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ボーイとガールがミートして  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
LOG 1
11/75

五月十二日

五月十二日。


「……ということがあったんですよ」


神野さんと会長がいない間に、私は岡本さんに昨日の事を説明しました。

この人は頭の中、年中恋愛一色のピンク色ですからね。


「整理すると、彼は昔の事件の捜査のためなら文字通りどんなことでもする覚悟。

そのために生きている。それだけのために。そういうこと?」


「しかし……さっき話した通り、(トントン)は捜査を拒否しました」


「なんで?」


「わかりません。真犯人と繋がりがあると疑われても仕方がないですよね?」


「うん……でもまさか本部長が犯人じゃないでしょ。理由がない。

それに犯罪ノウハウなら一家言あるはずの本部長が、馬鹿正直に子供が固まってるところへ突撃したのも変だよね。

素人の私でも、子供が誘拐されるのは圧倒的に独りで居るときだって事ぐらいわかるもん」


「ええ……調べたんですが井上鳰という女の子は天涯孤独の施設の子でした。

両親不明。しかし井上家に引き取られました。井上家はその後も地元の秋田県で住んでます。

誘拐しても身代金はたかが知れていますし、彼女の能力の記録はありません。

つまり能力を悪用する目的で誘拐が起こったわけでもありません」


「とすると、何で犯人はあの子をさらおうとしたの?」


「もちろん能力や身代金以外の目的での誘拐も視野に入れるべきだと思います。

でも、もしかすると誘拐が目的でなかった可能性も……?」


「それはかなり強引な論法だよね……誘拐目的じゃなきゃ本部長がこの事件の情報を秘密にする理由が説明できないでしょ。

つまり、本部長は犯人を何らかの理由で庇っている」


「やっぱりそこに行き着きますよね……あの人の事ですから意味があるとは思うんですが。

これ以上はあの人の目に頼るしかないでしょう。現時点で唯一過去を知る事のできる人ですから」


「ほんとにね。望ちゃんとか瞳ちゃんに能力が受け継がれてたらいいのにねぇ?」


「いや、でもそれだと私は危険な組織に誘拐されるかも知れないじゃないですか。

利用価値がない。それが一番の身を守る方法ですよ!」


まあ、つい先日謎の組織に危うく誘拐されかかったばっかりですけど。


「ままならないものね、人生って……」


などと岡本さんには似合わないアンニュイな表情が表れた時、二人が帰ってきました。


「ご苦労様。例の書類は終わったかしら?」


「はい、会長。今月の収支報告書と体育祭の出店場所申請書、打ち込んでおきました。

ちょっとびっくりましたよ。岡本さんってパソコン使えたんですね」


「まあ社長の娘だしこのくらいは……」


「え!?」


「よく驚かれる」


「で、でしょうね……イメージと違いました……」


私は驚いたときリセット行動をします。

猫が顔を掃除するのと一緒で、気分を落ち着かせ、切り換える行動です。

そうして前髪を整えている間に、会長はデスクについて会長らしいことを言ってくれました。


「仕方ないわね。出店申請書から不適切なものは却下、よくわからないものは突き返すわ。

こればかりは人海戦術しかないわ、三人とも見落としのないようにね?」


「はい、会長!」


出店といえば文化祭ですが、それよりも前に我が校では体育祭でも出店を出します。

しかも部活対抗での出し物であり、収益はそのままその部の部費へ。

赤字を出したらその分部費を減らされるという天国と地獄の行事です。


もちろん文化祭も全く同じシステムです。

運営責任がある分、生徒会はそんなリスクとプレッシャーから解放されており、それはさいわいでした。


しかしまあ、偏差値の非常に高い高校なのに何とバカな出店要望が多いのでしょう。


「神野さん、ちょっといいです?」


「なに?」


と、私は神野さんを呼んで申し込み用紙を見せました。


「このおっパブって何ですか? パブリック? パブロ・ピカソ?」


「ああこれはね。僕知ってるよ。確か男の夢を叶える素敵なお店だったと思うよ」


「行ったことあります? どういう感じでした?」


「行ったことはないな……とりあえず却下でいいよ。それ出したやつは退学でもいいね。

