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ボーイとガールがミートして  作者: ニャンコ教三毛猫派信者
LOG 1
10/75

五月十一日

五月十一日。


今朝、私は早く学校へ来て校門で二人を待ち受ける事にして見ました。

私の予測ではまず先に神野さんが登校し、会長が車で来るはずでした。


予測は当たったようです。神野さんは単独で登校してきますね。

私はコソコソしながらも、校門の陰から飛び出して声をかけました。


「神野さん、おはようございます!」


「おはよう佐々木さん。君のこと捜してたんだけど手間が省けた」


「え……私を捜してた?」


神野さんは、本気で言ってるのか冗談で言ってるのかわからないところがありますね。

普通の女の子なら勘違いしてときめいていた所です。

しかし私は、彼がそんな気などないことは知ってます。


「用があったからね」


「それでどうですか、女の子の方は?」


私は刑事の娘みたいなものなので記憶喪失だという女の子を警察に相談もせず素人さんに任せるのはちょっとどうかという気もしました。

ただ、明らかに神野さんの知り合いらしいネズミがすぐ近くで見守っていると思うので気にしないことにしました。


「女の子ね。名前はまだつけてない。女の子の名前は女の子がつけた方がいいと思ったから。

もちろん君を捜してた用ってそのことだったんだけど」


「まあ名前は今度考えますけど……しかしあれですね神野さん」


「何?」


「携帯電話のない時代ってこんな感じだったんでしょうね。

会いたいのに連絡手段もなくて、相手が何を考えてるかもわからなくて、こっちの考えも伝えられなくて」


「会えない時間が好きを育む。そのくらいの距離感がいいのかもね。

しかしあれだね、佐々木さん?」


「なんですか私の真似をして」


「遠回しに連絡先を交換しようって言われたんだよね。照れるな」


「誰がそんなこと言いましたか!」


私は今頃になって岡本先輩とやったあの診断アプリを思い出しました。

意外と当たってるかも。神野さんは極めて頭が良く、支配的です。

何故そう思うかと言えば、口では否定してても完全に彼の指摘が図星だからですね。

瞳がしてないので、私の方が連絡先を手に入れる必要があるんです。


柔らかい物腰で合わせつつ、こっちの意図は完璧に読んでいる。

それが神野さんです。非常に厄介なタイプですね。


「でも嬉しいよ。君が僕と繋がろうとしてくれて。

そうであればどんなに良いだろうって、ここ最近はずっと思っていたから」


「そ、そうですか……?」


神野さん、これでなかなか女を喜ばせる事言えるじゃないですか。

と思ったら全然予想が外れました。


「これから捜査をする……連絡する手段が要る。そういうことだよね?」


「はいはいそーですよ。よくわかりましたね神野さん。

あなたよくつまらないって言われません?」


「よく言われる」


褒めてないんですが、神野さんは、はにかみながら答えました。

神野さんは頭が良すぎて何でも先読みできる。それだけなら良いんです。

先読みしたうえでこっちに合わせてくれたら角は立たないんです。

でもこの人、合わせる気は微塵もない。困ったものです。


「ところで気になる事があるんですが……」


「なに?」


「なんで名前をつけるんです? 知り合いの子なんでしょう?」


「知り合い……なんだろうね……あの子は。僕のことを確実に知っていた。

ネズミが何なのか……須田さんにでも聞いてみようか」


「知らないでしょう……巻き込むのも悪いと思います」


「うん」


「あ、そろそろ車が来ましたね」


この前見た通りの黒塗りの高級車。神野さんは校門前に車が停車する前にもう既にその前へ陣取りました。


「おはようございます、お嬢。かばんお持ちしますよ」


「ありがとう。さあ行きましょうか」


相変わらずキャラの濃い会長。私に気づくと、ちゃんと挨拶をしてくれるので悪い人ではないのですが。


「あら佐々木さんもご機嫌よう。生徒の服装チェックでもなさっているのかしら?」


「いえ、風紀委員の仕事を取ったりはしません」


「なら教室へお入りになって。今朝は日差しが強いわ……」


会長は神野さんと連れだって校舎へ。私もそれへ続きました。

もちろん会長は二年生なので私たちとは別れ、私と神野さんは一年生の教室へ。

その間は特に会話をせず時間だけが過ぎていくのでした。


放課後は一応生徒会室へ。そこで、私は聞き捨てならないことを聞きました。


「もうすぐ体育祭だけれど……」


「はい、会長?」


体育祭。私は運動能力がミジンコのようなものですから、恥をかかないためにも出場はしません。

しかし、みんなにとっては大切なイベント。

