五月十四日
いや、お待たせしました。昨日のログで妹に散々悪口を書かれている事が判明してへこんでいる佐々木・アンジェリーナ・瞳です。
五月十四日。
学校は土曜日も授業があります。
私は勉強の成績には自信がありますし、ユキくんに会いに行けばさぞびっくりしてくれるだろうと期待していたので、モードに制服を借りました。
そして早朝に起き出すと、私はこっそり神野家の前へ行ってみました。
すると、学校まで徒歩十分くらいの非常に近い距離に家があるため、毎朝八時をすこし過ぎてからユキくんが家を出ていることが判明。
モードはわざわざその時間より早く出ているみたいです。
そして、同じ家に住んでいるユキくんと桜井千春さんは同じタイミングで家を出たり出なかったりしています。
私はユキくんに会いに行ったつもりが桜井さんも居たので気まずい、などという状況を避けるため、気持ち早めに登校することに。
私は全盲ですが、過去を見ることが出来るので基本的に歩道を歩いている限り安全です。
横断歩道だってちゃんと音で信号を判別出来ますし、マナーの悪い暴走自転車でも来ない限り大丈夫。
私は何にも問題なく学校にたどり着く事が出来ました。
普段の通学路が自転車通学するような距離であったり、電車を使うルートだったら相当苦戦したでしょうけどね。
登校してみるとユキくんは確実にこの佐々木瞳を待っていました。
私が登校して来るとすぐに寄ってきて何か話したそうにしています。
例の夏樹ちゃんの事だったら、中々面白そうなんですが。
「どうしたんです? 用があるんですよね?」
「……話がある」
「あるなら電話でも……」
「ああ、そう言うのであれば今度にする」
「なんか冷たいですね」
「いつもこんなだよ……」
何か神野さんから尋常ではない雰囲気を感じ取って、私はついうっかり言ってしまいました。
「何があったんですか。まるで疲れきってるみたいな……あの夏樹ちゃんって女の子の事ですか」
「ああ……彼女の正体についての捜索を瞳に頼むか、それとも遠慮しとくか……悩んでいた」
なんだ。そんなことでしたか。私は拍子抜けをしました。
「フフ。失礼。失笑でした。そんなことで悩んでいたなんて。
ああ善人なる神野さん。思慮深いのは結構ですが、私とあなたの仲ではありませんか」
「ありがとう。今度……君の暇なときにお願いするよ」
「はい。ジュルスケ空けときますね」
「ああ……頼む。必ずいつかお礼はする。今はまだ僕は子供かもしれない。
でも必ず働いて返す。君に困ったことがあったらできる限りの事をする」
とユキくんが返すと、私はさらに失笑しました。
「フフ。あなたの性格がだんだんわかって来ましたよ私。
あなたは責任感が強くて真面目ですけど、それに反して言うことが大げさな人ですね。
まあ私もお言葉に甘えます。何か困ったことがあれば相談します……」
「よろしく……ん?」
ユキくんの時間がすこし止まりました。そして次にこう言い出したんです。
「アンジェリーナ、おお、君が来てくれるなんて!」
「その名前やめてくださいよ恥ずかしい!」
「瞳、瞳。会いに行こうと思ってたんだ。来てくれて本当に嬉しいよ!」
「ああ、ダメですってユキくん!」
ユキくんは私の肩を抱いて来たうえに、その肩を抱く左腕が段々上へと上り、私の頭を引き寄せて彼の首元に頭がくっつく形になったのでした。
彼が話す度に頭頂部の髪が揺れ、腰と腰が密着してあられもない姿です。
別に二人の時だったらいくらでもしてくれていいですが、ここは注意しました。
だって、誤解されたらモードが迷惑しますからね。
「ごめんね、君を見たらつい」
「ついじゃないですよ。反省してくださいね」
「もちろんだ。君に嫌われたら生きていけない!」
「大げさですって……」
「大げさなんかじゃない。アンジェリーナ。綺麗な名前だね。
天使って意味だ。確かにその通りだ。君は僕だけの天使だよ」
「うわ! 昨日、何かそういう映画とか観たんですか!?」
「そうだね。君は映画のようなキスがお望みか……」
そう言ってた更に抱き着いて来ようとするので私は必死で離れました!