風営法に引っ掛かりかねないよね」


「そういう問題ではないのでは……」


まあ、とりあえずおっパブは却下しました。次もまた変な申請です。


「ノーパンしゃぶしゃぶって何です?」


「それ出店では無理なやつだね。体育祭までに工事間に合わないから却下で」


「だからそういう問題ではないのでは……」


「ふむ……メイド喫茶か……お嬢はメイド喫茶どう思います?」


「問題はこれが男子バレー部から出ている事だけれど。

よりによって一番ゴツイ部活から……」


「景観を損ねるので却下します?」


「いえ。彼らも恥ずかしさは承知の上で申請したのよ。

きっと何か……きっと彼らは何かを変えてくれるわ!」


「どうせごく一部の発言力が強いウェーイ系の人がふざけて決めたことで、大多数の部員は恥ずかしくて死にたいんだと思いますけどね。

でもお嬢が言うのなら許可しましょうか」


神野さんの言う通りだと思います。情景が目に浮かぶようです。


「ええ、よきに計らいなさい」


「会長、面白いものを見つけました!」


岡本さんが有象無象のゴミ山から何か発掘したらしいです。


「何かしら?」


「一番ひどいやつです! 野球部が他校との試合のチケットを売ろうとしてます」


「体育祭見せる気なしですの!? 無茶苦茶ですわねあの人たち……」


「本人たち真剣そうなのが逆にムカつきますね!

ナメてるだけなら可愛いげもあったんですが!」


「無駄に仕事を増やす野球部、今度から部費削減決定ですわね」


「野球ってお金かかりますもんね……」


「わかりました。会計の僕にお任せください、お嬢。

あとバスケ部とサッカー部の部費も削りましょう」


「どうしてですの?」


「あそこ彼女持ち多いんで。幸せ税ですよ」


「ああ……いいわね。やっておしまいなさい」


何か話が急カーブを曲がって変な方向に行ってしまいました。

ここは私が止めなければ!


「見苦しいですよ神野さん、どういう了見なんですか!」


「ああいう奴らを見てると腹が立ってしょうがないんですよお嬢、岡本さん。

僕は目の前で初恋の女の子を奪われたのに、あいつらのうのうと……!」


「まあまあ落ち着いてください神野さん。そんなの誰も知らないんですから仕方ないですよ、ね?」


「私も賛成よ。私だって許嫁がいて好きな相手と恋愛してはいけない家の決まりなんだもの」


「結局妬みそねみですか!」


「それだけじゃないのよ?

サッカー部は演劇。バスケ部はヌルヌルローション相撲ショーをしようとしているわ。

どちらも訪れた父兄に体育祭を見せる気ゼロね。制裁は必須よ」


「ちょっと岡本さん! 何とか言ってくださいよ!」


恋愛大好きな岡本さんなら私に味方してくれるはずです。

こんな横暴、こんな恐怖政治許されませんよ。


「イヤー、私彼女持ちの男に興味ないから、別にいいかな……」


「岡本さん!」


賛成多数により、幸せ税の課税が決定してしまいました。

サッカー部、バスケ部、野球部などはゴミみたいな申請書を突き返され、部費もサイレント削減が決定。

いやほんと、卓球部のおっパブやテニス部のノーパン何とかも酷かったですが、やはり男の人というのは大人数で集まると変なテンションになっちゃうらしいですね。

私たちは確認作業と訂正、返却仕分けに時間を費やし、気付けば日も暮れようとしていました。

空の色に気がついた神野さんは、いつものお決まりの台詞を吐きました。


「お嬢。紅茶お淹れしますよ」


「ええ」


「いやー、終わった終わった。明日も同じ事が繰り返されるんでしょうね、会長?」


「これも責務です。柔道部などいいですわ。

その名も男の串焼き屋台。

一部の層からは人気が出ることでしょう」


「男の串焼き屋台……聞いただけでヨダレが……別に変な意味ではなくて」


「あの」


私は岡本さんとじゃれている最中の会長に申し出ました。


「本日はお疲れ様でした。定時ですので帰らせていただきます」


「お疲れ様でした。紅茶、飲んでいきます?

彼が淹れた紅茶は絶品ですのよ。ヘロインでも入ってるのかと思うほどの中毒性がありますの」


「神野さん無しで生きていけない体にされたくないので、結構です」

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