたとしましょうか?

そんな時間も能力もないはずです。桜井千春さんの能力は雨を降らす、というものでした。

よくわかりませんがそれで証拠隠滅は出来ないでしょう?


可能性は二つしかないではないですか?


ひとつ。父は、何らかの理由で二人のことをかばっている。

何らかの理由。神野さんが理由を知らず、桜井さんも恐らく知らない理由。

正直に言えば、例の事件の起きた現場からほど近い場所に当時から住んでいる父がその事件の犯人ならば全てのつじつまが合ってしまいます。

父は鳰ちゃんを誘拐しようとしましたが、鳰ちゃんが神野さんに殺された。

父は、怯んで逃げ帰り、子供二人は証拠を隠滅。事件は迷宮入りへ。


うーん。考えたくもないというか、考えうる最悪のシナリオがこれですね。


二つ目は、神野さんは権力や金を持ったヤバい人と知り合いである、という可能性です。

実際、四宮イザナさんと結婚さえすれば彼は日本最大の財閥の当主になれるみたいですからね。

実は鳰ちゃんを殺し、証拠を隠滅する能力があるにも関わらず、神野さんは過去を捜査してくれと私に頼んで来ました。

それはあの事件の起きた時刻に現場で、彼が気になっている何かを見てほしいからでしょうか?

あるいは本当は鳰ちゃんを殺したくなかったのに殺してしまい、自暴自棄な精神状態で、せめて誘拐未遂犯だけでも捕まえたいとでも……?


これはなさそうですね。彼は、間違いなく自分が鳰さんを殺したなど思ってもいないはずですから。


いずれにせよ、父の言っていた事が一層気にかかります。

哀れな少年に私は同情した、と。

友達を殺した少年に同情?

なら殺したのは不可抗力だったという事でしょうか?


「気になりますねぇ……」


キッシュの残りを飲み込み、私はご飯を食べ終わると、帰り支度をします。

他の学校はどうか知りませんが、今日、つまり土曜日は昼に下校。

部活のある人は部活です。私のような生徒会は校庭や体育倉庫を睨みながら生徒会室へ。


何やら十万円をポンと出せる経済力に加え、謎の記憶喪失の夏樹ちゃんと関わりが深いようなのが桜井さんですが、正直に言うとこれ以上触ると人間関係に支障を来たしそうなので慎重にならざるをえませんね。

私が校庭を歩いていく桜井さんなどを横目で眺めていると、後ろから、今私の中で話題沸騰中のあの人が声をかけてきました。


「佐々木さーー」


神野さんです。私は振り返るとその憎たらしい顔を睨めつけ、腹を立てている事を隠さずにこう言いました。


「ブルータス! おまえもか!」


「はい?」


「だから、知ってたんですか。自分があの子を殺したことを?」


「……」


神野さんは少し黙り込み、しかし、抜目なく足どりを早めて私に近づき、並走してきてこう言いました。


「何となく、そんな感じはしていたよ。千春はそれを見たってことか」


「気づいてたんですか?」


「瞳と捜査をしたことがある。僕は二歳の時に父親を消し飛ばしている。

それと同じ事が鳰の時にも起こったんじゃないか、薄々僕も思っていたから」


「何で隠してたんですか!」


「言ったら怒ると思った。僕は全く身に覚えがない。

何があったか知りたいんだ。どうしても知りたい。

本当は殺してないんじゃないかってそんな都合のいいことも、少しだけ考えてるよ……」


「いいえ。あなたは殺しましたよ。まるで殺してないみたいな演技を私にして!

全部台なしです。あなたが築き上げたわずかな私の好感度も水の泡です!」


「だから言えなかった。千春は……どうして今そんな事を言ったんだろうか」


「知りませんよそんなこと。これで計画も白紙ですね!

私、あなたのことを父に隠していたことを後悔し始めましたよ!」


「言葉もない。君のーー」


と言いかけたその時でした。


「危ない!」


知らない人の限りなく大きな声が耳に届きました。

何だ藪から棒にと思いつつ振り返ると、口の前に心臓が悲鳴をあげました。

絶対に避けられない距離に、野球のボールが。

あ。まずいですこれはもう絶対に避けられないです死にます。

私の目が人より良いからこそ、避けられる距離、避けられないタイミングは嫌ほどわかっているんです。


「……あれ? 今確かに私に当たったんじゃ」


目を開けても何ともありませんが、神野さんが私の肩を抱いていました。

全く馴れ馴れしい。かばったつもりでしょうか。私は即座に離れました。


「当たってないけど?」


「見間違い……ではないですよね。野球部の方も、危ないと言ってましたし」


「ボールなんか影も形もない。まあいい、行こう」


「えっ、軽っ。そんなかるーい感じで済ませていいんですか神野さん!?