モードが通う学校で勘違いを広める事は出来ません!
「わかったから離れてくださいよ!」
どうせ慣れないくせに、柄にもなく女の子に迫るユキくんを宥め、やめさせます。
「わかった、すこし興奮しただけで」
ユキくんは素直に離れました。そう、私が本心では嫌がってないどころか、キスしてほしいと理解していての行動だったのです。
もし嫌がっているかもしれない相手にああいうことをしていたら、私自ら現行犯逮捕したいところです。
知ってましたか。一般人でも現行犯逮捕はできるらしいですよ。
「ところで、例の夏樹ちゃんは?」
私は落ち着き払って話題を変えました。
私が不意にユキくんの胸をまさぐると、やっぱりポケットの中にリスが姿を隠していました。
先日は大騒ぎになったため、今日は隠しているということですか。
「どうも。はじめましてお姉ちゃん……」
「あら。やっぱり記憶は失ってるみたいですね?
私とは確かに会ったことないですがモードとは会ったことありますもんね」
「このことはみんなには内緒だよ?」
「はい。私、この子の素性を探るため、頑張ってみようと思います……それでは」
私は席に戻り、いつも通りのモードを装って授業を受けます。
ですが今日は、絶対にやらねばと朝のうちに決めた事があります。
それを達成せずして帰宅することは出来ません。
それは桜井さんと澄谷さんに話を聞くことに他なりません。
確かログによるとユキくんは桜井さんにどこかへ連れ去られ、秘密の話をしてたようですが、さてどこで話していたのかと過去を捜索していた時でした。
突然後ろから誰かに手をすごい力で引っ張られはじめ、私は一切抵抗出来ず悲鳴も上げませんでした。
ここは校庭にあるじめじめした湿気の多い、光も射し込まない場所。
どうやらかなり早い段階で気づき、ここに私を誘導したようです。
この女、デキる!
澄谷会長は人気のない場所で、私にこう言いました。
「佐々木さん。ユキくんとか慣れなれしく呼んだり、ベタベタくっついたり何のつもり?」」
澄谷会長は私のことを警戒していて、また、嫌いであることも私は察しました。
この人は神野さんと同じで顔に感情が声や顔に出やすいタイプみたいです。
「私、ユキくんにキスをしたいと言われたら受け入れる用意はあります」
「……何を言っているの?」
「でもあまり早く受け入れ過ぎると安い女の子だと思われちゃうじゃないですか。
ですから、私の方から押しつつも、彼の方からそういう風に誘ってきたら一旦は断ろうと思ってるんです」
「んん?」
「澄谷会長。まだ私は彼と何かあるわけじゃないですし、彼と許婚であるというあなたに隠している事はない、ということを話しているんです」
「そう……もしあなたが、本部長と同じ過去を見る能力を持っていて、それに目を付けた彼があなたを利用しようと近づいているのなら、忠告してあげようと思ってたんだけど」
「ご心配なく」
「なんだ、こんなところに居たのか」
聞き慣れた声。そう、ユキくんが後ろから言ってきました。
ここは校舎の人気のないところ。偶然来るとは考えられません。
「捜してたんだ。何でこんなところでコソコソ話してる?」
「聞いてたんですか?」
「うん、最初からね」
「じゃあキスのくだりも!?」
「もちろん。勝手がわからないだろうし、今日は一日君についていようと思ったから、悪いけど後を追わせてもらった」
「気を遣わせて済みません……」
ユキくんは、これを半ば無視して澄谷さんにこう述べました。
「聞いての通りです。忠告は必要ありませんよ、お嬢。
僕が佐々木さんと付き合うとしても貴女に関係はないはずだ」
「許婚よね、私達?」
「その効力は失っているはずですよお嬢?
