1 かえりみち
よろしくお願いします!
真夜中の路地裏。
暗闇には扉が開く。
気づかずに踏み入れば。
途端に飲み込まれてしまう。
☆ ☆ ☆
「肝試し?」
夏真っ盛り、まだ新しい制服に身を包み、町田友昭は友人の一人に問い返した。
「そうそ!友達集めてさ、肝試し!」
友人、宮城圭介は名案だとばかりに町田に言う。
町田は面倒くさいという気持ちを隠しもしないで、顔に出す。
「やだよ。俺は参加しないからな」
「えー!町田いないと困るよー!」
「なんでだよ」
「お前の歓迎会も兼ねてるんだからさー!」
「歓迎会で、どうして肝試しになるんだよ」
呆れたため息を吐いて、町田は道に転がっていた石を革靴のつま先で軽く蹴った。
町田が、ここに来たのは三ヶ月前。
理由は両親の離婚。
一人っ子だった町田は、母親と一緒にいることを選んだ。
父親は大手企業の社長だった。
家庭を顧みず、仕事ばかりだった。
遊んでもらった記憶もなく、離れても感慨も浮かばない。
昔はそれでも、父と母に仲良くしてもらいたくて勉強も運動も頑張ったが、結局耐えられなくなったのは、母のほうだった。
母は、どちらかというと男勝りだ。
父は大人しめ。
あれでよく社長が務まるものだと常に思う。
社長夫人に求められる、貞淑な妻。母はその枠に収まるのを嫌がった。
幾度となく親戚と衝突し、母は父に離婚届を突きつけて、実家に帰ってきた。
それがこの街。
「外から来た奴の歓迎会なんて、俺らやったことないし。だから、面白いこと一緒にしたらいいかと思ったんだ」
宮城の沈んだ声に、町田は苦笑した。
「肝試し、面白いのか?」
「面白いぞ!保証する!」
俯いた顔を上げ、花のように笑う宮城を、町田は可愛いと思う。
男だけど。
身長は五センチほど町田の方が高い。
表情がクルクル変わり、童顔ではないが、高校二年生としては、幼い部類。
他の友人からはマスコットのように思われている。
「わかったよ。いつやるんだ?」
町田の言葉に、宮城は嬉しそうに笑った。
「やった!他の奴らとも話すから、夏休み中!」
「じゃあ決まったら連絡くれ」
夏休みまで後一週間。
「おう!じゃあ、楽しみにしててくれよ!」
「ああ。じゃあまた明日なー」
自宅までの分かれ道、町田は宮城に手を振って分かれた。
まさか、それが宮城を見た最後になるなんて、微塵も思わなかった。
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