私は会長に体育祭に関するどのような命令が下ろうと構いはしません。


「体育倉庫の備品をチェックしてきなさい。

綱引きの綱が切れたり、障害物が老朽化してたり……怪我の原因になるわ」


「誰が行きましょうか?」


「手が空いてるのはあなただけね。私と岡本さんは生徒から公募した新しい競技の申請書に目を通す必要が。

ハルくんは私のお茶を淹れなければなりませんので」


「お嬢、僕も行きますよ。力仕事には僕が必要でしょうし」


まあ、当然そう来ますよね。神野さんは優しいですし、責任感もあります。

私のようにいかにも非力そうな女の子が一人で体育倉庫などへ行くとなればついて来ると言うでしょう。


「私のお茶を淹れてって言ってるでしょ!」


「だから男のメンバーを入れた方がいいって言ったんですよお嬢。

それとも、僕は佐々木さんを無視した方がよかったですか?」


確かに。もう一人男子がいればその人を私につけられたし、会長は好きなだけ神野さんを独占してくれればよかったんですが。


「そうは言ってませんけど……」


「決まりですね。もしくは僕一人でも構いませんが」


「会長、それでは私がお茶を淹れましょうか?」


「結構でしてよ。では早く仕事を済ませて戻ってきて下さい」


「はい」


それから二人で体育倉庫に行き、埃とカビの臭いが充満する中で石灰やマット、綱引きの綱の状態を確認する仕事は簡単ラクチン。

その間、神野さんは一切口を利きませんでした。

喋るのが面倒臭いんでしょうか。それとも私に気まずい思いをさせても全然構わないって事でしょうか。

多分両方でしょうね。私は少し面白がって彼に話しかけてみることにしました。


「えっと神野さん。例の女の子って今どうしてるんですか?」


「それが聞いてくれよ。もう大変で」


「……どうしたんです?」


「彼女、記憶を失っている。どうやら一晩寝たら記憶がリセットされるらしい。

朝起きると僕のこともわからなくて、でも説明すると大人しくなって、すぐ懐いて来たよ」


「記憶がリセット……でもあなたのことは何だかわからないけど好き、ということですか?」


「ああ。家族の事も覚えていた。家にいない父、冷たい姉、そして母親。

昨日話してた通りのことを言っていた。どうやら話が見えてきたな」


「話がですか?」


「彼女は最近能力に目覚めたんだろう。二、三日、もしくはせいぜい一週間前ってとこか。

細胞レベルの変身能力の暴走。そして脳細胞の変異。

ごく身近な家族などの記憶しかない。自分の名前も忘れているようだ」


「かわいそうに……須田さんや神野家にネズミは来なかったんですか?」


「それが、昨日電話があって、須田さんのところにまた来たらしい。

ネズミは実は自分の娘があの子なんだけど、僕の家にしばらく置いておく事にしたんだって」


「……?」


「そしてこうも言っていた。自分は何故か神野家の男と惹かれあう。

しかも一族の人間や娘すら神野の男と惹かれあう。

中には僕の産みの母親や千春も一族なんだって」


「ちょ、ちょっと待ってください。どういうことです?」


「須田さんが聞いた話だ。僕の母親と千春の父親は兄妹(きょうだい)で僕と千春はイトコだっていうのはもう言ってあるよね」


「ええ、もちろん……」


「僕の生母と千春の父親の母親。つまり僕と千春の共通の祖母が、桜井家に嫁いできたわけだろ?」


「まあ、当然そうでしょうね。つまりそのおばあちゃんは、謎の一族の女性だったと?」


「ご明察。そしてその一族の中でも自分の血が濃いほど神野家と引き寄せ合うと言っていた。

単純に口調とか共通の趣味とか顔とか、あるいは体臭とか、そういう好みの部分で引き合うというより、何か運命レベルで引き合うんだって」


「つまりあなたと桜井千春さんは運命レベルで引き合っていたんですか?」


「まあ、そうなるね」


でもまあ、眉唾ものではありますが、実際遺伝子が惹かれあう一族というのもあながち嘘っぱちだと言い切れません。

人間には好みの遺伝子というのがあり、そしてなるべく遠い遺伝子と自分の遺伝子を混ぜようと本能的に思うらしいです。

例えば性格は正反対の方が友達や恋人として上手く行くことが多いらしいです。

また、近親相姦に多くの人が忌避感を覚えるのは、インブリード、つまり血を濃くするのは生存率が低くなりやすいという理由からだそうです。


遺伝子の授業でやったって人も多いかと思いますが生物には顕性の遺伝子、潜伏性の遺伝子があります。

例えば青い目や金色の髪は潜性なので、片方の親が金髪碧眼で片方が、金髪碧眼遺伝子より顕在化しやすい黒目黒髪の場合、子供は黒目黒髪になります。

かく言う私も父親は金髪で碧眼ですが自分の金髪は染めてますし、瞳の色は一般人より若干薄いですが茶色で、青ではありません。


しかしインブリードすれば?