僕が誰と何をしようと関係ない。佐々木さん、行こう」
ユキくんは澄谷さんに辛辣な言葉を浴びせた挙げ句、私の手を引っ張って日の当たる外へ連れ出しました。
桜井さんの心がいつも雨降りなら、澄谷さんの心だっていつも雨降りのはずです。
私は校庭を歩きながらユキくんに聞きました。
「効力がないとは?」
「僕が生まれた当初は大財閥の経営一族に息子がいなかった。
僕が唯一の男子だったからいすれ全てを継ぐものと思われてた。
それで、澄谷家にとって利用価値のあった僕とお嬢の間で結婚の約束が交わされた」
「でも、そうはならなかったんですね?」
「うん。二、三年前かな。突然父がこんなことを言い出した。
僕はいずれ全てを継ぐ。結婚相手は一族が決めるから縁談は破棄になったって。
当然お嬢も知ってるようだが、認めたくないらしい」
「えっ。じゃあ神野さんはいずれ大金持ちに?」
「神野家は男ばっかり生まれやすい家系だったんだ。
祖父さんは三人兄弟の長男だし、僕の父さんも三人兄弟の長男で、生まれたのは僕、すなわち息子。
でもなぁ、どうやら当代は子供が少なく、しかも生まれても女の子が一人だけらしい。
わかるだろ。僕はその一族のお嬢様と結婚して息子を作ってくれればそれでいい、種馬だ」
「本当に?」
「いや詳しくは話してくれなかったけど、そうとしか考えられないだろ?」
「ええ、まあ……婚約を破棄させるということは一族の都合で別の女の子と結婚させたいって事でしょうからねぇ……」
「あるいは、他の財閥のお嬢様と結婚するとかかな?
まあどっちにしろ本当の神野家の当主を産んでもらうための中継ぎって事だろうね」
「でも妙ですよ。じゃあ何で最初は澄谷家だったんです?」
「その時は、どうせ男の生まれやすい家系だからと高をくくってたんじゃないか?」
「うーんでも私、別の可能性も考えてますよ」
「ところでキスしてもいい?」
私は受け入れる用意がある、と言ったのを聞いていたので、ユキくんは躊躇なく言いました。
「ええ……そのくらいなら……って何言ってるんですか?」
「君の唇に、唇を重ねたい」
「嫌です!」
「で、何の話だったっけ?」
「だからあなたの結婚相手の話ですよ。聞いてください!」
ユキくんが話の腰を折って来ましたが、私は何とか立ち直って話を続けます。
「その相手の女性に私はすこし心当たりがあるんですよ」
「心当たりだって?」
「ええ。あなたは牛の一族。十二支の伝説で牛を利用したネズミの一族が結婚相手では?」
「ネズミの一族というと、あれか。あのぉー、夏樹ちゃんの母親で、何故か神野の男と引き寄せ合うとかいう」
「そうですその一族です。あなたの話で核心に触れました!
いいですか。桜井さんは、あなたに運命の人がいると言ってたんです。
その運命の人というのは財閥経営一族の方の神野家が、あなたの結婚相手にと決めた女性と見て間違いありません!」
「まあ筋は通ってるね……」
「そしてやはり、夏樹ちゃんのお姉さんというのが、恐らくその人です!」
「さすが刑事。洞察力が鋭いね。何でそう思った?」
「今もポケットにいますよね!」
私はまたもやユキくんの胸を無造作にまさぐりました。
「フフ、くすぐったいってお姉ちゃん!」
中のリスに化けた夏樹ちゃんなる女の子が言いました。
「その子があなたのところにいるのがその証明です。
この子の母親は、まああの男の子のところなら娘を預けててもいいか、と思ったわけでしょう。
それってつまりもう一人の娘が結婚する相手だから、夏樹ちゃんに内情を探らせているってことじゃないですか?