あのですね、私今危うく大怪我をしそうになったんですけど!」


「君が無事ならそれでいい」


私は至ってクールアンドドライな神野さんに呆れましたが、とにかく話を続けます。


「神野さん。この際あなたが何をしたかはいいです。

あなたは誰かに操られている。あなたの中に何かがいる。

事態はもうとっくにそういう段階でしょう」


「そうだね……」


「あとで調べればわかることですが、四宮家のことはなんか知ってますか?」


「いや全然……聞いたこともない」


「じゃあ神野家は、澄谷さんとどういう関係です?」


「家が近所だった。お嬢の実家は豪邸でね。

ひいじいさんが病院を建てて、代々それを守ってきた神野家ですら全く敵わない大きさだった。

どうも江戸時代から神野家は澄谷家のお抱えの医者だったらしいよ」


「大昔から家族ぐるみの付き合いということですか」


「そうなるね。ひいじいさんは澄谷家のお嬢さんと結婚して、病院を建てる資金さえ貸してもらった。

彼女とは許婚だった。この現代にそんなまさかって、笑う?」


「いえ……笑いはしませんよ」


サラっと話してますけどこれめちゃくちゃ大事そうな話じゃないですか?

神野家は江戸時代より前から医者だった。

澄谷家とはその頃から昵懇の間柄であったと。まあよくありそうな話ではありますが。


「神野家のことはもっと何かわからないんですか?」


「神野家のこと? とりあえず中国の神様、神農を奉っていたらしい。

江戸時代までは京都か大坂にいたけど、なんかの時に東北までやって来たらしい。

医薬の神様の神農やそれと似ている薬の神様スクナヒコナなんかを奉る神社は結構近畿地方に多いから、まず間違いないと思うね」


「なんかの時に東北の秋田県に来たですか。あ、そういえば」


「どうかした?」


「緒方洪庵をご存知ですか。日本で初めて牛痘を人に用いた人です」


「ああ、まあ。勉強はしたけど」


「あの人の作った適塾という蘭学塾が大坂にありまして、大坂は江戸時代末期、名医や学者などの産地だったそうです。

福沢諭吉なんかもその門下生であったとか。神野家はそこと関係があるのでは?」


「かもしれないね。そう四宮イザナが言ってた。神野家と四宮家は江戸時代までご近所だったって」


私は今日聞いた会話を忘れません。

四宮さんとの会話の中で適塾がどうとかいう話題があったじゃないですか。


「あの適塾で学んだ神野家のお医者さんを、その土地の有力者だった澄谷家が重宝するようになった。

よそ者を嫌う村社会でも、命を助けるお医者さんはすんなり受け入れられた……そういうことでしょう」


「なるほどね。さすがは僕の先祖だな」


「ところで、澄谷コマネさん本人とはどういう関係で?」


「保育園、小学校、高校が一緒で家同士も繋がりがあって、許婚なわけだから家族同然だよ。

でも例の鳰の事件があって以来、澄谷家には顔も出してないし、家も東京に引っ越して疎遠になっちゃったし、許婚の話も無くなってるね……」


「澄谷さんは今でもそのつもりのようですが」


「向こうはともかく、僕は一歳しか違わないけどお姉ちゃんみたいに思ってるよ。

ここだけの話、昔は普通にお姉ちゃんって言って懐いてたんだ。

多分三歳より前くらいからかな? だから僕がお姉ちゃんって呼んでみると面白い反応するよ」


「おお……それは見てみたいですね」


「それで? 他に何か聞きたい?」


「あ、じゃあ四宮さん。四宮さんについて教えてください!」


「四宮さん? 同級生、だよね。今日初めてしゃべったくらいで、あんまり接点はなかったけど」


「え? それだけですか?」


「それだけって言われても……さっき話したことですべてだよ」


私は四宮さんのことをこれ以上聞くのは無理そうなので、すっぱり諦めました。


「ところで、もう一つ聞きたいことがあるんですけど?」


「なに?」


「あなたの能力がどういうものなのか、教えてもらえます?」


「……僕は能力が使えない。それとも親が医者だから偽装工作したとか疑ってるのか?」


「そうとしか考えられません!」


「なら今すぐにでも薬局に行こうか? 試験薬くらい売ってるよね」


「はい……」


人間、能力が覚醒していても使おうという意思がなければ使えません。

そんなときのために試験薬が。これさえあれば普段の生活を慎重に過ごし、能力の暴発などを防ぐことが出来ます。

基本子供しか使いません。ちゃんとした検査を受ければどんな能力かもだいたいわかるとか。


「帰りに薬局でも寄ろうかな。さて、じゃあ僕は生徒会室に」


「じゃあ私と岡本先輩がいる前で、お姉ちゃんって言ってもらっていいです?」


「それも面白そうだね。じゃあそうする」


生徒会室に到着すると、扉の前からでも岡本さんが既に会長と一緒に話しているのが聞こえました。

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