例えば私に兄弟や甥はいませんが、母の産んだ弟や兄、瞳の産んだ息子などと子作りしたら子供に金髪碧眼を含め、何らかの潜性遺伝子が発現してしまうかもしれないのです。

遺伝子の違う人と子作りするのであればその人が潜性遺伝子を打ち消す顕性遺伝子を持ってる確率が高いですからね。


あれ。何で私こんな話を。まあいいです。続けましょう。


「ではあなたが井上鳰さんに対して運命を感じたというのはどうなんでしょう?

親が不明な以上、その一族の血を引く女の子という可能性もありますが」


「その可能性はなくはないけど、今は突き止める術もないし忘れよう」


「ええ。ですが私が気になるのは……」


「なに?」


「いえ、何でも」


桜井さんのこと、神野さんは姉だという認識みたいです。

それは桜井さんも重々承知。彼女が運命の人と言っていたのが誰か、少し見えてきた気がしました。


神野さんのところへ転がり込んできた記憶喪失の女の子。その子には姉がいると言っていました。

そのお姉ちゃんというのは、何故か神野家の男と引き合う家系の女性だということでした。

そして神野と引き合う女性いわく、自分に近いほど引き合う力は強く、その娘であるなら力はもっと強いでしょう。


その話を信じるなら、そのお姉ちゃんという女性は神野さんと同年代か、ちょっと若いくらいでしょうか。

彼女が運命の人である気がしてきました。


そして同時に、井上鳰という子は遺伝子的にその一族出身である可能性も浮上して来ました。

何か、何か大きな歯車のからくりが動いている気がします。


神野さんが初恋の女の子を失った井上鳰ちゃん誘拐事件。

最初はただそれだけだったはずです。

私は何か、この後ろにとてつもない何かがいる気がしてきて、悪寒を感じ、身震いました。


「帰るか……まだ五月だしなんで点検とか言いだしたのか……」


「さあ。とにかく帰りましょう。ただまあ、あなたと情報交換できた事はよかったと思いますが」


「うん」


神野さんはひどく適当に相槌を打って倉庫から出ました。

私もそれについていき、仕事は終わって放課後。

いつもと違い、桜井さんは下校中も姿が見えません。どうしたんでしょうか。


「桜井さんは?」


学校のすぐ前の道を歩きながら神野さんに聞いてみると意外な答えが。


「誰かに呼び出されたと言ってた。千春の交遊関係は、正直知らないな……」


「そうでしたか。桜井さんはあなたに運命の人がいるとこの前私に話してくれました。

何か心当たりはありますか? もちろん鳰さん以外で」


「……僕は許嫁がいる」


「……えっ?」


「その人と結婚して医者になる。それが神野家の長男として生まれた僕の運命。

何の疑問も持たずに生きてきた。そんな僕が。

そんな僕が生まれて初めて自分の意思で決めたことがある。

鳰と一緒にいたい。ただひたすらそう思った。

でもダメだった。運命の犬は道を外れた羊を追い立てる」


ななな何という神野さんの中二モード!?

自分を羊になぞらえたのはまあいいとしても、運命の犬に追い立てられたとかポエム過ぎます!


「え、ええと、なんか知らないですけどごめんなさい……」


「言うまでもなく許婚はお嬢……澄谷会長だ。あの人の事を千春は言ったんだろうか」


「さあ……」


「でも鳰だけしか僕は見なかった。いや、今でもだ。

だから教えてくれ。佐々木本部長は、この件に関して何か行動を起こすと思うか?

佐々木さんが電話して打診したとして、あの事件をもう一度捜査してくれっていう僕の頼みを聞いてくれるだろうか」


「とてもそうは思えませんね」


「そうだろうね。わかっていた。僕には最初から瞳さんを利用する事しか出来なかったんだ。

本部長がそういう人だってわかってた。恐らく僕が彼女に近づいていると知ればあの人は永遠に僕から彼女を遠ざけて、二度と会わせはしないだろう」


「そこまででしょうか……?」


「間違いなくそうする。僕はあの人が真犯人ではないかと考えているからだ」


「何ですって!?」


「だって、反則だあの能力は。過去を見たならせめて犯人の顔のモンタージュぐらい全国に頒布してもいいはずだ。

それすらしない。事件を一切封印している。

そして唯一過去に迫る可能性のある瞳さんには事件の情報を与えていない。

普段は視力を失うほどこき使っているくせに、あの事件だけは関わらせなかった」


「ちょっと! 瞳がどうしてもというから、仕方なくあの人は捜査を許可したんですよ!?」


「それは謝る。でも同じ事だ。彼女を捜査に関与させなかったのは事件の情報を彼女が知ること自体を恐れたからだ。

ここまで情報を隠しているとなると、犯人を本部長が庇っているか、自分自身が犯人かのどっちかしかないだろう」


「……だから、あなたが瞳に近づいたら絶対遠ざけると?」


「そうだ、間違いない。佐々木さん。君の姉の事を考えてくれ。

君は彼女に何かしてあげたい。してあげないと心が苦しい、罪悪感みたいなものがあるんだろ?