お互い何も知らないで出会った方が、その人の人となりも良くわかるというものですからね」
「確かに説得力はある……今日うちへおいでよ。親に聞いてみよう」
「いいんですか?」
「もちろん」
「はい、じゃあお邪魔します。興奮してきました!
あなたの家の謎を解くことが事件の謎を解くことにきっと繋がります!」
「そうだといいね。教室に戻ろう」
《ユキくんはしかし性格が悪い人です。私が断るとわかってキスしようとか言い出したんですからね。
逆にいえば、もう一度誘うということでもあります。
もちろん次に誘うのは彼の家の中でしょう。私は断り切れるでしょうか》
などとよこしまな事を考えつつ、私は教室に戻りました。
その後、ユキくんが私から片時も目を離すまいとぴったりくっついて来るので、私はきっぱりと断って一人になり、例の場所を目指しました。
もちろんさっきの場所。過去を見ましょう。私はこの前ユキくんが桜井さんと一緒に消え、何かを話したと思われる時刻に「視点」を合わせました。
予想通り。私が澄谷さんに誘導されたまさにこの場所こそ彼が桜井さんと話をしていた場所でした。
「だから……こんなところまで来なくても……」
などと言いながら引っ張られてくるユキくんと、無表情で機械のように彼を拉致する桜井さん。
彼より五センチ以上は背の高い桜井さんはさっきまで私と話していたのとほぼ同じ位置に立って話を始めました。
「例のリスの事だけど……」
「千春。何か知っているのか?」
「今少し連絡をとった。彼女の親は結さんと言って、私の知り合い。
やっぱり娘がつい最近居なくなってたことは判明してる」
「報道にはまだ出てないようだけど?」
「間違いない。結さんも同じように超高度の細胞変質能力を有していて動物にすら姿を変えられる。
どうやら娘にも全く同じ能力が遺伝していた、ということで間違いないなさそうね」
やはり、あのネズミと謎の女の子は同一人物。
背が低いので子供かと思いきや立派な成人女性という事でした。
「そうか。一見落着だな。早いところその人に連絡してあの子を引き取ってもらおう。
謝礼の一つも、僕らもらっていいと思うけどね……」
「謝礼ね。まあこれでいい?」
と言って桜井さんがユキくんに手渡したのは、何と十万円でした。
いやいやいや。なんでそんなお金をあなた持ってるんですか?
当然私と同じ感想を彼も持ったようです。
「何だこれ? 君は……」
「結さんから後で立て替えておくって。多分また脱走すると思うから、毎月十万あげるからしばらく家で置いといて欲しいって。
これは今月分のお金っていう事で。受け取って?」
「そんな! 受け取れない!」
「受け取れないって。あなたが養ってる訳じゃないでしょ?」
「そ、それは……」
ユキくんはそれを言われると弱いので、自分で持ったこともないであろう、高校生にとっては大金の十万円を財布に入れて、桜井さんを不審そうな目で見つめていました。
「それでいいの。結さんはしばらくあの子をあなたの家で預かってもらうことにしたみたい」
「毎月って、まるで二、三ヶ月以上預かって欲しいみたいな言い分だな?」
「そう受け取ってもらってもいい。どうやら能力が暴走してるようだから、記憶が戻ったならあの人に連絡して」
二人のその後は神野さんからの質問を桜井さんがはぐらかし、神野さんは一旦諦めて話は終わりました。
ちなみに、この話を、影でコソコソと私が名前を知らない誰か見知らぬ女子生徒が目撃していました。
「どっかで見たことあるような……ものすごい……美人ではありますが……」
私は、この女の子を見たことはないですが、何か得体の知れないものを感じました。
脚は長くまつげは長く、目が大きくて鼻が高い、コーカソイド系の遺伝子を感じる人です。
あとかなり巨乳なので男性からの人気がすごそうです。
昆虫のように細長い手足、貴族的な透き通る青白い肌、そして白と黒の混じった髪の色。
高校一年生とは思えない巨乳。何故巨乳をことさら特筆するか。
それは、酷似しているからです。ユキくんの妹さんと。
この前部屋に行ったとき彼の妹の写真を見せてもらいました。
なるほど十二歳とは思えない体つき。胸が私よりあります。
彼女はまるで天使が宗教画から抜け出して来たように儚げな美少女。
そして頭の両サイドに牛の角の名残であるというハネた髪。
これは神野家の特徴であるとわかっています。兄の神野さんとも共通点が多いですし、似ていますから。
不思議なのはその二人と接点のない四宮イザナさんがハネた髪や牛のように大きな胸といった特徴を有する事。
これらの特徴は、実は記憶喪失の女の子、夏樹ちゃんにおいても胸以外は同じなのです。
つまりどういうことなのか。この女の子は、夏樹ちゃんの姉で、結さんとかいう女性の娘ではないでしょうか?
