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第9話『惑星軌道改変魔法』

 御機嫌よう!

 いよいよ作戦決行日ね。

 まったく昨夜はなかなか寝付けなくて、あらゆる手段を尽くしたわよ。

 そう、夜風に当たったりしてね。


 では作戦計画の確認をするわよ。


 12:50に楓さんは一人で、中庭にお弁当持参で昼食に来る。

 日々の生活スタイルから導き出した行動パターン予測に間違いは無いわ。

 この点、日本人というのは推測し易いわよね。

 それが作戦開始の合図よ。


 作戦の第一段階。

 禁書に記された惑星改変魔法の項目。

 その中で地球の公転、その軌道に影響を与える魔法を使用するわ。

 学園の生徒や教師に気付かれない為の広域魔法ね。


『惑星軌道改変魔法』


 大丈夫よ。

 試用もしていないけれど、ちゃんと注意して制御するから。

 それに動かすのは、ほんの少しでいいの。

 地球から比較すれば、人間なんて微々たるものなんだから。


 作戦の第二段階。

 『機織りの休日』と『空間座標固定魔法』を同時に使用する。

 この2つは簡単ね、先日お見せしたでしょう?

 あなたがショーツを解いて、わたくしが楓さんのショーツを空間に固定する。 

 それと『機織りの休日』においては生地の対象をコットンに定めたわ。

 何故かって?

 それはちょっと言えないわね。

 昨夜、夜風に当たったの辺りで察してくれると助かるのだけれど。

 そうね、不法侵入という言い方もあるわね。

 でも、その場合は警察に向けて禁書本来のポテンシャルを振舞うことになるわね。

 大丈夫よ、あなたが口外しなければ何も問題はない。


 この2つの魔法により、生地の側面が解けたショーツは空間座標に固定されて、地球軌道の変化に取り残され飛んで行く。

 ショーツがどこまで飛んで行くかは目視で確認なのだけれど。

 魔の本流、その痕跡はショーツの方について行くから証拠も残らない。

 本流を辿ればいずれショーツも手に入る、たとえ一年待つことになろうとも。


 それに替えのショーツも準備してきたわ。

 シンプルなデザインだけれど160ユーロもしたわね。

 このショーツを困っている楓さんに渡せば、作戦は完璧。

 わたくしはシルクのショーツを好むから、楓さんも同じに違いないという先入観を捨てた甲斐もあったわね。


 そして重要なポイント。

 2つの魔法の使用順序を間違えたら大変なことになる。

 下着の繊維を解いてから座標固定をしないと楓さんごと飛んで行きかねない。とても危険だから息を合わせる必要があるわね。


【12:50】

 楓さんが来たわ!

 お弁当箱片手に予想通りの一人ね、涙が出てきたわ。

 でも辛かった日々も今日で終わりよ。

 それでは作戦を開始するわね!


『惑星軌道改変魔法』


 これほど長い詠唱をしたのは初めて、けれど馬鹿にしないで頂戴。

 この日が来るまで徹夜で覚えた呪文よ。

 お風呂で、ベッドで、トイレで繰り返し覚えたの。

 ……杖の先端から感じるわ。

 わたくしが大きくなったのか、地球がこの手に収まったのか。

 大地と繋がり、地球の一部となった感覚が膨れ上がる。

 

 そして杖が導く。

 一面の方位磁針が、強力な磁石で一斉にその向きを変えるような。

 ふふっ、上手くいっているようね。

 世界に影響を与えている実感と制御できている自覚があるわ。


 ふう。地球の軌道は少しばかりズレたのでは無いかしら、軌道に変化を与えた今がチャンスよ。

 それでは作戦の第二段階に移るわね。


 頼んだわよ、タイミングが肝心だから。

 わたくしはあなたを信じて全てを委ねる。

 こちらはこちらで集中するわ。

 ……遂にこの時が来たのね。

 楓さんに手を差し伸べるキッカケは、もう目前よ。 


「エルス・ファクト」


 そして楓さんのショーツを空間に固定する!


「ディアル・エル・クルートっ」


 順番通りに魔法を発動した瞬間。

 わたくしには涼しげな潮風が吹いたように見えた。


 今、スカートが動いたわよね!?

 身嗜みも確認したし、ショーツも持ったし、でもいきなり渡しちゃダメ。

 わたくし行ってくるからっ! 


 ——う〜ん。

 いったいどういう事かしら。

 いきなり下着の話をしたらダメだと分かっていたのよ。

 だから、こう言ったの。


「あなた日本から転校してきた三春楓さんよね。何か困っていることはないかしら、わたくしいつでも相談に乗るわよ」


 なあに?

 偉いってどういう意味かしら、あまり無意味に褒めないで頂戴。

 そう言ったら「ショーツが無くなって困っていたんです」という返答がくると思っていた。

 でも違ったわね、あの表情はなんというか……

「誰だろう、この人」「すごく親切そう」「それに話しかけてくれて嬉しいな」

 という意味の微笑みだったわね。

 そして「グラッチェ」と言われたわ。


 いいえ待って!

 これって、もしかすると大成功なのではないかしら?

 友達まであと一歩というか、もうあと何回か会話して、あの中庭にわたくしもランチボックスを持っていけば……

 これって友達なのでは!?


 ふふっ、計画通りにはいかなかったけれど望んだ結果は手に入った。

 それが肝心よね!

 今日からは他人ではない、それだけで天にも昇る嬉しさよ。

 これも全て、相談に乗ってくれたあなたのお陰。

 とても感謝しているわ。

 明日からの学園生活が楽しみで仕方ないわね!


『先程発動した惑星軌道改変魔法の影響で、地球の公転は太陽系の内側へ向け大きく傾いた事実を、彼女はまだ知らない』

なぜパンツは飛んでいかなかったのか。

原因となる発言が8話にあります。

大きな挑戦の前こそ普段できる事を疎かにしない、灯台下暗しです。

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