見て見ぬ振りをしてほしい。それだけでいいんだ」


「でも……」


トントンを裏切るばかりか瞳を利用する事ばかり考えている神野さんを野放しにすることは絶対よくない結果を招きそうではありました。

瞳は彼によって傷つくんじゃないかと危惧し、警告を発する自分がいます。


「瞳の気持ちを考えろ。彼女は僕に会いたいか、それとも会いたくないと思うか?」


「……会いたいと思います」


「だったら答えは簡単じゃないか? 君は見て見ぬ振りをするだけでいい。

僕は事件の情報を知ることが出来てハッピー、彼女は人の役に立ててハッピー、君も罪悪感をすこしは解消出来てハッピー。

誰も困らない。みんなが幸せになれる事だろ?」


その後私は何も答えませんでした。


「……忘れてた」


と言い、神野さんは私を追い越した直後足をとめて私の方を振り向き、私の肩を掴んで来ました。


「教えてくれ……答えてくれ。僕が君を誘拐したら、本部長は僕を見てくれただろうか?」


ヤバいです。目が本気です。私は恐れを抱いて喉が縮こまり、蚊が飛ぶような声で細々と答えました。


「やめてください神野さん……なんかその台詞だと男同士の痴情のもつれみたいですから……」


「冗談だよ」


ふっと笑って離してくれた神野さんですが、私はまだ足がすくんでいます。


「冗談に聞こえなかったんですけど……」


「本部長を刺激する策はとれない。瞳さんに頼るしか道はない」


「そ、そうですよ神野さん。今の状況あなたわかってないでしょ?」


「何が?」


神野さんは私を脅かしたことなどすっかり忘れて靴を履き替えてます。

絶対サイコパスです、そうに決まってます。


「父を刺激するより、懐柔する方が賢いですよ。

将を射んと欲すればまず馬を射るべしと昔の中国人も言います。

つまり今は私と瞳を籠絡するべきなのであって、脅かしてる場合じゃありません!」


「なるほど。こんな風に誘惑されたのは、僕が世界初だろうね」


「笑い事じゃありません!」


神野さんが瞳をストーキングしたことはとりあえず水に流し、アドバイスしてあげているだけでも私はかなり優しいと思うんですよ。

それをわかってないかのように彼は笑いました。


「誘惑したことは否定しないのか」


「女は誘惑する生き物ですよ? もっとも、手を出した瞬間、あなた方男の人の責任ですけど」


「君、結構男性経験豊富なの?」


「さあどうでしょうか?」


あるわけありません。この学校の生徒は大体私と一緒で厳格な家で育っているはずですからね。


「うん、どうしようか。

僕の口説き引き出しは、生まれてこの方何も入った事がないんだけど……」


「別に恋愛的な意味でわたしを籠絡しろなんて言ってませんよ。

言葉で説得したり、何か私と取り引きしたりして味方につけたらいいんです!」


「それが困った。僕が彼女をストーキングしたことも不問にしてくれた上で、君は親身になってアドバイスしてくれている。

その上、遠回しに口説けと誘惑されてもな。

これ以上どう口説けばいいのか……カエサルならわかるのかな?」


「うっ……」


私の勘違いでした。神野さんは全部わかった上で悩んでたようでした。

確かに言われてみるとこれ以上私は何を言われれば、これ以上協力する気になれるのか自分でもわかりません。


瞳は過去を見る目があります。やろうと思えば父の許可がなくとも過去を調べることくらい出来ます。

しかしつい最近知り合ったばかりのストーカーに過去を教えることは出来ません。


「難題過ぎる……じゃあ取り引きをしようか」


「はい?」


「それとも取り引きとか面倒なことはきらい?」


「ええ。もういいです。好きにしてください。私は見て見ぬ振りをしますから、どうぞご勝手にしてください」


「いいのか?」


「いいって言ってるじゃないですか。もういいですよ面倒臭い。

その代わりもし父が真犯人じゃなかったらぶっ飛ばしますから」


「ああ。ぶっ飛ばしてくれていいよ。ありがとう……それじゃ」


「ええ。それでは」


心にもないことを言い、私は神野さんから逃げるように帰路についたのでした。

やはり彼はヤバい人です。罪のない人を傷つける類の人ではないでしょう。

しかし、私を目的に必要なコマとしか見ていないのも事実のはず。

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