そして奇妙な事に神野家の一族にしかないはずの牛の角のような髪や白髪、巨乳、美人の国が多い中央アジア風の顔立ちという特徴を有する事実。
つまり、この子は神野家の生まれなんでしょうか。
状況証拠だけ見ればそうなります。
「気配を隠していても目だってしまうようなこんな人がどうして……」
どうして盗み聞きなど。いずれにせよ子供の養育費のために十万円渡すところを見られてしまいました。
「神野のやつ、女の子を孕ませて子供を産ませたうえに金貢がせてるぞ」
なんていう黒い噂が立たなければいいのですが。
土曜日なのでお昼ご飯の時間前に授業は終わり、進学クラスの私たちは家に帰ることに。
授業が終わるやいなや、荷物をまとめたユキくんは私に信じられない事を言ってきました。
「授業終わりだね。手でも引こうか」
「えっ」
「危険だと思うから。よかったらだけど」
「あなた下心を隠して紳士っぽく振るまうのが上手いですね?
あのー、桜井さんも見てますし、そういうのは……」
「千春、僕と彼女が手を繋ぐのはそんなに行けない事かな?」
と聞かれた桜井さんは不機嫌に返しました。
「何で私に振るの……佐々木さんも何で私を言い訳に使うの?」
「言い訳ですか?」
「私がいるからダメ、とは言いつつ手を繋ぐこと自体は嫌とは言ってないでしょ?」
「まあその、嫌ではないですが……」
私はそう言うと記憶してたユキくんの位置を手で探り、腕を見つけると、その手を取りました。
「確かに自転車や暴走車は避けられないですから、居てくれると助かります……」
「それで? 佐々木さんは送っていくの?」
「今日は家に来てもらう事になってる」
「そう。六花ちゃん、よかったら外に連れ出しとこうか?」
「下世話な気遣いはやめてくれ。別に人に言えないようなことをするわけじゃないんだから……」
「はい。でもまあ、ここで桜井さんに確認すれば済む話ですよね。
私が家に来て欲しくなさそうなのはわかりました。
桜井さん、私の推理だとあなたの言っていたユキくんの運命の人とは、結さんの娘ですね。
そして、夏樹ちゃんにとっての姉になる人ですね?」
「情報源はどこ? まさか例の?」
「例のって?」
「いや……私と同じ情報源かと思って。多分違うか。
その通り、結さんって人の娘で名前は四宮誘。
何を隠そう運命の人は同じクラスにいる。
恥ずかしがり屋だから自分からはハルくんに話しかけてこないけど」
「あなたはそれを誰から聞いたんですか?」
「須田さんっているでしょ。この前危うく死にかけた」
「ああ……あの人ですか」
「あの子、ネズミがやってきたらしいけど……そのネズミは結さんって人。
どうやら私にとって親戚みたいで……だから色々教えてもらった。
教えられたのは鳰の事件の後だった。もし事前に知っておけば何か手が打てたかも知れなかったけど……」
「真相を知ったんですね。やはりユキくん、トントンは正しかったみたいです。
あなたと親しい桜井さんでも真相を知ると秘密に……つまり、あなたにとって非常に都合の悪い真実が例の事件に隠されてるって事です」
「そうみたいだね。じゃあ千春、これは佐々木さんの推論なんだが……鳰は君や結さんとかいう人の血筋の子供なのか?」
「さあ。でもハルくんがそうまで執着するなら可能性は高い。
