第3話『きっと青のストライプ』
ご機嫌よう。
今日も早朝から呼び出して悪かったわね。
でも、来てしまうあなたが悪いのよ。
早速だけど、あなたの教養を試させて頂くわ。
簡単な質問よ。
ドア・イン・ザ・フェイスという考え方をご存知かしら。
大きな要求の後に、本題の要求をするという意味のビジネス用語よ。
だから昔は、こう考えたの。
まず始めに無理なお願い、ショーツを見せてと頼む。
次にお友達になりましょうと申し出る……
すると、どうでしょう。
わたくしたちはお友達になりました。
という計画を立てていた時期もあるわ。
でも気が付いたの。
下着を見せてと頼み込む人と関わり合いになる勇気、お有りかしら。
わたくしの答えはノーよ。
楓さんがどうしてもというなら。
いくらでも見せて差し上げるし、触らせてもあげるけれど。
それに友達になろうと申し込む要求よりも大きな要求なんて、他に思いつくかしら。
なあに?
金銭を寄越せ、何か盗んでこい、誰かを殴れ……
あなたは、わたくしのことを前時代の侵略者だとでも思っていたのかしら。
これは信用問題に関わるわね。
そんな要求をする人と、お友達になりたい筈がないでしょう!
なあに?
その後で、雨で震える捨て猫に優しくすれば何も問題ない?
あなたは本気でそんなことを言っているのかしら。
ヤンキーと子猫の法則?
それはドア・イン・ザ・フェイスとは似て非なるモノよ。
現実には存在しない、という点でね。
少女漫画は人生のバイブルではないの。
間違ったコンパスで地中海に漕ぎ出すと遭難するわよ。
そもそも雨で濡れる捨て猫をセッティングする時点で非道よ! 人の道を踏み外しているわ! 想像するだけで可哀相!
きっとこの世界には、そんな子猫が無数に存在するのよ。
なんて考え出したら、不安が脳を満たしだしたわ。
今夜眠れなかったら、あなたの所為だから。
他にいい方法がないかお聞きした、わたくしが間違っていましたわ。
うっかり着替えを見てしまったとか、偶然秘密を知ってしまったとかなら、交換条件として提示できるでしょうけど、そんなチャンスは来なかった。
わたくしはチャンスの来ない人間だったのよ。
でも、お姫様のようにお行儀良くチャンスを待つなんて、わたくしには出来ませんわ。
なぁに?
パンツを見たいなら、風魔法でスカートを捲れば良いですって?
きっとあなたの脳細胞は、現代ミュージックの聴き過ぎで硬めのグミにでも変質してしまったのね。
それにわたくし、パンツという言い方が好きでは無いの。
パンツとパンツスタイルっていうのも、ややこしいじゃない?
それに楓さんには、ショーツという言葉の響きがふさわしいわ。
たとえ、どのような種類のショーツであっても。
だから、わたくしの前ではショーツと仰いなさい。
……いいわね?
それに勘違いしているようだから断言しておきますけれど。
わたくしは、楓さんのパンツが見たいわけではないの。
特別に見せてくれるのなら、見てあげないこともないけれど。
いいえ、その場合は謹んで拝見しますわ。
でも風魔法で、スカートなんて捲ってみなさい。
そんなことをしたら、学園中にわたくしの仕業だと気付かれる上に、他の娘も見てしまうでしょ?
仮にも魔法学園なのよ。
誰の魔力パターンなのか、魔の本流はどこに繋がっているのか。
調べれば直ぐに確かめられるわ。
それに嫌なの。
気付かれても良いけれど、他の娘に見られるのは嫌なの。
いいえ、待って!
悪くないかもしれないわ。
風魔法なんてわかりやすい手法を用いなければ如何かしら?
そう。
楓さんのショーツを空間座標に固定して、それ以外を動かすのよ。
例えば『大地』
地面の方を動かすの。
ショーツを空間に固定したまま、大陸を浮上させればショーツだけがズリ落ちる。
これは素晴らしいわ!
地動説すら動転する発想の転換ね。
ここまでくれば、あとの問題は脱げたショーツの処理だけよ!
いっそのこと消えろ、そのまま消えろ。
いいえ、一旦落ち着きましょう。
方法は未定だけれど処理することは確定として、まずはシュミレートしましょう。
その後、一体どのように手を差し伸べれば楓さんの心に寄り添えられるのか。
消滅したショーツ。
驚く楓さん。
楓さんはスカートを手で抑える。
そうね……とんでもなく可愛いわ。
もう一度やって欲しい、その動作。
そこで、わたくしが声を掛ける。
「どうしたのかしら。何かお困りなら手をお貸しするけれど」
「じ、実はっ、下着が消えちゃって……」(CV.フリエラの裏声)
「そう、それは大変ね。わたくし、ちょうど偶然良いところに、これは天命だったのね。替えのショーツを持っているの。そこの物陰で着替えると良いわ。キラッ」
「あ、ありがとうございますっ……うるうる」(CV.フリエラの裏声)
そうよ。シュミレーションの楓さん!
よく見せて!
そう、しっかり履き直すの!
そう、しっかりお尻まで!
……そうね。
興奮と比例するように、虚しさも強まってきたわ。
なんていうのかしら、この感情。
妄想の熱と同じくらい、孤独の波が押し寄せる……
どうして、いま現在わたくしは楓さんのお友達じゃないのかしら。
こんなにも好きなのに。