だって結さんが言ってたから。ハルくんの本当のお父さんは神野幸村さんって言うんだけど、そのお父さん、ハルくんの産みの母親を溺愛して執着してたみたい」
「何だそのちょっと聞きたくない情報……」
「お母さんは知っての通り結さんと同じ一族の血を継いでる。
ハルくんのお父さんの執着相手がそういう血筋だったなら、ハルくんが執着する鳰も、同じ血筋なのかもしれない」
「佐々木さんの話では、僕の母は産後うつだか育児うつだかで出て行ったらしいが……」
「息子がこのままじゃ、妻と一緒に暮らせない。
子供か妻か、ギリギリまでお父さんは迷ったけど子供を思って離婚した。
ハルくんのお父さんはそういう人だった。私はハルくんもそうするって信じてる。
だからこそハルくんにとって四宮イザナは運命の人……」
そう言うと、桜井さんは先に帰ってしまいました。
私達はしばらくの間、無言でポツンと立ち尽くしました。
「……四宮イザナは運命の人と言ってたが、彼女は同級生なんだよね?」
「私に聞かれても知りませんけど、多分そうですよね」
「ああ、それで、家来る? 何か話の腰が折れちゃったけど」
「行きませんよ。桜井さんや妹さんに気を遣わせたくないですからね」
「そうか。うん。じゃあ僕が君の家に行くよ」
「何で来るんですか」
「来てほしくないならいいけど」
「来てほしいです」
「じゃあやっぱり手を繋ごうか」
ユキくんはそれから私の手を引いて校門を出ました。
この前言ってましたが、彼、佐助さんに憧れていて、盲目の女の子の従者でいる事に喜びすら覚えるらしいです。
だから盛んに私の手をとろうとして、他の女の子の手には興味ないわけです。
彼が喜ぶのならと、私はされるがまま彼についていき、ずっと手は繋いだまま家の前まで着きました。
「さて。中入れてもらってもいい?」
「ええ。何か電話をするんでしたよね?」
「うん」
「じゃあ開けますよ」
私は鍵を開け、誰もいない親戚の一軒家に入るとかばんをいつもモードが置いているところに置き、五月ともなるとちょっと制服では暑いので服を脱ぎ、下着だけになりました。
しかしその挑発にもユキくんは何も言ってきません。
なぜなら既に彼は電話をしてあるみたいですからね。
「……うん。そう。もう帰ってきた。六花の昼ご飯? ああ、多分千春が食べさせると思う」
六花というのは妹さんの名前です。一応。
「僕の昼はまあ適当でいいよ。それより聞きたい事がある。
うん、僕の許婚っていうのは四宮イザナっていう女の子か?」
ややあって、答えが返ってきたようです。
「いや。本人と話したことはない。でもそうなんだな、許婚なんだな?
わかったよ。会って話をしてみるよ。結婚するかは自分で決める」
電話を切ると、ユキくんは私の体を腕の中で愛おしそうに抱きしめてこう言ってきました。
「なんて冗談だよ。僕は君しか見ていないから」
「だから昨日何の映画観て影響されたんですか!」
「別に今は誰もいないんだからごまかす必要ないだろ。
これだけ手間をかけたんだ、そろそろキスをしてもいいかな?」
「酷い人ですね。私を利用する事しか考えてないくせに」
「君が言える事か? 帰っている時からそのことばかり頭にあったくせに」
図星でした。図星を指されたところで、まあここからは事件に関係ない事なので割愛します。




